1939年の職業訓練勧告(第57号)

ILO勧告 | 1939/06/27

職業訓練に関する勧告(第57号)

 国際労働機関の総会は、
 国際労働事務局の理事会によつてジユネーヴに招集され、且つ千九百三十九年六月八日その第二十五回会議を開催し、
 この会議の会議事項の第一項目に含まれている職業訓練に関する提案の採択を決議し、且つ
 この提案は勧告の形式によるべきものなることを決定したので、
 千九百三十九年の職業訓練勧告として引用することができる次の勧告を千九百三十九年六月二十七日に採択する。
 国際労働機関憲章の前文が職業的教育及び技術的教育の組織を労働条件改善のために必要な革新事項のうちに掲げているのに鑑み、
 国際労働総会が、特にその第三回会議(千九百二十一年)において農業技術教育の発達に関する勧告を、及びその第二十三回会議において千九百三十七年の職業教育(建築業)勧告を採択することにより、既にある程度この問題を処理したのに鑑み、
 総会がその第十九回会議において千九百三十五年の失業(年少者)勧告を採択することにより、職業訓練のための措置の一般化に寄与し、且つ該総会中に採択された決議の結果として労働者の職業訓練のすべての方面における問題を総会の会議事項に挿入することに決定されたのに鑑み、
 職業訓練の有効な組織が労働者及び使用者双方のため並びに社会全体のため望ましいのに鑑み、
 各国における経済的機構及び条件の急激な変化、生産方法の絶えざる変化並びに労働者の社会的進歩及び一般教化の要素としての職業訓練の観念の拡張が多数の国においてこの問題の全体についての新しい調査を行わしめるに至り且つ現時の要求に一層よく適合した原則を基礎として職業訓練を改善するの一般的希望を惹起させたのに鑑み、
 これらの事情においては、各加盟国がその国民経済の各部門及び各種の職業の特殊の要求並びにその国の慣習及び伝統を考慮し、且つ農業又は海運業の如き或る種の活動部門のための職業訓練に関してはその要求に従い他の特別の措置を講ずることを条件として、その領域に適用すべき原則及び方法を掲げることが現時においては特に望ましいのに鑑み、
 総会は、次の勧告をする。

第 一 部 定義

1 この勧告において、
 (a) 「職業訓練」と称するのは、技術的又は職業的知識を習得し又は向上させることができるすべての訓練方法をいい、訓練が学校において施されると作業場において施されるとを問わない。
 (b) 「技術及び職業教育」と称するのは、職業訓練のため学校において施されるすべての程度の理論的及び実地的教育をいう。
 (c) 「徒弟教育」と称するのは、使用者が契約により年少者を雇用すること、並びに予め定められた期間及び徒弟が使用者の業務において労働する義務ある期間、職業のため組織的に年少者を訓練し又は訓練させることを約束する制度を言う。

第 二 部 一般的組織

2(1) 各国において職業訓練を行う各種の公私の施設の事業は、独創の精神と諸諸の産業及び地方の要求に対する適合性とを危くすることなくして、一般計画に基きこれを調整し且つ発達させなければならない。
 (2) 右の計画は、次のものを基礎としなければならない。
  (a) 労働者の職業的利益並びに教養的及び道徳的要求
  (b) 使用者の労働力の需要
  (c) 社会の経済的及び社会的利益
 (3) 右の計画を樹てるに当つては、次の要素をも考慮しなければならない。
  (a) 一般教育と職業の指導及び選択とにおいて達成された発達の段階
  (b) 技術と労働組織との変遷
  (c) 労働市場の機構とこれが発達の傾向
  (d) 国民経済政策
 (4)  (1)に掲げた調整及び発達は、(2)及び(3)に掲げた各方面に関係ある機関並びに特に使用者及び労働者の職業的団体を含む利害関係者の組織的協力を以て、全国的規模においてこれを企てなければならない。

第 三 部 事前の職業的準備

3(1) 性質上全く一般的であるべき義務教育は、一般教育の必要欠くべからざる一部であつて且つ将来の職業指導を容易にするところの筋肉労働の観念、これに対する趣味及びこれを尊重する念を発達させる準備のすべての児童に対し提供するものでなければならない。
 (2) 右の準備は、実際の作業より児童の目と手を訓練することを特に目的としなければならないが、右の作業の重要度と性質とは、義務教育の一般目的と両立するものでなければならない。実際の作業の計画を樹てるに当つては、その地方の主要産業の性質を考慮しなければならないが、職業訓練の企図は、これを避けなければならない。
 (3) 右の準備は、少くとも一年間の期間にわたるべく、遅くとも十三歳に始め且つ義務教育の修了までこれを継続しなければならない。
4(1) 児童の職業的能力を決定し、且つ将来の労働力を供給する上において選択を容易にするため、長期間の職業訓練を必要とする職業に就かんとする児童及び特に徒弟とならんとする児童に対し、一般教育より職業教育へ移る事前の準備を利用することができるようにしなければならない。
 (2) 右の準備は、義務教育期間の終了後これを行わなければならない。尤も当該国における現行の法令又は規則が十四歳以上の卒業年令を定める場合には、右の準備は、義務教育の最後の年中にこれを行うことができる。
 (3) 右の準備の期間は、関係職業と年少者の年令及び教育的資格を適当に考慮してこれを決定しなければならない。
 (4) 右の準備のための科目については、実際の作業に特別の重要性を置かなければならないが、右の作業は、理論的課程又は一般教育課程以上に出てはならない。実地的及び理論的教育は、相互に補足し合うようにこれを按配しなければならない。準備は、生徒の智的及び筋肉的能力の一般的発達を目標とし、且つ不当な専門化を避けることにより右生徒が充分な訓練を受けるに最も適する職業集団は何であるかを決定することを可能ならしめるものでなければならない。実地的及び理論的教育は、右の事前的準備とその後の職業訓練との間の継続性を確保するようこれを按配しなければならない。

第 四 部 技術及び職業教育

5(1) 各国において学校網を作るべく、右は、数、場所及び科目に関し各地方の経済的要求に適合するようにし、且つ労働者にその技術的又は職業的知識を発達させるのに充分な機会を与えるようにしなければならない。
 (2) 経済的不況又は財政的困難の場合において、技術及び職業教育のための施設の減少により将来の需要を充すに必要な訓練労働者の供給が阻害されないことを確保するため措置を講じなければならない。
 (3) 充分な数の職業及び技術学校がまだ存在しない国においては、かかる施設を実行することができるよう充分な大きさの企業がその企業により使用される労働者数に比例して数名の年少労働者を訓練する費用を負担するようにすることが望ましい。
6(1) 技術及び職業学校における就学は、無料でなければならない。
 (2) 学校通学は、事情の必要とする限り無料の食事、作業衣及び道具の供給、無料乗車又は乗車賃の割引乃至は生活手当の如き形式を以て経済的援助を与えることによりこれを促進しなければならない。
7(1) 課程は、若干の級別に組織し、右は、経済活動の各部門につき、(a)工員及び類似の階級、(b)中間階級の職員、(c)管理的職員の訓練の必要に適合するようにしなければならない。
 (2) 各種の学校及び各級における教科目は、一学校より他の学校への転校を容易に為し得るよう、且つ必要な知識を有する有望な生徒が下級より上級へ移り及び大学又は同等の施設における一層上級の技術教育を受け得るようこれを調整しなければならない。
8 技術及び職業学校の教科目は、労働者の将来の職業的適性を保護するようこれを編成すべく、且つこの目的のため次のことが特に望ましい。
 (a) 初学年における課程の主な目的は、理論的及び実際的智識の健全な基礎を生徒に与えるものとし、過度又は早熟の専門化を避けること。
 (b) 生徒がその職業遂行の基礎となる理論的原則を広く把握することができるよう注意を払わなければならないこと。
9(1) すべての学級の技術及び職業教育においては、全時的授業の科目中に又一部的授業については時間が許す限り、成年のための短期特別講義の外に、一般的教育価値のある科目及び社会問題に関する科目を加えなければならない。
 (2) 科目中には家庭的問題の講義を加うべく、これが聴講は、年少労働者に対し事情に応じ義務的又は選択的とすることができる。
10(1) 男女労働者は、すべての技術及び職業学校に入学する平等の権利を有しなければならない。但し婦人及び少女は、保健のため法律上禁止される作業に継続的に従事することを要求されないものとし、尤も訓練のためかかる作業に短期間従事することは許されるものとする。
 (2) 婦人及び少女が主として使用される職業(家庭的職業及び家事的労務を含む。)のために、技術及び職業訓練に関する適当な施設を設けなければならない。

第 五 部 雇用前及び雇用中の職業訓練

11(1) 職業の性質、当該企業の技術的機能、充分な徒弟制度及び職業的伝統の欠除又はその他の地方的事情のために、年少者に対し雇用中充分な職業訓練を確保することが不可能な場合においては、かかる訓練は、雇用前に全時的授業時間の学校においてこれを施さなければならない。
 (2) 年少者が前項に掲げた事情において職業訓練を施される場合においては、実地訓練は、実際の企業の環境にできるだけ類似した環境において施さるべく、且つ事情が許すときは、作業場における実際的作業期間によりこれを補足しなければならない。
 (3) 職業訓練が雇用中に施される場合においては、当該企業の大きさ及び組織が許すときは、訓練を施すに特に適した別個の作業場を当該企業内に設けることが望ましい。
12(1) すべての労働者は、一部的授業時間の補習的講義に出席することにより、その技術的及び職業的智識を発達させる機会を与えられるべく、右は、雇用前職業訓練を受けたと否とを問わない。
 (2) 右の講義は、できるだけ労働の場所又は労働者の家庭の近くの施設においてこれを施さなければならない。
 (3) 右の講義の科目は、次の者の特別の要求に適合させなければならない。(a)徒弟、(b)年少者であつて一層良い地位を得させることを容易にすることが可なるもの、(c)成年労働者であつて技術的資格を獲得し、又はその技術的若しくは職業的智識を発達させ、又は改善しようと欲するもの
 (4) 義務として補習的講義に出席する徒弟及びその他の年少労働者が右講義に出席する時間は、通学の労働時間中に包含されなければならない。

第 六 部 調整及び情報提供に関する措置

13 技術及び職業学校と当該工業又はその他の活動部門との間において、特に学校の管理機関又は諮問機関における使用者及び労働者の参加により、密接な協力を保たなければならない。
14(1) 権限のある行政機関と技術及び職業教育施設、公共職業紹介所及び関係団体特に使用者及び労働者の職業的団体との間に協力を確保するため地方諮問委員会を設置しなければならない。
 (2) 右委員会の任務は、次のものに関し権限のある機関に助言することでなければならない。
  (a) 当該地方における職業訓練、指導及び選択に関する公私の活動の促進及び調整
  (b) 課程の編成及び実際上の要求の変化に対するかかる課程の調節
  (c) 技術又は職業学校においてたると企業においてたるとを問わず、職業訓練を受けている年少者の労働条件及び特に次のことを確保するための措置
   (i)  右年少者の行う労働が適当に制限され、且つ専ら教育的性質を有すること、且つ
   (ii) 技術及び職業学校における生徒の労働が営利の目的を有しないこと。
15(1) 年少者がその嗜好及び能力に適合した訓練を受けることができる職業、右の訓練を受けることができる条件及び与えられるべき便宜並びに年少者の雇用及びその前途のために各種の訓練により与えられる利益に関し、小冊子、論文、談話、フイルム、ポスター、企業見学及び展覧会等により、関係者に情報を提供する措置を講じなければならない。
 (2) 初等及び中等学校、職業指導所、公営職業紹介所並びに技術及び職業教育施設は、かかる情報を提供することに協力しなければならない。

第 七 部 証明書及び交換

16(1) 一定の職業のための技術及び職業訓練の修了試験に必要な資格は、画一的にこれを定め、且つ右試験の結果として発せられる証明書は、全国を通じて承認されなければならない。
 (2) 使用者及び労働者の職業的団体が右の試験の管理において権限のある機関を援助することが望ましい。
 (3) 男子及び女子は、同一の学科の完了において同一の証明書又は免状を受ける平等の権利を有しなければならない。
17(1) 訓練を了えた生徒の地方的、全国的及び国際的交換は、右生徒をして一層広い智識と経験を獲得することを得させるため望ましいであろう。
 (2) 使用者及び労働者の職業的団体は、できるだけ右の交換を組織化するに当り協力しなければならない。

第 八 部 教員

18(1) 理論的講義を担当する教員は、大学の学位又は技術学校若しくは教員養成学校における訓練後授与される免状を有する者の中より、これを募集し、且つ右教員が生徒をくん育する活動部門の実際的智識を有し又は習得しなければならない。
 (2) 実地的講義を担当する教員は、実際的経験上資格ある者の中よりこれを募集すべく、右教員が教える科目に付き広い経験を有し、且つその科目についての理論的智識と一般教養とに関し充分資格ある者でなければならない。
 (3) 工業及び商業より募集される教員は、その教授能力と必要に応じ理論的智識及び一般教養とを発達させるため特別の訓練をできるだけ受けなければならない。
19 教員の資格を改善し且つその智識を新しくするため、次の方法を考慮しなければならない。
 (a) 各企業と実地訓練を施すことを担当する教員との間において、例えば正規の「新智識注入」作業期間の設定により接触を保つこと。
 (b) 教員が個人的に学ぶことができる特別講義及び教員集団のための短期休暇講義について教育施設を設けること。
 (c) 特別の場合には旅費若しくは研究費又は特別の有給若しくは無給休暇を与えること。
20 工業及び商業において使用される者を特別科目の講師に任命するため、使用者と教育機関との間に取極をしなければならない。