1948年の職業安定組織勧告(第83号)

ILO勧告 | 1948/07/09

職業安定組織の構成に関する勧告(第83号)

 国際労働機関の総会は、
 国際労働事務局の理事会によつてサン・フランシスコに招集され、且つ千九百四十八年六月十七日を以てその第三十一回会議を開催し、
 この会議の会議事項の第四項目に含まれている職業安定組織の構成に関する提案の採択を決議し、
 この提案は、千九百四十四年の職業安定組織勧告及び千九百四十八年の職業安定組織条約を補足する勧告の形式によるべきものなることを決定したので、
 千九百四十八年の職業安定組織勧告として引用することができる次の勧告を千九百四十八年七月九日に採択する。
 千九百四十四年の職業安定組織に関する勧告及び千九百四十八年の職業安定組織の構成に関する条約は、職業安定組織の構成について規定しているが、勧告によつて更に右の規定を補うことが望ましいので、
 総会は、各加盟国が次の条項を国内事情の許すかぎり速かに適用すること、及びこれを実施するためにとつた措置に関して、理事会の要求に応じて、国際労働事務局に報告を提出することを勧告する。

I 一般組織

1 無料の公共職業安定組織は、中央主管官庁、地区職業安定機関及び必要な場合には地方職業安定機関から成る。
2 職業安定組織の発達を促進し、国の管理の統一統合を確保するために、次のような規定を設けるべきである。
 (a) 中央主管官庁から国の管理的指示を発すること。
 (b) 職業安定所の職員、設備、備品等に関する国の最低基準を定めること。
 (c) 職業安定組織に対する政府の充分な財政援助
 (d) 下級機関より上級機関への定期報告書
 (e) 地区及び地方安定機関に対する国家の監察
 (f) 監察官を含む、中央、地区及び地方職員の会議を定期的に行うこと。
3 職業安定組織は、経営者及び労働者の代表者、並びに特殊な地域、企業、産業又は産業集団の雇用問題を特別に研究する目的で設立された団体の必要な協力を得るため、適切な措置をとらなければならない。
4 次のものを発達させるための措置を適当な場合には、職業安定組織の一般的枠内で執らなければならない。
 (a) 職業又は産業の性格又は重要度その他の因子によつて、別個の職業安定機関を置くことが正当と認められる場合には、港湾荷役、商船、土木建築、農林業及び家事労働の如き特殊産業又は職業に属する使用者及び労働者の必要に応ずることを専門とする別個の職業安定機関
 (b) 次の者の就職斡旋のための特別措置
  (i) 年少者
  (ii) 身体障害者
  (iii) 技術者、専門労働者、俸給被用者及び経営部員
 (c) 職業上の熟練度と身体的能力に基いて女子の就職斡旋の為の適切な措置を執ること。

II 雇用市場情報

5 職業安定組織は、次に関する資料を含む雇用市場情報を蒐集しなければならない。
 (a) 現在及び将来における労働の必要量(必要な労働者の産業別、職業別又は地区別の数及び種類を含む。)
 (b) 現在及び将来における労働の供給量(労働者の数、年令、性別、熟練度、職業、産業及び居住地並びに求職者の数、居住地及び特徴に関する詳細を含む。)
6 職業安定組織は、次の問題について継続的且つ特別な研究を行わなければならない。
 (a) 技術上の失業を含む失業の原因と頻度
 (b) 身体障害者又は年少者のような特殊な求職者群の就職斡旋
 (c) 雇用の標準と性格に影響を及ぼす因子
 (d) 雇用の調整
 (e) 就職斡旋と関連しての職業指導
 (f) 職業及び職務の分析
 (g) 雇用市場組織に関するその他の情勢
7 この情報は、適当な訓練を受けた資格ある職員が必要な場合は、他の公の機関、使用者団体及び労働者団体の協力を得て蒐集するものとする。
8 情報の蒐集及び分析に用いられる方法は実行することができ且つ適切と認められる限り、次のことを含まなければならない。
 (a) 問題になつている事項について専門知識を持つている団体、例えば他の公の機関、使用者団体及び労働者団体、公私企業及び合同委員会のような団体からの直接調査
 (b) 労働監督、失業保険及び失業者扶助業務との協力
 (c) 雇用市場と特別な関係を持つている問題の定期報告
 (d) 職業安定組織が行つている特殊問題の調査、調査計画及び分析

III 労働力関係予算

9 完全雇用の達成及び維持並びに生産資源の開発及び利用のための国家計画の不可分の一部として雇用市場を最もよく組織化するために、国の年次労働力関係予算は、実行可能な限り速かに一般経済観察の一部として作成されなければならない。
10 労働力関係予算は、適当な場合には他の公の機関の協力を得て、職業安定機関によつて作成されなければならない。
11 労働力関係予算には、労働の需要供給の見積量と分布に関する詳細な資料を含めなければならない。

IV 労働者の紹介

12 職業安定機関は、
 (a) 労働争議の行われている事業所に於ける雇用については、この雇用が労働争議に影響を及ぼす場合は、厳正中立を守らなければならない。
 (b) 賃金又は労働条件が法律又は一般慣行によつて定められている基準より低い職業に労働者を紹介してはならない。
 (c) 労働者を職業に紹介するに当つて、民族、人種、性別、信仰を理由として、求職者に対して不当な差別をなしてはならない。
13 職業安定機関は、求職者に紹介する仕事に関するすべての関係ある情報を求職者に提供する責任を負う。これには前項中の事項に関する情報を含む。

V 労働の移動性

14 最大の生産及び最大の雇用の達成及び維持のために必要な労働の移動を容易にするために、職業安定組織は、下記15から20までに示された方策をとるべきである。
15 他の職業及び他の地方における雇用の機会及び労働条件並びにその地方に於ける生活条件(利用し得る適当な住宅施設を含む。)に関する最も完全にして信頼し得べき情報が蒐集され且つ周知させられるべきである。
16 労働者に対しては、彼等の転職又は移転に対する障害を除去する為の情報及び助言が提供されるべきである。
17(1) 職業安定機関は、財政的援助の如き手段によつて必要と考えられる地理的な移転に対する経済的障害を排除すべきである。
 (2) 職業安定機関を通じてなされ又は職業安定機関により認可された移転に関しては、特に移転に必要な特別な経費の支払について労働者自身による外何等の手段もない場合には、前記の援助が職業安定機関により正当と認められた場合に与えられるべきである。
 (3) 援助額は、国及び個人の事情に応じて決定されるべきである。
18 職業安定機関は、失業者の定職と異なる職業に属する求人口、又は失業者に移転を必要とする求人口がその者に適職と認めらるべき条件を定め及び解釈することについて、失業保険機関及び失業者扶助機関を援助すべきである。
19 職業安定機関は、職業訓練又は再訓練課程の計画(徒弟制度、補助的訓練課程及び高級課程を含む。)確立及び発展、これらの課程を履修すべき者の選考並びにこれらの課程を修了した者に対する職業の紹介について、権限のある機関を援助すべきである。

VI 雑則

20(1) 職業安定機関は、雇用問題に関係のある他の公私の団体と協力すべきである。
 (2) この目的のために、次の問題に関する政策の樹立及び適用に関係のある統合機関は、職業安定機関と協議し且つ又その見解を考慮すべきである。
  (a) 産業の分布
  (b) 公共事業及び公の投資
  (c) 生産と雇用に関する技術上の進歩
  (d) 移住
  (e) 住宅施設
  (f) 保健施設、学校、娯楽施設の如き社会的福祉施設
  (g) 雇用の利用に影響する一般社会組織と計画
21 職業安定施設の利用を促進し且つその業務を効果的に運営させるために、職業安定機関は、次の22から25までに掲げる措置をとるべきである。
22(1) 求職者又は労働者による職業安定組織に関する情報及び施設の完全な自発的利用を奨励するために努力が続けられなければならない。
 (2) これらの努力は、職業安定機関の基本的な業務及び職業安定機関の充分な利用が労働者、使用者及び国家に与える利点について、特に使用者、労働者及びそれらの団体の理解及び認識を高めるため、映画、ラジオ及びあらゆる他の周知宣伝及び連絡の手段の利用を包含しなければならない。
23 失業保険金又は手当を申請している労働者及び公の職業訓練計画又は政府の補助金を受けている職業訓練計画の下に職業訓練の課程を修了した労働者は、できる限り、職業安定機関に就職のための登録をすべきである。
24 年少者及び、できる限り、初めて職業につくすべての者が、就職のための登録を行い、且つ就職のための面接に出頭するように奨励する特別な努力が払われなければならない。
25 使用者(公共又は半公共の事業の経営を含む。)は、求人を職業安定機関に通知する様奨励されなければならない。
26 当該当局が特別な理由により私的職業紹介機関の存在が望ましいか又は欠くべからざるものであると考える職業を除いて、すべての職業における私的職業紹介機関の必要を除去するように、職業安定業務の能率をあげるため組織的な努力が払われなければならない。

VII 職業安定機関の間の国際的協力

27(1) 職業安定機関の間の国際的協力は、適切で実行できる限り、且つ望ましい場合には国際労働事務局の援助を得て、次のものを包含すべきである。
  (a) 双務的、地方的又は多面的基礎に基く職業安定政策及び方法についての情報と経験の組織的交換並びに
  (b) 職業安定組織の問題に関する双務的、地方的又は多面的な技術会議の設立
 (2) 職業安定機関は、条約の第六条(b) (iv)に従つて承認された労働者の移動を容易にする為に、職業安定機関を管理する国家機関の要請により、且望ましい場合には国際労働事務局の協力を得て、
  (a) 適当と思われる場合には、他の団体及び機関と協力して、その国で満たすことのできない求職及び求人をできる限り満足させうる労働者の移住を促進するためこのような求職及び求人に関する情報を蒐集しなければならない。
  (b) 移住に関する政府間の双務的、地方的又は他面的協定を準備し且つ適用することについて、国内又は外国の権限のある機関と協力すべきである。