1925年の労働者補償(災害)条約(第17号)

ILO条約 | 1925/06/10

労働者災害補償に関する条約(第17号)
(日本は未批准、仮訳)

 国際労働機関の総会は、
 国際労働事務局の理事会に依りジユネーヴに招集せられ、千九百二十五年五月十九日を以て其の第七回会議を開催し、
 右会議の会議事項の第一項目の一部たる労働者災害補償に関する提案の採択を決議し、且
 該提案は国際条約の形式に依るべきものなることを決定し、
 国際労働機関の締盟国に依り批准せらるるが為、国際労働機関憲章の規定に従ひ、千九百二十五年六月十日、千九百二十五年の労働者補償(災害)条約と称せらるべき左の条約を採択す。

第 一 条

 本条約を批准する国際労働機関の各締盟国は、産業災害に因り身体の傷害を受けたる労働者又は其の被扶養者が本条約に依り定めらるる条件と少くとも均等なる条件を以て補償せらるべきを確保することを約す。

第 二 条

1 労働者補償に関する法令及規則は、公私一切の性質の事業、企業又は事業場に依り使用せらるる労働者、使用人又は徒弟に之を適用すべし。
2 尤も締盟国は、左記の者に関し、其の必要と認むる例外を当該国の法制に於て設くることを得。
 (a) 臨時的労働に従事し且使用者の職業又は業務の目的以外の為に使用せらるる者
 (b) 家内労働者
 (c) 使用者の家に属する者にして専ら使用者の為に労働し且其の家屋内に居住する者
 (d) 非筋肉労働者にして其の報酬が当該国の法令又は規則に依り定めらるる制限を超ゆる者

第 三 条

 本条約は、左記の者に之を適用せざるべし。
 (1) 海員及漁夫(此等の者に付ては将来の条約に依り規定を設くるものとす。
 (2) 本条約の条件より不利ならざる条件を有する特殊制度の適用を受くる者

第 四 条

 本条約は、農業に之を適用せざるべし。農業に付ては国際労働総会に依り其の第三回会議に於て採択せられたる農業に於ける労働者補償に関する条約其の効力を保有す。

第 五 条

 傷害の結果終身の労働不能又は死亡に至りたる場合に於て、該被害労働者又は其の被扶養者に支払ふべき補償は、定期金の形式を以て之を支払ふべし。但し権限ある機関が右補償の適当に利用せらるべき保障ありと認むるときは、其の全部又は一部を一時金として支払ふことを得。

第 六 条

 労働不能の場合に於ては、補償は、関係ある使用者、災害保険機関又は疾病保険機関の何れに依り支払はるるを問はず、遅くとも災害後五日より支払はるべし。

第 七 条

 傷害の結果、被害労働者が常時他人の手助けを要するが如き性質の労働不能に至りたる場合に於ては、割増補償を給与すべし。

第 八 条

 各国の法令又は規則は、必要と認めらるる監督の措置及審査の方法を定むべし。

第 九 条

 被害労働者は、医療上の扶助並災害の結果必要と認めらるる外科上及薬剤上の扶助を受くる権利を有すべし。右の扶助の費用は、使用者、災害保険機関又は疾病若は廃疾保険機関に依り支弁せらるべし。

第 十 条

1 被害労働者は、使用者又は保険者より必要と認めらるる義肢及外科的補助器の給与及通常の取替を受くる権利を有すべし。但し各国の法令又は規則は、特別の事情ある場合に於ては、右の義肢及外科的補助器の給与及取替に替へて、該補助器の給与及取替の概算費用に相当する金額を被害労働者に与ふることを許容することを得。右の金額は、補償額の定められ又は変更せらるる時に於て之を決定すべきものとす。
2 各国の法令又は規則は、補助器の取替に関する濫用を防止し又は前項の割増補償が其の目的の為利用せらるることを確保する為必要なる監督の措置を定むべし。

第 十 一 条

 各国の法令又は規則は、使用者又は保険者の支払不能の場合に於て、産業災害に因り身体の傷害を受けたる労働者に、又は死亡の場合には其の被扶養者に、補償の支払を凡ての事情の下に於て確保する為、当該国の事情を参酌したる上、最も適当と認めらるる規定を設くべし。

第 十 二 条

 国際労働機関憲章に定むる条件に依る本条約の正式批准は、登録の為国際労働事務局長に之を通告すべし。

第 十 三 条

1 本条約は、事務局長が国際労働機関の締盟国中の二国の批准を登録したる日より効力を発生すべし。
2 本条約は、該事務局に其の批准を登録したる締盟国のみを拘束すべし。
3 爾後本条約は、他の何れの締盟国に付ても、右事務局に其の批准を登録したる日より効力を発生するものとす。

第 十 四 条

 国際労働機関の締盟国中の二国が国際労働事務局に本条約の批准の登録を為したるときは、事務局長は、国際労働機関の一切の締盟国に右の旨を通告すべし。事務局長は、爾後該機関の他の締盟国の通知したる批准の登録を一切の締盟国に同様に通告すべし。

第 十 五 条

 本条約を批准する各締盟国は、千九百二十七年一月一日迄に第一条、第二条、第三条、第四条、第五条、第六条、第七条、第八条、第九条、第十条及び第十一条の規定を実施し、且右規定を実施するに必要なるべき措置を執ることを約す。尤も第十三条の規定に従ふものとす。

第 十 六 条

 本条約を批准する国際労働機関の各締盟国は、国際労働機関憲章第三十五条の規定に依り、其の殖民地、属地及保護国に之を適用することを約す。

第 十 七 条

 本条約を批准したる締盟国は、本条約の最初の効力の発生の日より五年の期間満了後に於て、国際労働事務局長宛登録の為にする通告に依り之を廃棄することを得。右の廃棄は、該事務局に登録ありたる日以後一年間は其の効力を生ぜず。

第 十 八 条

 国際労働事務局の理事会は、少くとも十年に一回本条約の施行に関する報告を総会に提出すべく、且其の改正又は変更に関する問題を総会の会議事項に掲ぐべきや否やを審議すべし。

第 十 九 条

 本条約は、仏蘭西語及英吉利語の本文を以て共に正文とす。