1967年の苦情審査勧告(第130号)
企業内における苦情の解決のための苦情の審査に関する勧告(第130号)
国際労働機関の総会は、
理事会によりジュネーヴに招集されて、千九百六十七年六月七日にその第五十一回会期として会合し、
労使関係の諸側面を取り扱う既存の国際労働勧告、特に千九百五十一年の労働協約勧告、千九百五十一年の任意調停及び任意仲裁勧告、千九百五十二年の企業における協力勧告並びに千九百六十三年の雇用終了勧告の規定に留意し、
前記の勧告の規定を補足することが望ましいことを考慮し、
千九百六十七年の企業内コミュニケーション勧告の規定に留意し、
この会期の議事日程の第五議題に含まれる企業内における苦情の審査に関する提案の採択を決定し、
この提案が勧告の形式をとるべきであることを決定したので、
次の勧告(引用に際しては、千九百六十七年の苦情審査勧告と称することができる。)を千九百六十七年六月二十九日に採択する。
Ⅰ 実施方法
1 この勧告は、国内法令、労働協約、就業規則若しくは仲裁裁定により、又は国内慣行に適合し、かつ、国内事情の下において適当と認められるその他の方法により実施することができる。
Ⅱ 一般原則
2 単独に又は他の労働者と共同して行動する労働者は、苦情を申し立てる理由があると考えるときは、次の権利を有すべきである。
(a) いかなる不利益をも受けることなく苦情を申し立てる権利
(b) 適当な手続によりこの苦情の審査を受ける権利
3 苦情を申し立てる理由としては、使用者と労働者との関係に関連するか、又は企業内の一若しくは二以上の労働者の雇用条件に影響を及ぼし若しくは及ぼすおそれがある措置又は状態で、誠実の原則に照らして、関係労働協約若しくは個別的な雇用契約の規定、就業規則若しくは法令に反するか又は職業、経済活動の部門若しくは国内の慣習若しくは慣行に反すると思われるものがある。
4(1) この勧告の規定は、雇用条件の改訂を目的とする集団的な要求には適用しない。
(2) 一又は二以上の労働者によつて表明される不満がこの勧告に定める手続によつて審査される苦情である場合と、不満が団体交渉又は紛争の解決のための他の手続によつて取り扱われる一般的な要求である場合との区別は、国内の法令又は慣行によつて決定すべき問題である。
5 苦情審査手続が労働協約によつて設けられる場合には、その協約の当事者は、その協約の有効期間中は、定められた手続による苦情の解決を促進し、かつ、その手続の効果的な運用を妨げるような行動を差し控えることを約束する旨の規定をその協約に含めるよう奨励されるべきである。
6 労働者団体又は企業内の労働者の代表者は、国内の法令又は慣行に従い、使用者又はその団体とともに、同等の権利及び責任をもつて、なるべく協定により、企業内における苦情審査手続の設定及び運用に参加すべきである。
7(1) 苦情の数を最少限にするために、健全な人事政策の策定及びその適切な運用について最大の注意を払うべきである。この政策は、労働者の権利及び利益を考慮し、かつ、尊重すべきである。
(2) 前記の人事政策を達成し、かつ、企業内の労働者に影響を及ぼす社会問題を解決するため、経営者は、決定を行なうに先だち、労働者の代表者と協力すべきである。
8 苦情は、関係のある国、経済活動の部門及び企業の実情に適合し、かつ、当事者に客観性についてのあらゆる保証を与える効果的な手続により、できる限り企業自体の内部において解決すべきである。
9 この勧告のいかなる規定も、労働者が権限のある労働当局又は労働裁判所その他の司法機関に対し苦情に関して直接訴える権利が国内法令で認められている場合には、この権利を制限することとなるべきではない。
Ⅲ 企業内の手続
10(1) 一般原則として、苦情は、まず、関係労働者(他からの援助を受けるかどうかを問わない。)とその直近の監督者との間で直接解決するよう試みるべきである。
(2) 前記の解決の試みが失敗した場合又は苦情が関係労働者とその直近の監督者との間の直接の討議に適しない性質のものである場合には、関係労働者は、苦情の性質並びに企業の機構及び規模に応じて、一又は二以上上の段階でその事件の審査を受ける権利を有すべきである。
11 苦情審査手続は、労働者及び使用者により自発的に受諾されるような事件の解決がその手続によつて設けられる各段階において得られることが実際に可能であるように設定され、かつ、適用されるべきである。
12 苦情審査手続は、できる限り簡易かつ迅速であるべきであり、また、このため必要な場合には適当な時間的制限を設けることができる。この手続の適用の形式は、最少限のものにとどめるべきである。
13(1) 関係労働者は、国内の法令又は慣行に従い、苦情審査手続に直接参加し、及び、その苦情の審査が行なわれている間、労働者団体の代表者、企業内の労働者又は自己が選ぶその他の者により援助を受け又は代理される権利を有すべきである。
(2) 使用者は、使用者団体により援助を受け又は代理される権利を有すべきである。
(3) 労働者の苦情の審査が行なわれている間その労働者を援助し又は代理する者で同一の企業に雇用されているものは、苦情審査手続に従つて行動することを条件として、2(a)の規定に基づいてその労働者が享有する保護と同一の保護を享有すべきである。
14 関係労働者又はその代理者(同一の企業に雇用されている者に限る。)は、苦情審査手続に参加するために十分な時間を認められるべきであり、また、その参加の結果としての欠勤を理由として報酬の減額を受けるべきではない。この場合において、法令、労働協約その他の適当な手段により認められる規則及び慣行(濫用防止の措置を含む。)を考慮するものとする。
15 両当事者が必要と考えるときは、合意により議事録を作成し、これを両当事者の利用に供することができる。
16(1) 苦情審査手続、その手続の運用に関する規則及び慣行並びにその手続を利用するための条件を労働者に周知させるため、適当な措置を執るべきである。
(2) 苦情を申し立てた労働者は、苦情審査手続の進行状況及びその苦情について行なわれた決定を知らされているべきである。
Ⅳ 未解決の苦情の調整
17 企業内において苦情を解決するためのあらゆる努力が失敗した場合には、苦情の性質を考慮して、次の一又は二以上の手続によりその苦情を最終的に解決することができるようにすべきである。
(a) 労働協約によつて設定される手続、たとえば、関係のある労働者団体及び使用者団体による事件の合同審査又は関係のある使用者及び労働者若しくはそれぞれの団体の合意により指名された一若しくは二以上の者による任意仲裁
(b) 権限のある公の機関による調停又は仲裁
(c) 労働裁判所その他の司法機関の利用
(d) 国内事情に適したその他の手続
18(1) 労働者は、17に掲げる手続に参加するために必要な時間を認められるべきである。
(2) 労働者は、17に掲げる手続においてその苦情の正当なことが証明された場合には、前記のいずれかの手続を利用したことを理由として報酬の減額を受けるべきではない。可能な場合には、その手続を関係労働者の勤務時間外に運用するためあらゆる努力が払われるべきである。