1968年の小作農及び分益農勧告(第132号)

ILO勧告 | 1968/06/25

小作農、分益農その他類似の種類の農業従事者の生活状態及び労働条件の改善に関する勧告(第132号)

 国際労働機関の総会は、
 理事会によりジュネーヴに招集されて、千九百六十八年六月五日にその第五十二回会期として会合し、
 この会期の議事日程の第四議題である小作農、分益農その他類似の種類の農業従事者の生活状態及び労働条件の改善に関する提案の採択を決定し、
 この提案が勧告の形式をとるべきであることを決定し、
 この提案が、農業改革問題の単なる一面を構成するものであり、この広い枠内(わくない)に置かれなければならないことを考慮し、
 国際連合並びに専門機関、特に国際労働機関及び国際連合食糧農業機関が国際連合経済社会理事会の決議により土地改革のすべての面に大きな注意を払うよう要請されていることに留意し、
 さらに、きわめて多様な面を有する農業改革の措置を成功させるためには、国際連合と専門機関、特に土地改革に関する主要な役割が国際連合経済社会理事会により承認されている国際連合食糧農業機関との間の緊密な協力をそれぞれの分野において維持することが重要であることに留意し、
 よつて次の基準が国際連合及び国際連合食糧農業機関との協力により作成されたこと並びに、重複を避けかつ適当な調整を確保するため、それらの基準の適用を促進しかつ確保するにあたりこの協力が継続されることに留意し、
 国際連合及び国際連合食糧農業機関が、土地改革に関する自己の事業において、及び国際連合経済社会理事会が要請する土地改革の進捗(しんちょく)状況に関する報告において、国際労働機関憲章十九条の規定に従つて加盟国が提出する報告を考慮に入れることができるように、この報告が国際連合及び国際連合食糧農業機関の利用に供されることを特に留意して、
 次の勧告(引用に際しては、千九百六十八年の小作農及び分益農勧告と称することができる。)を千九百六十八年六月二十五日に採択する。

Ⅰ 適用範囲

1(1) この勧告は、次の農業従事者について、それらの者が自ら若しくは家族の助力を得て土地を耕作し、又は国内法令で定める限度内において第三者の助力を利用する場合に適用する。
  (a) 現金、現物若しくは労務で又はこれらの組合せにより定額の小作料を支払う農業従事者
  (b) 生産物の合意された一定の割合から成る現物で小作料を支払う農業従事者
  (c) 賃金労働者に適用される法令の適用を受けない範囲内において、一定の割合の生産物を報酬として受ける農業従事者
 (2) 前記の農業従事者は、以下「小作農、分益農その他類似の種類の農業従事者」という。
2 この勧告は、労働に対する報酬として定額の賃金が支払われる雇用関係には適用しない。
3 「土地所有者」に関するこの勧告の規定は、この勧告の適用を受ける農業従事者と小作契約、分益契約その他類似の契約を締結するすべての者について、それらの者が土地所有者、土地所有者の代理人又は前記の契約を締結する権利を有するその他の者であるかどうかを問わず、適用される。

Ⅱ 目標

4 すぐれた農耕技術を採用しかつ天然資源及び経済資源を有効に利用することの必要性並びに当該国の財政能力を考慮して、小作農、分益農その他類似の種類の農業従事者の福祉を漸進的かつ継続的に増進し、かつ、これらの農業従事者の労働及び生活を可能な最大限度まで安定させることを社会政策及び経済政策の目標とすべきである。
5 加盟国は、土地所有者の基本的権利を害することなく、小作農、分益農その他類似の種類の農業従事者が自ら保有地の運営についての主たる責任を負うように適切な措置を執るべきである。加盟国は、資源が最も有利に利用され、かつ、適切に維持されることを確保しつつ、前記の目的のために必要な援助をこれらの農業従事者に与えるべきである。
6 すべての種類の農業従事者が土地を取得しうるようにすべきであるという一般原則に従い、経済的及び社会的発展のために適当な場合には、小作農、分益農その他類似の種類の農業従事者の土地の取得を容易にするための措置を執るべきである。
7 小作農、分益農その他類似の種類の農業従事者の利益を代表する団体及び土地所有者の利益を代表する団体の自発的な設立及び発展を奨励すべきであり、かつ、この目的のためにすべての便宜を供与すべきである。
8 4から7までに掲げる目標を達成するためにこの勧告に規定するすべての措置は、全国的な総合農業改革計画に統合される場合に一層効果的となることを認めるべきである。

Ⅲ 実施方法

9 前記の政策目標、特に4に掲げる目標を現行の小作又は労働に関する法令に基づいて十分に達成することができない場合には、関係団体又はこのような団体が存在しないときは関係者の代表者と協議の上、それらの法令を改正し、又は特別の法令を採択すべきである。
10 次の目的のため、措置を執り、及び国内事情に適した手続を定めるべきである。
  (a) 小作料を次のような水準に維持すること。
   (i)  占有者が人間の尊厳にふさわしい生活水準を保つことができるような水準
   (ii) 各関係当事者に公正かつ衡平な利益を与えるような水準
   (ii) 進歩的な農耕を促進するような水準
  (b) 1(1) (c)に掲げる者の生産物の取分の最低限度を決定すること。
  (c) 収穫量、物価及び地価の相当な変動のような一定の事情の下において小作料を調整すること。
  (d) 小作農、分益農その他類似の種類の農業従事者が予見し又は制御することができない自然的原因による不作又は保有地に影響を及ぼすその他の災害の場合において、小作料の支払を延期し、及び必要なときはこれを軽減すること。
11 土地所有者が報酬を支払うかどうかを問わずすべての形式の個人的役務を行なう義務を小作農、分益農その他類似の種類の農業従事者に課することからこれらの農業従事者を保護するために適切な措置を執るべきであり、このような義務を課そうとする試みには、権限のある機関が定める適当な制裁を課すべきである。
12 次の目的のため、国内事情に応じた適当な機構を設けるべきである。
  (a) 小作農、分益農その他類似の種類の農業従事者の福祉を増進し、創意を助長し、及び保護を確保する法令、契約及び慣行上の取決めを励行すること。
  (b) 土地所有者と小作農、分益農その他類似の種類の農業従事者との間の紛争を最少限の費用ですみやかに解決すること。
13 小作農、分益農その他類似の種類の農業従事者の利益を代表する団体及び土地所有者の利益を代表する団体又は、これらの団体が存在しない場合には、関係者の代表者は、10及び12に規定する手続及び機構の運用並びに14(1)(a)及び15に規定する契約の検討に関与すべきである。
14(1) 土地所有者と小作農、分益農その他類似の種類の農業従事者との間の関係を規律する契約は、
  (a) 文書で作成することが望ましく、又は権限のある機関が定める模範契約例に従うべきである。
  (b) 所定の方法により、かつ、小作農、分益農その他類似の種類の農業従事者が契約の条項を十分に理解することを確保するため、権限のある機関による適切な監督を確保するような条件で締結すべきである。
  (c) 土地の保有を保証しかつ良好な農業活動を奨励するような期間のものであるべきであり、また、そのような自動更新の規定を含むべきである。
 (2) 契約の締結又は更新にあたり土地所有者が特別の手数料、贈与その他の負担を要求することは禁止すべきであり、このような要求の試みには、権限のある機関が定める適当な制裁を課すべきである。
15(1) すべての契約には、当事者の権利及び義務を明確にするために関係法令に関連して必要とされるすべての細目を含めるべきである。
 (2) 契約に含めるべき細目には、いかなる場合にも、次の事項を含めるべきである。
  (a) 契約当事者の指名及び契約当事者を確認するために必要なその他の細目
  (b) 保有地についての記述(明細目録を附する。)
  (c) 保有地について支払うべき小作料又は占有者の労働に対して支払うべき報酬及びこれらの支払の形式
 (3) 契約に含めるべき細目には、国内法令で十分に規定されていない場合には、次の事項をも含めるべきである。
  (a) 契約の期間及びこの期間の算定方法
  (b) 契約の更新及び終了並びに適当な場合には契約上の地位の譲渡及び下請契約に関する規定
  (c) 各関係当事者が責任を負う賠償の種類の決定
  (d) 生産費用並びに保有地の生産物及びその処分に関する当事者のそれぞれの権利及び義務
  (e) 17に規定するところにより、契約の有効期間中に占有者が行なつた改良について補償を受ける権利
  (f) 16(4)に規定するところにより、土地所有者が契約の期間満了前に契約を終了させる場合における損害について補償を受ける権利
  (g) 建物及び設備に加えられる損害に関する当事者のそれぞれの権利及び義務
  (h) 紛争の解決のための手続
  (i) 占有者が死亡した場合の規定
  (j) 保有地の鉱物、水その他の資源に関する当事者のそれぞれの権利を保護する規定
 (4) 適当な場合には、契約には、次の細目をも含めるべきである。
  (a) 保有地及びその資源の適切な保全を確保するために採るべき農耕方法
  (b) 住宅その他の施設のような土地所有者が提供する便益
  (c) 農業上の危険その他の危険に対してかけられる保険及びこのような保険の費用の負担
16(1) 土地所有者が正当な予告を行なつた後に契約をその期間満了前に終了させる権利は、占有者の耕作が拙劣な場合又は権限のある機関が定める正当な目的のために再び保有地を占有する場合のような法令で定める場合に限定すべきである。
 (2) 契約が前記の条件の下に終了する場合には、小作農、分益農その他類似の種類の農業従事者は、その選択により、収穫を行なうために十分な時間を与えられ、又はそれに代わる十分な補償を与えられるべきである。
 (3) 小作農、分益農その他類似の種類の農業従事者は、その占有する保有地を土地所有者が売却する場合には、事前に十分な期間を置いて書面による予告を与えられるべきであり、これらの農業従事者は、所定の年数にわたつてその保有地を満足に耕作してきた場合には、その保有地に対する先買権を有すべきである。
 (4) 小作農、分益農その他類似の種類の農業従事者は、土地所有者が約束の不履行以外の理由により期間満了前に契約を終了させる場合に受ける損害について補償を受ける権利を有すべきである。
17 小作農、分益農その他類似の種類の農業従事者は、その占有する保有地に必要な改良を加える権利を有すべきであり、このような改良を加えることについて土地所有者若しくは権限のある機関の事前の承認を得た場合又は法律でこのような改良が認められている場合には、その保有地を返還するにあたり、このような改良によつて増加した価値の残存部分について補償を受ける権利を有すべきである。
18 小作農、分益農その他類似の種類の農業従事者がその保有地に居住することが慣習となつており、又は必要である場合には、土地所有者が、風雨に対する保護、飲料水の供給、衛生設備及び畜舎の隔離のような事項について人間の尊厳にふさわしい水準に適合する適当な住宅をこれらの農業従事者に提供することを奨励すべきである。権限のある機関は、土地所有者がこの責任を果たすことを援助するために適当かつ実行可能な措置を執るべきである。
19 適当な場合には、契約の性質上認められている場合を除くほか、小作農、分益農その他類似の種類の農業従事者は、自己及びその家族のための食糧を生産するために若干の土地を使用することを認められるべきである。
20 小作農、分益農その他類似の種類の農業従事者の権利を無料で正しく記録し、かつ、関係記入事項を最新のものとしておくため、公的登録制度の枠内(わくない)において適当な措置を執るべきである。

Ⅳ 補足的措置

21 適当な場合には、権限のある機関は、可能な限り関係団体と協力して、小作農、分益農その他類似の種類の農業従事者が生産協同組合、農産物加工協同組合、信用協同組合、販売協同組合及び購買協同組合等の協同組合を設立すること並びにこのような協同組合がすでに存在するときはこれを強化することを奨励し、かつ、これらのことについて指導を行なうべきである。
22(1) 当該国の利用しうる国内資源及び事情に照らして特に次の目的のために小作農、分益農その他類似の種類の農業従事者に対し現金及び現物による低利の十分な貸付けを行なうための措置を執るべきである。
  (a) 生産及び消費の水準の向上に寄与すること。
  (b) 土地の取得を促進すること。
  (c) 農業改革及び土地定着事業の効率を増大させること。
 (2) 前記の貸付けは、実行可能な限り、農場の開発及び経営についての承認されかつ指導される計画と関連して行なうべきである。
 (3) 国内事情に照らして、次の制度に特別の考慮を払うべきである。
  (a) 低利の協同組合貸付け
  (b) 営農指導の下に行なわれる貸付け
  (c) 低利の銀行貸付け
  (d) 無利子の政府貸付け
 (4) 小作農、分益農その他類似の種類の農業従事者は、その保有地を改良するための貸付けを受けることについて、土地所有者の許可を得ることを要求されるべきではない。
23(1) 権限のある機関及び団体は、小作農、分益農その他類似の種類の農業従事者及びこれらの農業従事者の被扶養者に対し一般教育並びに農業教育及び農業に関する職業訓練の計画が効果的に適用されることを確保するために適当な措置を執るべきである。
 (2) 前記の者が農業改革又は土地定着事業の適用を受ける場合にこれらから十分な利益を受けることができるように教育及び訓練の特別計画を発展させるべきである。
 (3) 関係農業団体の代表者は、この23の規定の適用について責任のある政府機関の事業に参加すべきである。
24 権限のある機関は、次の目的のために総合的な農村雇用促進計画について特別の注意を払うべきである。
  (a) 小作農、分益農その他類似の種類の農業従事者及びこれらの農業従事者の家族に対してその労働能力を十分に活用するすべての機関を与えること。
  (b) 農業において就業することができない者に対し永続的な非農業的雇用を提供すること。
25 権限のある機関は、次のことを確保すべきである。
  (a) 小作農、分益農その他類似の種類の農業従事者が、実行可能な限り、適当かつ十分な社会保障制度の適用を受けること。
  (b) 前記の農業従事者が、教育、公衆衛生、住宅及び社会的便益(文化活動及びレクリエーション活動を含む。)のような事項に関係のある農村開発計画並びに特に地域社会開発計画の恩恵を受けること。
26(1) 小作農、分益農その他類似の種類の農業従事者は、かんばつ、洪水(こうずい)、降ひよう、火災及び動植物の病疫のような自然の災害に起因する所得喪失の危険に対してできる限り保護されるべきである。
 (2) 適当かつ実行可能な場合には、権限のある機関は、当該国の事情を考慮した上で、前記の危険に対して前記の農業従事者を保護する保険制度を採用し又は奨励すべきであり、また、これらの保険制度の資金の調達において重要な役割を果たすべきである。