1936年の労働時間短縮(公共事業)条約(第51号)

ILO条約 | 1936/06/23

公共事業に於ける労働時間の短縮に関する条約(第51号)
(日本は未批准、仮訳)

 国際労働機関の総会は、国際労働事務局の理事会によりジュネーヴに招集されて、二千年五月三十日にその第八十八回会期として会合し、本会期の議事日程の第七議題である複数の国際労働条約の撤回に関する提案を検討し、二千年六月十五日に、千九百三十六年の労働時間短縮(公共事業)条約(第五十一号)の撤回を決定する。国際労働事務局長は、この本文書撤回の決定を、国際労働機関の加盟国及び国際連合事務総長に通知する。この決定の英文及びフランス文は、ひとしく正文とする。

 国際労働機関の総会は、
 千九百三十六年六月四日ジユネーヴに於て其の第二十回会議として会合し、
 政府に依り施行せられ又は補助せらるる公共事業に於ける労働時間の短縮問題が右会議の会議事項の第三項目たるに鑑み、
 生活標準の維持を含む千九百三十五年の四十時間制条約に定めらるる原則を確認し、
 右原則が国際協定に依り公共事業に適用せらるべきこと望ましきに鑑み、
 千九百三十六年の労働時間短縮(公共事業)条約と称せらるべき左の条約を千九百三十六年六月二十三日採択す。

第 一 条

1 本条約は、政府に依り経理せられ又は補助せらるる建築事業又は土木事業に直接使用せらるる者に之を適用す。
2 本条約に於て「建築事業又は土木事業」、「経理せらるる」及「補助せらるる」なる用語の正確なる範囲は、関係ある使用者団体及労働者団体が存在する場合に於ては之に諮問したる後、権限ある権力に依り限定せらるべきものとす。
3 権限ある権力は、関係ある使用者団体及労働者団体が存在する場合に於ては之に諮問したる後、左の者を本条約の適用より除外することを得。
 (a) 使用者の家に属する者のみが使用せらるる企業に使用せらるる者
 (b) 管理の地位に在り通常筋肉労働を為さざる者

第 二 条

1 本条約の適用を受くる者の労働時間は、一週に付平均四十時間を超えざるべきものとす。
2 作業の性質上昼、夜又は週の如何なる時にも中絶することなくして行はるることを要する作業に於て連続交替制にて労働する者に付ては、一週労働時間は、之を四十二時間平均と為すことを得。
3 権限ある権力は、関係ある使用者団体が存在する場合に於ては之に諮問したる後、本条2の適用を受くる作業を決定すべし。
4 労働時間が平均として計算せらるる場合には、権限ある権力は、関係ある使用者団体及労働者団体が存在する場合に於ては之に諮問したる後、右平均が計算せられ得べき週の数及一週の労働時間の最大限度数を決定すべし。
5 本条約に於て「労働時間」と称するは、使用せらるる者が使用者の指揮に服する時間を謂ひ、右の者が使用者の指揮に服せざる休憩時間を包含せず。

第 三 条

1 権限ある権力は、関係ある使用者団体及労働者団体が存在する場合に於ては之に諮問したる後設けらるる規則に依り、前条に規定せらるる時間制限は、左記に付之を超え得ることを規定することを得。
 (a) 企業若は其の部門又は交替班の一般作業に付定めらるる制限を超えて必然的に行ふことを要する準備的又は補充的作業に使用せらるる者
 (b) 職業にして其の性質上長き不作為期間を伴ひ其の間之に使用せらるる者が肉体的活動若は持続的注意を示すことを要せざるもの又は受くることあるべき用命に応ずる為にのみ其の位置に留るに過ぎざるものに使用せらるる者
2 1に掲げらるる規則は、本条に依り行はるることあるべき労働の最大限度の時間数を定むべきものとす。
3 権限ある権力は、作業場所への接近不可能又は充分資格ある労働を得るの不可能の如き異常なる事情の為特定の公共事業の遂行に対する重大なる障碍を避けんとせば必要なる場合に、前条に規定せらるる時間制限を所定限度まで超ゆることを許可することを得。

第 四 条

 前諸条に規定せらるる時間制限は、左の場合に於て、之を超ゆることを得。但し企業の通常の操業に対する重大なる障碍を除去するに必要なる限に於てとす。
 (a) 現実なる若は急迫せる災害の場合、機械若は装置に対し施さるべき緊急作業の場合又は不可抗力の場合
 (b) 交替班の一人又は二人以上の班員の予見せられざる欠席を補ふ為の場合

第 五 条

1 第二条及第三条に規定せらるる時間制限は、技術的理由の為に中断することを得ざる作業を完了する為特定の者が継続して現場に在ることが必要なる場合に於ては、之を超ゆることを得。
2 権限ある権力は、関係ある使用者団体及労働者団体が存在する場合に於ては之に諮問したる後、本条の適用を受くる作業及関係者が所定限度を超えて労働し得る時間の最大限度数を決定すべし。
3 本条に依る超過時間に対しては、普通率の一倍四分の一を下らざる率に於て報酬を支払ふべきものとす。

第 六 条

1 権限ある権力は、例外的なる労務繁忙の場合の為、超過時間の許可を与ふることを得。右許可は、右超過時間の必要及時間数に関し関係ある使用者団体及労働者団体が存在する場合に於ては之に諮問したる後設けらるる規則に依りてのみ与へらるべきものとし、且右許可は、何人と雖も一年に付右超過時間の百時間を超えて使用せらるることを許さざるべきものとす。
2 本条に依る超過時間に対しては、普通率の一倍四分の一を下らざる率に於て報酬を支払ふべきものとす。

第 七 条

 本条約の規定の有効なる実施を容易ならしむる為、各使用者は、左記を要求せらるべきものとす。
 (a) 作業場若は他の適当なる場所の見易き箇所に掲示することに依り又は権限ある権力に依り承認せらるべき他の方法に依り左記を公示すること。
  (i) 始業及終業の時刻
  (ii) 作業が交替制に依り行はるる場合には各交替班の始業及終業の時刻
  (iii) 輪番制が適用せらるる場合には各労働者又は労働者集団の時間表を包含せる右制度の説明
  (iv) 平均一週労働時間が数週に亘り計算せらるる場合に於て行はるる按配
  (v) 労働時間の一部と看做されざる限に於ける休憩時間
 (b) 第三条3、第五条及第六条に依る一切の増加時間及之に対し為されたる給与を権限ある権力の定むる様式に従ひ記録すること。

第 八 条

 本条約の適用に関し締盟国に依り提出せらるる年報は、特に左記に関する充分なる情報を包含すべきものとす。
 (a) 第一条2に依り採用せらるる限定
 (b) 第二条2に依り権限ある権力が性質上必然的に継続的なるものと認めたる作業
 (c) 第二条4に依り為さるる決定
 (d) 第三条に依り為さるる決定
 (e) 第六条に依り与へらるる超過時間の許可

第 九 条

 本条約は、其の定むる所より有利なる条件を保障する法令、判決、慣習又は使用者及労働者間の協定に影響を及ぼさざるものとす。

第 十 条

 この条約の正式の批准書は、登録のため国際労働事務局長に送付するものとする。

第 十 一 条

1 この条約は、国際労働機関の加盟国でその批准を国際労働事務局長が登録したもののみを拘束する。
2 この条約は、二加盟国の批准が事務局長により登録された日の後十二箇月で効力を生ずる。
3 その後は、この条約は、他のいずれの加盟国についても、その批准が登録された日の後十二箇月で効力を生ずる。

第 十 二 条

 国際労働事務局長は、国際労働機関の二加盟国の批准が登録されたときは、この旨を直ちに国際労働機関のすべての加盟国に通告しなければならない。同事務局長は、また他の加盟国からその後通告を受けた批准の登録をすべての加盟国に通告しなければならない。

第 十 三 条

1 この条約を批准した加盟国は、この条約が最初に効力を生じた日から十年の期間の満了の後は、登録のため国際労働事務局長に通告する文書によつてこの条約を廃棄することができる。廃棄は、その廃棄が登録された日の後一年間は効力を生じない。
2 この条約を批准した加盟国で前項に掲げる十年の期間の満了の後一年以内にこの条に定める廃棄の権利を行使しないものは、さらに十年の期間この条約の拘束を受けるものとし、その後は、この条に定める条件に基いて、十年の期間が経過するごとにこの条約を廃棄することができる。

第 十 四 条

 国際労働機関の理事会は、この条約が効力を生じた後十年の期間が経過するごとに、この条約の運用に関する報告を総会に提出し、かつ、この条約の全部又は一部の改正に関する問題を総会の議事日程に加えることの可否を審議しなければならない。

第 十 五 条

1 総会がこの条約の全部又は一部を改める改正条約を新たに採択する場合には、その改正条約に別段の規定がない限り、
 (a) 加盟国による改正条約の批准は、改正条約の効力発生を条件として、第十三条の規定にかかわらず、当然この条約の即時の廃棄を伴う。
 (b) 加盟国によるこの条約の批准のための開放は、改正条約が効力を生ずる日に終了する。
2 この条約は、これを批准した加盟国で改正条約を批准していないものについては、いかなる場合にも、その現在の形式及び内容で引き続き効力を有する。

第 十 六 条

 この条約のフランス語及び英語による本文は、ともに正文とする。