1944年の医的保護勧告(第69号)

ILO勧告 | 1944/05/12

医的保護に関する勧告(第69号)

 国際労働機関の総会は、
 国際労働事務局の理事会によつてフイラデルフイアに招集され、且つ千九百四十四年四月二十日を以てその第二十六回会議を開催し、
 この会議の会議事項の第四項目に含まれている医的保護に関する提案の採択を決議し、且つ
 この提案は勧告の形式によるべきものなることを決定したので、
 千九百四十四年の医的保護勧告として引用することができる次の勧告を千九百四十四年五月十二日に採択する。
 大西洋憲章は「より良い労働基準、経済的進歩及び社会保障をすべての者に確保する目的を以て経済的分野においてすべての国民の間の最も充分な協力」を企図しているのに鑑み、
 国際労働機関の総会は、千九百四十一年十一月五日に採択した決議により、大西洋憲章中のこの原則を確認し、且つこれを実行するため国際労働機関の充分な協力を誓約しているに鑑み、
 適切な医的保護を利用しうることは社会保障における重要な要素であるのに鑑み、
 国際労働機関は次のものにより医的保護施設の発達を促進したのに鑑み、
 千九百二十五年の労働者補償(災害)条約並びに千九百二十七年の疾病保険(工業等)条約及び疾病保険(農業)条約に医的保護に関する要件を挿入することにより、
 経済的不況時代における公衆衛生及び健康保険、疾病保険に基く医療及び薬剤給付の経済的管理並びに廃疾、老令及び寡婦孤児保険による治療的及び予防的措置に関する指導原則に関する専門家会議の結論を理事会が国際労働機関の加盟国に通告することにより、
 第一回及び第二回アメリカ諸国労働会議がアメリカ諸国間社会保険法典を作成する決議を採択することにより、チリ・サンチヤゴ宣言を採択した第一回アメリカ諸国間社会保障会議に理事会の代表者を参加させることにより、並びに国際労働事務局と提携して活動する社会保障機関及び施設の間の常設的協力機関として設置されたアメリカ諸国間社会保障会議の規約を理事会が承認することにより、
 国際労働事務局が顧問的資格において多数の国における社会保障制度の設定に参加することにより、及びその他の措置により、且つ
 或る加盟国は医的施設の拡張、衛生教育の拡大並びに栄養及び住宅の改善の関係においてその必要が極めて大であるのにも拘わらず、これらのものにより国民の保健を改善するためその権限内にある措置を執つておらず、且つかかる加盟国は、国際的最低基準に到達し、且つこの基準を向上させるためできるだけ速かにすべての措置を執ること極めて望ましいのに鑑み、
 医的保護施設の改善及び統一、農村住民及び自立労働者を含むすべての労働者及びその家族に対するかかる施設の拡張並びに不公平な変則の排除のため(医的保護のため自己の費用で私的に取極をすることを希望する医的保護施設の受益者の権利を阻害することなくして)更に措置を執ること今や望ましいのに鑑み、
 国際労働機関の加盟国がこの精神でその医的保護施設を発達させることにおいて遵守しなければならない若干の一般原則の設定はこの目的に寄与するであろうに鑑み、
 総会は、国際労働機関の加盟国が大西洋憲章の第五原則の実施の目的を以てその医的保護施設を発達させることにおいて、国内事情が許す限り速かに次の原則を適用し、且つ理事会が要求するところに従いこの原則を実施するため執られる措置に関し国際労働事務局に報告することを勧告する。

Ⅰ 一般

医的保護施設の重要な特質

1 医的保護施設は、次の目的を以て医的及び関係職業にたずさわる者による保護並びに医的施設において提供されるその他の便宜につき個人の要求を充たさなければならない。
 (a) 個人の健康が害されるとき疾病の昂進を防止し且つ苦痛を緩和して、個人の健康を恢復する目的を以て(治療的保護)
 (b) その健康を保護し且つ改善する目的を以て(予防的保護)
2 施設により提供される保護の性質及び程度は、法律を以てこれを限定しなければならない。
3 施設の管理に付責任を有する機関は、医的及び関係職業にたずさわる者のサーヴイスを確保することにより、並びに病院及びその他の医的施設を整備することにより、その受益者に対し医的保護を与えなければならない。
4 施設の費用は、社会保険醵出金、租税又はその両者の形式をとる正規の定期的支払金により集団的にこれを補填しなければならない。

医的保護施設の形式

5 医的保護は、社会保険の適用を未だ受けない貧困者の要求に関し社会扶助により補充される社会保険の医的保護施設を通じ、又は公の医的保護施設を通じ、これを提供しなければならない。
6 医的保護が社会保険の医的保護施設を通じ提供される場合においては、
 (a) すべての被保険醵出者、すべてのかかる醵出者の被扶養者たる妻又は夫及び子女、国内の法令又は規則により規定されるその他の被扶養者並びに自己のために支払われる醵出金により保険されるその他の者は、施設により提供されるすべての保護を受ける権利を有しなければならない。
 (b) 未だ保険されない者に対する保護は、右の者が自己の費用で医的保護を受けることができないときは、社会扶助によりこれを提供しなければならない。
 (c) 施設は、被保険者及びその使用者よりの補助金を以てこれを経理しなければならない。
7 医的保護が公の医的保護施設を通じて提供される場合においては、
 (a) 社会のすべての構成員は、施設により提供されるすべての保護を受ける権利を有しなければならない。
 (b) 施設は、医的保護施設又はすべての保健施設を経理するために特に課せられる累進税により、又は一般収入より徴される基金を以てこれを経理しなければならない。

Ⅱ 適用範囲

施設の全住民への拡張

8 医的保護施設は、利益を挙げる職業に従事すると否とを問わず、社会のすべての構成員を包含しなければならない。
9 施設が或る種の住民若しくは特定地域に限られる場合、又は社会保険のその他の部門について醵出金制度が既に存在し且つ結局保険制度を国民の全体若しくは大多数に拡張することが可能である場合においては、社会保険を以て適当とする。
10 住民の全体が医的保護施設により包含され且つ一般保健施設で医的保護を完全にすることが望ましい場合においては、公の施設を以て適当とする。

社会保険関係の施設による医的保護の管理

11 医的保護が社会保険の医的保護施設により提供される場合においては、社会のすべての構成員は、被保険者として保護を受ける権利を有すべく、又はかれらが保険の適用範囲に入れられるまでは、自己の費用で保護を得られないときは権限のある機関の費用を以て保護を受ける権利を有しなければならない。
12 社会のすべての成年構成員(すなわち15に定められる児童以外のすべての者)は、その所得が生活水準を下らないときは、保険醵出金を納付することを要する。醵出者の被扶養者たる妻又は夫は、その稼働者の醵出金に基き保険されるものとする。尤も醵出金は、これがため増加されることはない。
13 その他の成年者でその所得が生活水準を下る者(貧窮者を含む。)は、被保険者として保護を受ける権利を有すべく、尤も権限のある機関がかれらのために醵出金を支払うものとする。各国における生活水準を限定する規則は、権限のある機関でこれを定めなければならない。
14 醵出金を支払うことができない成年者は、13に定められる如く保険にかけられない場合及びその限りにおいて、権限のある機関の費用を以て保護を受けなければならない。
15 すべての子女(すなわち十六歳若しくは規定されるべく一層高い年令未満のすべての者又は一般教育若しくは職業教育を続行する間適当の生活維持のために他人に扶養されるすべての者)は、一般成年被保険者により支払われ若しくはそのために支払われる醵出金に基いて保険されなければならず、且つ自己の両親又は後見人が子女のため附加的醵出金を支払う必要なきものとする。
16 施設が全住民に未だ拡張されないため、子女が15に定められる如く保険されない場合且つその限りにおいて、子女は、その父又は母より支払われる醵出金に基いて保険されなければならない。尤もそのために附加的醵出金を支払う必要なきものとする。医的保護がかくの如く提供されない子女は、必要の場合には、権限のある機関の費用を以て医的保護を受けなければならない。
17 或る者が現金給付のため社会保険制度の下に保障され又はかかる制度の下に給付を受けている場合においては、その者及び6に定められるその被扶養者は、同様に医的保護施設の下に保障されなければならない。

公の医的保護施設による管理

18 医的保護が公の医的保護施設により提供される場合においては、保護の供与は、租税の納入又は資産調査の如き資格条件を付してはならず、且つすべての受益者は、等しく保護を受ける権利を有しなければならない。

Ⅲ 医的保護の供与及び一般保健施設との調整

施設の範囲

19 完全な予防的及び治療的保護は、常にこれらを利用しうるようにし、合理的に組織し、且つできるだけ速かに一般保健施設と調整しなければならない。

完全な保護の恒久的利用法

20 施設により包含される社会のすべての構成員は、いかなる時及びいかなる場所においても、同一の条件で、且つ管理的、財政的又は政治的の性質の阻害若しくは障害もなく、又その他その健康状態に関係なく、完全な予防的及び治療的保護を受けることができなければならない。
21 提供される保護は、一般開業医による外来及び入院患者の保護(往診を含む。)、歯科医による保護、家庭又は病院若しくはその他の医的施設における看護、家庭又は病院における資格ある助産婦による保護及びその他の母性保護、病院、回復期施設、サナトリウム又はその他の医的施設、できる限り必要な歯科的、薬物的及びその他の内科的又は外科的治療資材(義肢を含む。)、並びに関係職業に属するものとして法律上認められるその他の職業により提供される保護を含まなければならない。
22 すべての保護及び治療資材は、何時でも且つ必要なときは無期限に、これを利用しうるようにし、且つただ医師の診断及び施設の技術的組織により要求される合理的制限のみに服するものとしなければならない。
23 受益者は、必要が起るとき、所在する場所(その居所であると施設を利用しうる全地域内のその他の場所であるとを問わず)の保健所又は診療所において保護を受けうるようにしなければならない。尤も特定の保険施設に加入していると、醵出金の滞納あると又はその他の健康状態に関係のない要素が存在すると否とを問わないものとする。
24 医的保護施設の管理は、完備した且つよく均衡のとれた施設となるよう充分広く適当な保健地域としてこれを統一し、且つ中央機関がこれを監督しなければならない。
25 医的保護施設が住民の一部のみを包含し、又は現在各種の保険施設及び機関により管理される場合においては、関係ある施設及び機関は、その施設の地方的及び全国的統一までは、医的及び関係職業にたずさわる者の施設を集団的に確保することにより、並びに保健所及びその他の医的施設の共同的設置又は維持によりその受益者に対し保護を提供しなければならない。
26 現存の公的施設及び公認された私的施設と契約することにより、又は適当の施設の設置及び維持により、充分な病院その他の医的施設における入院及び保護を受益者に確保するため施設の管理により措置を講じなければならない。

医的保護施設の合理的組織

27 医的保護の最適条件は、知識、職員、設備及びその他の施策の統合並びに医的及び関係職業にたずさわるすべての者と施設に協力する他の機関との間の密接な接触及び協力によつてできるだけ大なる節約及び能率を確保する組織により、これを容易に利用しうるものとしなければならない。
28 医的及び関係職業にたずさわる者のできるだけ多数の誠意ある参加は、全国的医的保護施設の成功にとつて重要である。一般開業医、専門医、歯科医、看護人及び施設に協力するその他の職業にたずさわる者の数は、受益者の分布及び要求に適応させなければならない。
29 実験所及びエツキス線施設を含む完全な診断及び治療施設は、一般開業医にこれを利用させなければならず、且つすべての専門家の診察と保護並びに看護的、母性的、薬物的及びその他の補助的施設と入院設備は、一般開業医がその患者のために利用しうるようにしなければならない。
30 すべての専門医の治療(歯科的保護を含む。)のための完全な且つ最近の技術的設備は、これを利用しうるようにし、且つ専門医は、一般開業医の仲介により、すべての必要な病院及び研究施設並びに看護人の看護の如き外来患者に対する補助的施設を利用しうるようにしなければならない。
31 これらの目的を達するため、病院と有効な関係を保つて活動する各種の保健所における医的協力による保護を提供しなければならない。
32 診療所又は保健所における医的協力が確立され且つ実験されるまでは、自己の診療所において医的及び関係職業に従事する者が受益者に医的保護を与えるようにすることが適当であろう。
33 医的保護施設が住民の大多数を包含する場合においては、診療所又は保健所は、34、35及び36に指示される形式の一において、保健地域における施設を管理する機関が適当にこれを設け、設備し且つ運営することを可とする。
34 医的保護を受ける充分な可能性が存在しない場合又は医的保護施設が設けられる当時保健地域において一般開業医及び専門医の治療のための外来患者部をもつ病院制度が既に存在する場合においては、病院は、すべての入院及び外来的保護を提供する保健所としてこれを置き又は現存の病院をかかる保健所に転換し、且つ二つの場合において、病院は、一般開業医的保護及び補助的施設としての地方的分院によりこれを補充することを可とする。
35 病院制度のほかに一般医療の慣行が充分に発達していると同時に病院において専門医が主として顧問であり且つ活動している場合においては、入院しない患者のために一般医的保護とすべての補助的施設を提供する診療所又は保健所を設け、且つ入院患者又は外来患者に与えられる専門医のすべての保護を病院において集中することを可とする。
36 病院制度のほかに一般医療の慣行及び専門医の治療が充分に発達している場合においては、外来患者にすべての保護を提供する診療所又は保健所(一般開業医及び専門医の治療とすべての補助的施設を含む。)を設け、入院治療を必要とする場合には病院に転送することを可とする。
37 医的保護施設が住民の大多数を包含しないでしかも相当数の受益者をもち且つ現在の病院及び医的施設が不充分である場合においては、保険施設(又は各保険施設が共同して)は、診療所又は保健所(主要な診療所又は保健所における入院設備とできるだけ運搬施設を含むすべての保護を与える。)の制度を設けることを可とする。かかる診療所又は保健所の設置は、被保険者が人口稀薄な地方に散在しているとき特に必要である。
38 医的保護施設の利用範囲が余りに狭いため完全な保健所の組織がその必要に応ずるには経済的でなく、且つその地域における現存の専門医の治療施設が不充分である場合においては、保険施設(又は各保険施設が共同して)は、必要に応じ専門医が受益者にその保護を与える場所を維持することを可とする。
39 医的保護施設が開業医による治療の著しく普遍的である地方において集中されている住民の比較的少部分を包含している場合においては、施設に参加する医的及び関係職業にたずさわる者が自ら賃借りし、設備し且つ管理する保健所において協力することを可とする。
40 医的保護施設が人口の密集しており、しかも充分な現存施設のある地方に散在している少数の受益者のみを包含し、且つ39に掲げられる任意的協力が不可能な場合においては、受益者は、医的及び関係職業にたずさわる者であつて各自の診療所、公立の病院、公認された私立病院その他の医的施設において業務を行つている者の保護を受けることを可とする。
41 自動車又は航空機の巡回治療施設であつて救急、歯科的治療、一般検診並びに必要の場合に母性保護及び幼児保護施設の如きその他の保護施設の目的で設備されたものは、人口稀薄で都市から離れた地方においてこれを設け、且つ患者を無料で保健所及び病院に運搬するための措置を講じなければならない。

一般保健施設との協力

42 医的保護施設の受益者は、すべての一般保護施設即ち社会全般又は個人の集団がその健康をおびやかされ又はおびやかされることが明かとなる以前に健康を促進し及び保護する手段を社会全般又は個人の集団に提供する施設を利用し得なければならない。尤もかかる施設が医的及び関係職業にたずさわる者により確保されるとその他の者により確保されるとを問わない。
43 医的保護施設は、医的保護を提供する社会保険機関と一般保健施設を管理する機関との緊密な協力により、又は医的保護施設と一般保護施設を一の公的施設として結合することにより、一般保健施設との緊密な協力を以て設置されなければならない。
44 医的保護施設と一般保健施設との地方的調整は、一般保健施設の本部に接近して医的保護所を設置することにより、又はすべての若しくは大部分の保健施設の本部として共同の医的保護所を設置することにより、これを図らなければならない。
45 医的保護施設に協力し、且つ保健所において活動する医的及び関係職業にたずさわる者は、右の者が有益に与え得る一般保健的保護(免疫、学校児童及びその他の集団の体格検査、妊婦及び子持ちの母に対する助言並びに同種の性質のその他の保護を含む。)を適当に提供することを可とする。

Ⅳ 施設の特質

医的保護施設の最適基準

46 医的保護施設は、医師と患者との間の関係と医師の職業的及び個人的責任との重要性を充分考慮して、できるだけ高い基準の保護を提供すると同時に、受益者の利益と施設に協力する職業の利益との双方を擁護することを図らなければならない。

医師の選定と保護の継続性

47 受益者は、施設を利用し、且つその家庭から合理的距離内にある一般開業医中から、受益者が常に手当をしてもらいたい医師(家庭医)を選定する権利をもたなければならない。受益者は、その子女のために同様の選定権をもたなければならない。これらの原則は、また家庭の歯科医としての医師の選定に適用しなければならない。
48 保護が保健所において又は保健所より提供される場合においては、受益者は、その家庭より合理的距離内にある保健所を選定し、且つ保健所において作業する一般医及び歯科医中から医師及び歯科医を自己及びその子女のために選定する権利をもたなければならない。
49 保健所がない場合においては、受益者は、施設に参加する一般開業医及び歯科医であつて受益者の家庭から合理的距離内に診療所があるもののうちからその家庭医及び歯科医を選定する権利をもたなければならない。
50 受益者は、個人的接触及び信頼の欠如の如き正当の理由のために、所定期間内に通告する条件で、後日その家庭医及び歯科医を変更する権利をもたなければならない。
51 施設に協力する一般開業医又は歯科医は、患者を受諾し又は拒否する権利をもたなければならない。尤も所定最大限度を超える患者数を受理することはできないし、また患者であつて自己の選定を為さず、且つ公平な方法で施設により振当てられた者を拒否することもできない。
52 看護人、助産婦、マツサージ師及びその他の如き専門家及び関係職業にたずさわる者により与えられる保護は、家庭医の推薦に基き、且つ家庭医を通じてこれを利用しうるようにしなければならない。尤も保健所において又は患者の家庭から合理的の距離内で多数の専門医又はその他の職業にたずさわる者を利用しうるときは、患者の希望を充分考慮しなければならない。家庭医が推薦しないでも患者が要求するとき専門医を利用しうるよう特別の措置を講じなければならない。
53 入院による保護は、受益者の家庭医の助言に基き、又は診療を受けた専門医の意見に基いてこれを利用しうるようにしなければならない。
54 入院による保護が家庭医又は専門医の属する保健所において提供されるときは、患者は、先ず以て自己の家庭医により、又は患者に振当てられた専門医により病院において手当を受けなければならない。
55 できるだけ保健所における一般医及び歯科医に約束して診療を受けうるよう措置を講じなければならない。

医師及び関係職業にたずさわる者の労働条件及び地位

56 施設に協力する医師及び関係職業にたずさわる者の労働条件は、業務監督による外は職業上の決定の自由を制限されることなくして、労働、休暇及び疾病の期間中の、並びに退職の場合の充分な所得を確保し、且つその遺族に年金を保障することにより財政的不安を救われるように図るものでなければならず、且つ受益者の健康の維持及び改善から医師又はその他の協力者の注意力をそらすが如きものであつてはならない。
57 住民の全体又は大多数を包含する医的保護施設のために労働する一般医、専門医及び歯科医は、医的職業がかれらを使用する機関において充分に代表されることを条件として、休暇、疾病、老令及び死亡に関する充分な保障をもつて、俸給のために全時間適当に使用されることを可とする。
58 開業する一般医又は歯科医が充分な人数の受益者をもつ医的保護施設のために一部の時間労働する場合においては、休暇、疾病、老令及び死亡の場合に充分な保障を与えることとして、一年に付ての固定的基本額をかれらに支払うことを可とする。尤も右の額は、望ましいときは、医師又は歯科医の保護にまかされる各人又は家庭に付ての頭割り料金によりこれを増額するものとする。
59 開業する専門医が相当多数の受益者をもつ医的保護施設のために、一部の時間労働する場合においては、かかる施設のため労働した時間に相当する金額(一部時間的俸給)を支払われることを可とする。
60 開業する医師及び歯科医が少数の受益者しかもたない医的保護施設のために一部の時間労働する場合においては、その行つた医的行為に対しかれらに報酬を支払うことを可とする。
61 施設に協力する関係職業にたずさわる者の間では、属人的保護を提供する者は、休暇、疾病、老令及び死亡の場合は充分保障されることとして、俸給のために全時間使用されることを可とする。これらの職業にたずさわり資材を提供する者は、充分の料金表に従い支払われなければならない。
62 施設に協力する医的及び関係職業にたずさわる者の労働条件は、全国を通じ又は施設により包含されるすべての種類の住民に対し画一的のものとし、且つ各職業の代表的機関と合意の上これを定めなければならない。尤も施設の要求上の相違のために必要とされる場合のみ差別を設けることとする。
63 受益者がその受けた保護に関し、且つ医的又は関係職業にたずさわる者が施設の管理との関係に関し、すべての関係当事者に充分の保障を与える条件の下に、適当の仲裁機関に苦情を提出することについて手続を定めなければならない。
64 施設のために労働する医的及び関係職業にたずさわる者の業務監督は、特に施設に協力する職業の代表者を含み且つ懲戒的措置を認められる機関にこれを委嘱しなければならない。
65 63に掲げられる手続中において、施設のために労働する医的又は関係職業にたずさわる者がその業務を怠つたとみとめられる場合においては、仲裁機関は、64に掲げられる監督機関に事件を付託しなければならない。

職業的熟練及び知識の基準

66 教育訓練及び免許についての高い基準を要求することにより、並びに施設に協力する者の熟練及び知識を維持し且つ発達させることにより、施設に協力する職業においてできるだけ高い熟練及び知識の基準を達成し且つ維持しなければならない。
67 施設に協力する医師は、社会医学において充分の訓練をもつことを要する。
68 医科及び歯科の学生は、充分な資格ある医師又は歯科医として医的保護施設に協力することを許される前、経験ある医師の監督と指導の下に、特に農村地方においては保健所又は診療所において助手として労働することを要する。
69 病院における助手としての最短期間は、施設に協力するすべての医師としての資格中にこれを規定しなければならない。
70 専門医としての施設に入ることを希望する医師は、その専門についての資格証明書をもたなければならない。
71 施設に協力する医師及び歯科医師は、当該目的のために組織され又は承認された研究科に定期的に入学することを要する。
72 関係職業にたずさわる者について病院又は保健所における充分な見習期間を定め、且つ施設に協力する者について研究科を設け且つ定期的に入学することを要するものとしなければならない。
73 医的保護施設により管理され又はこれに協力する病院においては、教育及び研究のための充分の施設を提供しなければならない。
74 職業的教育及び研究は、国の財政的及び法律的援助によりこれを促進しなければならない。

Ⅴ 医的保護施設の経理

社会保険施設に基く基金の徴収

75 被保険者に課せられるべき最高限度の醵出金は、すべての被保険者の所得に適用され、6に定められる資格ある被扶養者に与えられる保護の費用を含む医的保護施設の推定総費用に等しい収入を得られる程度の被保険者の所得の部分を超えてはならない。
76 被保険者により支払われる醵出金は、被保険者が困難なく支払うことができるが如き最高限度の醵出金の部分をあらわすものでなければならない。
77 使用者は、その使用する者のために最高限度の一部を支払うことを要する。
78 所得が生活水準を超えない者は、保険醵出金を支払うことを要しない。公平な醵出金は、かれらのために公の機関により支払われなければならない。但し被用者については、かかる醵出金は、その使用者に全部又は一部支払わせることができる。
79 醵出金に包含されない医的保護施設の費用は、納税者がこれを負担しなければならない。
80 被用者に関する醵出金は、その使用者が適当にこれを徴収することができる。
81 或る種の自立労働者に付ては、職業組合への加入又は免許状の所有が強制的である場合においては、関係者より醵出金を徴収する責任を組合又は免許状を交付する機関に負わせることができる。
82 全国的又は地方的機関は、租税の目的上登録された自立労働者より醵出金を徴収する責任を負うことができる。
83 現金給付に関する社会保険制度が実施されている場合においては、かかる制度及び医的保護施設の双方に基く醵出金は、同時に適当にこれを徴収することを可とする。

公の医的保護に基く基金の徴収

84 医的保護施設の費用は、公の基金からこれを支弁しなければならない。
85 全住民が医的保護施設により包含され、且つすべての保険施設が唯一の中央及び地方管理機関の下にある場合においては、医的保護施設は、国の一般収入により適当にこれを経理することを可とする。
86 医的保護施設の管理が一般保護施設の管理とは別個のものである場合においては、特別税により医的保護施設を経理することを可とする。
87 特別税は、医的保護施設を経理するため留保される別個の基金にこれを納入しなければならない。
88 特別税は、累進的に等級をつけ、且つ医的保護施設を経理するため充分な収入を得られるように図らなければならない。
89 所得が生活水準を超えない者は、税を支払うことを要しない。
90 特別税は、国民所得税の徴収を担当する機関が、又は国民所得税が存在しないところでは地方税を徴収する責任ある機関が適当にこれを徴収することを可とする。

資金の徴収

91 医的保護施設を経理するための通常の財源を提供する外、施設の拡張及び改善、特に病院及び医療所の建設又は設備により必要を生じた非常経費を経理するため、社会保険機関の資産又はその他の方法により徴収した基金を利用するための措置を講じなければならない。

Ⅵ 医的保護施設の監督及び管理

保健施設の統一と民主的監督

92 すべての医的保護及び一般保健施設は、中央機関がこれを監督し、且つ24に定められる保健地域毎にこれを管理し、且つ医的保護施設の受益者並びに関係ある医的及び関係職業は、施設の管理に付発言権をもたなければならない。

中央管理機関の統一

93 社会の代表者である中央機関は、保健政策を樹立するの責任並びにすべての専門的問題に関し医的及び関係職業に諮問し及びこれと協力し、且つ医的保護施設に関する政策及び管理の問題に関し受益者に諮問することの留保の下に、すべての医的保護及び一般保健施設を監督するの責を負わなければならない。
94 医的保護施設が住民の全部又は大部分を包含し、且つ中央政府機関がすべての医的保護及び一般保健施設を監督し又は管理する場合においては、受益者は、この機関の長により代表されるものとこれをみとめることができる。
95 中央機関は、労働組合、使用者団体、商業会議所、農業者団体、婦人団体及び児童保護団体の如き住民の各方面の団体の代表者を包含する諮問機関を通じて受益者と接触を保たなければならない。
96 医的保護施設が住民の一部のみを包含し、且つ中央政府機関がすべての医的保護及び一般保健施設を監督する場合においては、被保険者の代表者は、医的保護施設に関するすべての政策問題に関し、よろしく諮問機関を通じ監督に参加しなければならない。
97 中央政府機関は、施設に協力する職業にたずさわる者の労働条件に関するすべての問題並びに主として専門的性質のすべての他の問題特に施設により提供される保護の性質、範囲及び管理に関する法令及び規則の作成に関しよろしく諮問機関を通じて、医的及び関係職業の代表者に諮問しなければならない。
98 医的保護施設が住民の全部又は大部分を包含し、且つ代表的機関がすべての医的保健及び一般保健施設を監督し又は管理する場合においては、受益者は、右機関において直接又は間接に代表されなければならない。
99 この場合においては、医的及び関係職業は、よろしく受益者又は政府の代表に等しい数で代表機関において代表されなければならない。この機関の職業代表委員は、関係職業から選出され、又はその代表者より指名され、且つ中央政府により任命されなければならない。
100 医的保護施設が住民の全部又は大部分を包含し、且つ法律又は認可により設けられる専門家の機関がすべての医的保護及び一般保健施設を監督し又は管理する場合においては、かかる機関は、一方には医的及び関係職業にたずさわる者、他方にはこれらの職業に属しない資格ある者の同数を以てこれを構成することを可とする。
101 専門家機関の職業代表委員は、医的及び関係職業の代表者より指名された候補者中から政府がこれを任命しなければならない。
102 医的保護及び一般保健施設を監督し又は管理する代表的執行機関又は専門家機関は、その一般政策に付政府に対し責任を負わなければならない。
103 連邦国については、前諸項に掲げられる中央機関は、連邦の機関であつても又は州の機関であつてもよい。

地方的管理

104 医的保護及び一般保健施設の地方的管理は、24に定められた目的のために設けられた地域内においてこれを統一し又は調整すべく、且つ当該地域における医的保護施設は、受益者を代表し又一部は医的及び関係職業の代表者より成り又はかかる代表者により援助される機関の助言により又はその助言を得てこれを管理し、以て受益者及び当該職業の利益を保護し且つ施設の技術的能率とこれに協力する医師の職業的自由を確保するようにしなければならない。
105 医的保護施設が保護地域における人口の全部又は大部分を包含する場合においては、すべての医的保護及び一般保健施設は、唯一の地域機関が適当にこれを管理することを可とする。
106 この場合において、その地域の管理機関が受益者のために保健施設を管理する場合においては、医的及び関係職業は、よろしく当該職業より選任され又は当該職業の被指名者中より地域の管理機関若しくは中央政府により任命される技術的委員会を通じて、医的保護施設の管理に参加しなければならない。
107 保健地域における人口の全部又は大部分を包含する医的保護施設が代表機関により管理される場合においては、その地域の管理機関は、受益者に代つて、又他方その地域における医的及び関係職業は、共に望むらくは同数を以てかかる機関において代表されなければならない。
108 医的保護が地域支部又は、中央機関の地域的職員により管理される場合においては、その地域における医的及び関係職業によろしく106に定められる方法で選任され又は任命される執行技術委員会を通じて、これが管理に参加しなければならない。
109 地域的管理の形式如何を問わず、医的保護施設を管理する機関は、95に定められる方法で各種の代表的団体により選任される諮問機関を通じ、その地域における受益者と絶えず接触を保たなければならない。
110 社会保険の医的保護施設が住民の一部のみを包含する場合においては、その施設の管理は、政府に対し責任を負い、且つ受益者施設に協力する医的及び関係職業並びに使用者の代表者を含む代表的執行機関にこれを委嘱することを可とする。

保健単位の管理

111 医的保護施設が所有し且つ運営する診療所、保健所又は病院の如き保健単位は、医的職業の参加を伴う民主的監督制度の下にこれを管理し、又はその単位において労働するすべての医師の協力を得て医的保護施設において医的及び関係職業にたずさわる者により選任され又はかかる者に諮問の後任命される医師が全部的に又は主としてこれを管理しなければならない。

上訴権

112 63に掲げられる仲裁機関に苦情を提起した受益者又は医的若しくは関係職業にたずさわる者は、かかる機関の裁定に付独立の裁判所に上訴する権利をもたなければならない。
113 64に掲げられる監督機関により懲戒的措置をとられた医的及び関係職業にたずさわる者は、かかる機関の決定に付独立の裁判所に上訴する権利をもたなければならない。
114 64に掲げられる監督機関が65に従い仲裁機関から付託された事件に関し何等の決定をしない場合においては、関係当事者は、独立の裁判所に上訴する権利をもたなければならない。