より多くのより良い雇用創出を目的とした、多国籍企業との連携を主導(アルゼンチン)


過去10年以上に亘り、アルゼンチン政府は、若者の失業問題と企業開発に取り組むため、率先して国と民間部門との連携構築を進めてきました。多国籍企業は、そうした国の課題を解決していく上での戦略的パートナーです。多国籍企業とそのサプライヤーの中でより多くのより良い雇用を創出するためのアルゼンチン政府の取り組みに対して、ILOは技術援助を行いました。

CSRイニシアチブ:労働・雇用・社会保障省が主導

2005年から、アルゼンチンの労働・雇用・社会保障省は、企業開発の促進、そして特に高い若者の失業率を改善するため、より多くのより良い雇用の創出に多国籍企業を関与させることを目的としたイニチアチブを主導しています。労働・雇用・社会保障省は、ILOの多国籍企業及び社会政策に関する原則の三者宣言(多国籍企業宣言)を参考にして、企業、商工会議所、使用者団体及び労働者団体、市民社会団体、大学、政府機関(外務省などの省庁)の代表者、アルゼンチンで活動している多国籍企業の本国政府の加盟する地域及び国際組織(欧州連合など)など、広範囲に及ぶ利害関係者間の連携を構築しました。
同省は、国の企業の社会的責任(CSR)政策、2008年から2011年までの戦略的計画文書(Plan Estratégico)などのイニシアチブを通した持続可能な開発への取り組みの中心に、労働問題への取り組みを位置づけました。

また2006年には、社会的責任ある労働慣行の促進を主導するため、同省内に企業の社会的責任とディーセント・ワーク調整部門(Corporate Social Responsibility and Decent Work Coordination Unit)を設置しました。この部門の目的には、「ディーセント・ワークとILOの多国籍企業宣言」の推進と、研究、情報共有、訓練プログラムを通じたディーセント・ワークとCSRの分野における同省の組織能力強化などが含まれました。

労働・雇用・社会保障省は、労働面におけるCSRの促進を図るための会議を、国内また国際レベルで多数開催し、またこれらに参加しました。2010年には、多国籍企業宣言の原則についての認識を高めるため、そして省庁間の調整を促進する取り組みの一環として政策の一貫性を高めるため、外国直接投資と多国籍企業の活動を管轄する9つの政府機関を招集しました。  ILOは、これらの会議に技術専門家として参加し、また多国籍企業宣言採択30周年を祝って開催されたMulti Forum Cono Sur(南米南部多国籍企業フォーラム)(2009年開催)など、ハイレベルな会議を共同開催しました。この準地域フォーラムでは、アルゼンチン、ブラジル、チリ、パラグアイ、ウルグアイから150社を超える多国籍企業が、危機的状況に直面した時、社会的責任ある労働慣行を実施し、公正なグローバリゼーションや社会的正義を維持していくためにどうすればいいかを協議し、持続可能な企業づくりを可能にする環境を整える上での公共政策の役割について、それぞれの経験を共有しました。

CSRとディーセント・ワークに関する対話と共同行動

労働・雇用・社会保障省は、公共部門と民間部門のCSRイニシアチブの策定を支援し、両部門の連携構築を促進しました。対話と共同行動を促進する目的で、100社を超える大手企業と商工会議所によるマルチステークホルダーのプラットフォームを提供する「CSRとディーセント・ワーク・ネットワーク」が設置されました。ほとんどの企業で、経営陣が代表として参加しており、各企業が社会的責任を共有し、共同で国の課題に真剣に取り組んでいることが示されました。2007年にアルゼンチン大統領同席の下で、それらの企業が「CSRとディーセント・ワークへのコミットメント」文書に署名し、そこには企業は労働法の遵守だけでなく、労使関係のさらなる改善と、均等な機会を提供するより多くのより良い雇用の創出の促進を目的とした政策と活動を推進していくことが明記されました。

また同省は、企業が、その多国籍企業宣言の原則に関する約束を実施できるようにするための一連の活動を展開しました。若者の失業率が高く、非公式経済で雇用されている労働者も多いといった課題に共同で取り組んでいくため、双方向プログラムとワークショップ、そしてハイレベルな国際及び国内対話フォーラムを、社会的パートナーや多国籍企業と共同開催しています。

若者への投資

2006年に、弱い立場の若者の雇用の可能性を高め、若者の公式労働市場への取り込みを進めるため、「未来ある若者のためのプログラム(Programa Jóvenes con Futuro)」が開始されました。若者に、参加する多国籍企業内で職業指導や職業技術訓練を受ける機会を提供するイニチアチブには、公共部門と民間部門が共同で資金を提供しています。プログラムを修了すると、参加者の半分(うち40%が女性)が訓練を受けていた企業から雇用の申し出を受け、また別の10%の参加者は同業種の他企業に就職しました。さらに同省は、若者の復学と中等教育の修了を奨励し、地方自治体の雇用事務所や市民社会団体と連携して、若者への就職支援を行いました。2,000人の参加者の85%超が復学し、59%が無事に就職しています。

サプライチェーンにおける労働条件の改善

サプライチェーンにおける労働条件の改善を目的とした「ビジョン共有のための共同訓練プログラム(Ciclo de Formación Conjunta para una Visión Compartida)」の実施によって、企業の社会的責任の文化が拡大しました。年1回の三者訓練プログラムは、主要利害関係者間の信頼構築を目的としており、対話によって共通の目標達成に向けたパートナーシップが強化されました。またこのプログラムでは、参加企業に、この訓練プログラムへの共同参加等を通じて、供給業者や労働組合と協力した取り組みを促しました。双方向専門家セッションでは、サプライチェーンにおける主要課題を特定し、ディーセント・ワーク促進のために企業が担うことのできる役割を明確にしました。

2010年から2015年までの訓練プログラムに参加した企業23社と14の労働組合のうち、参加企業の77%、労働者代表の90%が、お互いについての認識と理解に変化があったと報告しています。さらに参加者の96%が、プログラムは責任ある企業行動の促進に寄与していると報告しています。しかし依然として、一次サプライヤー企業より先の、ディーセント・ワークの欠如が深刻であろう非公式部門に帰属することの多い二次、三次サプライヤー企業まで範囲を広げるには課題がありました。 プログラムでは、企業責任、コンプライアンス、競争力などの問題について協議して取り組むようサプライヤーに促し、こうしたサプライヤーのフォーマル化のプロセスと公式経済への移行を支援しています。

多国籍企業の本国と受入国の橋渡し

同省のCSRネットワークは、アルゼンチンで活動する外国の多国籍企業の大部分が本拠としている国(本国)、すなわちカナダ、デンマーク、ドイツ、ノルウェー、スペイン、スウェーデン、英国及び米国の商工会議所と対話できるチャネルやプラットフォームを設置しました。同ネットワークは、多国籍企業宣言で勧告されているように、多国籍企業の間で社会的責任ある労働慣行を促進するには「本国」が果たす役割が重要であることを強調しました。労働・雇用・社会保障省と各国商工会議所の間で、8つの二国間協力枠組み合意が締結されました。これらの商工会議所は、多国籍企業とそのサプライチェーンにおけるディーセント・ワークの慣行の促進に積極的に貢献し、前述した年1回の「ビジョン共有のための共同訓練プログラム」に同省と共同で取り組みました。

2008年、パリで開催されたILOと経済協力開発機構(OECD)のハイレベルCSR会合で、カルロス・A・トマダ労働・雇用・社会保障大臣は基調演説を行い、CSRとディーセント・ワークの促進を目的とした、調整部局による官民パートナーシップ強化の実績を強調しました。

2003年から2015年までのトマダ大臣の任期中に、二国間の商工会議所と共同で、計29の国際セミナーと討論会が開催されました。2011年に、アルゼンチンでより多くのより良い雇用を創出するため、労働面のCSRに関する多国籍企業とそのサプライチェーンの能力についての調査「Multinacionales en la Argentina: estrategias de empleo, relaciones laborales y cadenas globales de valor」が実施されました。政府もCSRとディーセント・ワークについて欧州連合(EU)、米州機構(OAS)などの国際機関と積極的に連携したほか、国連開発計画(UNDP)が調整役となり、Red Argentina del Pacto Global (pactoglobal.org.ar)との共同イベントを複数回開催しました。

2014年に開催された第18回ILO米州地域会議において、トマダ大臣は、米州地域における多国籍企業宣言の促進と適用に関する特別セッションの中で、米州地域の他国の政府、使用者や労働者に経験を発表し、地域的・国際的に経験をもっと共有していくことが必要であると呼びかけました。アルゼンチンが多国籍企業宣言の原則を実施した際の経験は、ノエミ・リアル労働省労働長官が、2014年のILO総会の「ビジネスとディーセント・ワーク」に関するサイドイベントの中でも発表しています。

未来を見据えて

過去10年以上に亘り、ILOの多国籍企業宣言がもたらしたロードマップに従って、アルゼンチン政府は、多国籍企業宣言の勧告内容に基づいた実行可能な目標を設定し、成果を挙げながら、ディーセント・ワークに関する優先事項に積極的に取り組んできました。労働・雇用・社会保障省の指揮の下、政府機関、多国籍企業、現地企業、国内企業、大学、市民社会団体、労働者団体及び使用者団体が、ディーセント・ワークの機会を促進するための官民対話とパイロット・プロジェクトに、積極的に参加しています。アルゼンチンの全企業の内、多国籍企業の占める割合は小さいですが、多国籍企業の方針と国の開発及びディーセント・ワークにおける優先事項を密接に連携させたことで、多国籍企業はアルゼンチンの社会的・経済的発展を強く押し進める原動力となっています。

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