1973年の港湾労働勧告(第145号)

ILO勧告 | 1973/06/25

港湾における新しい荷役方法の社会的影響に関する勧告(第145号)


 国際労働機関の総会は、
 理事会によりジュネーヴに招集されて、千九百七十三年六月六日にその第五十八回会期として会合し、
 重要な変化が、港湾における荷役方法(例えば、ユニット・ロードの採用、ロールオン・ロールオフ方式の導入、機械化及びオートメーションの進展)及び貨物の移動の形態に生じており及び生じつつあること並びにそのような変化が将来一層広範囲に生ずると予想されることを考慮し、
 そのような変化が、貨物の移動を速め、船舶が港湾において停泊する時間を短縮し及び輸送の費用を低下させることにより、当該国の経済全体に利益をもたらし、また、生活水準の向上に寄与するであろうことを考慮し、
 そのような変化が、また、港湾における雇用の水準並びに港湾労働者の労働条件及び生活状態にかなり大きな影響を及ぼすものであること並びにそれに起因する問題の発生を防止し又は減少させるための措置がとられるべきであることを考慮し、
 港湾労働者が、新しい荷役方法の導入がもたらす利益の配分にあずかるべきであり、したがつて、雇用の恒常化、収入の安定化等の方法その他港湾労働者の労働条件及び生活状態に関する措置並びに港湾労働の安全衛生面に関する措置による港湾労働者の地位の永続的な向上のための対策が、新しい荷役方法の企画及び導入と同時に企画され、かつ、採用されるべきであることを考慮し、
 前記の会期の議事日程の第五議題である新しい荷役方法の社会的影響(港湾)に関する提案の採択を決定し、
 その提案が千九百七十三年の港湾労働条約を補足する勧告の形式をとるべきであると決定して、
 次の勧告(引用に際しては、千九百七十三年の港湾労働勧告と称することができる。)を千九百七十三年六月二十五日に採択する。

Ⅰ 適用範囲及び定義

1 この勧告は、36において別段の定めがある場合を除くほか、港湾労働者として常時就労することができる者であつて、年間の主たる収入を港湾労働者としての労働によつて得るものについて適用する。
2 この勧告の適用上、「港湾労働者」及び「港湾労働」とは、国内の法令又は慣行により、それぞれ、港湾労働者として定義される者及び港湾労働として定義される業務をいう。そのような定義の決定及び改正については、関係のある使用者団体及び労働者団体と協議し又はそれらの団体を参加させるべきである。この場合において、新しい荷役方法及びこれが港湾労働者の種々の職種に及ぼす影響について考慮が払われるべきである。

Ⅱ 荷役方法の変化の影響

3 各国において及び適当な場合には各港湾において、関係のある使用者団体及び労働者団体の代表者並びに適当な場合には権限のある機関の代表者が参加する機関は、荷役方法の変化によつて起こり得る影響(港湾労働者の雇用機会及び雇用条件並びに港湾における職業構造に対する影響を含む。)を定期的かつ体系的に調査し、その結果とるべき措置を体系的に再検討すべきである。
4 新しい荷役方法及びこれに関連する措置の導入に当たつては、全国的及び地域的な規模における開発及び労働力の計画及び政策と調整すべきである。
5 3及び4に規定する目的のため、特に次のものを含むすべての関連のある情報を継続的に収集すべきである。
 (a) 港湾における貨物の移動についての統計であつて使用された荷役方法を表示したもの
 (b) 取扱貨物の主要な流れの起点及び終点並びにコンテナーその他のユニット・ロードの内容物の荷造り及び荷ほどきの場所を示す図式
 (c) 可能な場合には前記と同様の方式による将来の傾向についての予測
 (d) 荷役方法並びに貨物の主要な流れの起点及び終点に関する将来の進展を考慮した上での港湾において荷役のために必要とされる労働力についての予測
6 各国は、できる限り、資本(特に外貨)及び労働力の相対的な利用可能性並びに内陸運輸施設を特に考慮して、自国の経済に最も適した新しい荷役方法を採用すべきである。

Ⅲ 雇用及び収入の安定

  A 常用雇用又は常時雇用

7 実行可能な限り、すべての港湾労働者につき常用雇用又は常時雇用を確保すべきである。

  B 雇用又は収入の保障

8(1) 常用雇用又は常時雇用が実行不可能な場合には、当該国及び当該港湾の経済的及び社会的な事情に即した方法及び範囲内で、雇用及び(又は)収入を保障すべきである。
 (2) これらの保障には、次のいずれかの又はすべてのものを含むことができる。
   (a) 年間、月間若しくは週間における合意された時間数若しくは交替勤務の回数の雇用又はそれに代わる手当
   (b) 呼出しに応じて出頭し又は就労が可能な状態にありながら雇用されない場合に、港湾労働者の拠出によらない制度に基づいて支払われる出頭手当
   (c) 就労することができない場合に支払われる失業給付
9 すべての関係者は、港湾作業の効率的な実施を妨げることなく、労働力の削減をできる限り回避し又は最小限にとどめるための積極的な措置をとるべきである。
10 労働力の削減を回避することができない場合には、次のような方法により港湾労働者に経済的な保護を与えるため、適切な措置をとるべきである。
  (a) 失業保険その他の社会保障
  (b) 使用者が支払う退職手当その他の離職に係る給付
  (c) 国内法令又は労働協約によつて規定される給付の組合せ

  C 登録

11 登録は、次のことを目的として、国内の法令又は慣行によつて定められる方式で、港湾労働者のすべての職種について設け、かつ、維持すべきである。
  (a) 就労可能な仕事が港湾労働者に対し適当な生活水準を確保する上で不十分な場合には、登録港湾労働者以外の労働者を使用しないこと。
  (b) 雇用の恒常化又は賃金所得の安定化及び港湾における就労配置のための計画を運営すること。
12 作業の性質が変化し、一層多くの港湾労働者が一層多くの種類の作業を行うことができるようになるに従い、専門の職種については、その数を減らすべきであり、また、その作業範囲を変更すべきである。
13 労働力の相互融通の促進、就労配置の弾力化及び作業の能率化を達成するため、可能な場合には、船内荷役と沿岸荷役との区別を除去すべきである。
14 すべての港湾労働者について常用雇用又は常時雇用を確保することが不可能な場合には、登録は、次のいずれかの形態をとるべきである。
  (a) 単一の登録
  (b) 次の者についての個別の登録
   (i)  おおむね常時雇用される労働者
   (ii) 予備集団の労働者
15 いかなる者も、港湾労働者として登録されていない限り、通常、港湾労働者として雇用されるべきではない。就労が可能なすべての登録港湾労働者が雇用されている場合には、例外として、他の労働者を雇い入れることができる。
16 登録港湾労働者は、国内の法令又は慣行によつて定められる態様で就労が可能であるようにすべきである。

  D 登録の定数の調整

17 登録の定数は、当該港湾の需要に適合した水準に達し、かつ、その水準を超えないように関係者が定期的に再検討すべきである。その再検討に際して、すべての関連する要因、特に、荷役方法の変化及び貿易の傾向の変化のような長期的な要因について考慮が払われるべきである。
18(1) 特定の職種の港湾労働者に対する需要が減少する場合には、関係労働者を他の職種の作業に就労し得るように再訓練することにより、それらの労働者を港湾運送事業内の作業にとどめておくようにあらゆる努力が払われるべきである。再訓練は、予想される作業方法の変化に十分先立つて実施すべきである。
  (2) 登録の定数の全般的な削減を回避することができない場合には、再訓練施設の提供及び公共職業安定機関の助力により、港湾労働者が港湾運送事業以外で雇用されるよう援助するために必要なあらゆる努力が払われるべきである。
19(1) 登録の定数の削減が必要である場合には、実行可能な限り、漸進的にかつ雇用を終了させることなく行うべきである。この点に関して、企業段階における人事計画の技術に関する経験を各港湾に有効に活用することができる。
  (2) 削減の程度を決定するに当たつては、次のような事項に考慮が払われるべきである。
   (a) 自然減耗
   (b) 新規募集の中止(既に登録されている港湾労働者に習得させることができない専門的な技能を有する労働者を除く。)
   (c) 主たる収入を港湾労働から得ていない労働者の排除
   (d) 年金、公的年金に対する付加金又は一時金の支給による退職年齢の引下げ又は早期の任意退職の促進
   (e) 港湾労働者が過剰である港湾から港湾労働者が不足している港湾への港湾労働者の恒久的な配置換えであつて、それが正当化される事情の下で労働協約に基づき、関係労働者の同意を得て行われるもの
  (3) 雇用の終了は、(2)の事項に十分に考慮を払つた上で、かつ、何らかの雇用の保障が行われることを条件としてのみ行われるべきである。雇用の終了は、できる限り合意された基準に基づき、かつ、適切な予告期間を置いて行われるべきであり、また、10に規定する措置を伴うべきである。

  E 就労配置

20 特定の使用者による常用雇用又は常時雇用の場合を除くほか、次の事項を満たす就労配置について合意されるべきである。
  (a) 11、15及び17の規定に従い、各使用者に対し、船舶の迅速な発着を確保するために必要な労働力を提供すること又は、そのような労働力が不足している場合において、定められた優先順位に従つて公正に配分された労働力を提供すること。
  (b) 各登録港湾労働者に対し、公正に配分された就労可能な仕事を提供すること。
  (c) 作業に対する選考及び就労配置のための呼出しに応じて出頭する必要並びにそのために要する時間を最小限にすること。
  (d) 実行可能な限り、交替勤務の必要な輪番に従うことを条件として、港湾労働者が自ら着手した作業を完了することができるようにすること。
21 国内法令又は労働協約によつて定められる条件に従い、特定の使用者に常時雇用されている港湾労働者を他の使用者の臨時的な作業に配置換えすることを必要に応じて認めるべきである。
22 国内法令又は労働協約によつて定められる条件に従い、港湾労働者をその自由意思に基づいて特定の港湾から他の港湾に一時的に配置換えすることを必要に応じて認めるべきである。

Ⅳ 労使関係

23 関係のある使用者と労働者との間の討議及び交渉は、賃金及び労働条件のような当面の問題を解決することのみではなく、新しい荷役方法の影響に対処するために必要な各種の社会的措置を含む全般的な協定を締結することをも目的とすべきである。
24 千九百四十八年の結社の自由及び団結権保護条約並びに千九百四十九年の団結権及び団体交渉権条約の原則に従つて設立された、自由に交渉を行い、かつ、締結された協定の実施を確保することができる使用者団体及び港湾労働者の団体の存在は、前記の目的のために重要なものであることを認識すべきである。
25 社会的及び技術的な変化が緊張又は対立を伴うことなく導入され、かつ、苦情が千九百六十七年の苦情審査勧告に基づいて迅速に解決されることのできる信頼関係及び協力関係を港湾労働者と使用者との間に確立するため、適当な労使合同の機構を、それが存在しない場合には、設立すべきである。
26 使用者団体及び労働者団体は、適当な場合には権限のある機関とともに、必要な社会的措置の実施、特に雇用の恒常化又は賃金所得の安定化のための計画の運営に参加すべきである。
27 使用者と港湾労働者との間のコミュニケーション及び労働者団体の指導者とその構成員との間のコミュニケーションに関する効果的な政策は、千九百六十七年の企業内コミュニケーション勧告に基づいて策定し、かつ、あらゆる段階においてあらゆる可能な方法によつて実施すべきである。

Ⅴ 港湾における作業の編成

28 新しい荷役方法による社会的利益を最大限に確保するため、港湾における労働能率の向上について、適当な場合には権限のある機関の参加を得て協力することを目的として、使用者又は使用者団体と労働者団体との間で協定を締結すべきである。
29 28にいう協定で取り扱われる措置には、次の事項を含むことができる。
  (a) 各港湾の事情を特別に考慮して、作業環境に関する科学的な知識及び技術を利用すること。
  (b) 包括的な職業訓練(安全措置についての訓練を含む。)を計画すること。
  (c) 時代遅れの慣行を排除するために相互に努力すること。
  (d) 船倉相互の間、船舶相互の間、船内と沿岸との間及び沿岸作業相互の間で港湾労働者を一層弾力的に使用すること。
  (e) 必要な場合には、交替勤務及び週末勤務に依存すること。
  (f) 港湾労働者が数種の関連のある仕事を行うことができるように作業編成及び訓練を計画すること。
  (g) 合理的な休息期間を確保する必要性を十分に考慮して、作業班の定員を合意された必要に適合させること。
  (h) 実行可能な限り、非生産的な時間を排除するために相互に努力すること。
  (i) 認定された機械の安全稼(か)動能力からみて必要とされる重量制限その他関連する安全基準の遵守を条件とした機械設備の効果的な使用について規定すること。
30 29の措置は、雇用の恒常化又は賃金所得の安定化に関する協定及びⅥに規定する労働条件の改善を伴うべきである。

Ⅵ 労働条件及び生活状態

31 工業的企業に適用される安全、衛生、福祉及び職業訓練に関する法令は、必要な技術上の修正を加えて港湾に効果的に適用すべきであり、また、適当な監督機関が設置されるべきである。
32 港湾労働者の労働時間、週休、有給休暇及びこれらに類似する労働条件に関する基準は、工業的企業における大多数の労働者の労働条件に関する基準よりも不利なものであつてはならない。
33 交替勤務に関し、次の事項を含む措置をとるべきである。
  (a) 国内法令又は労働協約によつて定められた限度を超えて、同一の労働者を継続した交替勤務に就かせないこと。
  (b) 交替勤務(週末勤務を含む。)によつて労働者が被る不利益に対して特別の補償を行うこと。
  (c) 地方の事情を考慮して、交替勤務につき適当な最長時間及び時間割を定めること。
34 新しい荷役方法が導入される場合において、トン当たり賃金その他の業績給が採用されているときは、支払方法及び賃金表を再検討し、必要に応じて改訂する措置をとるべきである。可能な場合には、港湾労働者の賃金所得は、新しい荷役方法の導入の結果、改善すべきである。
35 適当な年金制度及び退職制度は、それらの制度が設けられていない場合には、導入すべきである。

Ⅶ 雑則

36 この勧告の適切な規定は、国内の法令及び慣行に従い、できる限り、臨時的又は季節的に雇用される港湾労働者についても適用すべきである。