協同組合人インタビュー特集

労働金庫―日本のはたらく人を支えるための金融機関

「協同組合人インタビュー特集」はILO職員が協同組合に関する職務を通じて関わった協同組合セクターのリーダーへのインタビューシリーズです。本記事では全国労働金庫協会・経営企画部次長の赤堀敏洋氏に取材しました。赤堀氏は1997年に静岡県労働金庫に入庫、2015年より全国労働金庫協会にて勤務されています。

Article | 03 November 2017

Q. 労働金庫とはどのような組織ですか?

全国労働金庫協会・赤堀敏洋氏
A. 労働金庫は労働組合や生活協同組合のはたらく仲間がお互いを助け合うために、資金を出し合ってつくった協同組織の福祉金融機関で、労働金庫法に基づき事業を行っています。労働金庫は、はたらく人からお預かりした預金を、はたらく人の生活を豊かにするための融資に利用しており、そこで生まれた利益は、はたらく人にとって利用しやすい商品の開発や、良質なサービスの提供といった形で利用者に還元しています。

労働金庫の設立は日本の第二次世界大戦敗戦後の1950年にさかのぼります。当時の日本は食糧不足と大量失業を抱えていました。連合国軍最高司令官総司令部の民主化政策により、1945年12月に労働組合法が成立し、労働組合誕生の動きが進んだものの、戦後経済復興が最優先とされていたため、金融機関は大半の資金を政府や民間企業に融資し、労働者への融資には応じませんでした。生活に困った労働者は高利貸しや質屋でお金を借りるしかなく、高い利子の負担や厳しい取立てに苦しむことになりました。

このような背景から、1950年に2つの労働金庫が設立されました。一つは岡山県生協連が主導した岡山労働金庫、一方は労働組合が中心となった兵庫労働金庫です。これらは当初中小企業等協同組合法に基づく信用組合として登録され、1953年に労働金庫法が成立してから労働金庫としての法人格を得ました。現在、労働金庫は全国に13あり、全47都道府県で事業を展開しています。

1951年に全国労働金庫協会が設立され、1997年5月の全国労働金庫協会理事会において労働金庫の理念は以下のように制定されています。
  • ろうきんは、働く人の夢と共感を創造する協同組織の福祉金融機関です。
  • ろうきんは、会員が行う経済・福祉・環境および文化にかかわる活動を促進し、人々が喜びをもって共生できる社会の実現に寄与することを目的とします。
  • ろうきんは働く人の団体を会員とし、そのネットワークによって成り立っています。
  • 会員は、平等の立場でろうきんの運営に参画し、運動と事業の発展に努めます。
  • ろうきんは、誠実・公正および公開を旨とし、健全経営に徹して会員の信頼に応えます。

Q. 労働金庫はどのように事業を展開しているのですか?

A. 13の労働金庫がそれぞれ独立して事業を展開している一方で、全国労働金庫協会は労働金庫業界全体の課題の調査・研究や、政策の方針化および各労働金庫への指導などを行い、労働金庫連合会は労働金庫間の余裕資金の効率的な運用や、オンラインシステムの開発・運営など、13の労働金庫の系統金融機関としての役割を担っています。労働金庫が提供する主な金融サービスには、預金商品(普通預金、貯蓄預金、定期預金、財形貯蓄、確定拠出年金など)、融資商品(住宅ローン、カードローン、教育ローン、勤労者生活支援特別融資制度など)、その他サービス(送金、オンライン・バンキングなど)の3種類があります。2017年3月現在、全国に633の店舗があり、全金庫の合計預金残額は約19兆円(約1705億米ドル)、合計貸出金残高は約12兆円(約1077億米ドル)となっています。全金庫の資金量の合計は日本の金融機関の中で11番目に入る規模です。労働金庫は企業への融資を、一部の例外を除き、取扱っていないことから、融資残高ほとんどが住宅・教育など個人への融資となっています。

労働金庫の会員資格は労働金庫法で定められており、団体会員を中心として構成されています。団体会員には、当該労働金庫の地区内に事務所を持つ労働組合、生協、公務員の団体、その他の労働者の共済・相互扶助組織が含まれます。

現在、労働金庫全体で団体会員数は52,000団体を超え、団体会員の構成員として労働金庫を利用する人々(間接構成員)は1000万人以上に及びます。団体会員は出資者であると同時に、利用者でもあり、労働金庫は会員との密接な連携により発展してきました。

労働金庫法に基づき、会員は「一会員一議決権」の原則に基づき平等に経営に参加します。事業余剰金があった場合は、会員に配当されます。

2008年の金融危機以降、日本も不景気に見舞われ多くの労働者が解雇、雇用の不安定化、賃金・ボーナスカットなどの危機にさらされました。労働金庫は、厚生労働省と連携して「就職安定資金融資制度」を提供し離職者の再就職を支援しました。現在この制度は終了していますが、他の就労支援に関する3制度を提供しています。さらに労働金庫は労働組合と連携して、多重債務を抱える労働者の支援、啓発活動を通した多重債務防止、健全な生活設計の提案など「生活応援運動」を長年実施してきました。

Q. 労働金庫としての今後の展望をお聞かせください。

A. 日本では、人口動態や雇用形態が急速に変化しており、働く人の金融ニーズもより多様化してきています。すべての働く人とその家族から信頼される協同組織の福祉金融機関として機能するために、労働金庫では勤労者を生涯にわたって支えるための新たな商品・サービスの開発を進めます。また、非営利・協同セクターの金融的中核として、社会問題の解決や地域社会の育成に貢献していきます。

2017年ILO・日本生協連共催アフリカ協同組合リーダー視察研修でアフリカ協同組合リーダーが全国労働金庫協会を訪問

----------
「協同組合人インタビュー特集」はILO職員が協同組合に関する職務を通じて関わった協同組合セクターのリーダーへのインタビューシリーズです。本インタビューに記載された見解の文責は当該協同組合に帰属します。