1988年の雇用の促進及び失業に対する保護勧告(第176号)

ILO勧告 | 1988/06/21

雇用の促進及び失業に対する保護に関する勧告(第176号) 

 国際労働機関の総会は、
 理事会によりジュネーヴに招集されて、千九百八十八年六月一日にその第七十五回会期として会合し、
 その会期の議事日程の第五議題である雇用の促進及び社会保障に関する提案の採択を決定し、
 その提案が千九百八十八年の雇用の促進及び失業に対する保護条約を補足する勧告の形式をとるべきであることを決定して、
 次の勧告(引用に際しては、千九百八十八年の雇用の促進及び失業に対する保護勧告と称することができる。)を千九百八十八年六月二十一日に採択する。

Ⅰ 一般規定

1 この勧告において、
  (a) 「法令」とは、法律、命令及び社会保障に関する規則をいう。
  (b) 「所定の」とは、国内法令により又はこれに基づいて定められていることをいう。
  (c) 「条約」とは、千九百八十八年の雇用の促進及び失業に対する保護に関する条約をいう。

Ⅱ 生産的雇用の促進

2 完全雇用、生産的な雇用及び職業の自由な選択をあらゆる適当な方法(社会保障を含む。)によって促進することは、国家政策の優先的な目的であるべきである。そのような方法には、特に、職業紹介サービス、職業訓練及び職業指導を含むべきである。
3 経済危機の時期においては、調整政策には、所定の条件に従い、大規模な労働力の最大利用を率先して行うことを奨励するための措置を含むべきである。
4 加盟国は、所定の条件に従い、最適な方法により、職業的移動を奨励するため特に次の手当を支給するように努めるべきである。
  (a) 2の職業紹介サービスを利用するために必要な旅費及び設備費に対する手当
  (b) 所定の職業訓練期間又は再訓練期間中の、条約第十五条の規定に従って算出された定期金という形での手当
5 加盟国は、所定の条件に従い、最適な方法により、職業的又は地理的移動を奨励するため特に次の手当及び交付金を支給することを更に考慮すべきである。
  (a) 適当な場合には、配転の結果としての賃金減額を相殺するための一時的な逓減的手当
  (b) 旅費及び移転手当
  (c) 別居手当
  (d) 着任交付金
6 加盟国は、職業的移動に対する障害を除去するため、法定年金制度の調整を確保し及び私的年金制度の調整を奨励すべきである。
7 加盟国は、所定の条件に従い、他の労働者の雇用を危うくすることなく、保護対象者の生産的雇用及び職業の自由な選択の機会を増やす目的で、保護対象者に対して報酬のある一時的雇用に従事することを可能にする便宜を提供すべきである。
8 加盟国は、自己の事業の設立又は別の経済活動を始めることを希望する失業者に対して、所定の条件に従って財政的援助及び助言を可能な限り提供すべきである。
9 加盟国は、その国内法令で保護されている外国人労働者で、自己の国籍国又は以前居住していた国の領域へ帰還することを自己の意思で希望するものに対する援助を規定する二国間及び多数国間の協定を締結することについて、考慮すべきである。このような協定が存在しない場合には、加盟国は、国内法令を通じて当該労働者に財政的援助を提供すべきである。
10 加盟国は、適当な場合には、多数国間協定に従って、国内での雇用を妨げず促進するような方法で法定年金制度及び老後のための基金によって積み立てられた積立金を投資し、私的財源(私的年金制度を含む。)による当該投資を奨励し、それと同時に当該投資の安全及び利回りについての必要な保障を与えるべきである。
11 地域サービス(社会保障拠出金又は他の財源から融資された保健サービスを含む。)を農村及び都市に漸進的に導入することは、雇用の増大及び人的訓練の提供を導くとともに、雇用の促進に関する国家的目的の達成に実際的に貢献することとなるべきである。

Ⅲ 失業の保護

12 部分失業の場合及び条約第十条3に規定する場合には、給付は、所定の条件に従い、失業による勤労所得の喪失を公正に補償する定期金の形で支給されるべきである。当該給付は、失業者が被った労働時間の減少に照らして、又はパートタイムの仕事若しくは一時的な仕事がフルタイムの仕事への復帰に資する場合においては、これらの形態の仕事への意欲を減退させないようにパートタイムの仕事から得られる勤労所得及び給付の合計がフルタイムの仕事からの従前の勤労所得の総額と完全失業給付額との間の金額となるよう、算定することができる。
13 (1) 給付の算定のために条約第十五条に規定する百分率は、受給者の勤労所得総額(租税及び社会保障拠出金を含む。)を基礎として得られるべきである。
   (2) 適当な場合には、(1)の百分率は、租税及び拠出金を控除した定期金の純額と、租税及び拠出金を控除した勤労所得の純額を比較することにより得られるものとすることができる。
14 (1) 適切な雇用という概念は、所定の条件に従い、次の雇用には適用すべきではない。
     (a) 当該者の能力、資格、技能、職業経験又は再訓練の可能性を考慮していない、職業の変更を伴う雇用
     (b) 適当な住宅を利用することができない場所への住所の変更を伴う雇用
     (c) 条件及び報酬が、雇用が提供される職業及び地域において、対応する時期に一般に付与されている条件及び報酬よりもかなり好ましくない雇用
     (d) 進行中の労働争議による作業の中止の直接的な結果として欠員となっている雇用
     (e)  (a)から(d)までに含まれる理由以外の理由によるもので、当該者の家族的責任を含めたすべての付帯する状況を十分考慮した上で、雇用の拒否が不当でないような雇用
   (2)  (a)から(c)まで及び(e)に掲げる基準を評価するに当たっては、失業者の年齢、従前の職業の勤務の長さ、取得した経験、失業期間の長さ、労働市場の状態並びに当該雇用が本人及び家族の状況に与える効果について考慮すべきである。
15 14の規定により適切と考えられない一時的雇用又は条約第十条3に含まれる状況でのパートタイム雇用を受け入れることに失業者が同意した場合には、当該雇用の終了時に支給される失業給付の水準及び期間は、当該雇用からの失業者の勤労所得によって所定の最長の期間中不当な影響を受けてはならない。
16 加盟国は、失業給付に関する国内法令の適用を、すべての被用者を含めるよう漸進的に拡大するように努めるべきである。ただし、正規の退職年齢までの雇用が国内の法律又は命令によって保証されている公的被用者は、保護対象から除外することができる。
17 加盟国は、待期期間に困窮している労働者を保護するように努めるべきである。
18 条約第二十六条1に規定する種類の者には、適当な場合には、次の規定が適用されるべきである。
  (a) 完全失業の場合には、条約第十六条の規定に基づいて給付を算定することができる。
  (b) 所定の条件に従い、新規求職者の種類の一部に対しては資格期間を調整し又は適用を除外すべきである。
  (c) 資格期間なしに給付を支給する場合には、
   (i)  待期期間を所定の長さまで延長することができる。
   (ii) 条約第十九条1の規定にかかわらず、所定の条件に従い、給付の支給期間を制限することができる。
19 給付の支給期間が国内法令によって制限される場合には、年金受給年齢前の所定の年齢に達している失業者について、所定の条件に従い、給付の支給期間を年金受給年齢まで延長すべきである。
20 加盟国は、その国内法令で医療を受ける権利を規定し、かつ、職業活動をその直接的又は間接的な条件としている場合には、所定の条件に従い、失業者(可能な場合には、失業給付を受給していない者を含む。)及びその扶養家族への医療の給付を確保するように努めるべきである。
21 加盟国は、その国内法令が(a)及び(b)に規定する給付を規定し、かつ、職業活動をその直接的又は間接的な条件とする場合には、失業給付の受給者に対し、所定の条件に従い、給付が支給される期間が次の事項について考慮されることを保証するように努めるべきである。
  (a) 障害給付、老齢給付及び遺族給付を受ける権利の取得並びに適当な場合にはその計算
  (b) 失業の終了後における医療給付、疾病給付、出産給付及び家族給付を受ける権利の取得
22 加盟国は、職業活動を基礎とする法定社会保障制度をパートタイム労働者の職業上の事情に適合させるように努めるべきである。条約第二十五条に規定するその適合は、所定の条件に従い、特に、次の事項と関連を有するものであるべきである。
  (a) 基礎的及び補足的制度の下における受給資格に必要な最低労働時間及び最低勤労所得
  (b) 拠出金算定のための最高勤労所得
  (c) 受給資格を得るための資格期間
  (d) 勤労所得に基づく現金給付及び拠出、保険又は職業活動の期間の長さに基づく現金給付、特に年金の算定方法
  (e) 減額を受けない最低給付及び一定率給付、特に家族手当の受給資格
23 加盟国は、失業者、特に長期にわたる失業者の困窮及び十分な収入についての当該失業者の必要について真の理解を促進するように努めるべきである。

Ⅳ 保護制度の発展

24 一部の加盟国の失業者に対する保護制度が発展の初期段階にあること及び他の加盟国も需要の変化という観点から既存制度の変更について考慮すべき場合があることから、失業者の援助については多様な方法を適法に採用することができるとともに、加盟国は、失業者に対する援助計画についての十分かつ率直な情報交換を優先的に行うべきである。
25 失業に対する保護制度の発展を意図する加盟国は、少なくとも千九百五十二年の社会保障(最低基準)条約第四部(失業給付)に定める基準を達成するため、可能かつ適当である限りにおいて、次の諸規定を参考にすべきである。
26 (1) 加盟国は、失業補償のための社会保障制度の策定及び導入に伴う技術的及び行政的な困難を認識すべきである。加盟国は、羈(き)束裁量的性格の給付の支払を通しての失業補償という形態を導入するため、できる限り速やかに次の条件を満たすように努力すべきである。
    (a) 職業安定所のネットワークを有し、雇用市場の情報を収集し、分析し、求人及び求職者を登録し、並びに当該者が非自発的に失業していることを客観的に証明するための十分な管理能力を有する無料の公共職業紹介サービスの導入及び有効な運営
    (b) プライマリー・ヘルスケア、業務災害補償等、社会的及び経済的理由により重要性を有すると認められるその他の社会保障部門についての行政における広い経験及びその行政の適用範囲の適切な水準
   (2) 加盟国は、最重要事項として、労働市場における技能と欠員のある職業の自発的な調和を促進するため、特に、職業指導、訓練等必要かつ適当な措置により、適切な賃金及び労働条件を提供する十分に高い水準の安定した雇用を促進することによって、(1)に規定する条件を満たすように努力すべきである。
   (3) 国際労働事務局の協力及び技術的助言は、国内の専門知識が不十分である場合には、加盟国がこの面で主導するいずれの活動も支持するために引き続き大いに活用されるべきである。
   (4)  (1)に規定する条件が満たされる場合には、加盟国は、利用可能な財源が許す範囲でできる限り速やかに、かつ、必要な場合には段階的に、国内事情に従って失業者の保護のための計画(失業補償のための社会保障制度を含む。)を導入すべきである。
27 26(1)に規定する条件が満たされなかった場合には、加盟国は、利用可能な財源が許す範囲で、かつ、国内事情に従って、最貧困失業者のための特別援助措置を優先させるべきである。
28 老後のための国民基金を設けている加盟国は、長期の失業により勤労所得が中断し、家族事情が不安定である基金加入者に対し、基本的必需品をまかなうため定期的な現金給付を認可する可能性を検討することができる。現金給付の水準及び支給可能な期間は、事情により、特に加入金額に応じて制限することができる。
29 加盟国は、また、使用者団体及び労働者団体が企業又は企業間レベルで援助基金を設立するよう奨励することができる。援助基金は、十分な経済的能力を有する企業及び活動分野において有利に導入することができる。
30 失職した労働者に離職手当を支給することを法令によって使用者に要求している加盟国は、当該労働者が離職手当を受領することを確保するため、使用者の拠出金から成る基金の創設を通じて共同でこの責任を負うように規定することを企図すべきである。