2006年の職業上の安全及び健康促進枠組勧告(第197号)

ILO勧告 | 2006/06/15

職業上の安全及び健康を促進するための枠組みに関する勧告(第197号)

 国際労働機関の総会は、
 理事会によりジュネーブに招集されて、二千六年五月三十一日にその第九十五回会期として会合し、
 会期の議事日程の第四議題である職業上の安全及び健康に関する提案の採択を決定し、
 その提案が二千六年の職業上の安全及び健康を促進するための枠組みに関する条約(以下「条約」という。)を補足する勧告の形式をとるべきであることを決定して、
 次の勧告(引用に際しては、二千六年の職業上の安全及び健康促進枠組勧告と称することができる。)を二千六年六月十五日に採択する。

Ⅰ 国内政策

 1 条約第三条の規定に基づいて定められる国内政策については、千九百八十一年の職業上の安全及び健康条約(第百五十五号)第二部の規定並びに同条約における労働者、使用者及び政府の関連する権利、義務及び責任を考慮すべきである。

Ⅱ 国内制度

 2 加盟国は、条約第一条(b)に定義する職業上の安全及び健康に関する国内制度を定め、維持し、漸進的に発展させ、及び定期的に検討するに当たり、
 (a) 附属書に掲げる職業上の安全及び健康を促進するための枠組みに関連する国際労働機関の文書、特に、千九百八十一年の職業上の安全及び健康条約(第百五十五号)、千九百四十七年の労働監督条約(第八十一号)及び千九百六十九年の労働監督(農業)条約(第百二十九号)を考慮すべきである。
 (b) 条約第四条1に規定する協議に他の関係者を加えることができる。
 3 職業上の負傷、疾患及び死亡を予防する観点から、国内制度については、すべての労働者、特に、危険性の高い部門の労働者及び被害を受けやすい労働者(例えば、非公式な経済に従事する労働者並びに移民労働者及び若年労働者)の保護のための適当な措置を定めるべきである。
 4 加盟国は、男女労働者の安全及び健康を保護するための措置(生殖に係る健康の保護を含む。)をとるべきである。
 5 加盟国は、条約第一条(d)に定義する各国の安全及び健康に関する危害防止の文化を促進するに当たり、次のことに努めるべきである。
 (a) 国内の啓蒙活動(適当な場合には、職場の及び国際的な発意に基づく活動と関連付けられるもの)を通じて、職業上の安全及び健康に関する職場及び公衆の意識を向上させること。
 (b) 特に、経営者、監督者、労働者及びこれらの代表並びに安全及び健康について責任を有する公務員に対し職業上の安全及び健康に関する教育及び訓練を提供するための仕組みの整備を促進すること。
 (c) 職業上の安全及び健康に関する概念及び適当な場合にはこれらを実現する能力を、教育計画及び職業訓練計画に導入すること。
 (d) 関連する機関、使用者、労働者及びこれらの代表の間の職業上の安全及び健康に関する統計及びデータの交換を容易にすること。
 (e) 合理的に実行可能な限り、職業上の危険性又は有害性を除去し、又は最小限にする観点から、使用者、労働者、使用者団体及び労働者団体に対し情報及び助言を提供し、並びにこれらの間の協力を促進し、又は容易にすること。
 (f) 国内法及び国内慣行に従って、職場の段階において、安全及び健康に関する政策の策定、安全及び健康に関する共同委員会の設置並びに職業上の安全及び健康に関する労働者代表の指定を促進すること。
 (g) 職業上の安全及び健康に関する政策及び規則を実施するに当たり、国内法及び国内慣行に従い、零細企業、中小企業及び請負人についての制約に対処すること。
 6 加盟国は、職業上の安全及び健康に関する管理の仕組みのための取組(例えば、職業上の安全及び健康に関する管理の仕組みに関する指針(ILO-OSH二千一)に定める取組)を促進すべきである。

Ⅲ 国内計画

 7 条約第一条(c)に定義する職業上の安全及び健康に関する国内計画は、特に職場の段階における危険性又は有害性の評価及び管理の原則に基づくべきである。
 8 国内計画は、措置の優先順位を特定し、並びに定期的に検討され、及び更新されるべきである。
 9 加盟国は、国内計画を定め、及び検討するに当たり、条約第五条1に規定する協議に他の関係者を加えることができる。
 10 条約第五条の規定を実施する観点から、国内計画は、職場における予防措置並びに使用者、労働者及びこれらの代表の参加を含む活動を積極的に促進するものとすべきである。
 11 職業上の安全及び健康に関する国内計画は、適当な場合には、他の国内計画等(例えば、公衆衛生及び経済的発展に関連するもの)と調整されるべきである。
 12 加盟国は、国内計画を定め、及び検討するに当たり、自国が批准した条約に基づく義務の範囲内で、附属書に掲げる職業上の安全及び健康を促進するための枠組みに関連のある国際労働機関の文書を考慮に入れるべきである。

Ⅳ 国内の概要

 13 加盟国は、職業上の安全及び健康に関する現状並びに安全かつ健康的な作業環境の達成に向けた進展を要約した国内の概要を作成し、及び定期的に更新すべきである。この概要は、国内計画を定め、及び検討するための基礎として使用されるべきである。
 14(1) 職業上の安全及び健康に関する国内の概要には、適用可能な場合には、次の事項に関する情報を含めるべきである。
 (a) 職業上の安全及び健康に関する法令(適当な場合には労働協約)及び他の関連文書
 (b) 職業上の安全及び健康について責任を有する機関又は団体であって、国内法及び国内慣行に従って指定するもの
 (c) 国内法令の遵守を確保するための仕組み(監督制度を含む。)
 (d) 経営者と労働者又はその代表との間で行われる協力(職場に関連する予防措置の基本的要素であるもの)を企業の段階において促進するための仕組み
 (e) 職業上の安全及び健康の問題を取り扱う国内の三者の間の諮問機関
 (f) 職業上の安全及び健康に関する情報及び助言に係るサービス
 (g) 職業上の安全及び健康に関する訓練の提供
 (h) 国内法及び国内慣行に従って提供される職業上の健康に係るサービス
 (i) 職業上の安全及び健康に関する研究
 (j) 職業上の負傷及び疾患並びにこれらの原因に関するデータの収集及び分析のための仕組みであって、国際労働機関の関連文書を考慮に入れたもの
 (k) 職業上の負傷及び疾患を対象とする関連の保険制度又は社会保障制度との協力に関する措置
 (l)  零細企業、中小企業及び非公式な経済における職業上の安全及び健康に関する状況を漸進的に改善することを支援する仕組み
 (2) さらに、職業上の安全及び健康に関する国内の概要には、適当な場合には、次の事項に関する情報を含めるべきである。
 (a) 国及び企業の段階における調整及び協力の仕組み(国内計画を検討する仕組みを含む。)
 (b) 職業上の安全及び健康に関する技術基準、実施基準及び指針
 (c) 教育及び意識向上のための仕組み(これらを促進するための発意に基づく活動を含む。)
 (d) 職業上の安全及び健康の各種の側面と連携する技術、医療及び科学に関する専門的な機関(職業上の安全及び健康に関する研究機関及び実験施設を含む。)
 (e) 職業上の安全及び健康の分野に従事する要員(例えば、監督官、安全及び健康の担当職員、産業医及び労働衛生の専門家)
 (f) 職業上の負傷及び疾患に関する統計
 (g) 使用者団体及び労働者団体に係る職業上の安全及び健康に関する政策及び計画
 (h) 職業上の安全及び健康に関連する通常又は実施中の活動(国際協力を含む。)
 (i) 職業上の安全及び健康に関連する財源及び予算
 (j) 入手可能な場合には、人口統計学、識字能力、経済及び雇用に関するデータ並びに他の関連情報

Ⅴ 国際協力及び情報交換

 15 国際労働機関は、
 (a) 次の目的のため、各国(特に発展途上国)を支援する観点から、職業上の安全及び健康に関する国際的な技術協力を容易にすべきである。
 (ⅰ) 各国の安全及び健康に関する危害防止の文化の確立及び維持のための各国の能力を強化すること。
 (ⅱ) 職業上の安全及び健康に関する管理の仕組みのための取組を促進すること。
 (ⅲ) 条約の批准及びこの勧告の附属書に掲げる職業上の安全及び健康を促進するための枠組みに関連する国際労働機関の文書の実施を促進すること。
 (b) 条約第一条(a)に定義する国内政策に関する情報並びに職業上の安全及び健康に関する国内制度及び国内計画に関する情報(適正な慣行及び革新的な取組に関するもの並びに職場における新たな危険性又は有害性の特定に関するものを含む。)の交換を容易にすべきである。
 (c) 安全かつ健康的な作業環境を達成することに向けた進展に関する情報を提供すべきである。

Ⅵ 附属書の更新

 16 附属書は、国際労働事務局の理事会により検討され、及び更新されるべきである。このようにして修正された附属書は、理事会により採択されるものとし、国際労働機関の加盟国に通報された後、従前の附属書に代わる。


附属書
職業上の安全及び健康を促進するための枠組みに関連する国際労働機関の文書

Ⅰ 条約

千八百四十七年の労働監督条約(第八十一号)
千九百六十年の放射線からの保護に関する条約(第百十五号)
千九百六十四年の衛生(商業及び事務所)条約(第百二十号)
千九百六十四年の業務災害給付条約(第百二十一号)
千九百六十九年の労働監督(農業)条約(第百二十九号)
千九百七十四年の職業がん条約(第百三十九号)
千九百七十七年の作業環境(空気汚染、騒音及び振動)条約(第百四十八号)
千九百七十九年の職業上の安全及び衛生(港湾労働)に関する条約(第百五十二号)
千九百八十一年の職業上の安全及び健康条約(第百五十五号)
千九百八十五年の職業衛生機関条約(第百六十一号)
千九百八十六年の石綿条約(第百六十二号)
千九百八十八年の建設業における安全健康条約(第百六十七号)
千九百九十年の化学物質条約(第百七十号)
千九百九十三年の大規模産業災害防止条約(第百七十四号)
千九百九十五年の鉱山における安全及び健康条約(第百七十六号)
千九百四十七年の労働監督条約(第八十一号)の千九百九十五年の議定書
二千一年の農業における安全及び健康条約(第百八十四号)
千九百八十一年の職業上の安全及び健康条約(第百五十五号)の二千二年の議定書

Ⅱ 勧告

千九百四十七年の労働監督勧告(第八十一号)
千九百四十七年の労働監督(鉱業及び運送業)勧告(第八十二号)
千九百五十三年の労働者健康保護勧告(第九十七号)
千九百五十六年の福祉施設勧告(第百二号)
千九百六十年の放射線からの保護に関する勧告(第百十四号)
千九百六十一年の労働者住宅勧告(第百十五号)
千九百六十四年の衛生(商業及び事務所)勧告(第百二十号)
千九百六十四年の業務災害給付勧告(第百二十一号)
千九百六十九年の労働監督(農業)勧告(第百三十三号)
千九百七十四年の職業がん勧告(第百四十七号)
千九百七十七年の作業環境(空気汚染、騒音及び振動)勧告(第百五十六号)
千九百七十九年の職業上の安全及び衛生(港湾労働)に関する勧告(第百六十号)
千九百八十一年の職業上の安全及び健康勧告(第百六十四号)
千九百八十五年の職業衛生機関勧告(第百七十一号)
千九百八十六年の石綿勧告(第百七十二号)
千九百八十八年の建設業における安全健康勧告(第百七十五号)
千九百九十年の化学物質勧告(第百七十七号)
千九百九十三年の大規模産業災害防止勧告(第百八十一号)
千九百九十五年の鉱山における安全及び健康勧告(第百八十三号)
二千一年の農業における安全健康勧告(第百九十二号)
二千二年の職業病の一覧表勧告(第百九十四号)