1936年の職員海技免状条約(第53号)

ILO条約 | 1936/10/24

商船に乗組む船長及職員に対する職務上の資格の最低要件に関する条約(第53号)
(日本は未批准 仮訳)

 国際労働機関の総会は、国際労働事務局の理事会によりジュネーヴに招集されて、二千二十一年六月十八日にその第百九回会期として会合し、八本の国際労働条約の廃止並びに十本の国際労働条約及び十一本の国際労働勧告の撤回に関する提案を検討し、二千二十一年六月十八日に、千九百三十六年の職員海技免状条約(第五十三号)の廃止を決定する。国際労働事務局長は、この本文書廃止の決定を、国際労働機関の全加盟国及び国際連合事務総長に通知する。この決定の英文及びフランス文は、ひとしく正文とする。

 国際労働機関の総会は、
 国際労働事務局の理事会に依りジユネーヴに招集せられ、千九百三十六年十月六日其の第二十一回会議として会合し、
 右会議の会議事項の第四項目たる商船に乗組む船長竝に当直に任ずる運転士及機関士に付ての職務上の資格の最低要件の各海事国に依る設定に関する提案の採択を決議し、且
 該提案は国際条約の形式に依るべきものなることを決定し、
 千九百三十六年の職員海技免状条約と称せらるべき左の条約を千九百三十六年十月二十四日採択す。

第 一 条

1 本条約は、左記を除くの外、本条約の実施せらるる地域に於て登録せられ且海洋航行に従事する一切の船舶に之を適用す。
 (a) 軍艦
 (b) 商業に従事せざる政府の船舶又は公の権力の用に供せらるる船舶
 (c) 「ダウ」及「ジヤンク」の如き原始的構造の木造船舶
2 国内の法令又は規則は、総噸数二百噸未満の船舶に関して例外又は除外を許与することを得。

第 二 条

 本条約に於て、左の用語は、左の意義を有す。
 (a) 「船長」とは、船舶の指揮又は監督に任ずる一切の者を謂ふ。
 (b) 「当直運転士」とは、水先人を除くの外、現に船舶の運航に任ずる一切の者を謂ふ。
 (c) 「機関長」とは、船舶の機械推進に付常に責に任ずる一切の者を謂ふ。
 (d) 「当直機関士」とは、現に船舶の機関の運転に任ずる一切の者を請ふ。

第 三 条

1 何人と雖も船舶が登録せられたる地域の公の権力に依り発給せられ又は承認せられたる海技免状を所持するに非ざれば、本条約の適用を受くる船舶に於て船長、当直運転士、機関長又は当直機関士の職務を執行する為に雇入れらるることを得ず、又之を執行することを得ず。
2 本条の規定に対する例外は、不可抗力の場合に限り、之を設くることを得。

第 四 条

1 左の者に非ざれば海技免状を授与せられざるものとする。
 (a) 当該免状の発給に付定められたる最低年令に達し、
 (b) 職務上の経歴が当該免状の発給に付定められたる最短期間に達し、且
 (c) 当該免状に相当する職務の執行に必要なる資格を有するや否やを審査する為権限ある権力の組織し且監督する試験に合格したる者
2 国内の法令又は規則は、左記を規定すべきものとす。
 (a) 各種の海技免状を受けんとする者が要求せらるべき最低年令及職務上の経歴の最短期間
 (b) 海技免状を受けんとする者が当該免状に相当する職務の執行に必要なる資格を有するや否やを審査する為の一又は二以上の試験の権限ある権力に依る組織及び監督
3 国際労働機関の締盟国は、其の批准の日より三年の期間中は本条2(b)に依り組織せらるる試験に合格せざる者にして左記に該当するものに海技免状を発給することを得。
 (a) 当該免状に相当する職務に付充分なる実地経験を事実上有し、且
 (b) 当人に付重大なる技術上の過失の記録なきこと。

第 五 条

1 本条約を批准する各締盟国は、有効なる監督制度に依り本条約の充分なる実施を確保すべし。
2 国内の法令又は規則は、締盟国の権力が本条約の規定に違反したるの故を以て其の領域に於て登録せられたる船舶を抑留し得る場合を規定すべし。
3 本条約を批准したる締盟国の権力が同じく本条約を批准したる他の締盟国の領域に於て登録せられたる船舶に付本条約の規定の違反を発見する場合には、右権力は、右船舶が登録せられたる領域の属する締盟国の領事に通告すべし。

第 六 条

1 国内の法令又は規則は、本条約の規定が遵守せられざる場合に付刑罰又は懲戒方法を規定すべし。
2 右の刑罰又は懲戒方法は、特に左の場合に付規定せらるべきものとす。
 (a) 船舶所有者、其の代理人又は船長が本条約の要求する海技免状を所持せざる者を雇入れたる場合
 (b) 本条約第二条に定めらるる職務が之に相当し又は之より上級なる海技免状を所持せざる者に依り執行せらるることを船長に於て許容したる場合
 (c) 或者が必要なる海技免状を所持せずして前記第二条に定めらるる職務を執行する為詐偽又は偽造文書に依り雇入れられたる場合

第 七 条

1 国際労働機関憲章第三十五条に掲げらるる地域に関しては、本条約を批准する右機関の各締盟国は、左記を示す宣言を該国の批准に附加すべきものとす。
 (a) 右締盟国が変更を加へずして本条約の規定を適用することを約する地域
 (b) 右締盟国が変更を加へて本条約の規定を適用することを約する地域及右変更の細目
 (c) 本条約を適用し得ざる地域及其の場合に於ては之を適用し得ざる理由
 (d) 右締盟国が其の決定を留保する地域
2 本条1(a)及(b)に掲げらるる約束は、批准の一部と看做さるべく且批准の効力を有すべし。
3 何れの締盟国も、本条1(b)、(c)又は (d)に依り其の原宣言に於て為されたる留保の全部又は一部を爾後の宣言に依り取消すことを得。

第 八 条

 この条約の正式の批准書は、登録のため国際労働事務局長に送付するものとする。

第 九 条

1 この条約は、国際労働機関の加盟国でその批准を国際労働事務局長が登録したもののみを拘束する。
2 この条約は、二加盟国の批准が事務局長により登録された日の後十二箇月で効力を生ずる。
3 その後は、この条約は、他のいずれの加盟国についても、その批准が登録された日の後十二箇月で効力を生ずる。

第 十 条

 国際労働事務局長は、国際労働機関の二加盟国の批准が登録されたときは、この旨を直ちに国際労働機関のすべての加盟国に通告しなければならない。同事務局長は、また他の加盟国からその後通告を受けた批准の登録をすべての加盟国に通告しなければならない。

第 十 一 条

1 この条約を批准した加盟国は、この条約が最初に効力を生じた日から十年の期間の満了の後は、登録のため国際労働事務局長に通告する文書によつてこの条約を廃棄することができる。廃棄は、その廃棄が登録された日の後一年間は効力を生じない。
2 この条約を批准した加盟国で前項に掲げる十年の期間の満了の後一年以内にこの条に定める廃棄の権利を行使しないものは、さらに十年の期間この条約の拘束を受けるものとし、その後は、この条に定める条件に基いて、十年の期間が経過するごとにこの条約を廃棄することができる。

第 十 二 条

 国際労働機関の理事会は、この条約が効力を生じた後十年の期間が経過するごとに、この条約の運用に関する報告を総会に提出し、かつ、この条約の全部又は一部の改正に関する問題を総会の議事日程に加えることの可否を審議しなければならない。

第 十 三 条

1 総会がこの条約の全部又は一部を改める改正条約を新たに採択する場合には、その改正条約に別段の規定がない限り、
 (a) 加盟国による改正条約の批准は、改正条約の効力発生を条件として、第十一条の規定にかかわらず、当然この条約の即時の廃棄を伴う。
 (b) 加盟国によるこの条約の批准のための開放は、改正条約が効力を生ずる日に終了する。
2 この条約は、これを批准した加盟国で改正条約を批准していないものについては、いかなる場合にも、その現在の形式及び内容で引き続き効力を有する。

第 十 四 条

 この条約のフランス語及び英語による本文は、ともに正文とする。