海員ニ対スル職業紹介所設置ニ関スル条約（第9号）
(1922年11月23日に批准登録)

　国際労働機関ノ総会ハ
　国際労働事務局ノ理事会ニ依リ千九百二十年六月十五日ゼノアニ招集セラレ
　右ゼノア総会ノ会議ノ第二項目タル「雇入契約ノ監督、船員ニ対スル職業紹介、客年十一月華盛頓ニ於テ採択セラレタル失業及失業保険ニ関スル条約及勧告ノ海員ニ対スル適用」ニ関スル提案ノ採択ヲ決議シ且
　該提案ハ国際条約ノ形式ニ依ルヘキモノナルコトヲ決定シ
　国際労働機関ノ締盟国ニ依リ批准セラルルカ為国際労働機関憲章ノ規定ニ従ヒ千九百二十年ノ海員紹介条約ト称セラルヘキ左ノ条約ヲ採択ス

第　一　条

　本条約ニ於テ「海員」ト称スルハ海洋航行ニ従事スル船舶ノ乗組員トシテ使用セラルル一切ノ者ヲ包含ス但シ職員ハ之ヲ除ク

第　二　条

１　海員ニ対スル職業紹介業ハ個人、会社其ノ他ノ紹介所ニ依リ営利ヲ目的トスル業務トシテ経営セラルルコトヲ得ス又個人、会社其ノ他ノ紹介所ハ船舶ノ海員ノ職業紹介ニ付直接ニ又ハ間接ニ何等ノ手数料ヲ課スルコトヲ得ス
２　各国ハ法令ヲ以テ本条ノ規定ノ違反ニ対スル罰則ヲ定ムヘシ

第　三　条

１　営利ヲ目的トスル海員ノ職業紹介業ヲ現ニ経営スル個人、会社其ノ他ノ紹介所ハ第二条ノ規定ニ拘ラス政府ノ免許ノ下ニ其ノ業務ヲ一時継続スルコトヲ得但シ右ノ事業ハ一切ノ関係人ノ権利ヲ保護スル為政府ノ監督ノ下ニ経営セラルルモノトス
２　本条約ヲ批准スル各締盟国ハ営利ヲ目的トスル業務タル海員職業紹介業ヲ能フ限リ速ニ廃止スル為実行シ得ヘキ一切ノ措置ヲ執ルコトヲ約ス

第　四　条

１　本条約ヲ批准スル各締盟国ハ海員ニ対スル公ノ無料職業紹介所ノ有効且適切ナル制度ヲ組織シ且維持スヘキコトヲ約ス右ノ制度ハ
　(a)　中央官庁ノ監督ノ下ニ協同スル船舶所有者及海員ノ代表団体ニ依リ又ハ
　(b)　右ノ協同行為ナキトキハ国自身ニ依リ組織シ且維持セラルルコトヲ得
２　一切ノ右職業紹介所ノ事業ハ海事ノ実地経験ヲ有スル者ニ依リ管理セラルヘシ
３　右ノ各種ノ職業紹介所併存スル場合ニ於テハ国ノ基底ニ於テ之ヲ調整スル為ノ措置ヲ執ルヘシ

第　五　条

　前記紹介所ノ経営ニ関スル事項ニ付助言セシムル為船舶所有者及海員ノ同数ノ代表者ヨリ成ル委員会ヲ組織スヘシ各国政府ハ右委員会ノ権能ヲ明確ニスル為殊ニ右ノ委員外ヨリノ議長ノ選定、国ノ監督ノ程度及右委員会カ海員ノ幸福ニ付利害関係ヲ有スル者ヨリ得ヘキ助力ニ関シ規定ヲ設クルコトヲ得

第　六　条

　海員ノ職業紹介ニ関シ海員ハ船舶選択ノ自由ヲ確保セラルヘク船舶所有者ハ乗組員選択ノ自由ヲ確保セラルヘシ

第　七　条

　雇入契約中ニハ一切ノ関係当事者ヲ保護スルカ為必要ナル保障ヲ包含スヘク且海員ハ署名ノ前及後ニ於テ右契約ヲ査閲スル為相当ノ便宜ヲ確保セラルヘシ

第　八　条

　本条約ヲ批准スル各締盟国ハ本条約ヲ批准シタル一切ノ国ニシテ其ノ産業状態ノ略同様ナルモノニ属スル海員ヲシテ本条約所定ノ海員職業紹介施設ヲ（必要アルトキハ官公署ヲ介シテ）利用セシムル為ノ措置ヲ執ルヘシ

第　九　条

　各国ハ甲板部職員及機関部職員ニ関シ本条約ノ規定ト同様ノ規定ヲ採用スルヤ否ヤヲ各自決定スヘシ

第　十　条

１　本条約ヲ批准スル各締盟国ハ海員ノ失業及職業紹介所ノ事業ニ関スル統計其ノ他ノ調達シ得ヘキ一切ノ情報ヲ国際労働事務局ニ通告スヘシ
２　国際労働事務局ハ各国ノ政府又ハ関係団体ト協定ノ上各種ノ各国海員職業紹介所ノ調整ヲ確保スルノ措置ヲ執ルヘシ

第　十　一　条

１　本条約ヲ批准スル国際労働機関ノ各締盟国ハ其ノ植民地、保護国及属地ニシテ完全ナル自治ヲ有セサルモノニ左ノ条件ノ下ニ之ヲ適用スルコトヲ約ス
　(a)　其ノ規定カ土地ノ状況ニ照シ適用不可能ニ非サルコト
　(b)　其ノ規定ヲ土地ノ状況ニ適応セシムル為必要ナル変更ヲ加フルコト
２　各締盟国ハ其ノ植民地、保護国及属地ニシテ完全ナル自治ヲ有セサルモノニ付其ノ執リタル措置ヲ国際労働事務局ニ通告スヘシ

第　十　二　条

　国際労働機関憲章ニ定ムル条件ニ依ル本条約ノ正式批准ハ登録ノ為国際労働事務局長ニ之ヲ通告スヘシ

第　十　三　条

　国際労働機関ノ締盟国中ノ二国カ国際労働事務局ニ本条約ノ批准ノ登録ヲ為シタルトキハ事務局長ハ国際労働機関ノ一切ノ締盟国ニ右ノ旨ヲ通告スヘシ

第　十　四　条

　本条約ハ国際労働事務局長カ前条ノ通告ヲ発シタル日ヨリ効力ヲ発生スヘク且該事務局ニ其ノ批准ヲ登録シタル締盟国ノミヲ拘束スヘシ爾後本条約ハ他ノ何レノ締盟国ニ付テモ右事務局ニ其ノ批准ヲ登録シタル日ヨリ効力ヲ発生スルモノトス

第　十　五　条

　本条約ヲ批准スル各締盟国ハ千九百二十二年七月一日迄ニ其ノ規定ヲ実施スルニ必要ナルヘキ措置ヲ執ルコトヲ約ス尤モ第十四条ノ規定ニ従フモノトス

第　十　六　条

　本条約ヲ批准シタル締盟国ハ本条約ノ最初ノ効力発生ノ日ヨリ五年ノ期間満了後ニ於テ国際労働事務局長宛登録ノ為ニスル通告ニ依リ之ヲ廃棄スルコトヲ得右ノ廃棄ハ該事務局ニ登録アリタル日以後一年間ハ其ノ効力ヲ生セス

第　十　七　条

　国際労働事務局ノ理事会ハ少クトモ十年ニ一回本条約ノ施行ニ関スル報告ヲ総会ニ提出スヘク且其ノ改正又ハ変更ニ関スル問題ヲ総会ノ会議事項ニ掲クヘキヤ否ヤヲ審議スヘシ

第　十　八　条

　本条約ハ仏蘭西語及英吉利語ノ本文ヲ以テ共ニ正文トス