1971年のベンゼン勧告(第144号)

ILO勧告 | 1971/06/23

ベンゼンから生ずる中毒の危害に対する保護に関する勧告(第144号)

 国際労働機関の総会は、
 理事会によりジュネーヴに招集されて、千九百七十一年六月二日にその第五十六回会期として会合し、
 千九百七十一年のベンゼン条約を採択し、
 前期の会期の議事日程の第六議題であるベンゼンから生ずる危害に対する保護に関する提案の採択を決定し、
 その提案が勧告の形式をとるべきであると決定して、
 次の勧告(引用に際しては、千九百七十一年のベンゼン勧告と称することができる。)を千九百七十一年六月二十三日に採択する。

Ⅰ 適用範囲


1 この勧告は、労働者を次のものにさらすすべての業務について適用する。
 (a) 芳香族炭化水素ベンゼン(C6H6)(以下「ベンゼン」という。)
 (b) ベンゼン含有量が容積で一パーセントをこえる製品(以下「ベンゼンを含有する製品」という。)。ベンゼン含有量は、権限のある国際機関が勧告する分析方法によつて決定すべきである。
2 1の規定にかかわらず、1(b)の規定に該当しない製品のベンゼン含有量は、労働者の健康の保護のために必要である場合には、実行可能な限り低い水準にまで漸次引き下げられるべきである。

Ⅱ ベンゼンの使用制限


3(1) 無害な又は有害度の一層少ない代替製品を利用することができる場合には、ベンゼン又はベンゼンを含有する製品の代りにそれらの代替製品を使用すべきである。
 (2)  (1)の規定は、次のものについては適用しない。
  (a) ベンゼンの生産
  (b) 化学的合成におけるベンゼンの使用
  (c) 原動機用燃料におけるベンゼンの使用
  (d) 研究所で行なわれる分析又は研究の作業
4(1) ベンゼン及びベンゼンを含有する製品の使用は、国内法令で定める一定の作業工程においては禁止すべきである。
 (2)  (1)の禁止は、工程が密閉方式で実施される場合又は同等に安全なその他の作業方法がある場合を除くほか、少なくとも、溶剤又は希釈剤としてのベンゼン及びベンゼンを含有する製品の使用についても適用すべきである。
5 国内法令で定めるベンゼンを含有する特定の工業製品(たとえば、ペンキ、ワニス、マスティック、にかわ、接着剤、インク及び各種の溶液)の販売は、権限のある機関が決定する場合には、禁止すべきである。

Ⅲ 危害の防止のための技術的措置及び労働衛生


6(1) ベンゼン又はベンゼンを含有する製品にさらされる労働者の効果的な保護を確保するため、労働衛生措置及び技術的措置をとるべきである。
 (2) 1の規定にかかわらず、ベンゼン含有量が容積で一パーセント以下の製品に労働者がさらされる場合においても、空気中のベンゼンの濃度を権限のある機関の定める最大限度内に保つために必要なときは、同様の措置をとるべきである。
7(1) ベンゼン又はベンゼンを含有する製品を製造し、取り扱い又は使用する場所では、ベンゼンの蒸気が就業場所の空気中に発散することを防止するためにあらゆる必要な措置をとるべきである。
 (2) 労働者がベンゼン又はベンゼンを含有する製品にさらされる場合には、使用者は、就業場所の空気中のベンゼンの濃度が、最大値において百万分の二十五(一立方メートル当たり八十ミリグラム)をこえない水準に権限のある機関が定める最大限度をこえないことを確保すべきである。
 (3)  (2)に定める最大許容濃度は、これを引き下げることが望ましいことを医学的証拠が明らかにする場合には、できる限りすみやかに引き下げるべきである。
 (4) 権限のある機関は、就業場所の空気中のベンゼンの濃度の測定方法に関する指示を行なうべきである。
8(1) ベンゼン又はベンゼンを含有する製品の使用を伴う作業工程は、実行可能な限り密閉方式で行なうべきである。
 (2) 作業工程を密閉方式で行なうことが実行可能でない場合には、ベンゼン又はベンゼンを含有する製品を使用する作業場所に、ベンゼンの蒸気を労働者の健康の保護に必要な程度まで除去するための有効な施設を設けるべきである。
 (3) 液体ベンゼン又はベンゼンの蒸気を含む廃棄物が労働者の健康を脅かさないように、注意を払うべきである。
9(1) 液体ベンゼン又はベンゼンを含有する液体製品が皮膚に付着するおそれのある労働者に対しては、皮膚を通してベンゼンを吸収する危険に対する適当な個人用保護具を支給すべきである。
 (2) 特別の理由により、就業場所の空気中のベンゼンの濃度が7(2)に定める最大限度をこえる場合にそれにさらされる労働者に対しては、ベンゼンの蒸気を吸入する危険に対する適当な個人用保護具を支給すべきである。ベンゼンにさらされる期間は、できる限り制限すべきである。
10 ベンゼン又はベンゼンを含有する製品にさらされるすべての労働者は、適当な作業服を着用すべきである。
11 労働者が手又は作業服を洗浄するためにベンゼン又はベンゼンを含有する製品を使用することは、禁止すべきである。
12 ベンゼン又はベンゼンを含有する製品を製造し、取り扱い又は使用する場所に食物を持ち込み、又はそのような場所で食事をすべきではない。そのような場所での喫煙は、禁止すべきである。
13 ベンゼン又はベンゼンを含有する製品を製造し、取り扱い又は使用する企業においては、使用者は、労働者が次のものを利用することができるようにあらゆる適当な措置をとるべきである。
  (a) 適当な場所における適正に維持された十分かつ適当な洗身設備
  (b) 労働者が食事をするための適当な設備がない場合には、適当な食事のための施設
  (c) 労働者の作業服を普通服と別個に格納しうる更衣室その他の適当な設備
14(1) 9の個人用保護具及び10の作業服は、使用者が支給し、洗浄しかつ常時維持すべきである。
  (2) 関係労働者に対しては、(1)にいう個人用保護具及び作業服を使用しかつ管理することが要求されるべきである。

Ⅳ 医学的措置


15(1) ベンゼン又はベンゼンを含有する製品にさらされる作業工程に就業する労働者は、次の健康診断を受けるべきである。
   (a) 就業の適格性に関する完全な就業前健康診断(血液検査を含む。)
   (b) 国内法令で定める一年をこえない間隔で行なわれる定期健康診断。その健康診断には、生物学的検査(血液検査を含む。)が含まれる。
  (2) 各国の権限のある機関は、関係のある最も代表的な使用者団体及び労働者団体が存在するときはそれらの団体と協議のうえ、特定の種類の労働者について(1)の規定に対する例外を認めることができる。
16 健康診断を行なうに際しては、関係労働者に対し、ベンゼンが健康に及ぼす危害に対する防護措置に関し文書によつて指導すべきである。
17 15(1)の健康診断は、
  (a) 権限のある機関によつて承認された資格のある医師の責任の下に、必要に応じて能力のある研究機関の援助を得て行なうべきである。
  (b) 適当な方法で証明すべきである。
18 17にいう健康診断は、労働時間中に行なうべきであり、また、労働者に費用を負担させるべきではない。
19 妊娠していることが医学的に証明された女子及び哺(ほ)育期間中の母親は、ベンゼン又はベンゼンを含有する製品にさらされる作業工程に就業させるべきではない。
20 十八歳未満の年少者は、適当な技術的及び医学的監督の下で教育又は訓練を受けている場合を除くほか、ベンゼン又はベンゼンを含有する製品にさらされる作業工程に就業させるべきではない。

Ⅴ 容器


21(1) ベンゼン又はベンゼンを含有する製品を入れるいかなる容器にも、明りように、「ベンゼン」という語を記載し、かつ、危険を表わす必要な表示を付すべきである。
  (2) 当該製品の含有するベンゼンの百分率をも表示すべきである。
  (3)  (1)の危険を表わす表示は、国際的に認められるべきである。
22 ベンゼン及びベンゼンを含有する製品は、適当な材料で造られ、適当な強度を有し、かつ、漏えい若しくは蒸気の偶発的な漏れを防止するように設計されかつ製造された容器に入れた場合を除くほか、いかなる就業場所にも持ち込むべきではない。

Ⅵ 教育措置


23 各加盟国は、ベンゼン又はベンゼンを含有する製品にさらされるすべての労働者が、健康を保護し及び事故を防止するための措置並びに中毒の証拠が現われた場合の適当な措置について使用者の費用負担で適切な訓練及び指導を受けるように、適当な措置をとるべきである。
24 ベンゼン又はベンゼンを含有する製品が使用される場所内の適当な位置に、次のことを示す掲示を行なうべきである。
 (a) 危険
 (b) とるべき予防措置
 (c) 使用すべき保護具
 (d) 急性のベンゼン中毒の場合にとるべき救急措置

Ⅶ 一般規定


25 各加盟国は、次のことを行なうべきである。
 (a) 法令により又は国内慣行及び国内事情に適したその他の方法により、この勧告を実施するために必要な措置をとること。
 (b) 国内慣行に従い、この勧告を遵守する義務を有する者を指定すること。
 (c) この勧告の適用を監督するために適当な監督機関を設け、又は適当な監督が実施されていることを確認すること。
26 各国の権限のある機関は、ベンゼンに代わりうる無害な又は有害度の一層少ない製品の研究を積極的に促進すべきである。
27 権限のある機関は、医学的に観察されたベンゼン中毒の事例に関する資料を報告する統計制度を確立し、それらの資料を毎年公表すべきである。