1944年の属地社会政策勧告(第70号)

ILO勧告 | 1944/05/12

属地における社会政策の最低基準に関する勧告(第70号)

 国際労働機関の総会は、国際労働事務局の理事会によりジュネーヴに招集されて、二千四年六月一日にその第九十二回会期として会合し、本会期の議事日程の第七議題である複数の国際労働勧告の撤回に関する提案を検討し、二千四年六月十六日に、千九百四十四年の属地社会政策勧告(第七十号)の撤回を決定する。国際労働事務局長は、この本文書撤回の決定を、国際労働機関の加盟国及び国際連合事務総長に通知する。この決定の英文及びフランス文は、ひとしく正文とする。

 国際労働機関の総会は、
 国際労働事務局の理事会によつてフイラデルフイアに招集され、且つ千九百四十四年四月二十日を以てその第二十六回会議を開催し、
 この会議の会議事項の第五項目である属地における社会政策の最低基準に関する提案の採択を決議し、且つ
 この提案は勧告の形式によるべきものなることを決定したので、
 千九百四十四年の属地社会政策勧告として引用することができる次の勧告を千九百四十四年五月十二日に採択する。
 属地の住民の経済的発達及び社会的進歩は、その行政に付責任ある国にとり漸次密接にして緊要な関係事項となつたのに鑑み、
 国際労働機関は、その発端より政府、使用者及び労働者のこの目的に向つての努力を援助することに努めてきたのに鑑み、
 大西洋憲章は、「すべての国民に対しよりよき労働基準、経済的発達及び社会保障を確保する目的を以て経済分野においてすべての国民の間に最も完全な協力を齎す」ことの署名国の希望を表明したのに鑑み、
 国際労働機関の総会は、千九百四十一年十一月五日に採択した決議により、大西洋憲章の原則を確認し、且つこれを実行するため国際労働機関の充分な協力を誓約したのに鑑み、
 国際労働機関は、属地における生活及び労働状態の特殊方面に関する条約及び勧告を随時採択し、且つ国際労働機関憲章第三十五条に従い一般的適用の条約及び勧告のかかる地域に対する適用を促進したのに鑑み、
 従属住民の福祉と発展との進歩は、属地と世界の他の国との間の経済的関係により並びに属地内においてとられる措置により影響されるのに鑑み、
 属地における社会政策の基本的原則を陳べることと、且つ前記の目的の達成を促進するため国際的に証人された最低基準のかかる地域への適用の拡張及びかかる基準の改善を確保することが望ましいのに鑑み、
 総会は、次の勧告をする。
1 国際労働機関の各加盟国は、この勧告の附録第一部に掲げられる一般原則の有効な適用により属地の住民の福祉と発展とを促進するため、その権限内にある措置を講じ又は引続いて講じなければならない。
2 属地に付責任ある国際労働機関の各加盟国は、この勧告の附録第二部に掲げられる最低基準のかかる地域における有効な適用を確保するためその権限内にあるすべての措置を講じ、且つ特に附録第二部に掲げられる最低基準をかかる地域において有効ならしめるため権限ある機関にこの勧告を提出しなければならない。
3 国際労働機関の各加盟国は、この勧告を承認するときは、附録第一部に掲げられる一般原則の受諾に付国際労働事務局長に通告しなければならない。国際労働機関の各加盟国は、当該加盟国が責任を有する各属地に関し附録第二部に掲げられる最低基準を有効ならしめるため講ずる措置の詳細をできるだけ早い時期において事務局長に通告し、且つ爾後勧告を実施するため講ずる措置に関し理事会の要求に従い随時国際労働事務局に報告しなければならない。
4 この勧告の附録第二部に掲げられる基準は、最低基準として認められるべく、且つ、この最低基準は、国際労働機関憲章により又は加盟国が批准した国際労働条約により国際労働機関の加盟国に課せられる一層高い基準を適用するの義務を制限し又は阻害するものではなく、またいかなる場合においても現行法令により関係労働者に与えられる保護を低減するようにこれを解釈し又は適用してはならない。

〔附 録〕

第 一 部 一般原則

第 一 条

1 属地に適用することを目的とするすべての政策は、第一にかかる地域の住民の福祉と発展とに並びに社会進歩に対するかれ等の希望の促進に向けられなければならない。
2 一層一般的に適用される政策は、従属住民の福祉に及ぼすその影響を充分に考慮してこれを定めなければならない。

第 二 条

1 経済的発達を促進し且つかくして社会的進歩の基礎を確立するためには、属地の住民の利益を擁護するような方法で地方機関の監督の下に属地の経済的発達に付国際的、地方的、全国的又は地域的の基礎において財政的及び技術的援助を確保するようあらゆる努力をしなければならない。
2 属地の住民に経済的発達の充分な利益を確保する条件において、経済的発達のため資本金を提供するよう充分な基金を使用することを確保することは、すべての政府機関の政策の一目標でなければならない。
3 適当の場合においては、属地の主要な輸出品を能率的に生産する生産者に合理的の生活基準を確保するため充分な貿易条件を定める目的を以て、国際的、地方的又は国内的措置を講じなければならない。

第 三 条

 公衆衛生、住宅、栄養、教育、児童福祉、婦人の地位、雇用条件、賃金労働者及び自立労働者の報酬、移民労働者の保護、社会保障、公務の運営並びに一般生産の如き分野において改善を促進するため、適当の国際的、地方的、国内的及び地域的方法によりすべての可能な措置を講じなければならない。これらの措置は、属地が属する国による適当な商業政策の採択を含まなければならない。

第 四 条

 適当にして可能な場合には、よろしく属地の住民をして自ら選任した代表者を通じ、社会的進歩の方法の立案及び遂行に有効に参加させるためすべての可能な措置を講じなければならない。

第 二 部 最低基準

第 一 章 奴隷制度

第 五 条

 自由な世界における自由労働という目的に従い奴隷売買及びすべての形式における奴隷制度は、すべての属地においてこれを禁止し且つ有効に廃止しなければならないという原則は確認される。

第 二 章 阿片

第 六 条

1 阿片の使用が属地の住民の健康、生産力及び一般福祉に及ぼす脅威を認めて、阿片及びその他の危険な薬剤の取引は、労働者の利益を充分に保護する方法を以て厳格にこれを取り締らなければならないという原則は確認される。阿片吸入がなお許容されるすべての属地において阿片吸入の禁止と政府の阿片専売の廃止に考慮を払わなければならない。

第 三 章 強制労働

第 七 条

1 今次の戦争非常時中に発生した属地における強制労働の使用は、できるだけ短期間中にこれを全面的に排除しなければならない。その間労働の自発的提供を増加するため属地においてすべての措置を講じなければならない。
2 すべての形式における強制労働の使用は、できるだけ短期間内にこれを禁止しなければならない。
3 強制労働が属地において一時的及び例外的措置として使用される場合においては、千九百三十年の強制労働条約に定められる条件及び保障は守らなければならない。いかなる場合においても私的使用者による強制労働の使用は、国が使用者と契約すると否とを問わず許されない。
4 千九百三十年の強制労働条約のすべての規定の属地における適用に対する例外は排除し又は撤回するの可能性に考慮を払わなければならない。
5 強制労働が存在し且つ千九百三十年の強制労働条約が未だに実施されない属地にこの条約を適用することに考慮を払わなければならない。
6 強制労働が存在し且つ千九百三十年の強制労働条約が未だ実施されない属地に付責任を有する国がこの条約を批准するの望ましいことに考慮を払わなければならない。

第 八 条

 間接の労働強制の発達を避ける目的を以て千九百三十年の強制労働(間接強制)勧告に掲げられる原則の適用に考慮を払わなければならない。

第 四 章 労働者の募集

第 九 条

1 労働者の募集を排除し、且つ政府が監督する自由機関を通じて行われる労働の自発的提供を基礎とする場合でも医的監督、輸送、食料、住居及び現行制度の下に労働者に生ずるその他の利益を伴う取極を以てかかる募集に代えることは、政策の一目標でなければならない。
2 労働を求める方法に関する新提案の作成されるまでは、且つ新方法への転換を容易にし及び促進する目的を以て、千九百三十六年の募集排除勧告に含まれる原則の適用に考慮を払わなければならない。

第 十 条

1 土民労働者の募集が存在し且つ千九百三十六年の土民労働者募集条約が未だ実施されない属地においては、この条約の適用に考慮を払わなければならない。
2 募集が存在し且つ千九百三十六年の土民労働者募集条約が未だ実施されない属地に付責任を有する国がこの条約を批准するの望ましいことに考慮を払わなければならない。

第 五 章 特殊形態の労働契約

第 十 一 条

1 千九百三十九年の雇用契約(土民労働者)条約の規定により定められる場合において、文書による契約の方法で長期雇用を規律することは、社会政策の一目標でなければならない。
2 長期契約に基く雇用が存在し且つ千九百三十九年の雇用契約(土民労働者)条約が未だ実施されない属地にこの条約を適用することに考慮を払わなければならない。
3 長期契約に基く雇用が存在し且つ千九百三十九年の雇用契約(土民労働者)条約が未だ批准されない属地に付責任を有する国がこの条約を批准するの望ましいことに考慮を払わなければならない。

第 十 二 条

 契約に基く労務期間の確定限度を定める目的を以て、千九百三十九年の雇用契約(土民労働者)条約に掲げられる原則の適用に考慮を払わなければならない。

第 十 三 条

1 或る臨時の雇用が避け難い地域においては、需要供給を平均させ且つ突発的の雇用場所への臨時労働の望ましくない吸引を予防するため、すべての実行しうる措置を講じなければならない。
2 かかる雇用場所において通常利用しうる労働の最高限度の雇用を確保するため短期労働契約の如き措置を講じなければならない。

第 十 四 条

1 法律上労働者が携帯することを要する労働カード又は労働手帳に労働者の行為又は努力に関する主観的性質の鑑定を記載する慣行は、これを排除しなければならない。
2 労働カード又は労働手帳の使用は、労働についての威嚇又は強制の方法とならないようにこれを規律しなければならない。

第 十 五 条

 既婚者がその自国内においてしかも自宅より相当離れて契約に基き雇用される場合においては、その妻及び家族が希望するときは、権限ある機関は、これを同伴する充分の機会を与えるため適当の場合においてすべての実行しうる措置を講じなければならない。

第 六 章 刑罰

第 十 六 条

1 千九百三十九年の刑罰(土民労働者)条約の第一条に定められる雇用契約の違反に対する刑罰を廃止することは、社会政策の一目標でなければならない。
2 刑罰が適用され且つ千九百三十九年の刑罰(土民労働者)条約が未だ実施されない属地にこの条約を適用することに考慮を払わなければならない。
3 刑罰が適用され且つ千九百三十九年の刑罰(土民労働者)条約が未だ実施されない属地に付責任を有する国がこの条約を批准するの望ましいことに考慮を払わなければならない。

第 七 章 児童及び年少者の雇用

第 十 七 条

1 属地において児童及び年少者の間に無学を排除し且つ有用な職業に対しかれらを有効に準備する目的を以て、広汎な教育、職業訓練及び技能者養成制度を漸次的に発達させるため、地方事情の下に可能な程度に適当な措置を講じなければならない。
2 児童が現在の教育施設を享受することができるため且つこれらの施設の拡張が児童労働の需要により阻害されないため、学令児童の大多数に対し充分の規模において教育施設が供される地域において、卒業年令未満の児童の雇用は、これを禁止しなければならない。

第 十 八 条

1 年令十二才未満の児童は、使用者の家に属する者のみを使用する農業的若しくは家事的性質の軽労働又は地方団体により集団的に行われる農業的軽労働に関しての外、いかなる労務にもこれを使用してはならない。この年令は、学校卒業年令と併行して漸次これを引上げなければならない。
2 児童の使用者の家族への転入が慣習により許される場合においては、転入及び雇用の条件は、児童が十二才以上たると以下たるとを問わず、これを厳重に取締り且つ監督しなければならない。かかるすべての転入の漸次的廃止は、すべての属地において社会政策の一目標でなければならない。

第 十 九 条

 年令十五才未満の児童は、工業的企業又はその分科において使用してはならないし、又労働してはならない。

第 二 十 条

 年令十五才未満の児童は、船上においてこれを使用してはならないし、又労働してはならない。

第 二 十 一 条

1 年令十六才未満の年少者は、鉱山における地下作業にこれを使用してはならない。
2 年令十六才以上十八才未満の年少者の鉱山の地下作業における使用は、かかる作業に対する適性を証明し且つ権限ある機関が承認する医師の署名した適格証明書の提出を条件としなければならない。

第 二 十 二 条

1 年令十八才未満の年少者は、石炭夫又は火夫として船上においてこれを使用してはならないし、又労働してはならない。
2 年令十八才未満の年少者のみを利用しうる港において石炭夫又は火夫を必要とする場合においては、かかる年少者は、これを使用することができるが、その場合においては必要な石炭夫又は火夫の代りに二人の年少者を雇入れることを要する。かかる年少者は、少くとも年令十六才でなければならない。
3 但し、この条の規定は、次のものに適用しない。
 (a) 蒸汽以外の方法により主として推進される船舶における年少者の使用
 (b) 年令十六才以上の年少者であつて、身体検査の結果身体上適すると認められるとき、専ら沿岸航路に従事する船舶において石炭夫又は火夫として使用される者

第 二 十 三 条

 第十八条1、第十九条及び第二十条の規定は、公私の承認された学校船又は技術学校であつて所定の研究科目を有し、且つその生徒の訓練又は見習期間を合理的の期間に制限しているものにおいて、児童又は年少者により遂行される労働には適用しない。尤もこの労働が権限ある機関により承認され且つ監督されることを条件とする。

第 二 十 四 条

1 不健康、危険又は困難な労働については、第十八条1及び第十九条により要求されるよりも一層高い最低年令を定めるか、又は労働に使用しうる最低年令と一層高い適当な年令との間の児童の労働時間には特別の制限を設け若しくはその他の特別の保護を与えなければならない。
2 児童であつてその家庭より離れた労務に就くことを許容される者には、特別の保護を確保しなければならない。

第 二 十 五 条

1 年令十八才未満の年少者は、工業的企業又はその分科において夜間これを使用してはならない。
2 但し年令十六才を超える年少者は、権限ある機関により定められる例外的の事情がある場合において、夜間これを使用することができる。

第 二 十 六 条

1 年令十八才未満の年少者の船上における使用は、かかる労働に対する適性を証明し且つ権限ある機関が承認する医師の署名した健康証明書の提出を条件としなければならない。
2 緊急の場合においては、権限ある機関は、年令十八才未満の年少者が健康検査を受けないで乗船することを許可することができる。但し常に船舶が寄港する最初の港において使用者の費用でかかる検査を受け、且つ充分な健康証明書を得られなかつたときは、年少者が雇入れられた港若しくは場所又はその本国まで、何れか近い場所に使用者の費用で旅客として送還しなければならない。

第 二 十 七 条

 部落の経済的及び社会的利益に適した教育制度を発達させるに当つては、実行しうる限り且つ地方的事情に適合する限り、千九百三十九年の職業訓練勧告に掲げられる原則の適用に考慮を払わなければならない。

第 二 十 八 条

 この章の規定の適用を促進するため、管理機関を設置し又は公務員を任命しなければならない。この管理機関の設置及び公務員の任命は、本土地域又は属地において有効に行われる慣行に従いこれを為さなければならない。

第 八 章 婦人の雇用

第 二 十 九 条

 地方的事情を充分に考慮して、婦人に次のことを確保するために適当であり且つ実行しうる措置を講ずることは、すべての権限ある機関の社会政策の一目標でなければならない。一般教育、職業訓練及び雇用の適当な機会、母性の保護を含む身体的に有害な労働条件及び経済的搾取に対する保障、特殊な形態の搾取に対する保護並びに報酬及びその他の労働条件に関する男女間の公平にして均等な待遇。

第 三 十 条

 法律によると慣習によるとを問わず、婦人を奴隷状態に維持する属地において、婦人の社会的及び経済的地位を改善するためすべての実行しうる措置を講じなければならない。

第 三 十 一 条

1 工業的及び商業的企業に使用される婦人に対する母性保護のため、できるだけ速かに措置を講じなければならない。
2 かくの如くする場合においては、地方的事情に照らし必要な変更を加えることとして、千九百十九年の母性保護条約の規定特に次の原則を実施することが目標でなければならない。
 (a) 産前産後に休業する婦人の権利
 (b) かかる休業中医療扶助及び給付を受ける婦人の権利

第 三 十 二 条

1 婦人は、工業的企業又はその分科において、夜間これを使用してはならない。
2 但し婦人は、次の場合に夜間これを使用することができる。
 (a) 処理中の原料又は物資であつて急激に毀損し易いものに付て作業を行わなければならない場合
 (b) 或る企業において予見することが困難であり、且つ反覆的性質のものでない緊急事態が起る場合
3 但し、また、重大な緊急の場合において公益が要求するときは、夜業の禁止を停止することができる。
4 この条の規定は、責任ある管理の地位にあり且つ通常筋肉労働に従事しない婦人に適用しない。

第 三 十 三 条

1 婦人は、鉱山における地下作業にこれを使用してはならない。
2 但し権限ある機関は、次に関し前記の禁止の免除を与えることができる。
 (a) 管理の地位にあり且筋肉労働を行わない婦人
 (b) 保護及び福祉施設に使用される婦人
 (c) 婦人であつてその実習中鉱山の地下部分において訓練期間を費す者
 (d) その他の婦人であつて非筋肉的業務のため随時鉱山の地下部分に入ることを要するもの

第 三 十 四 条

 婦人の雇用及び経済的地位並びにその福祉に関する措置の適用を促進するため、特に婦人に関する問題が審議される場合は、婦人顧問を利用しなければならない。婦人顧問は、できるだけ地方住民中よりこれを選抜しなければならない。

第 九 章 報酬

第 三 十 五 条

1 生活基準の改善は、経済的発達の計画における目的としてこれを認めなければならない。
2 生活状態に関する公の調査の方法により独立生産者及び賃金労働者に最低生活基準の維持を確保し、且つ独立生産者及び賃金労働者をして自己の努力でかかる基準を改善することを得しめるため、地方的事情に適応するすべての実行しうる措置を講じなければならない。
3 労働者がその家庭から離れて生活する労働を必要とする種類の経済的企業は、労働者の通常の家族的要求を考慮しなければならない。
4 一地域のために他の地域の労働資源が一時的に利用される場合においては、労働者の賃金及び貯金の一部を労働利用の地域から労働供給の地域へ転送することを奨励するため措置を講じなければならない。
5 労働者及びその家族が生活程度の低い地域から生活程度の高い地域に移動する場合においては、移動に伴う生活費の増加を考慮に入れなければならない。
6 労働者が行う労務に対する賃金の全部又は一部の代りに酒類その他のアルコール飲料を以てすることは、これを禁止しなければならない。

第 三 十 六 条

 すべての公共事業は、公の機関により直接に企図されると公の機関と使用者との間に締結される契約によるとを問わず、賃金率及び一般労働条件が現に実施されている率及び条件に劣らないという要件を条件とすべく、且つ実行しうるときは関係使用者及び労働者の団体と協議の上これを定めなければならない。

第 十 章 保健、住宅及び社会保障

第 三 十 七 条

1 医的施設を拡張することにより、公衆保健計画を発達させることにより、熱帯の属地に流行する伝染病と風土病を調査することにより、及びこれらの疾病に対処する適当の措置を採用することにより、並びに衛生教育を普及し及び住宅を改善することにより、住民の健康を改善するためすべての実行しうる措置を講じなければならない。
2 栄養学的調査により住民の食物に関する要求及び栄養を改善する方法を確め、且つかかる調査が示す食料政策を実施するためすべての実行しうる措置を講じなければならない。国内的栄養機関を設置し、且つ充分な基金、施設及び権限を具備するようにしなければならない。
3 権限ある機関は、充分な住宅条件を確保するの責任をもたなければならない。政策の一般目標は、使用者に属しない場所において充分な住宅設備を確保するの機会を通常賃金を以て生活する労働者に供することでなければならない。
4 労力を使用する企業が充分な住宅設備の利用し得ない地域に存在する場合においては、住宅の供与は、公平な基準において企業に対する義務とすることができる。かかる場合においては、権限ある機関は、住宅設備の最低基準を定め、且つこの基準の実施に付厳格な監督を行わなければならない。権限ある機関は、又労働者であつて雇用を去る場合にその家屋を明渡すことを要する者の権利を定め、且つこの権利の行使を確保するため必要なすべての措置を講じなければならない。

第 三 十 八 条

 病人の生活維持と治療のため並びに老令者、不具者及び死者の扶養遺族の保護のため、地方的事情を充分に考慮して、実行しうる措置を講じなければならない。

第 三 十 九 条

1 被用者の業務に基く及び業務中の災害に基因する労働不能の場合において被用者に及び、かかる災害に基因する死亡の場合においてその扶養遺族に補償を支払うため、且つかかる災害により負傷した者の医療を施すため、法律を設けなければならない。
2 労働者補償に関する法令及び規則は、船上に使用され並びに工業的、商業的及び農業的企業により使用されるすべての労働者、被用者及び見習に適用しなければならない。
3 但し、次の者に関し例外を設けることができる。
 (a) 臨時的性質の労働を行い、且つ使用者の業務のため以外に使用される者
 (b) 家内労働者
 (c) 使用者の家族に属する者であつて専ら使用者のために労働し且つ使用者と共に生活するもの
 (d) 非筋肉労働者であつてその報酬が法令又は規則により定められる限度を超えるもの

第 四 十 条

1 職業病のために労働不能となつた労働者又は、かかる疾病に基因する死亡の場合においてはその被扶養者に、労働者補償の一般原則に従い補償を支払わなければならない。
2 但し、かかる補償は、関係地域における主要な職業病にこれを限ることができる。

第 十 一 章 皮膚の色及び宗教に基く差別待遇及びその他の差別待遇の慣行の禁止

第 四 十 一 条

1 各領域において労働条件に関し法律により定められる基準は、法律上その領域において居住し又は労働するすべての労働者の公平な経済的待遇を充分に尊重しなければならない。
2 労働者に対しその公私の職業に使用することに関し人種、皮膚の色、宗教又は部落により差別待遇をすることは、これを禁止しなければならない。
3 訓練施設の提供により、労働協約の交渉において又は労働組合員たることを理由として差別待遇をすることを阻止することにより及びその他の適当の方法により、雇用における有効な均等待遇を促進するため、地方的事情を充分考慮してすべての実行しうる措置を講じなければならない。

第 十 二 章 監督

第 四 十 二 条

1 労働監督施設は、かかる施設が未だ存在しない領域においてこれを設けなければならない。監督官は、る次(注:「る」原文では旧字体)の監督を行なうことを要する。
2 監督官は、その監督に服する企業において直接又は間接の利害関係をもつてはならない。
3 労働者及びその代表者は、監督官と自由に通信するためすべての便宜を与えられなければならない。

第 十 三 章 労使団体

第 四 十 三 条

1 すべての合法的目的のため使用者及び労働者の団結する権利は、適当な方法によりこれを保障しなければならない。
2 調停、仲裁、最低賃金決定及び労働監督のための機関の設置と運営において、使用者及び労働者の団体の代表者と協議し且つ提携するため、すべての実行しうる措置を講じなければならない。労働者の代表的団体が発達していない場合においては、権限ある機関は、労働者のために行動し且つ助言と指導とにより労働者団体の初期の発達を援助する特に資格ある者を任命しなければならない。
3 使用者又は使用者団体と労働協約を締結する権利を関係労働者の代表者である労働組合に確保するため、すべての実行しうる措置を講じなければならない。

第 四 十 四 条

1 使用者と労働者との間における集団的紛争の解決のため、できるだけ速かに機関を創設しなければならない。
2 関係ある使用者及び労働者の代表者(夫々の団体が存在するときはその代表者を含む。)は、権限ある機関により定められる方法及び程度を以て、しかしいかなる場合においても同数且つ同一の条件において機関の運営にできるだけ協力しなければならない。

第 十 四 章 協同団体

第 四 十 五 条

1 保健、住宅及び教育の促進のための労働者の協同団体を含む協同組合の援助と発達は、属地における権限ある機関の経済的計画の一部としてこれを認めなければならず、且つ執られるべき措置は、適当であるときは、財政的援助を含まなければならない。
2 この目的のため、次のことに考慮を払わなければならない。
 (a) すべての形式の協同団体を包含し、且つ適用上簡単で費用の余りかからない適当の法令の採択
 (b) 協同団体の発達を促進し及び監督し、且つ協同団体に関する教育を奨励する特別施設の創設
3 適当の場合においては、協同団体は、その利害に影響ある公の委員会及び機関において有効に代表されなければならない。

第 十 五 章 定義及び適用範囲

第 四 十 六 条

 この附録のこの部において、
 (a) 「農業的企業」と称するのは、当該企業の農産物の保存及び発送のため企業において行われる作業を含むようにこれを定めることができる。尤もこれらの作業を工業的企業の一部として分類することが希望される場合は、この限りではない。
 (b) 「商業的企業」と称するのは、次のものを包含する。
  (i)  あらゆる種類の物品又はサーヴイスの販売、購買、分配、保険、譲渡、貸借又は管理に全面的に又は主として従事する設備を包含する商業的設備及び事務所
  (ii)  特に老令者、不具者、病者、貧窮者又は精神不適者の治療又は看護のための設備
  (iii) 旅館、料理店、下宿屋、クラブ、カフエー及びその他の飲食店
  (iv)  劇場及び公衆娯楽場
  (v)  (i)、(ii)、(iii)及び(iv)号に掲げられるものに性質上類似する設備
 (c) 「工業的企業」と称するのは、次のものを包含する。
  (i)  物品の製造、改造、浄洗、修理、装飾、仕上、販売のためにする仕立、破壊若しくは解体を為し又は材料の変造を為す企業(造船、電気の発生、変更又は伝導、ガス又は各種動力の発生又は分配、水の浄化又は分配並びに暖房に従事する企業を含む。)
  (ii)  次の一若しくは二以上の建設、改造、保存、修理、変更又は解体に従事する企業。すなわち、建物、鉄道、軌道、空港、港、船渠、棧橋、洪水又は沿岸侵蝕に対する防護工作物、運河、内地水路、海又は空路による航行のための工作物、道路、隧道、橋梁、陸橋、下水道、排水道、井、灌漑又は排水のための工作物、電気通信装置、電気若しくはガス発生又は分配のための工作物、配管、水道及びその他の類似の工事又はかかる工作物若しくは建設物の準備又は基礎工事に従事する企業
  (iii) 鉱山業、石切業その他土地より鉱物を採取する事業
  (iv)  旅客又は貨物の運送(人力による運送を除く。)に従事する企業。尤もかかる企業が農業的又は商業的企業の運営の一部として認められる場合は、この限りではない。
 (d) 「農業的企業」、「商業的企業」及び「工業的企業」と称するのは、公私の両企業を包含する。
 (e) 「船舶」と称するのは、公有たると私有たるとを問わず、海洋航行に従事する各種の船舶及び舟艇をすべて包含する。但し軍艦は、これを除く。右は、特定の噸数未満の船舶及び乗組員が特定の人数より少ない船舶を除外するものと解釈することができる。
 (f) 「夜間」と称するのは、少くとも十一時間の継続の時間を云う。但し昼間に労働が停止される熱帯諸国においては、夜間は、昼間に代償的休憩が与えられるときは、これを短縮することができる。
 (g) 最低年令を定める規定は、出生の記録が不充分であるところでは外見上の最低年令に関するものと解釈することができる。

第 四 十 七 条

 権限ある機関は、企業又は船舶であつてその性質及び大きさからして充分な監督を行うことができないものを、この附録のこの部の規定の適用より除外することができる。