ILO新刊:ウクライナのクラウドワーキング

ウクライナのクラウドワーキング:成功者もいれば心配を抱える人も

 翻訳家のユリア・ゴトラさんはクラウドワーカーとして成功を収めています。しかし、ウクライナのオンライン労働に関するILOの新刊書はこの柔軟な働き方に関連したリスクも示しています。

2018年08月02日

 ウクライナには長期・短期の様々な仕事をフリーランスの人々に提供するデジタル・プラットフォームが40以上存在しています。ILOの新刊書『Work on digital labour platforms in Ukraine: Issues and policy perspectives(ウクライナのデジタル労働プラットフォームにおける仕事を巡る論点と政策展望・英語)』によれば、デジタル労働プラットフォームを用いて活発に働く人の数で同国は欧州の首位に立っています。同国の成功の一因は教育水準が高く科学技術に精通した人口の多さにありますが、長引く経済・政治的困難の結果としての地元で機会が欠如している状況を反映するものでもあります。

 多くがコピー制作のような文章を扱う仕事を行っていますが、ウェブサイトの管理やプログラミングのような情報技術(IT)関連の業務もあります。ウクライナ中部のヴィーンヌィツャに住むユリア・ゴトラさん(27歳)はクラウドワーカーとも呼ばれるオンラインプラットフォーム労働者としては成功者の一人です。4年前にウクライナの賃金水準では高給取りに分類される人材部長の職を失ったゴトラさんは、当時の生活水準を回復できる方法を探しました。ウクライナでますます人気を得てきているオンラインプラットフォームを通じた仕事の話を耳にし、国際的な顧客がほとんどを占める二つのプラットフォームに翻訳家として登録することにしました。

 最初はオンラインの仕事が見つかるか確信が持てなかったため、給料は悪かったものの普通の仕事も続けることにしました。実際、最初の数カ月間は苦労しました。他のオンライン労働者との競争も厳しく、小さな仕事が中心でした。「1日1時間しか仕事がない時もありました。見つかったのは500ワードの校正の仕事だけで、ほんの15分で終わり、わずかな報酬しか得られませんでした」とゴトラさんは振り返ります。

 しかし、信頼できる翻訳者との評判がすぐに広がり、6カ月後にはもう一つの仕事を辞められるほどの数のお得意様が出来ました。ゴトラさんは現在、閉じられた翻訳家のプラットフォームで働いています。これは一般公開されておらず、外国の顧客に登録候補者として招待され、アンケートに記入し、試験に通って初めて登録できるプラットフォームです。採用するか否かはプラットフォームのマネジャーが決め、不合格の場合には2年間経たないと再挑戦できません。ゴトラさんはウェブサイトのコンテンツや訓練モジュール、マーケティング資料といった実務翻訳を中心に手がけ、通常、英語からロシア語またはウクライナ語に訳しています。法律文書を扱うこともあります。顧客には美容ブランドや高級ファッションブランド、エンジンオイルやタイヤ、自動車のメーカー、製薬会社、大手カード会社、ホテルネットワーク、大手航空会社などが含まれています。「様々なトピックを手がける機会を与えてくれるこの仕事が心から気に入っています。たくさんの調査研究を伴い、学ぶことも多いと感じています。また、お得意様との良い関係を築いているので低く見られているように思ったことはありません」とゴトラさんは語っています。また、この仕事が提示してくれる柔軟性も享受しています。「通常の事務所の勤務時間に戻し、頼まれた仕事が済んだのに8時間も職場に留まらなくてはならないような状態には決して戻りたくありません。今では受けた仕事が終わるまで働いて、残りの時間は家族と過ごしたり、友人と会ったり、スポーツをして過ごします」。しかし、オンライン労働の欠点も指摘します。「やることがたくさんあって、1日20時間も働かなくてはならない時もあります。1日6時間が理想なんですが。マラソンのようなものです」。

 プラットフォームを通じてゴトラさんには常に仕事が流れてきますが、通常のオフィス労働よりも多様な条件に従わなくてはなりません。「今はもっぱら一つのプラットフォームで働いていますが、私はフリーランスと見なされているので、労働契約も社会給付もありません」とゴトラさんは説明します。しかし、フリーランスの地位にもかかわらず、ゴトラさんはしばしば顧客に監視されており、労働時間を追跡し、コンピュータのスクリーンショットをランダムに撮る特別のソフトウェアを自分のコンピュータにダウンロードしなければならないこともありました。実際、報告書が明らかにした事項として、クラウドワーカーの4人に1人が特別のソフトウェアをダウンロードするか、仕事の進行状況を示すスクリーンショットの提出を求められたことがあり、3分の1以上が特定の時間働ける状態にあるよう求められたことがあるとされます。にもかかわらず、ゴトラさんの働き方は労働時間や最低賃金、社会保障納付金に係わる保護のない非公式な働き方であり、労働組合に加入する法律上の権利もありません。現在はオンライン労働を規制する法はなく、オンライン労働者の保護の欠如が報告書の中心的な指摘事項です。しかし、引退後の財源を考えるにはまだ若すぎると語るゴトラさんは、社会的保護の不足をあまり気にしていないように見えます。「実際にはオンラインプラットフォームを通じて得られる収入は、ウクライナで公式の仕事に就いた場合の2倍に上るので、自分で貯金ができるのです」と語っています。

 もう一つの問題点は国際的な収入に対するウクライナの金融制度の備えが十分でないという点です。ウクライナではオンライン送金システムのペイパルを使った入金が許されていないため、顧客からの支払いには銀行送金を使わなくてはなりません。このような送金には最低でも9日かかり、その上、手数料が非常に高く、この数年間の手数料を合わせると4,000ドルにもなることがゴトラさんには不満です。

 さらにまた、突然仕事が来なくなった時など、それが単に一時的なものなのか、長く続く動向の一部なのか考えるといったように少し不安定に感じる時もあります。「幸運なことに他のクラウドワーカーと比べて高い平均収入が得られる一つの理由は、自分が翻訳家としての経験を積んだこと、そして同じ文章スタイルを望む顧客が繰り返し仕事を出してくれるからです」とゴトラさんは状況を分析しています。

 報告書から得られたウクライナのクラウドワーカーの姿は、ゴトラさんのように一般に若く、教育水準が高い労働者です。ゴトラさんと違うこととして、この種の仕事を主な収入源とする労働者は4人に1人に過ぎません。報告書の中心的な著者であるILO包摂的労働市場・労働関係・労働条件部のマリヤ・アレクシンスカ専門官は、次のように語っています。「実際、労働者がオンライン労働を選択する主たる理由は追加収入を得るためです。このほかの理由としては、自宅で働きたいから、プラットフォームを用いた仕事の方が報酬が良いから、他では仕事が見つからないからというものが挙げられています。外国の顧客から仕事をもらう人の収入は相当に高くなりますが、ほとんどのオンライン労働者は平均で国内の平均総賃金額をわずかに上回る程度の月収しか得られません」。

 報告書が調査対象とした労働プラットフォームを利用する労働者1,000人のうち、3人に1人が詐欺や報酬未払いを経験しています。報告書はまた、オンライン労働者の4分の3が国の提供する誰もが加入できる基礎的な医療・引退給付の受給資格はあるものの、社会保障費を納入していないことを指摘しています。また、オンライン労働者の4分の3が引退後に備えた貯金を全くしていません。

 「報告書はデジタル労働がウクライナ社会に機会と同時にリスクも提示していることを示しています。リスクをより良く管理するためにはそれに気づくことが決定的に重要です。クラウドワークを公式化すると同時にウクライナ社会におけるデジタル労働プラットフォームの潜在力を十分に発揮させるような明示的な政策のための展望があるのは明確です」とアレクシンスカ専門官は結論づけています。

 以上は2018年8月2日付のヴィーンヌィツャ発英文広報記事の抄訳です。