1949年の職業指導勧告(第87号)
職業指導に関する勧告(第87号)
国際労働機関の総会は、
国際労働事務局の理事会によつてジユネーヴに招集され、且つ千九百四十九年六月八日を以てその第三十二回会議を開催し、
この会議の会議事項の第九項目である職業指導に関する提案の採択を決議し、且つ
この提案は勧告の形式によるべきものなることを決定したので、
千九百四十九年の職業指導勧告として引用することができる次の勧告を千九百四十九年七月一日に採択する。
Ⅰ 一般
1 この勧告において「職業指導」と称するのは、個人の特性とその職業的機会に対する関係とを適当に考慮し、職業の選択及び進歩に関する問題を解決することにおいて個人に与えられる援助をいう。
2 職業指導は、個人の自由にして任意的な選択を基礎とする。その主たる目的は、国の労力資源の最も有効な利用を適当に考慮し、個人の発展と労働の満足とのため充分な機会をこれに与えることにある。
3 職業指導は、継続的過程であり、その基本原則は、相談を求める個人の年令如何に拘わらず同一であることである。この原則は、いずこにおいても個人の福利に対し及びすべての国の繁栄に対し、直接の重要性を有する。
4 職業指導のための施設は、これを各国の特殊の要求に適合させ、且つ漸次的に採用しなければならない。各国内のその発達は、職業指導の目的の広い理解、充分な管理機構の設定及び技術的に資格ある者の用意からこれを始めなければならない。
Ⅱ 範囲
5 国及び地方の政策と資源とに合致する最大可能限度まで、公の職業指導施設は、かかる援助を求めるすべての者に提供されなければならない。
6 次のもののため特別の措置を講じなければならない。
(a) 就職又は経歴開拓に関する問題について相談を求める年少者(在学中の者を含む。)に対する適当な計画
(b) 雇用及び関係ある職業問題に関し相談を求めるすべてのその他の者に対する適当な計画。かかる者は、この勧告においては以後成年として掲げられる。
Ⅲ 年少者(在学中の者を含む。)に対する職業指導の原則及び方法
7(1) 職業指導の政策と計画とは、学校及びその他の機関、学校より労働へ移る年少者に関係ある施設並びに使用者と労働者との代表的団体の協力的努力により、職業指導をうける各年少者が統一的調整援助の利益を享受することができるようこれを定めなければならない。
(2) この協力的努力は、また関係ある両親及び後見人並びに両親の団体(かかる者が存在する場合)との相談と協力をも含まなければならない。
(3) この一般原則を適用するに当り、第五部に定められる管理機関の原則を適当に考慮しなければならない。
8(1) 一般教育期間中、教育計画中に予備的職業指導を含ましめなければならない。かかる指導は、将来の職業的調整を容易ならしめるよう主として年少者にその能力、資格及び利益と各種職業及び業績とを知悉させることを目的としなければならない。
(2) 予備的職業指導は、年少者が特定の職業的進路に入るため又は学校を去つて他の訓練若しくは職業を求めるため選択することができる各段階の学校教育において漸増的にこれを力強いものにしなければならない。
(3) 予備的職業指導は、次のものを包含しなければならない。
(a) 適当な形式を以てする広汎な職業及び産業情報の提供
(b) 国内及び地方の事情において可能な場合、工業的及び商業的設備並びにその他の作業場所への充分な監督をうけてする視察
(c) 個人的会見、集団的討議又は会談による相談
9 10乃至15に掲げられる年少者に対する職業指導の方法は、特別の注意を払わるべく、且つその利用は、できる限り最も広い範囲に奨励されるべきである。
10(1) 職業指導を求める各年少者は、特に特定の職業的進路を選択し、又は他の職業的訓練(徒弟制度を含む。)若しくは労働のために学校を去ることができる場合に職業指導官と相談のために会見する充分な機会を与えられねばならない。
(2) 会見の方法は、職業的機会及び要件との関係においての個人の能力のできるだけ完全な分析を確保する目的を以て絶えず調整されるべきである。
11 進学の記録(各個の場合において望ましく且つ適当であるときは、能力、教育的才能、素質及び人格の評価を含む。)は、これに含まれる情報の信頼性を適当に考慮して職業指導のため適当とみとめられるときにこれを利用しなければならない。
12(1) 年少者の身体検査のための施設は、職業指導の目的のためこれを適当に利用し且つ必要に応じ発達せしめなければならない。
(2) 治療措置のための忠告及び職業的調整のため可能にして有用なその他の援助は、各個の場合において必要に応じ与えられるべきである。
13(1) 実行可能な場合には、各個の場合の必要に応じて職業指導上に利用するため能力及び素質の適当な考査並びに望ましいときはその他の心理学的考査を行わなければならない。
(2) 治療措置のための忠告及び職業的調整のため可能にして有用なその他の援助は、各個の場合においてこれを利用しなければならない。
14(1) 各種の職業及び産業における業績並びに雇用及び訓練の機会に関する適当にして信頼し得る情報は、関係ある年少者の素質、身体的能力、資格、好み及び人格を適当に考慮し、相談のための会見その他を通じ年少者にこれを利用させなければならない。
(2) これに関連して、権限のある機関は、次のことができるような公私の団体(特に使用者及び労働者の代表的団体を含む。)と継続的協力を保たなければならない。
(a) 各産業、職業又は業務における将来の求人数に関する情報を提供すること。
(b) 徒弟契約の作成及び締結を援助し且つその実施を監督すること。
15 適当の作業経験のための機会の提供及びその他類似の方法により年少者の素質を確めることの望ましいことにも亦考慮が払われなければならない。
16 一般職業指導制度の枠内において、農村地方における年少者の職業指導のため充分にして適当な施設の発達に特別の注意が払われなければならない。
17 一般職業指導制度の枠内において、且つ適当な更生施設と協力して、次の如き年少者の職業指導のための充分にして適当な施設に特別の注意が払われなければならない。
(a) 肉体的又は精神的の障害又は制限をもつ者
(b) かれらの職業的調整を阻害し又は特に困難ならしめるような性質の人的混乱を示す者
18 権限のある全国的及び地方的機関は、特に次のような年少者について職業指導施設の充分な任意的利用を促進しなければならない。
(a) 学校内で数個の職業的課目を選択することができる年少者
(b) 卒業年令に近い年少者
(c) 初めて雇用市場に入らんとしている年少者
(d) 徒弟又はその他の職業訓練に入らんとする年少者
(e) 失業者であり、衰微しつつある産業に使用され又は失業者となる虞ある年少者
(f) 肉体的又は精神的の障害又は制限をもつ者
(g) かれらの職業的調整を阻害し又は特に困難ならしめるような性質の人的混乱を示す者
19 権限のある機関は、実行し得る場合には年少者の職業指導計画の実行を促進するため必要な措置を講じなければならない。各個の場合に適当な場合には、この計画を実行するため提案を為し、且つ年少者が選択した職業における訓練又は労務にその年少者を就けることに関係あるその他の施設又は個人と必要な接触を保つことにおいて援助を与えなければならない。
20(1) 権限のある機関は、年少者がその職業指導計画に従うこと及びその選択した職業が適当であるか否かを確めることにおいて経験する困難を克服するため、できるだけ年少者を援助することを主として目的とする追尾方法を設けるため措置を講じなければならない。
(2) できる限り、追尾方法は、各個の場合において職業指導の結果を判断し且つ職業指導の方策及び方法を評価するための模範的基準に関する一般調査を含まなければならない。かかる調査は、望ましいときは、職業紹介機関の医療施設と協力して医的情報を含まなければならない。
Ⅳ 成年に対する職業指導の原則及び方法(職業相談)
21(1) ある者がその職業を選択し又はその職業を変更することにおいて援助を求める場合これを援助するため成年のための公共職業指導施設の枠内において適当の措置を講じなければならない。
(2) この援助をする上に含まれる手続は、この勧告においては職業相談と称される。
22 職業相談の手続は、国内事情において実行し得る限り且つ各個の場合において適当である限り、次のものを包含しなければならない。
(a) 職業相談係員との会見
(b) 作業経験の記録の調査
(c) 授けられた教育又は訓練に関する学校の記録その他の記録の調査
(d) 身体検査
(e) 適当な能力及び素質検査並びに望ましいときはその他の心理学的検査
(f) 作業における経験及び類似の方法による才能の確認
(g) 必要と認められるすべての場合において口頭又はその他の方法による技倆検査
(h) 職業上の要求との関係における肉体的能力の分析
(i) 一方には関係者の資格、肉体的能力、才能、好み及び経験に対する雇用及び訓練の機会並びに他方には職業市場の需要に対する雇用及び訓練の機会に関する情報の提供
(j) 模範的基準として満足的な職業紹介、訓練又は再訓練が遂行されたか否かを発見し、且つ職業相談方策及び方法を評価することを目的とする追尾制度
23(1) 権限のある全国及び地方機関は、次の如き者について任意を基準とする職業相談施設の拡張的利用を促進するためすべての必要な措置を講じなければならない。
(a) 初めて就職する者
(b) 長期の失業者
(c) 産業の衰退又は産業の技術機構若しくは所在地の変更の結果として失業した者又は失業する虞ある者
(d) 現在又は将来の職業機会に徴し余剰労働力をいだく農村地方に居住する者
(e) 職業補導及び再調整のための公共施設の恩典に与らんとする者
(2) 一般職業指導施設の枠内において、且つ援助を必要とする者あるときは、適当の復職施設と協力して身体不具者及び職業的調整を阻害する人的混乱を有する者に対する専門的職業相談を発達させるため、すべての必要にして実行しうる措置を講じなければならない。
(3) 一般職業指導施設の枠内において、技術家、専門的労働者、給料被用者及び執行的職員に対する専門的職業相談を発達させるため措置を講じなければならない。
24 職業相談に関連して、特定の職業及び産業に対する労働者の技術的選択のための適当な方法の発達に特別の注意が払われなければならない。
Ⅴ 管理機関の原則
25 職業指導及び職業相談は、地方的事情に照して設けられ、発展され、且つかかる事情の変化に適応する包括的な一般計画を基礎として、これを組織し、且つ調整しなければならない。
26 職業指導及び職業相談施設の発達を促進するため、中央機関(適当な場合には、連邦の連合的単位の中央機関を含む。)が次のものに対する措置を講じなければならない。
(a) かかる施設の適当な経理
(b) 適当な技術的援助 及び
(c) 全国的基礎において利用に適する方法及び材料の増大
27 権限のある機関は、職業指導又は職業相談活動に従事する公私の機関の間で全国的又は地方的に有効な協力を確保するためすべての必要にして望ましい措置を講じなければならない。
A 在学者を含む年少者に対する職業指導のための管理的按配
28(1) 権限のある機関は、両親の責任及び私的職業指導機関の適当な機能に適当の考慮を払い、職業指導の範囲における方策及び措置を全国的及び地方的に調整するため適当な按配を為さなければならない。
(2) この按配は、特に次のものに向けられなければならない。
(a) 努力の重複をさけて適当とみとめられる他の関係機関と協力し、年少者に有効な公的施設を維持すること。
(b) 望ましいとき且つ秘密的材料を適当に考慮し、次のものに関する情報の交換を促進すること。
(i) 職業指導施設の必要及び既に利用し得る施設の程度及び性質
(ii) 職業指導を申込む年少者
(iii) 産業、職業及び業務
(iv) 雇用及び訓練の機会
(v) 適当の検査を含む職業指導材料の準備及び利用
29(1) 職業指導に対する全国的及び地方的管理責任は、明瞭にこれを定めておかなければならない。
(2) この方面の権限を適当に考慮し、主たる責任を次の何れかにまかせなければならない。
(a) 教育及び職業施設機関に共同的に、又は
(b) 他の機関と緊密に協力して活動するこれらの機関の一に
30(1) 職業指導政策の発展上において使用者及び労働者の代表者の協力を求めるため諮問委員会を通じ適当の按配をしなければならない。
(2) かかる委員会は、全国的に且つできるだけ地方的にこれを維持し、且つ教育、訓練(徒弟制度を含む。)及び職業指導並びに年少者の職業調整に直接関係あるその他の問題に関係ある公私の機関の代表者を正規に含まなければならない。
B 成年に対する職業指導のための管理的按配
31(1) 職業相談に関する管理的責任は、公の機関により教育又はその他の機関に委託された管理上の責任を適当に考慮し、公共職業紹介施設に主としてこれをまかせなければならない。
(2) 公共職業紹介施設の事務局は、できるだけ各管理段階において専門的の職業相談の単位又は職員を含まなければならない。
(3) 必要であり又は望ましい限り職業紹介施設が特定の集団又は個人のために維持される専門的の職業相談施設と協力することを確保するため管理的按配をしなければならない。
32 次のものとの緊密な関係において職業相談を組織することを確保するため、全国的及び地方的に適当の按配をしなければならない。
(a) 職業紹介施設のすべてのその他の活動
(b) その他の職業指導施設
(c) 教育及び訓練施設
(d) 失業保険及び扶助制度の管理
(e) 訓練及び再訓練制度並びに労働力の職業的又は地理的移動を促進するその他の計画の管理
(f) 使用者及び労働者の代表的団体
(g) 身体障害者に更生施設を提供する公私機関
Ⅵ 職員の訓練
33(1) 職業指導施設の効果を確保するため、権限のある機関は、適当の訓練、経験及びその他の資格を有する適当数の職員の使用を確保し、且つできるだけ充分に且つ適当の場合関係あるその他の機関と協力して、職業指導職員のため専門的の科学的及び技術的訓練を組織しなければならない。
(2) 執るべき措置は、例えば次のものを含まなければならない。
(a) 職業指導職員の最低資格の権限のある機関による設定
(b) かかる資格に基く職員の選定に関する規則の権限のある機関による設定
(c) 職業指導の事業を企図せんとする者に対する専門的訓練講習会の組織
(d) すべての職員に対する補修的訓練及び更生講習会の開催
(e) かかる事業を企図し及び継続する資格ある者に誘因を提供するため充分魅力的な仕事及び労働条件の権限ある機関による維持
(3) 次のものを考慮しなければならない。
(a) 職業指導職員が夫々関係している施設の各部門における職員の交換
(b) 職員の専門的熟練を増進するため適当な技術的材料の刊行
(4) 有用な場合、加盟国は、望ましいとき国際労働事務局の援助を利用して、訓練職員のために協力しなければならない。
Ⅶ 調査及び公表
34(1) 職業指導の方法について公私の調査及び経験を促進するため調整的基礎において特別の措置を講じなければならない。
(2) 公共職業紹介施設は、かかる調査において協力しなければならない。
(3) 諸事情において適当な場合には、かかる調査は、次の如き問題の調査を含まなければならない。
(a) 会見の方法
(b) 各種職業の要求の分析
(c) 職業指導のため適当な産業的及び職業的情報の提供
(d) 能力及びその他の心理学的検査
(e) 模範的職業指導様式の発達 並びに
(f) 職業指導の結果の測定
35 職業指導に付て責任のある機関は、使用者及び労働者の団体並びに、適当の場合にはその他の関係機関と協力して、職業指導の目的、原則及び方法の広い公衆の理解を促進するため組織的努力をしなければならない。