1981年の家族的責任を有する労働者勧告(第165号)

ILO勧告 | 1981/06/23

男女労働者特に家族的責任を有する労働者の機会均等及び均等待遇に関する勧告(第165号)

 国際労働機関の総会は、
 理事会によりジュネーヴに招集されて、千九百八十一年六月三日にその第六十七回会期として会合し、
 「すべての人間は、人種、信条又は性にかかわりなく、自由及び尊厳並びに経済的保障及び機会均等の条件において、物質的福祉及び精神的発展を追求する権利をもつ」ことを承認する国際労働機関の目的に関するフィラデルフィア宣言に留意し、
 千九百七十五年に国際労働総会が採択した女子労働者の機会及び待遇の均等に関する宣言並びに女子労働者の機会及び待遇の均等を促進するための行動計画に関する決議の規定に留意し、
 男女労働者の機会及び待遇の均等を確保することを目的とする国際労働条約及び国際労働勧告の規定、特に、千九百五十一年の同一報酬条約及び千九百五十一年の同一報酬勧告、千九百五十八年の差別待遇(雇用及び職業)条約及び千九百五十八年の差別待遇(雇用及び職業)勧告並びに千九百七十五年の人的資源開発勧告Ⅷの規定に留意し、
 千九百五十八年の差別待遇(雇用及び職業)条約が家族的責任に基づく差別を明示的には対象としていないことを想起し、この点に関して補足的基準が必要であることを考慮し、
 千九百六十五年の雇用(家庭責任をもつ婦人)勧告の規定に留意し、この勧告の採択以降に生じた変化を考慮し、
 男女の機会及び待遇の均等に関する文書が国際連合及び他の専門機関によつても採択されていることに留意し、特に、千九百七十九年の婦人に対するあらゆる形態の差別の撤廃に関する国際連合条約の前文第十四段において、締約国は「社会及び家庭における伝統的な男女の役割の変更が、男女間の完全な平等の達成に必要であることを認識する」旨規定していることを想起し、
 家族的責任を有する労働者の問題が国の政策において考慮されるべき家庭及び社会に関する一層広範な問題の諸局面であることを認識し、
 家族的責任を有する男女労働者の間及び家族的責任を有する労働者と他の労働者との間の機会及び待遇の実効的な均等を実現することの必要性を認識し、
 すべての労働者の直面する問題の多くが家族的責任を有する労働者の場合にあつては一層悪化していることを考慮し、家族的責任を有する労働者の特別の必要に応じた措置及び一般的に労働者の条件を改善することを目的とする措置によつて家族的責任を有する労働者の条件を改善することの必要性を認識し、
 前記の会期の議事日程の第五議題である男女労働者特に家族的責任を有する労働者の機会均等及び均等待遇に関する提案の採択を決定し、
 その提案が勧告の形式をとるべきであることを決定して、
 次の勧告(引用に際しては、千九百八十一年の家族的責任を有する労働者勧告と称することができる。)を千九百八十一年六月二十三日に採択する。

Ⅰ 定義、適用範囲及び実施方法

1(1) この勧告は、被扶養者である子に対し責任を有する男女労働者であつて、当該責任により経済活動への準備、参入若しくは参加の可能性又は経済活動における向上の可能性が制約されるものについても、適用する。
 (2) この勧告は、保護又は援助が必要な他の近親の家族に対し責任を有する男女労働者であつて、当該責任により経済活動への準備、参入若しくは参加の可能性又は経済活動における向上の可能性が制約されるものについても、適用すべきである。
 (3) この勧告の適用上、「被扶養者である子」及び「保護又は援助が必要な他の近親の家族」とは、各国において、3に規定する方法のいずれかにより定められる者をいう。
 (4)  (1)及び(2)に規定する労働者は、以下「家族的責任を有する労働者」という。
2 この勧告は、経済活動のすべての部門について及びすべての種類の労働者について適用する。
3 この勧告は、法令、労働協約、就業規則、仲裁裁定、判決若しくはこれらの方法の組合せにより又は国内慣行に適合するその他の方法であつて国内事情を考慮した上適当とされるものにより、適用することができる。
4 この勧告は、国内事情を考慮した上、必要な場合には段階的に適用することができる。ただし、実施のためにとられる措置は、いかなる場合にも1(1)に規定するすべての労働者について適用すべきである。
5 使用者団体及び労働者団体は、国内の事情及び慣行に適する方法により、この勧告を実施するための措置の策定及び適用に参加する権利を有すべきである。

Ⅱ 国の政策

6 男女労働者の機会及び待遇の実効的な均等を実現するため、各加盟国は、家族的責任を有する者であつて就業しているもの又は就業を希望するものが、差別待遇を受けることなく、また、できる限り就業に係る責任と家族的責任とが相反することとなることなく就業する権利を行使することができるようにすることを国の政策の目的とすべきである。
7 男女労働者の機会及び待遇の均等を促進するための国の政策の枠内で、直接的であるか間接的であるかを問わず、婚姻していること又は家族的責任に基づく差別待遇を防止するための措置が採用され及び適用されるべきである。
8(1) 6及び7の規定の適用上、「差別待遇」とは、千九百五十八年の差別待遇(雇用及び職業)条約第一条及び第五条に規定する雇用及び職業における差別待遇をいう。
 (2) 経過的な期間においては、男女労働者の間の実効的な均等を達成することを目的とする特別の措置は、差別待遇とみなすべきではない。
9 男女労働者の機会及び待遇の実効的な均等を実現するため、次のことを目的として、国内の事情及び可能性と両立するすべての措置をとるべきである。
  (a) 家族的責任を有する労働者が職業訓練を受ける権利及び職業を自由に選択する権利を行使することができるようにすること。
  (b) 雇用条件及び社会保障において、家族的責任を有する労働者の必要を考慮すること。
  (c) 公的なものであるか私的なものであるかを問わず、保育及び家族に係るサービスその他の社会サービスであつて家族的責任を有する労働者の必要とするものを発展させ又は促進すること。
10 各国の権限のある機関は、男女労働者の機会及び待遇の均等の原則並びに家族的責任を有する労働者の問題に関し、一層広範な公衆の理解を得るような及び当該問題の解決に寄与する世論を醸成するような情報の提供及び教育を促進するための適当な措置をとるべきである。
11 各国の権限のある機関は、次のことを目的とする適当な措置をとるべきである。
  (a) 健全な政策及び措置の基礎となるような客観的な情報を提供するため、家族的責任を有する労働者の雇用の各種の局面について必要な研究を行い又は促進すること。
  (b) 家族的責任を男女間で共有することを奨励するような、また、家族的責任を有する労働者が就業に係る責任及び家族的責任を一層よく果たすことを可能にするような教育を促進すること。


Ⅲ 訓練及び雇用

12 家族的責任を有する労働者が労働力となり、労働力としてとどまり及び家族的責任を理由とする不就業の後に再び労働力となることができるようにするため、国内の事情及び可能性と両立するすべての措置をとるべきである。
13 国の政策及び国内慣行に従い、家族的責任を有する労働者が職業訓練施設及び、可能な場合には、当該施設を使用するために有給教育休暇を利用することができるようにすべきである。
14 すべての労働者に対する既存のサービスの枠内で又はそのようなサービスが存在しない場合には、国内事情に適する方針に従い、家族的責任を有する労働者の就職又は再就職を可能にするために必要なサービスを利用することができるようにすべきである。これらのサービスは、労働者にとつて無料である職業指導、カウンセリング、情報提供及び職業紹介のサービスであつて、適切な訓練を受けた職員が配置されており、かつ、家族的責任を有する労働者の特別の必要に適切に応ずることができるものを含むべきである。
15 家族的責任を有する労働者は、就業の準備、就業の機会、就業における向上及び就業保障に関し、他の労働者と均等の機会及び待遇を享受すべきである。
16 婚姻していること、家族の状況又は家族的責任のみをもつて雇用の拒否又は終了の妥当な理由とすべきではない。

Ⅳ 雇用条件

17 家族的責任を有する労働者が就業に係る責任と家族的責任とを調和させることができるような雇用条件を確保するため、国内の事情及び可能性並びに他の労働者の正当な利益と両立するすべての措置をとるべきである。
18 国及び各種活動部門の発展段階及び特別の必要を考慮した上、労働条件及び職業生活の質を改善するための一般的措置に特に留意すべきである。この一般的措置には、次の事項を目的とする措置を含めるべきである。
  (a) 一日当たりの労働時間の漸進的短縮及び時間外労働の短縮
  (b) 作業計画、休息期間及び休日に関する一層弾力的な措置
19 交替制労働及び夜間労働の割当てを行うに当たり、実行可能でありかつ適当な場合には、労働者の特別の必要(家族的責任から生ずる必要を含む。)を考慮すべきである。
20 労働者を一の地方から他の地方へ移動させる場合には、家族的責任及び配偶者の就業場所、子を教育する可能性等の事項を考慮すべきである。
21(1) その多くが家族的責任を有する者であるパートタイム労働者、臨時労働者及び家内労働者を保護するため、このような形態の就業が行われる条件を適切に規制し、かつ、監督すべきである。
  (2) パートタイム労働者及び臨時労働者の雇用条件(社会保障の適用を含む。)は、可能な限り、それぞれフルタイム労働者及び常用労働者の雇用条件と同等であるべきである。適当な場合には、パートタイム労働者及び臨時労働者の権利は、比例的に考慮することができる。
  (3) パートタイム労働者は、欠員がある場合又はパートタイム雇用への配置を決定した状況がもはや存在しない場合には、フルタイム雇用に就き又は復帰する選択を与えられるべきである。
22(1) 両親のうちのいずれかは、出産休暇の直後の期間内に、雇用を放棄することなく、かつ、雇用から生ずる権利を保護された上、休暇(育児休暇)をとることができるべきである。
  (2) 出産休暇後の期間の長さ並びに(1)にいう休暇の期間及び条件は、各国において、3に規定する方法のいずれかにより決定すべきである。
  (3)  (1)にいう休暇は、漸進的に導入することができる。
23(1) 被扶養者である子に対して家族的責任を有する男女労働者は、当該子が病気である場合には、休暇をとることができるべきである。
  (2) 家族的責任を有する労働者は、保護又は援助が必要な他の近親の家族が病気である場合には、休暇をとることができるべきである。
  (3)  (1)及び(2)にいう休暇の期間及び条件は、各国において、3に規定する方法のいずれかにより決定すべきである。

Ⅴ 保育及び家族に係るサービス及び施設

24 家族的責任を有する労働者が就業に係る責任及び家族的責任を果たすことを援助するために必要な保育及び家族に係るサービス及び施設の範囲及び性格を決定するため、権限のある機関は、関係のある公的及び私的な団体特に使用者団体及び労働者団体と協力して、情報収集のための財源の範囲内で、次のことを目的として必要かつ適当とされる措置をとるべきである。
  (a) 就業し又は求職している家族的責任を有する労働者の数並びに当該労働者の子及び保護が必要な他の被扶養者の数及び年齢に関する適切な統計を収集し及び公表すること。
  (b) 特に地域社会で行われる体系的な調査によつて、保育及び家族に係るサービス及び施設に対する必要及び優先度を確認すること。
25 権限のある機関は、関係のある公的及び私的な団体と協力して、保育及び家族に係るサービス及び施設に関し明らかにされた必要及び優先度を満たすことを確保するため、適当な措置をとるべきである。このため、権限のある機関は、国内及び地域の事情及び可能性を考慮した上、特に次のことを行うべきである。
  (a) 特に地域社会における保育及び家族に係るサービス及び施設の体系的な発展のための計画の作成を奨励し及び促進すること。
  (b) 十分かつ適切な保育及び家族に係るサービス及び施設であつて、弾力的な方針に従い開発されかつ各種の年齢の子、保護が必要な他の被扶養者及び家族的責任を有する労働者の必要を満たすものを無料で又は労働者の支払能力に応じた妥当な料金で提供することを行い又は奨励し及び促進すること。
26(1) 保育及び家族に係るサービス及び施設は、いかなる種類のものも、権限のある機関によつて定められ及び監督される基準に従うべきである。
  (2)  (1)の基準は、特に、提供されるサービス及び施設の設備並びに衛生上及び技術上の要件について定めるべきであり、また、職員の数及び資格について定めるべきである。
  (3) 権限のある機関は、保育及び家族に係るサービス及び施設に配置するために必要とされる職員に対して種々の段階で適切な訓練を提供し又は訓練の提供の確保を援助すべきである。

Ⅵ 社会保障

27 社会保障給付、税の軽減その他国の政策に適合する適当な措置は、必要な場合には、家族的責任を有する労働者にとつて利用可能であるべきである。
28 22及び23にいう休暇の間、関係労働者は、国内の事情及び慣行に従い、3に規定する方法のいずれかにより、社会保障による保護を受けることができる。
29 労働者は、その配偶者の職業活動及びその職業活動から生ずる受給資格を理由として、社会保障の対象範囲から除外されるべきではない。
30(1) 労働者の家族的責任は、提供された雇用を拒否することにより失業給付の喪失又は停止のおそれがあるという意味において、当該提供された雇用が適当なものであるかないかを決定するに当たり考慮すべき要素であるべきである。
  (2) 特に、提供された雇用が他の地方への移動を伴う場合においては、考慮すべき事項には、配偶者の就業場所及び子を教育する可能性を含めるべきである。
31 27から30までの規定を適用するに当たり、経済が十分に発展していない加盟国は、利用可能である国家財源及び社会保障措置を考慮することができる。

Ⅶ 家族的責任の遂行に係る援助

32 各国の権限のある機関は、労働者の家族的責任から生ずる負担を軽減することができるような公的及び私的な活動を促進すべきである。
33 家族的責任を有する労働者に対し資格のある者の援助(必要な場合には、その支払能力に応じた妥当な料金による。)を提供することのできる適切に規制されかつ監督された家事の手伝い及び家族の世話に係るサービスを発展させるため、国内の事情及び可能性と両立するすべての措置をとるべきである。
34 一般的に労働者の条件を改善するための多くの措置が家族的責任を有する労働者の条件に好ましい影響を与え得るので、各国の権限のある機関は、公共輸送、労働者の住居内又はその付近における水及びエネルギーの供給並びに労働節約型の住宅の供給等の社会におけるサービスの提供を労働者の必要に応じたものにすることができるような公的及び私的な活動を促進すべきである。

Ⅷ 現存する勧告に対する影響

35 この勧告は、千九百六十五年の雇用(家庭責任をもつ婦人)勧告に代わるものである。