1949年の賃金保護条約(第95号)

ILO条約 | 1949/07/01

賃金の保護に関する条約(第95号)
(日本は未批准、仮訳)

 国際労働機関の総会は、
 理事会によりジユネーヴに招集されて、千九百四十九年六月八日にその第三十二回会期として会合し、
 この会期の議事日程の第七議題である賃金の保護に関する諸提案の採択を決定し、
 それらの提案が国際条約の形式をとるべきであることを決定したので、
 千九百四十九年の賃金保護条約と称する次の条約を千九百四十九年七月一日に採択する。

第 一 条

 この条約において「賃金」とは、名称又は計算方法のいかんを問わず、金銭で評価することができ、且つ、双方の合意又は国内の法令により定められる報酬又は所得で、なされた仕事若しくはなされるべき仕事又はなされた労務若しくはなされるべき労務につき使用者が文書又は口頭による労働契約に基いて労働者に支払うものをいう。

第 二 条

1 この条約は、賃金が支払われる者又は支払われるべき者のすべてに適用する。
2 権限のある機関は、雇用の事情及び条件からこの条約の規定の全部又は一部の適用が不適当であるような種類の者で筋肉労働に使用されないもの又は家事労務若しくはこれと同種の仕事に使用されるものを、直接関係のある使用者団体及び労働者団体が存在する場合にはそれらの団体と協議の上、この条約の規定の全部又は一部の適用から除外することができる。
3 加盟国は、国際労働機関憲章第二十二条に基いて提出するこの条約の適用に関する第一回の年次報告において、前項の規定に従つてこの条約の規定の全部又は一部の適用から除外しようとする種類の者を指定しなければならない。いずれの加盟国も、第一回の年次報告の日付の日の後は、こうして指定した種類の者を除く外、除外をすることができない。
4 第一回の年次報告においてこの条約の規定の全部又は一部の適用から除外しようとする種類の者を指定した加盟国は、その後の年次報告において、本条2の規定を適用する権利を放棄する種類の者を指定しなければならず、またこのような種類の者にこの条約を適用するためになされた進歩を記載しなければならない。

第 三 条

1 金銭で支払う賃金は、法貨で支払わなければならず、約束手形、借用証書若しくはクーポンの形式又は法貨に代るものであるとするその他の形式による支払は、禁止しなければならない。
2 権限のある機関は、銀行小切手、郵便小切手、又は郵便為替による賃金の支払については、それが慣習となつているか若しくは特殊な事情により必要とされる場合又はそれが労働協約若しくは仲裁裁定で規定されているか若しくはその規定がないときでも関係労働者の同意を得た場合には、この方法による支払を許可し、又は命ずることができる。

第 四 条

1 産業又は職業の性質上現物給与の形式による賃金の支払が慣習となつているか又は望ましい場合には、国内の法令、労働協約又は仲裁裁定により、その産業又は職業における現物給与の形式による賃金の一部支払を認めることができる。アルコール分の高い酒類又は有害な薬品による賃金の支払は、いかなる場合にも許されない。
2 現物給与の形式による賃金の一部支払を認める場合には、次のことを確保するため適当な措置を執らなければならない。
 (a) その現物給与が労働者及びその家族の個人的使用及び利益に適合していること。
 (b) その現物給与の評価が公正且つ妥当であること。

第 五 条

 賃金は、国内の法令、労働協約若しくは仲裁裁定に別段の規定がある場合又は関係労働者の同意がある場合を除く外、関係労働者に直接支払わなければならない。

第 六 条

 使用者は、いかなる方法によつても、労働者が自己の賃金の処分について有する自由を制限することを禁止される。

第 七 条

1 事業場内に労働者に商品を販売するための工場売店又は役務を提供するための施設が設けられている場合に、関係労働者に対し、このような売店又は施設を利用することを強制してはならない。
2 他の売店又は施設を利用することができないときは、権限のある機関は、公正且つ妥当な価格で商品が販売され及び施設が提供されること又は使用者が設ける売店及び提供する施設が利潤を得るためではなく関係労働者の利益のために営まれることを確保するため、適当な措置を執らなければならない。

第 八 条

1 賃金からの控除は、国内の法令、労働協約又は仲裁裁定で定める条件及び範囲においてのみ許されるものとする。
2 労働者に対しては、権限のある機関が最も適当と認める方法で、前記の控除が行われる条件及び範囲を知らせなければならない。

第 九 条

 賃金からの控除で、労働者が雇用され又は雇用を継続するため、使用者若しくはその代理人又は仲介人(労務供給又は募集に従事する者)に対して行う直接又は間接の支払を確保するためのものは、禁止される。

第 十 条

1 賃金は、国内の法令で定める方法及び限度においてのみ、差し押え又は譲り渡すことができる。
2 賃金は、労働者及びその家族の生活に必要であると認められる限度まで、差押又は譲渡に対して保護を受けるものとする。

第 十 一 条

1 企業の破産又は司法上の清算の場合には、その企業に使用される労働者は、破産宣告若しくは司法上の清算手続開始前の法定の期間中に提供した労務に対して支払われる賃金又は国内の法令で定める額をこえない額の賃金につき、優先的債権者として取扱われなければならない。
2 優先的債権を構成する賃金は、通常の債権者の資産分配に対する請求権が確定する前に、全額支払われなければならない。
3 優先的債権を構成する賃金と他の優先的債権との優先順位は、国内の法令で定めるものとする。

第 十 二 条 

1 賃金は、定期的に支払われなければならない。一定の間隔を置いて行う賃金の支払を確保する他の適当な措置が存在する場合を除く外、賃金支払の間隔は、国内の法令、労働協約又は仲裁裁定で定めるものとする。
2 労働契約の終了の際には、支払われるべきすべての賃金の最終的決済は、国内の法令、労働協約又は仲裁裁定に従つて行わなければならず、適用する法令、協約又は裁定がない場合には、契約の条項を考慮して適当な期間内に行わなければならない。

第 十 三 条

1 現金による賃金の支払は、国内の法令、労働協約又は仲裁裁定に別段の定がある場合又は関係労働者が知つている他の措置が一層適当であると認められる場合を除く外、労働日に作業場又はその近くで行わなければならない。
2 飲食店その他これに類似する施設における賃金の支払並びに、弊害を防止する必要がある場合には商品小売店及び娯楽場における賃金の支払は、そこで使用される者に対する場合を除く外、禁止しなければならない。

第 十 四 条 

 必要がある場合には、適当且つ平易な方法で労働者に次の事項を知らせることを確保するため有効な措置を執らなければならない。  
 (a) 労働者に適用する賃金に関する条件(この条件は、就職する前及び変更が行われる際に知らせるものとする。)
 (b) 各給与期間における労働者の賃金の細目(この細目は、変動することがある範囲のものを賃金支払の都度知らせるものとする。)

第 十 五 条

 この条約の規定を実施する法令は、
 (a) 関係者に知らせなければならない。
 (b) その遵守につき責任を負う者を定めなければならない。
 (c) その違反に対し、相当な刑罰又はその他の適当なきよう正措置を定めなければならない。
 (d) すべての適当な場合において、承認された様式及び方法による適当な記録の備付について定めなければならない。

第 十 六 条

 国際労働機関憲章第二十二条に基いて提出する年次報告には、この条約の規定を実施するための措置に関する詳細な資料を含めるものとする。

第 十 七 条 

1 加盟国の領域内の広大な地域について、権限のある機関が人口の、き薄性又は発達の程度にかんがみ、この条約の規定を実施することができないと認める場合には、その機関は、関係のある使用者団体及び労働者団体が存在するときはそれらの団体と協議の上、全面的に、又は特定の企業若しくは職業について適当と認める例外を設けて、その地域をこの条約の適用から除外することができる。
2 加盟国は、国際労働機関憲章第二十二条に基いて提出するこの条約の適用に関する第一回の年次報告において、本条の規定を適用しようとする地域を指定し、且つ、その規定を適用しようとする理由を示さなければならない。いずれの加盟国も、第一回の年次報告の日付の日の後は、こうして指定した地域を除く外、本条の規定を適用してはならない。
3 本条の規定を適用する加盟国は、三年をこえない間隔を置いて、関係のある使用者団体及び労働者団体が存在するときはそれらの団体と協議の上、1に基いて除外された地域にこの条約の適用を及ぼすことができるかどうかを考慮しなければならない。  
4 本条の規定を適用する加盟国は、その後の年次報告において、本条の規定を適用する権利を放棄する地域を指定しなければならず、また、このような地域にこの条約を漸進的に適用するためになされた進歩を記載しなければならない。

第 十 八 条

 この条約の正式の批准書は、登録のため国際労働事務局長に送付するものとする。

第 十 九 条

1 この条約は、国際労働機関の加盟国でその批准を国際労働事務局長が登録したもののみを拘束する。
2 この条約は、二加盟国の批准が事務局長により登録された日の後十二箇月で効力を生ずる。
3 その後は、この条約は、他のいずれの加盟国についても、その批准が登録された日の後十二箇月で効力を生ずる。

第 ニ 十 条

1 国際労働機関憲章第三十五条2の規定に従つて国際労働事務局長に通知する宣言は、次の事項を示さなければならない。
 (a) 当該加盟国がこの条約の規定を変更を加えずに適用することを約束する地域
 (b) 当該加盟国がこの条約の規定を変更を加えて適用することを約束する地域及びその変更の細目
 (c) この条約を適用することができない地域及びその適用することができない理由
 (d) 当該加盟国がさらに事情を検討する間決定を留保する地域
2 前項(a)及び(b)に掲げる約束は、批准の不可分の一部とみなされ、かつ、批准と同一の効力を有する。
3 加盟国は、1(b)、(c)又は(d)に基きその最初の宣言において行つた留保の全部又は一部をその後の宣言によつていつでも取り消すことができる。
4 加盟国は、第二十二条の規定に従つてこの条約を廃棄することができる期間中はいつでも、前の宣言の条項を他の点について変更し、かつ、指定する地域に関する現況を述べた宣言を事務局長に通知することができる。

第 ニ 十 一 条

1 国際労働機関憲章第三十五条4又は5の規定に従つて国際労働事務局長に通知する宣言は、当該地域内でこの条約の規定を変更を加えずに適用するか又は変更を加えて適用するかを示さなければならない。その宣言は、この条約の規定を変更を加えて適用することを示している場合には、その変更の細目を示さなければならない。
2 関係のある一若しくは二以上の加盟国又は国際機関は、前の宣言において示した変更を適用する権利の全部又は一部をその後の宣言によつていつでも放棄することができる。
3 関係のある一若しくは二以上の加盟国又は国際機関は、第二十二条の規定に従つてこの条約を廃棄することができる期間中はいつでも、前の宣言の条項を他の点について変更し、かつ、この条約の適用についての現況を述べた宣言を国際労働事務局長に通知することができる。

第 二 十 ニ 条

1 この条約を批准した加盟国は、この条約が最初に効力を生じた日から十年の期間の満了の後は、登録のため国際労働事務局長に通知する文書によつてこの条約を廃棄することができる。廃棄は、その廃棄が登録された日の後一年間は効力を生じない。
2 この条約を批准した加盟国で前項に掲げる十年の期間の満了の後一年以内にこの条に定める廃棄の権利を行使しないものは、さらに十年の期間この条約の拘束を受けるものとし、その後は、この条に定める条件に基いて、十年の期間が経過するごとにこの条約を廃棄することができる。

第 二 十 三 条

1 国際労働事務局長は、国際労働機関の加盟国から通知を受けたすべての批准、宣言及び廃棄の登録を国際労働機関のすべての加盟国に通告しなければならない。
2 事務局長は、通知を受けた二番目の批准の登録を国際労働機関の加盟国に通告する際に、この条約が効力を生ずる日について加盟国の注意を喚起しなければならない。

第 二 十 四 条

 国際労働事務局長は、前条までの規定に従つて登録されたすべての批准書、宣言書及び廃棄書の完全な明細を国際連合憲章第百二条の規定による登録のため国際連合事務総長に通知しなければならない。

第 二 十 五 条

 国際労働機関の理事会は、この条約が効力を生じた後十年の期間が経過するごとにこの条約の運用に関する報告を総会に提出し、かつ、この条約の全部又は一部の改正に関する問題を総会の議事日程に加えることの可否を審議しなければならない。

第 二 十 六 条

1 総会がこの条約の全部又は一部を改める改正条約を新たに採択する場合には、その改正条約に別段の規定がない限り、
 (a) 加盟国による改正条約の批准は、改正条約の効力発生を条件として、第二十二条の規定にかかわらず、当然この条約の即時廃棄を伴う。
 (b) 加盟国によるこの条約の批准のための開放は、改正条約が効力を生ずる日に終了する。
2 この条約は、これを批准した加盟国で改正条約を批准していないものについては、いかなる場合にも、その現在の形式及び内容で引き続き効力を有する。

第 二 十 七 条

 この条約の英語及びフランス語による本文は、ともに正文とする。