2010年のHIV及びエイズ勧告(第200号)
HIV及びエイズ並びに労働の世界に関する勧告(第200号)
国際労働機関の総会は、
理事会によりジュネーブに招集されて、二千十年六月二日にその第九十九回会期として会合し、
HIV及びエイズが、社会及び経済、公式の部門及び非公式の部門の両部門における労働の世界、労働者並びにその家族及び被扶養者、使用者団体及び労働者団体並びに公私の企業に対して重大な影響を与え、並びに適切な仕事及び持続可能な発展の実現を損なうことに留意し、
労働の世界におけるHIV及びエイズへの対処に当たって国際労働機関が果たす役割の重要性並びに国際労働機関がその活動及び任務の全ての側面において、HIV及びエイズに関し、社会正義を実現し、並びに差別及び不名誉な扱いと戦うための努力を強化することの必要性について再確認し、
HIV及びエイズへの対応に当たって労働の世界を更に結集するため、適切な仕事及び持続可能な発展の実現により非公式な経済を縮小することの重要性を想起し、
高い水準の社会的及び経済的不平等、情報及び意識の欠如、秘密の保護の欠如並びに不十分な治療の機会及び治療継続率が、HIV感染の危険、死亡率、父母の一方又は双方を失った子の数及び非公式な仕事に従事する労働者の数を増加させることに留意し、
貧困、社会的及び経済的不平等並びに失業が、予防、治療、保護及び支援を受ける機会を欠如させる危険を増大させ、その結果感染の危険を増大させることを考慮し、
HIV又はエイズの影響を受けた者が被る不名誉、差別及び失業のおそれが、自らのHIVに係る状態を知ることへの障壁となり、もって労働者のHIVに対するぜい弱性を増加させ、及び労働者の社会上の便益を受ける権利を害することに留意し、
HIV及びエイズが、ぜい弱な集団及び危険にさらされた集団に対して一層深刻な影響を与えることに留意し、
HIVは、男女双方に影響を与えるが、男女の不平等の結果、女性及び女子は、男性と比べて、HIV感染の危険に一層さらされ、かつ、HIV感染に一層ぜい弱であり、及びHIVの流行によって不均衡な影響を受けるため、女性の自律的な力の育成がHIV及びエイズに対する地球的規模の対応の主要な要素となることに留意し、
包括的な職業上の安全及び健康に関する計画を通じて労働者を保護することの重要性を想起し、
二千一年のHIV及びエイズ並びに労働の世界に関する国際労働機関の実施基準の価値を想起し、並びに同実施基準の実施に制限及び格差が存在することを考慮して同実施基準の影響力を強化することの必要性を想起し、
国際労働条約、国際労働勧告その他の国際文書であって、HIV及びエイズ並びに労働の世界に関連するもの(達成可能な最高水準の健康及び適切な生活水準を享受する権利を認めるものを含む。)を推進し、及び実施することの必要性に留意し、
労働の世界において、及び労働の世界を通じて、HIV及びエイズに対応するための国内の及び国際的な努力を促進し、及び支援するに当たって、使用者団体及び労働者団体が果たす具体的な役割を想起し、
HIV及びエイズへの国内の対応に当たって、予防、治療、保護及び支援に関する情報並びにそれらを受ける機会に関する職場の重要な役割に留意し、
この勧告を実施する努力を支援するために、国際協力(特に国際連合合同エイズ計画に関連するもの)を継続し、及び強化することの必要性を確認し、
HIV及びエイズに対処する組織(保健部門を含む。)並びに関連団体(特にHIVと共に生きる者を代表するもの)と国内的、地域的及び国際的に協力することの価値を想起し、
政府、使用者団体及び労働者団体が全ての段階における自らの役割及び責任を定めるに当たって指針となる国際基準を設定することの必要性を確認し、
HIV及びエイズ並びに労働の世界に関する提案の採択を決定し、
その提案が勧告の形式をとるべきであることを決定して、
次の勧告(引用に際しては、二千十年のHIV及びエイズ勧告と称することができる。)を二千十年六月十七日に採択する。
I 定義
1 この勧告の適用上、
(a) 「HIV」とは、人体の免疫系を害するウイルスであるヒト免疫不全ウイルスをいう。感染は、適切な措置によって防ぐことができる。
(b) 「エイズ」とは、HIV感染の進んだ段階で発症し、かつ、日和見感染症若しくはHIVに関連するがん又はその双方を特徴とする後天性免疫不全症候群をいう。
(c) 「HIVと共に生きる者」とは、HIVに感染した者をいう。
(d) 「不名誉」とは、人に関連付けた場合には、通常、社会的な疎外の原因となり、又はHIVに感染した者若しくはHIVの影響を受けた者が社会生活を十分に享受することに対する障害となる社会的評判をいう。
(e) 「差別」とは、千九百五十八年の差別(雇用及び職業)条約及び千九百五十八年の差別(雇用及び職業)勧告に規定する雇用又は職業における機会又は待遇の均等を妨げ、又は害する効果を有する区別、排除又は優先をいう。
(f) 「影響を受ける者」とは、広範な影響を伴う流行病であるHIV又はエイズによってその生活に変化を被った者をいう。
(g) 「合理的な配慮」とは、職務又は職場に対する変更又は調整であって、合理的に実行可能であり、かつ、HIV又はエイズと共に生きる者が雇用の機会を得、雇用に参加し、又は雇用において昇進することを可能とするものをいう。
(h) 「ぜい弱性」とは、いずれかの者についてHIV感染及びエイズの発症を一層生じさせやすくする社会的、文化的、政治的及び経済的要因による機会の不平等、社会的な排除、失業又は不安定な雇用をいう。
(i) 「職場」とは、労働者がその活動を行う場所をいう。
(j) 「労働者」とは、いずれかの形態又は取決めの下で働く者をいう。
II 適用範囲
2 この勧告は、次のものについて適用する。
(a) 全ての職場における全ての労働者であって、全ての形態又は取決めの下で働くもの(例えば、次の者)
(i) いずれかの雇用又は職業に就く者
(ii) 訓練を受けている者(実習生及び修習生を含む。)
(iii) ボランティア
(iv) 求職者及び就職志望者
(v) 一時解雇され、又は停職となった労働者
(b) 経済活動の全ての部門(民間部門及び公的部門並びに公式の及び非公式の経済部門を含む。)
(c) 軍隊及び制服を着用する職務
III 一般原則
3 次の一般原則は、労働の世界におけるHIV及びエイズへの国内の対応に関係するあらゆる行動について適用すべきである。
(a) HIV及びエイズへの対応は、労働者並びにその家族及び被扶養者を含むあらゆる者にとっての人権、基本的自由及び男女の平等の実現に寄与するものとして認識されるべきであること。
(b) HIV及びエイズは、使用者団体及び労働者団体の全面的な参加を得て行う流行への国内的、地域的及び国際的な対応の不可欠な要素に含まれるべき職場に係る問題として認識され、及び取り扱われるべきであること。
(c) 実際の若しくは外観上のHIVに係る状態を理由として、又はHIV感染の危険に一層さらされ、若しくはHIV感染に一層ぜい弱であると認められる世界の地域若しくは集団に属することを理由として、労働者、特に、求職者及び就職志望者に対するいかなる差別又は不名誉な扱いもあってはならないこと。
(d) あらゆる形態のHIV感染の予防は、基本的な優先事項とされるべきであること。
(e) 労働者並びにその家族及び被扶養者は、HIV及びエイズに関する予防、治療、保護及び支援を受ける機会を有し、並びにそれらの便益を享受すべきであり、また、職場は、これらのサービスの利用を容易にする役割を果たすべきであること。
(f) 国内の及び職場における計画の作成、実施及び評価への労働者の参加及び関与が認められ、及び強化されるべきであること。
(g) 労働者は、HIV及びこれに関連する感染症(結核等)の職業上の感染の危険を防止する計画の便益を享受すべきであること。
(h) 労働者並びにその家族及び被扶養者は、HIV及びエイズに関する秘密の保護(特に自らのHIVに係る状態に関するもの)を含むプライバシーの保護を享受すべきであること。
(i) いかなる労働者も、HIV検査を受け、又は自らのHIVに係る状態を開示することを要求されるべきでないこと。
(j) 労働の世界におけるHIV及びエイズに対処するための措置は、開発に関する国内政策及び国内計画(労働、教育、社会的保護及び健康に関するものを含む。)の一部とされるべきであること。
(k) HIV感染の危険に特にさらされる職業に就く労働者の保護
IV 国内政策及び国内計画
4 加盟国は、
(a) HIV及びエイズ並びに労働の世界に関する国内政策及び国内計画並びに職業上の安全及び健康に関する国内政策及び国内計画が存在していない場合には、それらの国内政策及び国内計画を策定すべきである。
(b) 適当な場合には、HIV及びエイズ並びに労働の世界に関する国内政策及び国内計画を開発計画及び貧困の軽減のための戦略(適切な仕事、持続的な企業及び所得をもたらすためのものを含む。)と統合すべきである。
5 権限のある機関は、国内政策及び国内計画の策定に当たり、二千一年のHIV及びエイズに関する国際労働機関の実施基準及びその後の改正、他の関連する国際労働機関の文書並びにこの問題に関して採択されたその他の国際的な指針を考慮すべきである。
6 権限のある機関は、関連する部門、特に保健部門の意見を考慮に入れつつ、最も代表的な使用者団体及び労働者団体並びにHIVと共に生きる者を代表する団体と協議した上で、国内政策及び国内計画を策定すべきである。
7 権限のある機関は、国内政策及び国内計画の策定に当たり、予防、治療、保護及び支援(任意のカウンセリング及び検査の促進を含む。)において職場が地域社会と協力して果たす役割を考慮に入れるべきである。
8 加盟国は、あらゆる機会を捉えて、使用者団体及び労働者団体その他関連するHIV及びエイズに係る団体並びに公共の情報の経路を通じて、HIV及びエイズ並びに労働の世界に関する国内政策及び国内計画に関する情報を広く知らせるべきである。
差別並びに機会及び待遇の均等の促進
9 政府は、最も代表的な使用者団体及び労働者団体と協議した上で、実際の又は外観上のHIVに係る状態に基づく差別を防止するため、千九百五十八年の差別(雇用及び職業)条約に基づいて与えられる保護と同等の保護を与えることを検討すべきである。
10 実際の又は外観上のHIVに係る状態を理由として、採用し、若しくは継続して雇用すること又は千九百五十八年の差別(雇用及び職業)条約に適合する機会均等を追求することを妨げる差別が行われるべきでない。
11 実際の又は外観上のHIVに係る状態を理由として、雇用を終了させるべきでない。千九百八十二年の雇用終了条約を考慮に入れつつ、HIV又はエイズに関連する疾病又は介護の責務を理由とする一時的な休業は、その他の健康上の理由による休業と同一の方法で取り扱われるべきである。
12 職場における差別に対する既存の措置がHIV及びエイズに関連する差別に対する効果的な保護に不十分である場合には、加盟国は、当該既存の措置を変更し、又は新たな措置をとるべきであり、また、それらを効果的にかつ透明性をもって実施すべきである。
13 HIVに関連する疾病と共に生きる者は、医学的に労働することが可能である間、必要な場合には合理的な配慮を与えられた上で労働を継続して行うことができることを否定されるべきでない。関連する国際労働機関の文書及び国際連合の文書を考慮に入れつつ、当該者をその能力に合理的に適した仕事に再配置し、訓練を通じて他の仕事を見いだし、又は仕事への復帰を促進する措置が奨励されるべきである。
14 次のことにより、HIV感染を減少させ、及びその影響を軽減する措置が職場において又は職場を通じてとられるべきである。
(a) 人権及び基本的自由の尊重を確保すること。
(b) 男女の平等及び女性の自律的な力の育成を確保すること。
(c) 職場における暴力及び嫌がらせを防止し、及び禁止する措置を確保すること。
(d) HIV及びエイズへの対応における女性及び男性双方の積極的な参加を促進すること。
(e) 性的指向のいかんを問わず、また、ぜい弱な集団に属するか否かを問わず、あらゆる労働者の参加及び自律的な力の育成を促進すること。
(f) 女性及び男性の性と生殖に関する健康及び権利の保護を促進すること。
(g) 個人情報(医学上の情報を含む。)の有効な秘密の保護を確保すること。
予防
15 予防のための戦略は、国内事情及び職場の種類に適合したものとすべきであり、また、性に係る問題並びに文化的、社会的及び経済的な問題を考慮に入れたものとすべきである。
16 予防に関する計画は、次のことを確保すべきである。
(a) あらゆる者が、利用可能な様々な伝達の経路を通じて、文化的に配慮された様式及び言語で、正確な、最新の、適切な、かつ、適時の情報を利用可能であり、及び利用する機会を与えられるようにすること。
(b) 女性及び男性双方が、母子感染を含むあらゆる形態のHIV感染の危険性を理解し、及び減少させ、並びに感染の危険のある行動を変えることの重要性を理解することに資する総合的な教育計画
(c) 効果的な職業上の安全及び健康に係る措置
(d) 労働者が、任意のカウンセリング及び検査を通じて、自らのHIVに係る状態を知るよう奨励する措置
(e) あらゆる予防手段(必需品、特に男性用及び女性用のコンドームが、適当な場合には、その正しい使用方法に関する情報とともに入手可能であること並びにばく露後の予防策が利用可能であることの保障が含まれるが、これらに限られない。)を利用することができること。
(f) HIV感染の発生を減少させることを目的として危険性が高い行動を減少させるための効果的な措置(最も危険にさらされた集団に対するものを含む。)
(g) 害を減少させるための戦略であって、世界保健機関(WHO)、国際連合合同エイズ計画(UNAIDS)及び国際連合薬物犯罪事務所(UNODC)が発行する指針並びに他の関連する指針に基づくもの
治療及び保護
17 加盟国は、職場の健康に係る介入に関する国内政策及び国内計画が使用者及び労働者並びにそれらの代表と協議した上で決定され、並びに公衆衛生に係るサービスと関連付けられることを確保すべきである。加盟国は、HIV及びエイズを予防し、並びにその影響を管理するため、最も広範囲の適切かつ効果的な介入を提供すべきである。
18 加盟国は、HIVと共に生きる労働者及びその被扶養者が、保健医療(公衆衛生、社会保障制度、民間の保険又は他の制度のいずれの下で提供されるものであるかを問わない。)の十分な利用から便益を受けることを確保すべきである。加盟国は、また、労働者の保健医療の利用を促進するため、労働者の教育及び意識の向上を確保すべきである。
19 この勧告が対象とする全ての者(HIVと共に生きる労働者並びにその家族及び被扶養者を含む。)は、健康に係るサービスを受ける権利を有すべきである。当該サービスには、無償の又は安価な次のものの利用を含むべきである。
(a) 任意のカウンセリング及び検査
(b) 抗レトロウイルス治療並びに継続治療のための教育、情報及び支援
(c) 治療と矛盾しない適切な栄養補給
(d) 日和見感染症、性感染症その他のHIVに関連する疾病(特に結核)の治療
(e) HIVと共に生きる者のための支援及び予防計画(心理社会的な支援を含む。)
20 社会保障制度及び労働保険制度を利用することに関し、又はそれらの制度に基づく給付(医療給付及び障害給付並びに死亡給付及び遺族給付を含む。)に関し、実際の又は外観上のHIVに係る状態に基づいて労働者又はその被扶養者を差別すべきでない。
支援
21 国内事情に十分な考慮を払いつつ、保護及び支援に関する計画には、HIV又はHIVに関連する疾病と共に生きる者に対する職場における合理的な配慮のための措置を含めるべきである。仕事は、HIV及びエイズの突発的特性並びに治療によって生じ得る副作用に適応するような方法で行われるべきである。
22 加盟国は、HIVと共に生きる者の雇用維持及び採用を促進すべきである。加盟国は、雇用期間及び失業期間を通じた支援(HIVと共に生きる者又はHIV若しくはエイズの影響を受けた者に対し、必要に応じて、所得をもたらす機会を提供することを含む。)を行うことを検討すべきである。
23 職業と感染の危険との間に直接の関係があることを証明することができる場合には、国内の手続及び定義に従って、かつ、二千二年の職業病の一覧表勧告及び他の関連する国際労働機関の文書を考慮して、エイズ及びHIV感染を職業病又は労働災害として認定すべきである。
検査、プライバシー及び秘密の保護
24 検査は、真に任意のものでなければならず、また、いかなる強制も受けないものでなければならない。検査計画は、秘密の保護、カウンセリング及び同意に関する国際的な指針を尊重するものでなければならない。
25 労働者(移民労働者、求職者及び就職志望者を含む。)は、HIV検査又は他の形式によるHIVに係る審査を要求されるべきでない。
26 HIV検査の結果は、秘密のものとすべきであり、これにより雇用の機会、雇用期間、雇用の保障又は昇進の機会が損なわれるべきでない。
27 労働者(移民労働者、求職者及び就職志望者を含む。)は、出身国、通過国又は目的国によって、自らの又は他の者のHIVに関連する情報の開示を要求されるべきでない。そのような情報の利用は、千九百九十七年の労働者の個人情報の保護に関する国際労働機関の実施基準及び他の関連する国際的な情報の保護に関する基準に適合する秘密の保護に関する規則により規律されるべきである。
28 移民労働者又は雇用のために移住しようとしている者の移住は、出身国、通過国又は目的国によって、実際の又は外観上のHIVに係る状態に基づいて妨げられるべきでない。
29 加盟国は、前記の権利が侵害された場合に労働者のための救済を確保する紛争解決手続であって、容易に利用することができるものを設けるべきである。
職業上の安全及び健康
30 労働環境は、職場におけるHIV感染の防止のため、千九百八十一年の職業上の安全及び健康条約及び千九百八十一年の職業上の安全及び健康勧告、二千六年の職業上の安全及び健康促進枠組条約及び二千六年の職業上の安全及び健康促進枠組勧告並びに他の関連する国際文書(例えば、国際労働事務局及び世界保健機関が共同で作成した手引書)を考慮に入れつつ、安全かつ健康的なものとすべきである。
31 労働における労働者のHIVへのばく露を防ぐための安全及び健康に係る措置には、普遍的な予防措置、事故及び危険に係る予防措置(例えば、組織上の措置、工学的管理、作業慣行の管理、適当な場合には個人用保護具、環境上の管理措置及びばく露後の予防策)並びに特に最も危険にさらされる職業(保健部門を含む。)におけるHIV及び結核への感染の危険を最小にするための他の安全に係る措置を含むべきである。
32 労働においてHIVへのばく露の可能性がある場合には、労働者は、感染の形態並びにばく露及び感染を防止する措置に関する教育及び訓練を受けるべきである。加盟国は、予防、安全及び保健が関連する基準に従って提供されることを確保するための措置をとるべきである。
33 意識の向上に係る措置は、HIVが軽易な身体上の接触では感染しないこと及びHIVと共に生きる者の存在が職場における危険とされるべきでないことを強調すべきである。
34 職業衛生機関並びに職業上の安全及び健康に関する職場の制度は、千九百八十五年の職業衛生機関条約及び千九百八十五年の職業衛生機関勧告、二千五年の健康に係るサービス並びにHIV及びエイズに関する国際労働機関及び世界保健機関が共同で作成した指針並びにその後の改正並びに他の関連する国際文書を考慮に入れつつ、HIV及びエイズに対処すべきである。
児童及び年少者
35 加盟国は、千九百九十八年の労働における基本的な原則及び権利に関する国際労働機関の宣言、千九百七十三年の最低年齢条約及び千九百七十三年の最低年齢勧告並びに千九百九十九年の最悪の形態の児童労働条約及び千九百九十九年の最悪の形態の児童労働勧告を考慮に入れつつ、エイズに起因する家族の構成員又は世話をする者の死亡又は疾病から生ずる可能性のある児童労働及び児童の取引と戦い、並びにHIVに対する児童のぜい弱性を減少させるための措置をとるべきである。また、それらの児童を性的虐待及び性的搾取から保護するための特別の措置がとられるべきである。
36 加盟国は、年少の労働者をHIV感染から保護し、並びにHIV及びエイズへの対応における児童及び年少者の特別の必要性を国内政策及び国内計画に含めるための措置をとるべきである。これらの措置には、客観的な性と生殖に関する健康に係る教育(特に、HIV及びエイズに関する情報の周知であって、職業訓練を通じたもの並びに年少者向けの雇用計画及びサービスにおけるもの)を含むべきである。
V 実施
37 HIV及びエイズ並びに労働の世界に関する国内政策及び国内計画は、次のとおりとすべきである。
(a) 最も代表的な使用者団体及び労働者団体並びにその他の関係者(関連する公的な及び民間の職業上の健康に係る組織を含む。)と協議した上で、次の(i)から(iv)までの手段のいずれか又はそれらの組合せによって実施すべきである。
(i) 国内法令
(ii) 労働協約
(iii) 国内及び職場における政策及び行動計画
(iv) この勧告が対象とする者が最も危険にさらされる部門に特に留意した部門別の戦略
(b) 国内政策及び国内計画の策定及び実施に当たっては、労働問題について権限のある司法当局及び労働行政に係る当局を関与させるべきであり、また、この点に関する訓練をこれらの当局に提供すべきである。
(c) プライバシー、秘密の保護及びこの勧告に基づいて与えられる他の保護の侵害に対処するための措置を国内法令に規定すべきである。
(d) 関係する公の当局並びに関係する公共及び民間のサービス(保険及び給付に係る計画又は他の種類の計画を含む。)の間の協力及び調整を確保すべきである。
(e) 使用者団体及び労働者団体の参加を得て、あらゆる企業が国内政策及び国内計画(自らのサプライ・チェーン及び流通網を通じて行うものを含む。)を実施することを促進し、及び支援すべきである。また、輸出加工区内において活動する企業による遵守を確保すべきである。
(f) 政府当局並びに公的部門及び私的部門の使用者及び労働者並びにそれらの代表者の相互間において、職業上の健康に係る業務を提供する職員、HIV及びエイズの専門家並びに他の関係者(HIVと共に生きる者を代表する団体、国際機関、関係する市民社会の団体及び国別調整メカニズムを含む。)の意見を考慮に入れつつ、千九百七十六年の三者の間の協議(国際労働基準)条約に適合する社会的対話(協議及び交渉を含む。)及び他の形態の協力が行われることを促進すべきである。
(g) 科学及び社会の最新の進展並びに性に係る問題及び文化的な問題を主流のものとする必要性を考慮に入れつつ、策定され、実施され、定期的に検討され、及び更新されるべきである。
(h) 特に、労働、社会保障及び健康に関する政策及び計画との間で調整されるべきである。
(i) 加盟国が、国内事情並びに使用者及び労働者の能力に十分な考慮を払いつつ、国内政策及び国内計画の実施の手段のための合理的な規定を定めることを確保すべきである。
社会的対話
38 HIV及びエイズに関する政策及び計画は、使用者及び労働者並びにそれらの代表者並びに政府の間の協力及び信頼に基づき、かつ、HIVと共に生きる者の職場における積極的な参加を得て、実施すべきである。
39 使用者団体及び労働者団体は、その構成員に対する教育及び情報の提供を通じて、HIV及びエイズに関する意識(予防及び無差別待遇に係るものを含む。)を向上させるべきである。そのような教育及び情報の提供は、性に係る問題及び文化的な問題に配慮したものとすべきである。
教育、訓練、情報及び協議
40 職場におけるHIV及びエイズに関する訓練、安全に係る教育及び必要な指導は、全ての労働者、特に移民労働者、新規採用又は未熟練の労働者、年少の労働者及び訓練中の労働者(実習生及び修習生を含む。)にとって明確かつ利用可能な形で提供されるべきである。それらの訓練、教育及び指導は、性に係る問題及び文化的な問題に配慮したものとすべきであり、また、労働者集団の危険要因を考慮に入れつつ、当該労働者集団の特性に適合したものとすべきである。
41 職場において適切な対策をとることを支援するために、使用者、管理者及び労働者の代表者に対して、最新の科学及び社会経済に関する情報並びに適切な場合にはHIV及びエイズに関する教育及び訓練を提供すべきである。
42 労働者(実習生、訓練生及びボランティアを含む。)は、職場における事故及び応急処置との関連においてHIV感染を抑制する手順について、意識の向上に係る情報の提供及び適切な訓練を受けるべきである。自らの職業によって人間の血液、血液製剤及び他の体液へのばく露の危険にさらされる労働者は、ばく露の予防、ばく露感染登録手続及びばく露後の予防策に関する追加的な訓練を受けるべきである。
43 労働者及びその代表者は、HIV及びエイズに関する職場の政策及び計画を実施するためにとられる措置に関して、情報の提供及び協議を受ける権利を有すべきである。労働者の代表者及び使用者の代表者は、国内慣行に従って、職場の検査に参加すべきである。
公共サービス
44 労働行政サービス(労働監督を含む。)及び労働問題について権限のある司法当局がHIV及びエイズへの対応に当たって果たす役割は、検討されるべきであり、また、必要に応じて強化されるべきである。
45 予防、治療、保護及び支援を受ける機会の拡大を確保し、並びに公共サービス(特に保健に従事する者)に対する追加的な負担であってHIV及びエイズに起因するものを減少させるため、公衆衛生に係る制度は、強化されるべきであり、また、二千五年の健康に係るサービス並びにHIV及びエイズに関する国際労働機関及び世界保健機関が共同で作成した指針並びにその後の改正に従うべきである。
国際協力
46 加盟国は、この勧告を実施するため、二国間若しくは多数国間の協定、多数国間の制度への参加又は他の効果的な手段を通じて、協力すべきである。
47 移民労働者がHIVの予防、治療、保護及び支援サービスを受ける機会を確保するための措置は、出身国、通過国及び目的国によってとられるべきであり、適当な場合には、関係国間で協定が締結されるべきである。
48 加盟国、加盟国のHIV及びエイズに係る国内の組織並びに関係する国際機関の間における国際協力が奨励されるべきであり、また、このような国際協力には、HIVの流行に対してとられるあらゆる措置に関する情報の組織的な交換が含まれるべきである。
49 加盟国及び多数国間機関は、HIVに関する予防、治療、保護及び支援のための国際的な戦略及び計画の策定に当たって、調整及び全ての国(特に有病率の高い国)の必要性を満たすために必要な資源に特に留意すべきである。
50 加盟国及び国際機関は、HIVその他日和見感染症及びHIVに関連するがんに起因する感染の予防、治療及び保護のためのあらゆる種類の物品の価格を下げるよう努めるべきである。
VI 事後措置
51 加盟国は、HIV及びエイズ並びに労働の世界に関する国内政策に関連する進展を監視し、並びにその策定及び実施に関する助言を行うため、適切な仕組みを設け、又は既存の仕組みを利用すべきである。
52 最も代表的な使用者団体及び労働者団体は、国内政策に関する進展を監視するための仕組みにおいて、平等の立場で代表されるべきである。さらに、これらの団体は、その仕組みの下で、HIVと共に生きる者の団体の意見、専門家の報告又は技術的な研究を考慮に入れつつ、必要に応じて協議を受けるべきである。
53 加盟国は、女性及び男性の分布並びに他の関連する要素を考慮に入れつつ、労働の世界におけるHIV及びエイズに関連する国家的規模の及び部門別の進展に関し、可能な限り、詳細な情報及び統計的データを収集し、並びに調査すべきである。
54 国際労働機関憲章第十九条の規定に基づく報告に加えて、この勧告に基づいてとられる措置の定期的な検討は、国際連合合同エイズ計画への国別報告及び関連する国際文書に基づく報告に含めることができる。