2001年の農業における安全健康勧告(第192号)
農業における安全及び健康に関する勧告(第192号)
国際労働機関の総会は、
理事会によりジュネーヴに招集されて、二千一年六月五日にその第八十九回会期として会合し、
前記の会期の議事日程の第四議題である農業における安全及び健康に関する提案の採択を決定し、
その提案が二千一年の農業における安全及び健康に関する条約(以下「条約」という。)を補足する勧告の形式をとるべきであることを決定して、
次の勧告(引用に際しては、二千一年の農業における安全健康勧告と称することができる。)を二千一年六月二十一日に採択する。
Ⅰ 一般規定
1 条約第五条の規定を実施するため、千九百六十九年の労働監督(農業)条約及び千九百六十九年の労働監督(農業)勧告に具現された原則に照らして、農業における労働監督に関する措置をとるべきである。
2 多国籍企業は、無差別に、かつ、その事業所の所在する場所又は国にかかわりなく、国内法及び国内慣行並びに多国籍企業及び社会政策に関する原則の三者宣言に従い、すべての事業所における農業労働者に安全及び健康に関する適切な保護を提供すべきである。
Ⅱ 職業上の安全及び健康に係る監督
3(1) 条約第四条に規定する国内政策を実施するために指定された権限のある機関は、関係のある代表的な使用者団体及び労働者団体と協議した上で、
(a) 主要な問題を特定し、措置の優先順位を定め並びにそれらを処理するための効果的な方法を開発し及びその結果を定期的に評価すべきである。
(b) 農業における職業上の危険の防止及び規制のための措置を定めるべきである。このため、
(ⅰ) 安全及び健康に関する分野の技術の進歩及び知識並びに認められた国内機関又は国際機関により採択された関係する基準、指針及び実施基準を考慮すべきである。
(ⅱ) 農業活動の影響から一般的環境を保護する必要性を考慮すべきである。
(ⅲ) 農業労働者の作業に関連する風土病の危険を防止し又は規制するためにとる措置を明記すべきである。
(ⅳ) 単独の労働者が孤立し又は限定された地域における危険な作業を、適切な通信可能性及び支援の手段を与えられることなく行うべきでないことを明記すべきである。
(c) 使用者及び労働者のための指針を作成すべきである。
(2) 権限のある機関は、条約第四条の規定を実施するため、次のことを行うべきである。
(a) 農業労働者のための適当な職業上の健康に関するサービスを漸進的に拡大するための規定を定めること。
(b) 農業における職業上の災害及び疾病の記録及び通知のための手続、特に、統計の編集、国内政策の実施及び企業の段階における防止計画の作成のための手続を定めること。
(c) 農業における使用者及び農業労働者のニーズに対応する教育計画及び教材を通じて、農業における安全及び健康を増進すること。
4(1) 権限のある機関は、条約第七条の規定を実施するため、職業上の安全及び健康に係る監督のための国内制度を設けるべきである。この制度には、労働者の健康に係る監督及び作業環境の監視の双方を含むべきである。
(2) (1)の制度は、必要な危険性の評価並びに適当な場合には特に次の事項に関し防止及び規制のための措置を含むべきである。
(a) 有害な化学物質及び廃棄物
(b) 毒性、感染性又はアレルギー性の生物学的な因子及び廃棄物
(c) 刺激性又は毒性の蒸気
(d) 有害な粉じん
(e) がん原性物質又はがん原性因子
(f) 騒音及び振動
(g) 極端な温度
(h) 太陽紫外放射
(i) 動物の伝染性の疾病
(j) 野生の又は有毒な動物への接触
(k) 機械及び設備(個人用保護具を含む。)の使用
(l) 荷の手による取扱い又は輸送
(m) 集中的又は持続的な身体的及び精神的活動、作業に関連するストレス並びに不適切な作業姿勢
(n) 新たな技術による危険
(3) 適当な場合には、年少労働者、妊娠中及び育児中の女性並びに高齢労働者に対する健康に係る監督のための措置をとるべきである。
Ⅲ 予防的及び保護的措置
危険性の評価及び管理
5 条約第七条の規定を実施するため、企業の段階における安全及び健康のための措置には、次のものを含むべきである。
(a) 職業上の安全及び健康に関するサービス
(b) 次の優先順位による危険性の評価及び管理のための措置
(ⅰ) 危険を除去すること。
(ⅱ) 危険をその発生源において規制すること。
(ⅲ) 安全な作業体制の作成、技術上及び組織上の措置並びに安全な作業方法の導入並びに訓練の方法により危険を最小限にすること。
(ⅳ) 更に危険がある限りにおいて、労働者の負担によることなく個人用保護具及び保護衣を支給し及び使用させること。
(c) 応急医療及び医療施設への適当な輸送手段の利用を含む災害及び緊急事態に対処するための措置
(d) 災害及び疾病の記録及び通知のための手続
(e) 農地にいる者、農地の付近にいる住民及び一般的環境を、関係する農業活動、例えば、農薬廃棄物、家畜廃棄物、土壌及び水の汚染、土壌の消耗、地形の変更から生ずる危険から保護するための適当な措置
(f) 使用されている技術が、気候、作業組織及び作業方法に対応して調整されることを確保するための措置
機械の安全及び人間工学
6 条約第九条の規定を実施するため、利用者の国の現地の状況、特に、人間工学的影響及び気候への影響を考慮して、技術、機械及び設備(個人用保護具を含む。)の適当な選択又は適応を確保するために措置をとるべきである。
化学物質の適正な管理
7(1) 農業における化学物質の適正な管理に関して定められる措置は、千九百九十年の化学物質条約及び千九百九十年の化学物質勧告の原則並びに他の関連する国際的な技術基準に照らしてとるべきである。
(2) 特に、企業の段階においてとられる予防的及び保護的措置には、次の事項を含むべきである。
(a) 労働者の負担によることのない、適切な個人用保護具及び保護衣、並びに化学物質の使用、並びに個人用保護具及び使用器具の維持及び手入れのための洗浄設備
(b) 化学物質を取り扱う地域における散布及び散布後の予防措置(食糧、飲料、洗浄及びかんがい用水源の汚染防止措置を含む。)
(c) 不要となった有害な化学物質及びその残滓を含む可能性のある空の容器の安全及び健康並びに環境に対する危険を除去し又は最小限にする方法による、かつ、国内法及び国内慣行に従った取扱い及び処理
(d) 農業において使用される農薬の登録簿の保管
(e) 農業労働者の継続的な訓練(当該訓練には、適当な場合には、作業における化学物質の使用に関連する慣行及び手続又は危険性並びに従うべき予防措置に関する訓練を含む。)
動物の取扱い及び生物学的な危険からの保護
8 条約第十四条の規定を実施するため、感染、アレルギー又は中毒の危険をもたらす生物学的な因子の取扱い及び動物の取扱いのための措置には、次の事項を含むべきである。
(a) 生物学的な危険を除去し、防止し又は減少させるための5の規定による危険性の評価のための措置
(b) 人に伝染する可能性のある疾病に対する動物診療上の基準並びに国内法及び国内慣行による動物の管理及び検査
(c) 動物の取扱いのための保護的措置並びに適当な場合には保護具及び保護衣の支給
(d) 生物学的な因子の取扱いのための保護的措置並びに必要な場合には適当な保護具及び保護衣の支給
(e) 適当な場合には、動物を取り扱う労働者に対する予防接種
(f) 消毒剤及び洗浄設備の提供並びに個人用保護具及び保護衣の維持及び手入れ
(g) 有毒な動物、昆虫又は植物に接触する場合の応急医療、解毒剤又は他の非常措置の提供
(h) 肥料及び廃棄物の取扱い、収集、貯蔵及び処分のための安全措置
(i) 感染した動物の死体の取扱い及び処分のための安全措置(汚染された施設の清掃及び消毒を含む。)
(j) 動物を取り扱う労働者に対する警告標識及び訓練を含む安全に関する情報
農業施設
9 条約第十五条の規定を実施するため、農業施設に関する安全及び健康に関する要件は、建物、構築物、手すり、さく及び限定された場所のための技術基準を特定すべきである。
福祉施設及び居住施設
10 条約第十九条の規定を実施するため、使用者は、適当な場合には、国内法及び国内慣行に従って農業労働者に対し次のものを提供すべきである。
(a) 十分な量の安全な飲料水
(b) 防護衣の保管及び洗浄のための施設
(c) 食事のための施設及び実行可能な場合には作業場における育児のための施設
(d) 男女労働者のための別々の衛生設備及び洗浄設備又はそれらの別々の使用
(e) 作業に関連する輸送
Ⅳ その他の規定
女性労働者
11 条約第十八条の規定を実施するため、妊娠中又は哺育中の女性の安全及び健康並びに女性の性及び生殖に関する健康に関する作業場の危険性の評価を確保するために措置をとるべきである。
自営の農民
12(1) 加盟国は、適当な場合には、代表的な自営の農民団体の意見を考慮して、条約によって与えられる保護を自営の農民に漸進的に拡大するための計画を作成すべきである。
(2) このため、国内法令は、農業における安全及び健康に関する自営の農民の権利及び義務を特定すべきである。
(3) 国内事情及び国内慣行に照らし、代表的な自営の農民団体の意見は、適当な場合には、条約第四条に規定する国内政策の策定、実施及び定期的な検討に際して考慮されるべきである。
13(1) 国内法及び国内慣行に従い、権限のある機関は、自営の農民が条約によって与えられる安全及び健康に関する保護を受けるために措置をとるべきである。
(2) これらの措置には、次の事項を含むべきである。
(a) 自営の農民のための適当な職業上の健康に関するサービスの漸進的な拡大に関する規定
(b) 自営の農民を含む職業上の災害及び疾病の記録及び通知における手続の漸進的な発展
(c) 自営の農民のための指針、教育計画及び教材並びに適当な助言及び訓練の開発。これらについて
は、特に次の事項を対象とする。
(i) 作業に関連する危険(筋骨格障害の危険、化学物質及び生物学的な因子の選択及び使用、安全な作業体制の作成並びに個人用保護具、機械、器具及び装置の選択、利用及び維持を含む。)に関する自営の農民及び自営の農民と共に作業する者の安全及び健康
(ii) 児童が危険な活動に従事することの防止
14 経済的な、社会的な及び行政上の事情が国民保険制度又は任意保険制度に自営の農民及びその家族を含めることを許さない場合には、加盟国は、これらの者について条約第二十一条に規定する水準まで漸進的に適用するための措置をとるべきである。これは、次の方法によって達成することができる。
(a) 特別な保険制度又は基金を設けること。
(b) 現行の社会保障制度を適合させること。
15 自営の農民に関する14に規定する措置を実施するに当たり、次の特別の事情を考慮すべきである。
(a) 小作農及び分益農
(b) 小規模な自営の農民
(c) 農業的集団企業に参加している者、例えば、農民の協同組合
(d) 国内法及び国内慣行に従って定められる家族の構成員
(e) 自給自足の農民
(f) 国内法及び国内慣行によりその他の自営の農民とされる者