監視機構

1. 通常の監視機構


ILOでは、条約・勧告の適用状況について常に審査を行い、また側面から批准を促進するため種々の仕組みを設けています。

毎年の総会で条約や勧告が採択されると、各国政府は、その基準の国内適用について情報と報告をILO事務局に提出しなければいけません。このような情報・報告は、条約・勧告の国会提出、批准条約の適用状況、その非本土地域への適用、特定の未批准条約に関する措置など多岐にわたるものです。ILO事務局長は、憲章上の義務によって、こうして提出された報告を取りまとめたうえ、審議のため毎年の総会に提出しなければなりません。

ところが、こうした各国政府から提出される報告は、非常に膨大な数にのぼり、毎年の国際労働総会の審議のために提出される報告の数は2000を大きく超えるといわれています。これほど多くの報告をILO事務局だけの手でまとめたり、総会の会期中にすべて検討するなどということは不可能なことです。そこで、国際的な専門家で構成する条約・勧告に関する独立した委員会を作り、技術上の予備的な審査はここで行い、その結果は、総会において政労使三者で構成する一つの委員会でさらに検討するという手続きがとられるようになりました。

この二つの委員会は、批准された条約に関する年次報告だけでなく、条約・勧告の適用に関して政府から提出される一切の報告を審査します。これらの委員会はそれぞれ、「条約・勧告の適用に関する専門家委員会」及び「基準の適用に関する総会委員会」と呼ばれています。


(1)条約勧告適用専門家委員会
 


この委員会は、国際法、労働法などについて卓越した経験をもつ世界的な権威者(現委員定数は20名)で構成されていますが、委員はそれぞれ全く個人の資格でこれに参加します。任期は3年間で、理事会によって指名されます。日本からは、

吾鄕眞一教授(立命館大学)が就任されています。(20153月より)

委員会は、毎年11月下旬から12月上旬に約3週間の会期で開かれ、(1)批准条約について加盟国が送付した年次報告の検討、(2)総会で採択された条約勧告の国会提出に関してとった措置について加盟国が送付した報告の検討、(3)理事会が指定した未批准条約及び勧告について加盟国が送付した現況報告の検討などを行います。こうして検討された結論は、一つの報告書となって各国政府に送付されます。この報告書はまた、総会の議題資料として総会にも提出されます。なお、「理事会が指定した未批准条約」というのは、条約批准を促進するために、毎年理事会が特定の分野に関連する未批准条約と勧告を指定し、各国におけるその適用状況について政府の報告を求め、報告書を公刊するものです。最近の報告書で扱われた分野は、以下の通りです。

2000年 三者協議
2001年 夜業(女性)
2002年 港湾労働
2003年 賃金保護
2004年 雇用政策
2005年 労働時間
2006年 労働監督
2007年 強制労働
2008年 労働条項(公契約)
2009年 労働安全衛生
2010年 雇用
2011年 社会保障
2012年 基本8条約
2013年 公務における団体交渉
(それぞれ前年に政府に報告を求めている。)


(2)基準適用委員会(総会委員会)
 


毎年開かれる国際労働総会ごとに「基準(条約・勧告)の適用に関する総会委員会」が設けられます。この委員会は、総会に出席する政府・使用者・労働者の三者で構成され、(1)批准条約に関する報告、(2)未批准条約と勧告に関する報告、(3)条約・勧告の国会提出に関する状況報告、(4)条約勧告適用専門家委員会の報告などを審議します。

この委員会では、条約・勧告の適用に関して利害が必ずしも一致しない政労使三者の間で、激しい討論が交わされることが多く、特に労使によって選ばれた、個別の検討を要するとされた20数件の個別案件(1加盟国の一つの既批准条約の適用について1案件とみる)については、それぞれ、当該国政労使からの状況、見解の陳述も含め討議が行われます。

委員会での討論と結論は、本会議に提出されてそこで採択されることになりますが、これは、過去1年間における国際基準の実施面における進歩を示す有用な文書となります。


2. 苦情の申立
 


以上の二つの通常の監視機構に加え、個別批准条約の実施上の問題点に関する苦情の申立に基づく、次の二つの審査手続きがILO憲章に明記されています。


(1) 憲章第24条及び第25条に基づく申立(Representation)
 


使用者又は労働者の産業上の団体は、ILO憲章第24条及び第25条に基づき、ある国がその批准条約を遵守していないという申立をILOに提起することができます。申立の処理には理事会があたり、政労使3人の理事から構成される委員会が設けられます。理事会は当該政府に申立の弁明を請求しますが、担当の期間内に弁明が受領されなかった場合、あるいは弁明が満足できるものでなかった場合、申立及び弁明を公表します。三者委員会は、申立及び弁明をもとに半年から1年程度審査を行い、その審査結果をとりまとめ理事会に報告します。理事会はその審査結果に基づき勧告を決定し、それを公表するか否かも決定します。また、理事会の勧告は当該政府及び申立団体にも通告されます。


(2) 憲章第26~29条及び第31~34条に基づく苦情申立(Complaint)
 


ある条約の批准国は同じ条約を批准した他の国が条約を遵守していないとの苦情を申し立てることができます。同様の手続は、理事会がその発意によっても又は総会の代表から苦情を受けたときにも開始することができます。この場合、理事会は適時独立した3人の専門家から構成される審査委員会を設けます。委員会は苦情を審査したのち、事実問題に関する認定事項、苦情に応じるためにとるべき措置や期限を記載した報告書を作成し、公表します。当該政府は審査委員会の報告書に含まれている勧告を承諾するかしないか、受諾しない場合には国際司法裁判所に苦情を付託する意図があるかどうかを、3ヶ月以内に事務局長に通知しなければなりません。国際司法裁判所は付託された苦情に関する審査委員会の認定もしくは勧告の確認、変更、または破棄を行うことができますが、国際司法裁判所のこの決定が最終的なものとなります。

この苦情申立の手続きの利用は必ずしも多くはありません。最近の例としては、1996年の総会における労働者代表によるミャンマーの強制労働条約(第29号)違反に対する苦情申立、2003年の総会における労働者代表によるベラルーシの結社の自由及び団結権保護条約(第87号)、団結権及び団体交渉権条約(第98号)違反に対する苦情申立などがあります。


3. 結社の自由に関する申立
 


以上の手段を補足するものとして、労働組合の権利の侵害に関する申立を審査する特別機構が1950年にILOと国連の合意に基づき設立されました。この機構の特徴は、結社の自由の原則は、ILO加盟国が正式に受託するILO憲章に内在する義務の一つであるとして、関連するILO条約、つまり結社の自由及び団結権保護条約(第87号)並びに団結権及び団体交渉権条約(第98号)未批准国に対しても違反を申し立てることができるという点です。これが結社の自由に関する実情調査調停委員会と理事会の結社の自由委員会です。


(1) 結社の自由に関する実情調査調停委員会
 


理事会より付託される結社の自由の違反に関する申立を審査するこの委員会は、ILO事務局長の推薦に基づき理事会により任命される9人の独立した専門家から構成されますが、具体的な事件が付託されると、通常このうちから3人が小委員会を構成して対応します。委員会の手続き方法は前期の審査委員会と等しく、審査結果が報告書として公表されます。第87号及び第98号条約の未批准国の場合には、当該国の同意を得て初めて案件が付託されるため、委員会が初めて開催されたのは1964年の日本の案件に関するものでした。


(2) 理事会の結社の自由委員会
 


理事会は実情調査調停委員会に付託する申立の予備審査を行います。当初、これは理事会の役員が行っていましたが、申立数の増加に伴い、1951年に役員に代わって予備審査を行う特別の委員会が設置されました。この結社の自由委員会は、ILO理事9名(政労使3名ずつ)と独立した専門家である委員長から構成されます。委員会は年3回、理事会開催に合わせて開催され、結論と勧告を理事会に提出します。委員会の報告書はILOの機関報告(Official Bulletin)に掲載されます。結社の自由(団結権)侵害の事実が立証されると、委員会は当該国に対策を講じ、一定の期限内に講じた対策について報告するよう求めますが、必要な場合には申立をさらに実情調査調停委員会に付託したり、第87号と第98号条約批准国の場合には条約勧告適用専門家委員会のフォローアップに託すこともあります。委員会の過去の審査件数は2800件を超えます。委員は理事改選期に合わせて3年ごとに改選されますが、1996年の改選で日本の政府側理事が初めて委員に就任しました。その後99-02年、05-08年、08-11年、11-14年、14-17年と委員を務めています。05-08年、08-11年、11-14年、14-17年には、日本の使用者側委員も委員を務めています。