1946年の有給休暇(船員)条約(第72号)

ILO条約 | 1946/06/28

船員の有給休暇に関する条約(第72号)
(日本は未批准、仮訳)

 国際労働機関の総会は、国際労働事務局の理事会によりジュネーヴに招集されて、二千二十一年六月十八日にその第百九回会期として会合し、八本の国際労働条約の廃止並びに十本の国際労働条約及び十一本の国際労働勧告の撤回に関する提案を検討し、二千二十一年六月十八日に、千九百四十六年の有給休暇(船員)条約(第七十二号)の撤回を決定する。国際労働事務局長は、この本文書撤回の決定を、国際労働機関の全加盟国及び国際連合事務総長に通知する。この決定の英文及びフランス文は、ひとしく正文とする。

 国際労働機関の総会は、
 国際労働事務局の理事会によつてシアトルに招集され、且つ千九百四十六年六月六日を以てその第二十八回会議を開催し、
 この会議の議事日程の第六議題である船員の有給休暇に関する提案の採択を決議し、且つ
 この提案は千九百三十六年の有給休暇(海上)条約の全部的改正を意味し、且つ国際条約の形式によるを要することを思い、
 千九百四十六年の有給休暇(船員)条約として引用することができる次の条約を千九百四十六年六月二十八日に採択する。

第 一 条

1 この条約は、公有たると私有たるとを問わず、機械的に推進されるすべての海洋航行船舶で商業の目的を以て貨物又は旅客の運送に従事し且つこの条約が実施される領域において登録されたものに適用する。
2 国内の法令又は規則は、船舶が海洋航行船舶として認められる場合を決定しなければならない。
3 この条約は、次のものに適用しない。
 (a) ダウ及びジヤンクの如き原始的構造の木造船
 (b) 漁撈若しくは直接これに関連した作業又は海豹狩若しくは類似の業務に従事する船舶
 (c) 江湾船
4 国内の法令若しくは規則又は労働協約は、二百総登録トン未満の船舶のこの条約の規定よりの除外について規定することができる。

第 二 条

1 この条約は、次の者を除き、資格のいかんを問わず船内で勤務するすべての者に適用する。
 (a) 乗組員でない水先案内人
 (b) 乗組員でない医師
 (c) 専ら看護の業務に従事する看護人及び乗組員ではない病院職員
 (d) 専ら自己の計算において労働し、又は専ら利益若しくは所得の分配により報酬を受ける者
 (e) 自己の勤務に対し報酬を受けない者又は名目のみの給料若しくは賃金を受ける者
 (f) 無線電信会社の勤務に服する無線通信士又は無線通信員を除き、船舶所有者以外の使用者により船内に使用される者
 (g) 乗組員でない移動港湾労務者
 (h) 船員団体により締結された給与率、労働時間及びその他の勤務条件を決定する特別捕鯨団体協約又は類似の協約の規定により規律される条件の下に捕鯨又は類似の作業のために捕鯨船、浮工場その他に使用される者
 (i) 港において使用され、通常海上に使用されない者
2 権限ある機関は、関係ある船舶所有者及び船員の団体と協議して、年次休暇に関しこの条約により定められるものに劣らず有利な勤務条件を国内の法令若しくは規則又は労働協約により享受する船長、主任航海士及び主任機関士をこの条約の適用より除外することができる。

第 三 条

1 この条約の適用を受けるすべての者は、継続勤務の十二箇月後に、年次有給休暇を受ける権利を有しなければならず、その期間は、次の通りでなければならない。
 (a) 船長、士官、無線通信士及び無線通信員については各勤務年に付毎年十八労働日以上
 (b) その他の船員については各勤務年に付十二労働日以上
2 六箇月以上継続勤務の者は、かかる勤務を去る際、各全一箇月の勤務に関し、船員、士官、無線通信士及び無線通信員については一日半労働日、又その他の船員については一労働日の休暇を受ける権利を有しなければならない。
3 継続勤務六箇月を完了する前自己の過失によらないで解雇される者は、かかる勤務を去る際、各全一箇月の勤務に関し、船員、士官、無線通信士及び無線通信員については一日半労働日、又その他の船員については一労働日の休暇を受ける権利を有しなければならない。
4 休暇が与えられるべき場合の計算上、
 (a) 契約の条項外の勤務は、継続勤務の計算に加算される。
 (b) 被用者の行為又は過失によつてではなく、且つ十二箇月毎に合計六週間を超えない短期の勤務の中断は、右中断の前後の勤務期間の継続を中断するものと認めてはならない。
 (c) 勤務の継続は、関係ある者が勤務した船舶の管理者又は船舶所有者の変更により中断されるものと認めてはならない。
5 次に掲げるものは、年次有給休暇に含まれないものとする。
 (a) 公休日及び慣習による休日
 (b) 疾病又は傷害による勤務の中断
6 国内の法令若しくは規則又は労働協約は、この条約により与えられる年次有給休暇を分割し、又は一年につき与えられる休暇を翌年分の休暇に加算することを定めることができる。
7 国内の法令若しくは規則又は労働協約は、勤務が要求する極めて例外的の事情においてこの条約により与えられる年次休暇の代りに少くとも第五条に定められる報酬に等しい現金給与を以てすることを定めることができる。

第 四 条

1 年次休暇が与えられる場合には、双方の合意により、勤務の要件が許す最初の機会においてこれを与えなければならない。
2 何人といえども、その同意なくして、雇入領域内の港又はその本国領域の港以外の港において、自己に与えられる年次休暇をとることを要求されることはない。この要件の留保の下に、休暇は、国内の法令若しくは規則又は労働協約により許される港において与えられなければならない。

第 五 条

1 この条約の第三条により休暇をとるすべての者は、休暇の全期間に関し、その通常の報酬を受けなければならない。
2 前項により支払わるべき通常の報酬は、適当の生活手当を含むべく、且つ国内の法令若しくは規則により規定され又は労働協約により定められる方法でこれを計算しなければならない。

第 六 条

 第三条7の規定の留保の下に、年次有給休暇の権利を放棄し、又はかかる休暇を廃棄する協約は、無効としなければならない。

第 七 条

 休暇をとる前に使用者に対する勤務を去り又は解雇される者は、この条約により与えられるべき休暇の各日に付第五条に定められる報酬を受けなければならない。

第 八 条

 この条約を批准する各加盟国は、この規定の有効な適用を確保しなければならない。

第 九 条

 この条約のいかなる規定も、この条約により定められるものよりも一層有利な条件を確保する法律、裁定、慣行又は労働協約に影響を及ぼすものではない。

第 十 条

1 次のものによりこの条約を実施することができる。
 (a)法令又は規則、
 (b)船舶所有者と船員との間の労働協約、又は
 (c)法令又は規則と船舶所有者船員間の労働協約との組合わせ。この条約に別段の規定ある場合を除き、この条約の規定は、批准加盟国の領域において登録されたすべての船舶及びかかる船舶に雇われるすべての者に適用しうるものとしなければならない。
2 本条1に従い労働協約によりこの条約の規定を実施した場合においては、この条約の第八条の規定に拘わらず、加盟国であつてその領域内において協約が実施されるものは、労働協約により実施されたこの条約の規定に関し第八条による措置を講ずることを要しない。
3 この条約を批准する各加盟国は、この条約が適用される措置に関する情報(その規定を実施する労働協約で加盟国がこの条約を批准する日において実施されるものの詳細を含む。)を国際労働事務局長に提供しなければならない。
4 この条約を批准する各加盟国は、三者構成代表の方法により、政府、船舶所有者団体及び船員団体の代表(国際労働事務局の合同海事委員会の代表者を顧問の資格で包含する。)から成り、且つこの条約を実施するため執られる措置を審査するため設けられる委員会に参加することを約する。
5 事務局長は、前記3によりその受理した情報の摘要を右委員会に提出しなければならない。
6 委員会は、これに報告された労働協約がこの条約の規定を充分実施するか否かを審議しなければならない。この条約を批准する各加盟国は、委員会によつて為されたこの条約の適用に関する所見又は提案を考慮し、且つ更に1に掲げられる労働協約の当事者である使用者及び労働者の団体に対しかかる協約がこの条約の規定を実施する程度に関する前記委員会の所見又は提案を通知することを約する。

第 十 一 条

 千九百三十六年の有給休暇(海上)条約第十七条の適用上、この条約は、その条約を改正する条約として認められなければならない。

第 十 二 条

 この条約の正式の批准書は、登録のため国際労働事務局長に送付しなければならない。

第 十 三 条

1 この条約は、事務局長がその批准を登録した国際労働機関の加盟国のみを拘束する。
2 この条約は、次の諸国中の九箇国でその中少くとも五箇国は各々少くとも百万総登録トンの船舶を有するものによる批准が登録された日の後六箇月で効力を発生する。アメリカ合衆国、アルゼンテイン共和国、オーストラリア、ベルギー、ブラジル、カナダ、チリ、中華民国、デンマーク、フインランド、フランス、グレート・ブリテン及び北部アイルランド連合王国、ギリシヤ、インド、アイルランド、イタリア、オランダ、ノールウエー、ポーランド、ポルトガル、スウエーデン、トルコ、ユーゴースラヴイア。この規定は、加盟国によるこの条約の早期の批准を容易にし、且つ促進するために挿入されるものである。
3 爾後この条約は、いかなる加盟国に対しても、その批准が登録された日の後六箇月で効力を発生する。

第 十 四 条

1 この条約を批准した加盟国は、この条約の効力発生の日より十年の期間満了後において、国際労働事務局長宛登録のためにする通告によりこれを廃棄することができる。右の廃棄は、その登録があつた日の後一年間は効力を発生しない。
2 この条約を批准した加盟国であつて前項に掲げた十年の期間満了後一年以内に本条に規定する廃棄の権利を行使しないものは、更に十年間拘束を受くべく、又爾後各十年の期間満了毎に本条に定める条件によつて、この条約を廃棄することができる。

第 十 五 条

1 国際労働事務局長は、国際労働機関の加盟国から通知を受けたすべての批准及び廃棄の登録を国際労働機関のすべての加盟国に通告しなければならない。
2 事務局長は、この条約が効力を生ずるに必要な最後の批准の登録を国際労働機関の加盟国に通告する際に、この条約が効力を発生する日について国際労働機関の加盟国の注意を喚起しなければならない。

第 十 六 条

 国際労働事務局長は、前各条の規定に従つて登録されたすべての批准及び廃棄の詳細を国際連合憲章第百二条による登録のため国際連合事務総長に通告しなければならない。

第 十 七 条

 国際労働事務局の理事会は、この条約の効力の発生後十年の期間満了毎に、この条約の運用に関する報告を総会に提出し、且つこの条約の全部又は一部の改正に関する問題を総会の議事日程に掲ぐべきや否やを審議しなければならない。

第 十 八 条

1 総会がこの条約の全部又は一部を改正する新条約を採択する場合は、新条約が別段の規定をしない限り、
 (a) 一加盟国による新改正条約の批准は、新改正条約が効力を発生したとき、前記第十四条の規定に拘わらず、当然にこの条約の即時の廃棄を生ぜしめる。
 (b) 新改正条約の効力発生の日から、この条約は、加盟国によつて批准され得ないようになる。
2 この条約は、これを批准したるも改正条約を批准しない加盟国に対しては、いかなる場合においても、その現在の形式及び内容において引き続いて効力を有する。

第 十 九 条

 この条約は、イギリス語及びフランス語の本文を以て共に正文とする。