1966年の職業訓練(漁船員)勧告(第126号)

ILO勧告 | 1966/06/21

漁船員の職業訓練に関する勧告(第126号)

 国際労働機関の総会は、
 理事会によりジュネーヴに招集されて、千九百六十六年六月一日にその第五十回会期として会合し、
 千九百六十二年の職業訓練勧告の趣旨に留意し、
 その文書の適用において、漁船員の職業訓練が、他の職業及び産業について定められた基準と同等のものであるべきであることを考慮し、
 さらに、漁船員の職業訓練の基本目的が、
 漁業の能率を改善し、かつ、漁業の国民経済に対する経済的及び社会的重要性について一般の認識を確保すること、
 十分な数の適切な者が漁業に従事するよう奨励すること、
 漁業のすべての職種のため、現在及び将来の労働力需要に応じた訓練施設及び再訓練施設を設けること、
 訓練課程を修了したすべての訓練生の就職を援助すること、
 訓練生が最も高い生産能力及び所得能力を達成するよう援助すること並びに
 漁船内における安全基準を改善すること、
 にあるべきことを考慮し、
 この会期の議事日程の第六議題に含まれる漁船員の職業訓練に関する提案の採択を決定し、
 この提案が勧告の形式をとるべきであることを決定したので、
 次の勧告(引用に際しては、千九百六十六年の職業訓練(漁船員)勧告と称することができる。)を千九百六十六年六月二十一日に採択する。

Ⅰ 適用範囲及び定義

1(1) この勧告の適用上、「漁船」とは、捕鯨又は類似の業務に従事する船舶及び舟艇並びに漁業調査船及び漁業保護船を除き、公有であると私有であるとを問わず、塩水において海上漁業に従事するすべての種類の船舶及び舟艇をいう。
 (2) この勧告は、漁船内の労働のためのすべての訓練に適用する。
 (3) この勧告は、スポーツ又はレクリエーションのための漁ろうに従事する者については適用しない。
2 この勧告の適用上、次の用語は、この条に定める意味を有する。
  (a) 船長 漁船の指揮監督を行なう者
  (b) 航海士 漁船の指揮を補佐する者(水先人以外の漁船の運航を随時担当する者を含む。)
  (c) 機関士 漁船の機械推進について常時責任を有する者並びに漁船の機関及び機械装置の運転及び保守について随時責任を有する者
  (d) 熟練漁船員 漁船内に勤務する経験のある甲板員で、漁船の運転に関与し、漁具を準備し、魚を捕獲し、漁獲物を船積みし、及び加工し、並びに網その他の漁具を保守し及び修理するもの

Ⅱ 国の企画及び管理

企画及び調整

3 国の教育及び訓練政策を企画するにあたつては、漁業を有し又は発展させようとしている国の権限のある機関は、訓練施設の一般的組織網の中で漁船員の訓練のための適当な対策を講ずることを確保すべきである。
4 国内事情により、必要なあらゆる段階の技能について漁船員の訓練施設を発展させることが不可能なときは、他の国及び国際機関との協力により、国の計画中に含めることができない技能及び職種について共同の漁業訓練課程を発展させる可能性を考慮すべきである。
5(1) 各国において漁船員の訓練に従事するすべての公私の施設の活動は、国の計画に基づいて調整し、かつ、発展させるべきである。
 (2) 前記の計画は、権限のある機関が、漁船所有者団体、漁船員団体、教育機関、漁業研究機関及び漁船員の職業訓練について詳細な知識を有するその他の機関又は個人と協力の上、作成すべきである。専門的な漁業研究又は開発の機関が他の国又は国際機関と協力して設けられている発展途上にある国においては、この機関は、国の計画の樹立において指導的な役割を果たすべきである。
 (3) 漁船員の訓練課程の企画、発展、調整及び管理を促進するため、可能なときは、全国的水準において、また、適当なときは地方的及び地域的水準においても、政策及び管理に関する合同諮問機関を設けるべきである。
6 権限のある機関は、小学校、中学校、職業指導相談機関、公共職業安定機関、職業技術訓練機関、漁船所有者団体及び漁船員団体のように訓練及び雇用の機会に関する情報の周知について責任を負う各種の機関及び団体に対して、漁船員のための公私の訓練課程及び漁業への就職の条件に関する完全な情報を提供することを確保すべきである。
7 権限のある機関は、漁船員の職業訓練課程が漁業に関係のある他の公私の計画及び活動と十分に調整されることを確保すべきである。特に、権限のある機関は、次のことを確保すべきである。
  (a) 漁業研究機関は、実益のある最新の発見に関する情報を訓練所その他の関係機関並びにこれらの機関を通じて労働中の漁船員が容易に入手することができるようにすること。可能な場合には、研究機関は、漁船員の訓練の進歩に貢献すべきであり、漁船員の訓練所は、適当な場合には、これらの機関の業務を援助すべきである。
  (b) 職業訓練に先だち又はこれと同時に一般教育を行なうことによつて、漁業社会における教育の一般的水準を引き上げ、漁船員にその仕事に対する一そう大きな満足を見い出させ、及び技術職業訓練の修得を容易にする措置を執ること。
  (c) 漁船所有者団体及び漁船員団体と協力の上、他の事情が同一である場合に、公私の訓練課程を修了した者を職業紹介において優先的に取り扱うために措置を執ること。
  (d) 特に発展途上にある国において、漁船所有者団体及び漁船員団体と協力の上、公私の訓練課程を修了した訓練生が漁船に就職するか、又は個人で、若しくは漁船の共同の購入及び使用のための協同組合の結成その他の適当な手段によつて十分な設備のある漁船を取得し及び運航することができるための措置を執ること。
  (e) 訓練を受けた漁船員の数は、当該国において使用中の又は使用予定の漁船の数及び設備に相当すること。

財政

8(1) 漁船員訓練課程は、体系的に組織すべきである。財政は、漁業の現在及び将来の必要及び発展を考慮して、正規のかつ適当な基盤に基づくべきである。
 (2) 必要な場合には、政府は、地方公共団体又は民間機関が実施する訓練課程に対して財政的援助を与えるべきである。この援助は、一般的補助金の供与、土地、建物若しくは教材(漁船、機関、航海属具、漁具等)の提供、無報酬の指導員の派遣又は訓練生のための授業料の支給の形式をとることができる。
 (3) 漁船員のための公立訓練所における訓練は、訓練生について無料とすべきである。さらに、成年者及び困窮している年少者の訓練は、千九百六十二年の職業訓練勧告7(3)及び(5)に規定する種類の財政的及び経済的援助によつて容易にすべきである。

訓練基準

9(1) 権限のある機関は、5(3)に掲げる合同機関と協力の上、自国の全領域に適用される漁船員の訓練に関する一般的な基準を設定すべきである。これらの基準は、各種の漁船員海技免状を取得するための当該国における要件に適合すべきであり、かつ、次の事項について定めるべきである。
  (a) 漁船員訓練課程に参加する者の最低年齢
  (b) 漁船員の訓練を受ける者に必要な身体検査の種類(胸部X線検査並びに聴力及び視力の検査を含む。)。身体検査、特に聴力及び視力の検査は、機関課程に進む者と航海課程に進む者とについて異なることができる。
  (c) 漁船員の訓練を受けるために必要な一般教育水準
  (d) 漁ろう、航海術、運用術、安全、機関術、まかないその他訓練課程に含めるべき教科
  (e) 実地訓練の期間(機関工場及び海上において訓練生が履修すべき期間を含む。)
  (f) 漁業の各職種及び各等級の資格基準のための訓練課程の期間
  (g) 訓練課程の修了後の試験の種類
  (h) 訓練機関の指導員の経験及び資格
 (2) 権限のある機関は、自国の全領域に適用される基準を設定することができない場合には、5(3)に掲げる合同機関と協力の上、自国の全領域を通じてできる限り統一的な基準を設定する指針として役立たせるため、勧告的基準を作成すべきである。

Ⅲ 訓練計画

10 漁船員のための各種訓練計画の教科は、漁業に必要な作業の体系的分析に基づくべきであり、また、5(3)に掲げる合同機関と協力して定めるべきである。この教科は、定期的に検討し、かつ、技術的発展に即応させなければならず、また、従事する職務に応じて次の事項の訓練を含むべきである。
  (a) 漁ろう技術(適当な場合には、魚群探知用電子装置の操作及び手入れを含む。)並びに漁具の操作、保守及び修理。
  (b) 海域及び課程の目標とする漁ろうの種類に適した航海術、運用術及び操船術(国際海上衝突予防規則についての適当な知識を含む。)
  (c) 船内における魚の積付け、洗浄及び加工
  (d) 船舶の保守その他の関連事項
  (e) 蒸気若しくは内燃(ガソリン又はディーゼル)機関又は訓練生が取り扱うことがあるその他の設備の操作、保守及び修理
  (f) 訓練生が取り扱うことがある無線及びレーダー設備の操作及び手入れ
  (g) 海上における安全及び漁具の操作における安全(復原性、冷凍効果、消火、水密性保持、人命の安全、機械及び伝導装置の安全設備、索具の安全措置、機関室の安全、救命艇の取扱い、膨脹型救命いかだの用法、救急処置及び看護法その他の関連事項を含む。)
  (h) 昇進又は他の漁業職種若しくは他種の漁業への転向に導く高度の教育及び訓練を受けるための幅広い基礎を訓練生に与えるような漁業に関する理論的科目(海洋生物学及び海洋学を含む。)
  (i) 一般教育科目。ただし、この科目は、短期課程においては、その範囲を限定することができる。
  (j) 冷凍装置、消火設備、甲板ウィンチ及びトロール・ウィンチその他漁船の機械設備の操作、保守及び修理
  (k) 船内電源設備の原理並びに漁船の電気機器の保守及び修理
  (l) 保健体育、特に訓練施設上可能な場合には水泳
  (m) 一般漁業教育の導入期間の修了後に行なう甲板及び機関についての専門課程その他の科目
11(1) 実行可能かつ適当な場合は、船長(各等級)、航海士(各等級)、機関士(各等級)、漁ろう技術員(各等級)、甲板長、熟練漁船員(各等級)、調理員その他の甲板若しくは機関室要員として勤務する者に資格を付与する海技免状又は証書について、国の基準を設定すべきである。
 (2) 訓練計画は、訓練生に資格を取得する準備をさせることを主として目標とし、また、国の資格基準に直接関係づけるべきである。訓練計画は、権限のある機関が各等級の海技免状に関して定めた最低年齢及び最低職務経験を考慮すべきである。
 (3) 国の資格試験が存在しないか、又は特定の職務について存在しない場合にも、訓練課程は、訓練生に前記の特定の職務の準備をさせるべきである。前記の訓練課程を修了した訓練生には、履修した課程に関する証書を与えるべきである。
12(1) 当該国の漁船隊で使用中のあらゆる型の船舶(大型遠洋漁船を含む。)において船長及び機関士の職務を遂行することができるように漁船員を訓練する訓練計画が存在すべきである。
 (2) 使用中の船舶について適当な場合には、商船職員の訓練計画と同一水準であつて、漁業に関する科目について訓練する大学程度の漁ろう及び航海課程を設けるべきである。
13 各訓練課程の期間は、訓練生が授業を修得するため十分なものでなければならず、かつ、次の事項を考慮して決定すべきである。
  (a) 当該課程の目標とする職種に必要な訓練水準
  (b) 当該課程を修める訓練生に必要な一般教育水準及び年齢
  (c) 訓練生の従前の実地経験
  (d) 適当な訓練基準を維持することを条件として、当該国において訓練を受けた漁船員を供給することの緊急性
14(1) 指導員は、幅広い一般教育、理論的技術教育及び漁業に関する十分な実地経験を有する者で構成すべきである。
 (2) 前記の資格を有する指導員を募集することができないときは、漁業に関する実地経験及び適当な海技免状を受有する者を採用すべきである。
 (3) 漁業に関する実地経験を有する常勤の指導員を募集することができないときは、漁業に関する十分な実地経験を有する者を非常勤で採用すべきである。
 (4) すべての指導員は、教育能力を有すべきであり、また、権限のある教育機関から適当な教員訓練を受けるべきである。

事前の職業訓練

15 漁業社会においては、当該国の一般情勢に照らして可能な限り、学童に対し事前の職業訓練(初歩的実際的な運用術、基礎的な営利漁ろう技術及び航海術原理を含む。)を行なうため、千九百五十九年の最低年齢(漁船員)条約と合致した措置を執るべきである。

就業中の漁船員のための短期課程

16 就業中の漁船員が、その技術的な技能及び知識を増進し、進歩した漁ろう及び航海に関する技術に精通し、かつ、昇進のために必要な資格を取得するための訓練課程を設けるべきである。
17(1) 就業中の漁船員のための訓練課程は、特に次の目的のために計画すべきである。
  (a) 昇進のための高度の専門訓練を行なうことによつて基礎的な長期課程を補足すること。
  (b) 当該地域に新たに導入された漁ろう技術、新しい型の機関又は漁具の操作、保守及び修理並びに適当な場合には漁具の製作に関する訓練を行なうこと。
  (c) 基礎的な長期訓練課程に参加することができなかつた漁船員のためにあらゆる段階の訓練を行なうこと。
  (d) 発展途上にある国においては速成訓練を行なうこと。
 (2) 前記の課程は、短期のものであるべきであり、かつ、基礎的な長期訓練課程を補足するものであり、それに代わるものではないと考えるべきである。
18 前記の課程は、漁業基地へ指導員及び教材を送つて行なう移動課程の形式をとることができるが、特に次の課程を含むべきである。
  (a) 夜間課程
  (b) 荒天期又は漁閑期に行なう季節課程
  (c) 漁船員が短期間一時的に仕事に従事しない昼間課程
19(1) 就業中の漁船員が陸上の短期課程に出席することができるように、すべての適当な措置を執るべきである。
 (2) 就業中の漁船員は、短期訓練課程に出席する期間について適当な補償を受けるべきである。
20 就業中の漁船員のための長期課程及び短期課程が特に遠隔地において訓練の要件を満たさない場合には、これらの課程は、次の方法によつて補足することができる。
  (a) 漁業情報を提供するラジオ及びテレビによる特別の課程及び番組
  (b) 就業中の漁船員の必要に特に適合し、かつ、学習グループが利用することができるように取り決められた通信課程。この課程は、講習又は訓練学校への出席により随時補足される。
  (c) 漁業社会への調査員及び派遣指導員の定期的訪問

Ⅳ 訓練の方法

21 漁船員訓練課程において採用する訓練方法は、課程の種類、訓練生の経験、一般教育及び年齢並びに利用しうる教材及び財政援助を考慮して、可能な限り効果的なものであるべきである。
22 学生が参加する実地訓練は、すべての漁船員訓練計画の重要な部分とすべきである。
23(1) 漁業に従事しようとする者のすべての訓練施設は、漁ろう技術、航海術、運用術、機関操作その他の事項に関する課程のため、漁業練習船を利用すべきである。これらの練習船は、実際の漁ろう活動を行なうべきである。
 (2) 練習船は、可能なときはいつでも、高度の訓練を行なう技術学校に配属されるべきである。
24(1) 機関、漁具、漁船模型、作業場備品及び航海援助設備のような教材は、訓練計画において利用すべきである。
 (2) 前記の教材は、漁業研究機関と協力して準備すべきであり、かつ、可能なときはいつでも、最新の漁具及び航海援助設備を含むべきである。
 (3) 前記の教材は、訓練生が使用することがある漁具、漁船及び機関との関連において選択すべきである。
 (4) フィルムその他の視聴覚教具は、有用な場合もあるが、訓練生が積極的に使用する教材の代わりとすべきではない。
 (5) 訓練生のため、近代的な若しくは特別の設備を備えた漁船、漁業研究機関又は学校所在地から離れた漁業基地の見学を実施すべきである。
25 実地訓練は、また、営利漁船に乗り組んで海上において行なう漁ろうの期間によつて与えることができる。
26 訓練課程の一部として行なわれる理論的訓練(一般教育を含む。)は、漁船員に必要な知識及び技能に直接関連させるべきであり、かつ、可能な限り、実地訓練と統合させるべきである。

Ⅴ 国際協力

27(1) 各国は、特に発展途上にある国における漁船員の職業訓練の促進に協力すべきである。
 (2) この協力は、適当なときは、次の事項を含むことができる。
  (a) 国際機関又は他の国の援助を得て、漁船員訓練施設を設置し、及び改善するため、指導員を採用し、及び訓練すること。
  (b) 他の国と共同の訓練施設又は漁業研究機関を設置すること。
  (c) 訓練施設を他の国の選抜された訓練生又は指導員訓練生の利用に供すること及び他の国の訓練施設に訓練生又は指導員訓練生を派遣すること。
  (d) 国際間の人員の交換並びに国際的なセミナー及び作業班を組織すること。
  (e) 他の国の漁船員訓練学校に指導員を派遣すること。