1966年の漁船員海技免状条約(第125号)

ILO条約 | 1966/06/21

漁船員の海技免状に関する条約(第125号)
(日本は未批准、仮訳)

 国際労働機関の総会は、
 理事会によりジュネーヴに招集されて、千九百六十六年六月一日にその第五十回会期として会合し、
 この会期の議事日程の第六議題に含まれる漁船員の海技免状に関する提案の採択を決定し、
 千九百三十六年の職員海技免状条約が、いかなる者も、船舶が登録された地域の公の機関によつて発給され又は承認された海技免状を受有するのでなければ、同条約の適用を受ける船舶において、船長、当直航海士、機関長又は当直機関士の職務を執行するために雇い入れられてはならず、また、これを執行してはならないと規定していることに留意し、
 漁船において勤務するための海技免状に関する最低要件を定めた補足的な国際基準が望ましいことが経験によつて示されたことを考慮し、
 この基準が国際条約の形式をとるべきであることを決定したので、
 次の条約(引用に際しては、千九百六十六年の漁船員海技免状条約と称することができる。)を千九百六十六年六月二十一日に採択する。

第 一 部 適用範囲及び定義

第 一 条

 この条約の適用上、「漁船」とは、次に掲げるものを除き、公有であると私有であるとを問わず、塩水において海上漁業に従事し、かつ、この条約の適用を受ける領域において登録されたすべての種類の船舶及び舟艇をいう。
 (a) 登録された総トン数二十五トン未満の船舶及び舟艇
 (b) 捕鯨又は類似の業務に従事する船舶及び舟艇
 (c) スポーツ又はレクリエーションのための漁ろうに従事する船舶及び舟艇
 (d) 漁業調査船及び漁業保護船

第 二 条

 権限のある機関は、漁船所有者団体及び漁船員団体があるときはそれらと協議の上、国内法令に定める沿岸漁業に従事する漁船をこの条約の適用から除外することができる。

第 三 条

 この条約の適用上、次の用語は、この条に定める意味を有する。
 (a) 船長 漁船の指揮監督を行なう者
 (b) 航海士 漁船の指揮を補佐する者(水先人以外の漁船の運航を随時担当する者を含む。)
 (c) 機関士 漁船の機械推進について常時責任を有する者

第 二 部 資格証明

第 四 条

 この条約を批准する各加盟国は、漁船内において船長、航海士又は機関士の職務を執行する資格を付与する海技免状に関する資格基準を設けなければならない。

第 五 条

1 この条約の適用を受けるすべての漁船には、資格を有する船長を乗り組ませなければならない。
2 登録された総トン数百トンをこえる漁船で、国内法令に定める区域において同法令に定める業務に従事するものには、資格を有する航海士を乗り組ませなければならない。
3 権限のある機関が漁船所有者団体及び漁船員団体があるときはそれらと協議の上決定する基準をこえる機関出力を有する漁船には、資格を有する機関士を乗り組ませなければならない。もつとも、漁船の船長又は航海士は、適当な場合には、機関士免状を有していることを条件として、機関士の職務を行なうことができる。
4 船長、航海士又は機関士の海技免状は、国内法令の定めるところにより、完全なもの又は漁船の大きさ及び型並びに業務の性質及び区域に応じて制限付きのものとすることができる。
5 権限のある機関は、資格を有する者の定員を満たしていない漁船の場合において、必要な資格を有する者を補充することができず、かつ、その場合のあらゆる事情を考慮してその漁船を出航させることが安全であると認めるときは、その漁船の出航を個別的に許可することができる。

第 六 条

1 海技免状の発給について国内法令に定める最低年令は、次の年令未満であつてはならない。
 (a) 船長の場合には二十歳
 (b) 航海士の場合には十九歳
 (c) 機関士の場合には二十歳
2 沿岸漁業に従事する漁船に乗り組む船長又は航海士並びに権限のある機関が漁船所有者団体及び漁船員団体があるときはそれらと協議の上決定する基準未満の機関出力を有する小型漁船に乗り組む機関士については、最低年齢を十八歳に定めることができる。

第 七 条

 航海士海技免状の発給について国内法令に定める最低の職務経験は、甲板部における海上勤務が三年を下回つてはならない。

第 八 条

1 船長海技免状の発給について国内法令に定める最低の職務経験は、甲板部における海上勤務が四年を下回つてはならない。
2 権限のある機関は、漁船所有者団体及び漁船員団体があるときはそれらと協議の上、前記の期間の一部を資格を有する航海士として勤務することを要求することができる。国内法令が漁船の船長に対する完全な又は制限付きの各種等級の海技免状の発給を定めている場合には、その資格取得のために資格を有する航海士として行なう勤務の性質又はそのような勤務に従事している間受有する免状の種類は、前記の海技免状の等級に応じて異なることができる。

第 九 条

1 機関士海技免状の発給について国内法令に定める最低の職務経験は、機関室における海上勤務が三年を下回つてはならない。
2 資格を有する船長又は航海士の場合には、資格取得に要する海上勤務の期間を前記の期間より短く定めることができる。
3 第六条2に掲げる小型漁船の場合には、権限のある機関は、漁船所有者団体及び漁船員団体があるときはそれらと協議の上、資格取得に要する海上勤務の期間を十二箇月に定めることができる。
4 機関工場における勤務は、1から3までに定める資格取得に要する期間の一部については、海上勤務に等しいものとみなすことができる。

第 十 条

 承認された訓練課程を修了した者については、第七条、第八条及び第九条の規定により要求される海上勤務の期間からその訓練期間を減ずることができるが、いかなる場合にも、十二箇月をこえて減ずることはできない。

第 三 部 試験

第 十 一 条

 海技免状の志望者は、その者がその海技免状に相当する職務を執行するために必要な資格を有しているかどうかを審査するために権限のある機関が組織し、かつ、監督する試験において、海技免状の種類及び等級に応じて、次の科目について知識を有することを示さなければならない。
 (a) 船長及び航海士の場合には、
  (i)  一般航海科目(運用術、操船術、海上における人命の安全及び国際海上衝突予防規則に関する適当な知識を含む。)
  (ii)  航海実務(電子的及び機械的航海援助設備の使用法を含む。)
  (iii) 安全作業の実務(漁具の安全操作を含む。)
 (b) 機関士の場合には、
  (i)  蒸気機関又は内燃機関及びその附属装置についての理論、操作、保守及び修理
  (ii)  冷凍装置、ポンプ、甲板ウインチその他漁船の他の機械設備の操作、保守及び修理(復原性に対する影響を含む。)
  (iii) 船内電源設備の原理並びに漁船の電気機器の保守及び修理
  (iv)  機関の安全措置及び応急措置(救命設備及び消火設備の使用法を含む。)

第 十 二 条

 第十一条(a)に規定する船長及び航海士の免状の取得のための試験は、また、次の科目を含むことができる。
 (a) 漁ろう技術(適当な場合には、魚群探知用電子装置の操作を含む。)並びに漁具の操作、保守及び修理
 (b) 船内における魚の積付け、洗浄及び加工

第 十 三 条

 この条約の規定を実施する国内法令が効力を生じた日から三年の間は、第十一条及び第十二条に規定する試験に合格していない者で、当該海技免状に相当する職務について、十分な実地経験を事実上有し、かつ、重大な技術上の過失を犯したことがないものに対し、海技免状を発給することができる。

第 四 部 実施措置

第 十 四 条

1 各加盟国は、効果的な監督制度によつて、この条約の規定を実施する国内法令の施行を確保しなければならない。
2 この条約の規定を実施する国内法令は、加盟国の当局がその領域内において登録された船舶を同法令の違反を理由として抑留することができる場合を定めなければならない。

第 十 五 条

1 この条約の規定を実施する国内法令は、同法令が尊重されない場合における刑罰又は懲戒処分を定めなければならない。
2 前記の刑罰又は懲戒処分は、特に次の場合について定めなければならない。
 (a) 漁船所有者若しくはその代理人又は船長が必要な海技免状を受有しない者を雇い入れた場合
 (b) 必要な海技免状を受有しない者が詐欺又は偽造文書により資格証明を必要とする職務を執行するため雇い入れられた場合

第 五 部 最終規定

第 十 六 条

 この条約の正式の批准は、登録のため国際労働事務局長に通知する。

第 十 七 条

1 この条約は、国際労働機関の加盟国でその批准が事務局長に登録されたもののみを拘束する。
2 この条約は、二の加盟国の批准が事務局長に登録された日の後十二箇月で効力を生ずる。
3 その後は、この条約は、いずれの加盟国についても、その批准が登録された日の後十二箇月で効力を生ずる。

第 十 八 条

1 この条約を批准した加盟国は、この条約が最初に効力を生じた日から十年を経過した後は、登録のため国際労働事務局長に送付する文書によつてこの条約を廃棄することができる。その廃棄は、登録された日の後一年間は効力を生じない。
2 この条約を批准した加盟国で、1に定める十年の期間が満了した後一年以内にこの条に規定する廃棄の権利を行使しないものは、更に十年間拘束を受けるものとし、その後は、十年の期間が満了するごとに、この条に定める条件に従つてこの条約を廃棄することができる。

第 十 九 条

1 国際労働事務局長は、国際労働機関の加盟国から通知を受けたすべての批准及び廃棄の登録をすべての加盟国に通告する。
2 事務局長は、通知を受けた二番目の批准の登録を国際労働機関の加盟国に通告する際に、この条約が効力を生ずる日につき加盟国の注意を喚起する。

第 二 十 条

 国際労働事務局長は、国際連合憲章第百二条の規定による登録のため、前諸条の規定に従つて登録されたすべての批准及び廃棄の完全な明細を国際連合事務総長に通知する。

第 二 十 一 条

 国際労働機関の理事会は、必要と認めるときは、この条約の運用に関する報告を総会に提出するものとし、また、この条約の全部又は一部の改正に関する問題を総会の議事日程に加えることの可否を検討する。

第 二 十 ニ 条

1 総会がこの条約の全部又は一部を改正する条約を新たに採択する場合には、その改正条約に別段の規定がない限り、
 (a) 加盟国によるその改正条約の批准は、その改正条約の効力発生を条件として、第十八条の規定にかかわらず、当然にこの条約の即時の廃棄を伴う。
 (b) 加盟国による批准のためのこの条約の開放は、その改正条約が効力を生ずる日に終了する。
2 この条約は、これを批准した加盟国で1の改正条約を批准していないものについては、いかなる場合にも、その現在の形式及び内容で引き続き効力を有する。

第 二 十 三 条

 この条約の英文及びフランス文は、ひとしく正文とする。