1983年の職業リハビリテーション及び雇用(障害者)勧告(第168号)

ILO勧告 | 1983/06/20

職業リハビリテーション及び雇用(障害者)に関する勧告(第168号)

 国際労働機関の総会は、
 理事会によりジュネーヴに招集されて、千九百八十三年六月一日にその第六十九回会期として会合し、
 千九百五十五年の職業更生(障害者)勧告に定める現行の国際基準に留意し、
 千九百五十五年の職業更生(障害者)勧告の採択以来、リハビリテーションの必要性に対する理解、リハビリテーション事業の範囲及び機関並びに同勧告により扱われる問題に関する多くの加盟国の法令及び慣行に著しい進展が見られたことに留意し、
 千九百八十一年が国際連合総会により「完全参加と平等」をテーマとする国際障害者年として宣言されたこと並びに障害者に関する総合的な世界行動計画が、障害者の社会的な生活及び発展への「完全参加」及び「平等」の目標の実現のため、国際的及び国内的段階で効果的な措置をとろうとするためのものであることを考慮し、
 このような進展に伴い、この問題に関する新しい国際基準であつて、農村及び都市の両地域において、すべての種類の障害者が雇用され及び地域社会に統合されるようにするため、これらの障害者の機会及び待遇の均等を確保する必要性を特に考慮するものを採択することが適当となつたことを考慮し、
 前記の会期の議事日程の第四議題である職業リハビリテーションに関する提案の採択を決定し、
 その提案が千九百八十三年の職業リハビリテーション及び雇用(障害者)条約及び千九百五十五年の職業更生(障害者)勧告を補足する勧告の形式をとるべきであると決定して、
 次の勧告(引用に際しては、千九百八十三年の職業リハビリテーション及び雇用(障害者)勧告と称することができる。)を千九百八十三年六月二十日に採択する。

Ⅰ 定義及び適用範囲

1 この勧告及び千九百五十五年の職業更生(障害者)勧告の適用に当たり、加盟国は、「障害者」とは、正当に認定された身体的又は精神的障害の結果、適当な雇用に就き、それを継続し、かつ、それにおいて向上する見込みが相当に減退している者をいうものとみなすべきである。
2 この勧告及び千九百五十五年の職業更生(障害者)勧告の適用に当たり、加盟国は、職業リハビリテーション(同勧告において定義するもの)の目的は、障害者が適当な雇用に就き、それを継続し、かつ、それにおいて向上することができるようにすること及びそれにより障害者の社会への統合又は再統合を促進することにあるとみなすべきである。
3 加盟国は、この勧告の規定を、国内事情に適し、かつ、国内慣行に即した措置によつて適用すべきである。
4 職業リハビリテーションに関する措置は、すべての種類の障害者が利用できるものとすべきである。
5 障害者のための職業リハビリテーション及び雇用に関する事業を立案し及び実施するに当たつては、労働者一般のための現行の職業指導、職業訓練、職業紹介、雇用及び関連の事業を、可能な場合には、必要な調整を行つた上活用すべきである。
6 職業リハビリテーションは、できる限り早期に開始すべきである。このため、医療的及び社会的リハビリテーションについて責任を有する健康管理機構その他の機関は、職業リハビリテーションについて責任を有する機関と定期的に協力すべきである。

II 職業リハビリテーション及び雇用の機会

7 障害者は、可能な場合には、自己の選択に対応し、かつ、その適性が考慮された雇用に就き、それを継続し、かつ、それにおいて向上することについて、機会及び待遇の均等を享受すべきである。
8 障害者のための職業リハビリテーション及び雇用に対する援護措置をとるに当たつては、男女の労働者の間の機会及び待遇の均等の原則を尊重すべきである。
9 障害を有する労働者と他の労働者との間の機会及び待遇の実効的な均等のための特別な積極的措置は、他の労働者を差別するものとはみなされるべきではない。
10 障害者の雇用の機会で、労働者一般に適用される雇用及び賃金の基準に合致するものを増大するための措置をとるべきである。
11 10の措置は、千九百五十五年の職業更生(障害者)勧告VIIに掲げられるものに加えて次のことを含むべきである。
(a) 開かれた労働市場における雇用の機会を創設するための適当な措置(使用者が障害者のための訓練及びその後の雇用を提供すること並びにこれらの訓練及び雇用の促進のために作業場、職務設計、作業具、機械及び作業編成について妥当な調整を行うことを奨励するための使用者に対する財政援助を含む。)をとること。
(b) 一般雇用に就くことが可能でない障害者のための各種の保護雇用を確立するための適当な政府援助を行うこと。
(c) 保護作業施設及び生産作業施設で働く障害を有する労働者の雇用状況を改善するため及び、可能な場合には、そのような労働者が通常の条件の下で雇用に就くための準備を援助するため、組織及び管理の問題に関する両施設の間の協力を奨励すること。
(d) 非政府機関が運営する障害者のための職業訓練、職業指導、保護雇用及び職業紹介の事業に対する適当な政府援助を行うこと。
(e) 障害者による及び障害者のための協同組合であつて、適当な場合には、労働者一般にも開かれるものの設立及び発展を奨励すること。
(f) 障害者による及び障害者のための(並びに、適当な場合には、労働者一般にも開かれる)小規模産業、協同組合その他の型態の生産作業施設の設立及び発展のために適当な政府援助を行うこと。ただし、このような作業施設は、所定の最低基準を満たすものであることを条件とする。
(g) 障害者の訓練及び雇用のため、その移動並びに建築物への接近及び建築物の中における自由な行動を阻害する物理上、コミュニケーション上及び建築上の障壁及び障害を、必要な場合には段階的に、除去すること。公共の建築物及び施設を新設する場合には、適当な基準を考慮すべきである。
(h) 可能かつ適当な場合には、障害者の必要に応じ、リハビリテーション及び作業を行う場所への往復移動のための適切な手段をとることを促進すること。
(i) 障害者の雇用における統合の実際のかつ成功した例に関する情報の普及を奨励すること。
(j) リハビリテーション・センター、作業施設、使用者及び障害者に必要な特定の物品、訓練用の材料及び機器並びに障害者が雇用に就き、かつ、それを維持することを援助するために必要な特定の補助機器及び装置に対し、輸入の際に又はその後に課される内国税その他すべての種類の内国課徴金の賦課を免除すること。
(k) フル・タイムの雇用が直ちには、又は永久的に可能でない障害者について、その個々の能力に応じたパート・タイムの雇用その他の就労に関する措置をとること。
(l) 障害者の通常の職業生活への参加を促進するための研究調査を行うこと及び各種の障害に対し、その研究調査の結果をできる限り応用すること。
(m) 職業訓練及び保護雇用の枠内での搾取の可能性を排除し、並びに開かれた労働市場への移行を促進するための適当な政府援助を行うこと。
12 障害者の職業生活及び社会への統合又は再統合のための計画の立案に当たつては、あらゆる形式の訓練について考慮すべきである。これらの訓練には、必要かつ適当な場合には、職業準備、職業訓練、単位制(モジュール)訓練、日常生活のための行動訓練及び読み書きの訓練その他職業リハビリテーションに関連する分野の訓練を含むべきである。
13 また、障害者の通常の職業生活への統合又は再統合及びこれによる社会への統合又は再統合を確保するため、特別の援助措置(障害者が適当な雇用に就き、それを継続し、かつ、それにおいて向上することができるようにするための補助機器、装置及び継続的な個人の援助の提供を含む。)の必要性についても考慮すべきである。
14 障害者の職業リハビリテーションに関する措置については、その成果を評価するため、フォローアップをすべきである。

III 地域社会の参加

15 都市及び農村の両地域並びにへき地の地域社会における職業リハビリテーション事業は、地域社会のできる限り十分な参加、特に使用者団体、労働者団体及び障害者団体の代表の参加を得て編成しかつ運営すべきである。
16 障害者のための職業リハビリテーション事業の編成への地域社会の参加は、次のことを目的とする慎重に計画した広報措置により促進すべきである。
(a) 障害者及び、必要な場合にはその家族に対し、雇用の分野における障害者の権利及び機会について周知させること。
(b) 障害者の雇用及び障害者の社会への統合又は再統合に対する偏見、誤つた情報及び好意的でない態度を克服すること。
17 地域社会の指導者及び集団(障害者自身及びその団体を含む。)は、地域社会における障害者の必要を把握するに当たり、及び、可能な場合には、一般に利用することができる活動及び事業に障害者を含むことを確保するに当たり、保健、社会福祉、教育及び労働機関その他関係政府機関と協力すべきである。
18 障害者のための職業リハビリテーション及び雇用に関する事業は、地域社会開発の本流に統合され、並びに、適当な場合には、財政的、物的及び技術的な援助を受けるべきである。
19 職業リハビリテーション事業の実施について及び障害者の地域社会における職業生活への統合又は再統合を可能にすることについて、特に優れた実績を有する自主的団体に対して公的な表彰を与えるべきである。

IV 農村地域における職業リハビリテーション

20 農村地域及びへき地の地域社会の障害者に対する職業リハビリテーション事業を、都市地域で実施する職業リハビリテーション事業と同一の水準及び同一の条件により実施することを確保するため、特に努めるべきである。そのような事業の開発は、一般的な農村開発政策の重要な部分をなすべきである。
21 このため、適当な場合には、次のことのための措置をとるべきである。
(a) 農村地域のリハビリテーションに従事する職員の訓練の中心となるものとして、農村の現行の職業リハビリテーション事業又は、そのような事業が存在しない場合には、都市地域の職業リハビリテーション事業を指定すること。
(b) 農村地域の障害者のための移動式の職業リハビリテーションのユニットを設置し、障害者の農村における訓練及び雇用の機会に関する情報を普及するために中心となつて活動すること。
(c) 農村開発及び地域社会開発に従事する者に職業リハビリテーションの技術訓練を行うこと。
(d) 農村地域社会の障害者が協同組合を設立しかつ経営し又は家内工業、農業若しくは手工業その他の活動において自営することを援助するため、貸付金、補助金又は作業具若しくは資材を提供すること。
(e) 現行の又は計画中の一般の農村開発活動に、障害者に対する援助を含めること。
(f) 障害者が作業場から合理的な距離にある住居を利用することを容易にすること。

V 職員の訓練

22 専門的訓練を受けたリハビリテーションのカウンセラー及び専門家の外、障害者の職業リハビリテーション及び雇用機会の開発に従事するすべての者は、リハビリテーションに関する訓練又は指導を受けるべきである。
23 労働者一般の職業指導、職業訓練及び職業紹介に従事する者は、能力障害及びそれによる制約の影響についての適切な知識並びに障害者の活動的な経済及び社会生活への統合を促進するために活用することができる援護事業に関する知識を有すべきである。これらの者が、その知識を最新のものとし及びこの分野における経験を拡大するための機会を与えるべきである。
24 障害者の職業リハビリテーション及び訓練に従事する職員の訓練、資格及び報酬は、健常者の職業訓練に従事する者で同様の職務及び責任を有するものと同等であるべきである。職業経歴についての機会は、これらの専門職員のいずれにとつても同等であるべきであり、また、職業リハビリテーションに従事する職員と健常者の職業訓練に従事する職員との間の交流を奨励すべきである。
25 職業リハビリテーション、保護作業施設及び生産作業施設の職員は、一般的な訓練の一部として及び適当な場合には、作業施設の管理並びに生産及び市場取引の技術についての訓練を受けるべきである。
26 リハビリテーションに従事する十分な訓練を受けた職員を十分に確保することができない場合には、職業リハビリテーションの援助者及び補助者を採用し及び訓練する措置を検討すべきである。これらの援助者及び補助者の活用は、十分な訓練を受けた職員の恒久的な代用とすべきではない。可能な場合には、これらの援助者及び補助者を訓練を受けた職員に十分に統合するため、これらの者が向上するための訓練の措置をとるべきである。
27 適当な場合には、職業リハビリテーションに従事する職員のための地域的及び地区的な訓練センターの設立を奨励すべきである。
28 障害者の職業指導、職業訓練、職業紹介及び雇用援護に従事する職員は、障害者が経験する可能性のある動機付けの問題及び困難を理解し並びにこのような問題及び困難から生ずる必要をその職員の権限内で処理するため、適当な訓練を受け及び適当な経験を有すべきである。
29 適当な場合には、障害者が職業リハビリテーションに従事する職員としての訓練を受けることを奨励し、また、リハビリテーションの分野における雇用に就くことを促進するための措置をとるべきである。
30 障害者及びその団体は、職業リハビリテーションに従事する職員のための訓練計画の促進、実施及び評価に当たつて協議を受けるべきである。

VI 職業リハビリテーション事業の発展に対する使用者団体及び労働者団体の貢献

31 使用者団体及び労働者団体は、他の労働者と対等の資格における障害者の訓練及び適当な雇用を促進するための政策を採用すべきである。
32 使用者団体及び労働者団体は、障害者及びその団体と共に、職業リハビリテーション事業の編成及び発展に関する政策の策定に貢献し並びにこの分野における研究調査を実施し及び法令を提案することができるようにすべきである。
33 使用者団体、労働者団体及び障害者団体の代表は、可能かつ適当な場合には、職業リハビリテーションの計画が各種の経済部門の要請に応ずることを確保するため、障害者が使用する職業リハビリテーション・センター及び職業訓練センターの評議会及び委員会で政策及び技術的事項に関する決定を行うものの委員に含まれるべきである。
34 企業における使用者の代表及び労働者の代表は、可能かつ適当な場合には、その企業に雇用されている障害者の職業リハビリテーション及び配置転換の可能性並びに他の障害者に対する雇用の場の提供の可能性を検討するに当たり、適切な専門家と協力すべきである。
35 企業は、可能かつ適当な場合には、地域社会に基礎を置いたリハビリテーション事業及び他のリハビリテーション事業との密接な協力の上、職業リハビリテーション事業(各種の保護雇用を含む。)を確立し又は維持することを奨励されるべきである。
36 使用者団体は、可能かつ適当な場合には、次のことのための措置をとるべきである。
(a) 障害を有する労働者が利用することができる職業リハビリテーション事業に関して、使用者団体の構成員に助言すること。
(b) 例えば、障害者が必要とする労働条件及び職務要件に関する情報を提供することにより障害者の活動的な職業生活への再統合を促進する団体及び機関と協力すること。
(c) 適切な職務についての基本的任務又は要件の調整で障害を有する労働者のために行うものに関して、使用者団体の構成員に助言すること。
(d) 生産方法の再編成により障害者が不用意に解雇されることがないように、それがもたらす可能性のある影響について考慮することを、使用者団体の構成員に助言すること。
37 労働者団体は、可能かつ適当な場合には、次のことのための措置をとるべきである。
(a) 障害を有する労働者が職場段階における討議及び職場委員会その他の労働者を代表する機関に参加することを促進すること。
(b) 業務によるものであるかないかを問わず、疾病又は事故によつて障害者となつた労働者の職業リハビリテーション及び保護のため、指針を提案し及びこの指針を労働協約、規則、仲裁裁定又は他の適当な文書に定めること。
(c) 職場適応、特別の作業編成、試験的な訓練及び雇用並びに基準労働量の設定等の障害を有する労働者に影響を及ぼす職場における措置について助言すること。  
(d) 障害者の職業リハビリテーション及び雇用に関する問題を労働組合の会合で提起すること、並びに、障害者の職業リハビリテーション及び雇用に関する問題及び可能性について、出版物及びセミナーを通じて労働者団体の構成員に周知させること。

VII 職業リハビリテーション事業の発展に対する障害者及びその団体の貢献

38 リハビリテーションに関する活動に対する障害者、その代表及び団体の参加でこの勧告の15、17、30、32及び33に規定するものに加え、障害者及びその団体が職業リハビリテーション事業の発展に関与するための措置には、次のことを含むべきである。
(a) 障害者及びその団体が、障害者の雇用及び社会への統合又は再統合の促進のため、障害者の職業リハビリテーションを目的とする地域社会活動の発展に参加することを奨励すること。
(b) 障害者による及び障害者のための団体の発展並びにその団体の職業リハビリテーション及び雇用に関する事業に係る関与を促進するための適切な政府援助(障害者自身による障害者の訓練計画の実施のための援助を含む。)を行うこと。
(c) 障害者の能力について肯定的な印象を与える一般向けの教育計画を実施するこのような団体に対する適切な政府援助を行うこと。

VIII 社会保障制度に基づく職業リハビリテーション

39 この勧告の適用に当たり、加盟国は、千九百五十二年の社会保障(最低基準)条約第三十五条、千九百六十四年の業務災害給付条約第二十六条及び千九百六十七年の障害、老齢及び遺族給付条約第十三条の規定をも指針とすべきである。ただし、加盟国は、これらの文書の批准から生ずる義務には拘束されない。
40 社会保障制度は、可能かつ適当な場合には、障害者のための訓練、職業紹介及び雇用(保護雇用を含む。)の計画並びに職業リハビリテーション事業(リハビリテーションのカウンセリングを含む。)を実施し又はこれらの計画若しくは事業の編成、促進及び財政に対して貢献すべきである。
41 社会保障制度は、また、障害者が雇用の場を探すための奨励措置及び開かれた労働市場への漸進的移行を促進するための措置を提供すべきである。

IX 調整

42 職業リハビリテーションに関する政策及び計画が、労働行政、一般の雇用政策及び雇用促進、職業訓練、社会への統合、社会保障、協同組合、農村開発、小規模産業、手工業、作業上の安全及び衛生、作業方法及び作業編成の個々の必要への適合並びに労働条件の改善に影響を与える社会及び経済開発の政策及び計画(科学的調査及び先進技術を含む。)と調整されることを実行可能な限り、確保するための措置がとられるべきである。