1970年の最低賃金決定条約(第131号)

ILO条約 | 1970/06/22

開発途上にある国を特に考慮した最低賃金の決定に関する条約(第131号)
(1971年4月29日批准登録)

 国際労働機関の総会は、
 理事会によりジュネーヴに招集されて、千九百七十年六月三日にその第五十四回会期として会合し、
 広く批准されている千九百二十八年の最低賃金決定制度条約及び千九百五十一年の同一報酬条約並びに千九百五十一年の最低賃金決定制度(農業)条約の規定に留意し、
 それらの条約が不利益な立場にある賃金労働者の集団の保護に貴重な役割を果たしてきたことを考慮し、
 それらの条約を補足し、かつ、不当に低い賃金に対し賃金労働者を保護することを規定する新たな文書であつて、一般的に適用されるが開発途上にある国の必要を特に考慮したものを採択する時期が来たことを考慮し、
 前記の会期の議事日程の第五議題である開発途上にある国を特に考慮した最低賃金決定制度及び関連問題に関する提案の採択を決定し、
 その提案が国際条約の形式をとるべきであることを決定して、
 次の条約(引用に際しては、「千九百七十年の最低賃金決定条約」と称することができる。)を千九百七十年六月二十二日に採択する。

第 一 条

1 この条約を批准する国際労働機関の各加盟国は、雇用条件に照らし対象とすることが適当である賃金労働者のすべての集団について適用される最低賃金制度を設置することを約束する。
2 各国の権限のある機関は、関係のある代表的な使用者団体及び労働者団体が存在する場合にはそれらの団体と合意して又はそれらの団体と十分に協議したうえ、最低賃金制度の対象とされる賃金労働者の集団を決定する。
3 この条約を批准する各加盟国は、国際労働機関憲章第二十二条の規定に従つて提出するこの条約の適用に関する第一回の報告において、この条の規定の適用上最低賃金制度の対象とされない賃金労働者の集団をその対象とされない理由を付して列記するものとし、その後の報告において、その集団に関する自国の法律及び慣行の現況並びにこの条約がその集団につきどの程度に実施されているか又は実施されようとしているかを記述する。

第 二 条

1 最低賃金は、法的効力を有するものとし、引き下げることができない。また、最低賃金の適用を怠つた場合には、関係者は、相当な刑罰その他の制裁を受ける。
2 団体交渉の自由は、1の規定に従うことを条件として、十分に尊重する。

第 三 条

 最低賃金の水準の決定にあたつて考慮すべき要素には、国内慣行及び国内事情との関連において可能かつ適当である限り、次のものを含む。
 (a) 労働者及びその家族の必要であつて国内の賃金の一般的水準、生計費、社会保障給付及び他の社会的集団の相対的な生活水準を考慮に入れたもの
 (b) 経済的要素(経済開発上の要請、生産性の水準並びに高水準の雇用を達成し及び維持することの望ましさを含む。)

第 四 条

1 この条約を批准する各加盟国は、第一条の規定の適用上最低賃金制度の対象とされる賃金労働者の集団のための最低賃金を決定しかつ随時調整することができる制度で国内の条件及び必要を満たすものを創設し又は維持する。
2 1の制度の設置、運用及び修正に関連して、関係のある代表的な使用者団体及び労働者団体又はこれらの団体がない場合には関係のある使用者及び労働者の代表者との十分な協議が行なわれるため、措置をとるものとする。
3 最低賃金決定制度の性質上適当な場合には、次の者がその運用に直接参加するため、措置をとるものとする。
 (a) 関係のある使用者団体及び労働者団体の代表者又は、それらの団体がない場合には、関係のある使用者及び労働者の代表者。もつとも、それらの代表者は、平等の立場で参加するものとする。
 (b) 国の一般的な利益を代表するために適任であると認められている者。もつとも、その者は、関係のある代表的な使用者団体及び労働者団体が存在する場合において、これらの団体との協議が国内法及び国内慣行に適合するものであるときは、そのような協議が十分に行なわれたうえ任命されるものとする。

第 五 条

 最低賃金に関するすべての規定が効果的に適用されることを確保するため、他の必要な措置によつて強化された適切な監督その他の適当な措置をとる。

第 六 条

 この条約は、現存するいずれの条約をも改正するものとみなしてはならない。

第 七 条

 この条約の正式の批准は、登録のため国際労働事務局長に通知する。

第 八 条

1 この条約は、国際労働機関の加盟国でその批准が事務局長に登録されたもののみを拘束する。
2 この条約は、二の加盟国の批准が事務局長に登録された日の後十二箇月で効力を生ずる。
3 その後は、この条約は、いずれの加盟国についても、その批准が登録された日の後十二箇月で効力を生ずる。

第 九 条

1 この条約を批准した加盟国は、この条約が最初に効力を生じた日から十年を経過した後は、登録のため国際労働事務局長に送付する文書によつてこの条約を廃棄することができる。その廃棄は、登録された日の後一年間は効力を生じない。
2 この条約を批准した加盟国で、1に定める十年の期間が満了した後一年以内にこの条に規定する廃棄の権利を行使しないものは、更に十年間拘束を受けるものとし、その後は、十年の期間が満了するごとに、この条に定める条件に従つてこの条約を廃棄することができる。

第 十 条

1 国際労働事務局長は、国際労働機関の加盟国から通知を受けたすべての批准及び廃棄の登録をすべての加盟国に通告する。
2 事務局長は、通知を受けた二番目の批准の登録を国際労働機関の加盟国に通告する際に、この条約が効力を生ずる日につき加盟国の注意を喚起する。

第 十 一 条

 国際労働事務局長は、国際連合憲章第百二条の規定による登録のため、前諸条の規定に従つて登録されたすべての批准及び廃棄の完全な明細を国際連合事務総長に通知する。

第 十 二 条

 国際労働機関の理事会は、必要と認めるときは、この条約の運用に関する報告を総会に提出するものとし、また、この条約の全部又は一部の改正に関する問題を総会の議事日程に加えることの可否を検討する。

第 十 三 条

1 総会がこの条約の全部又は一部を改正する条約を新たに採択する場合には、その改正条約に別段の規定がない限り、
 (a) 加盟国によるその改正条約の批准は、その改正条約の効力発生を条件として、第九条の規定にかかわらず、当然にこの条約の即時の廃棄を伴う。
 (b) 加盟国による批准のためのこの条約の開放は、その改正条約が効力を生ずる日に終了する。
2 この条約は、これを批准した加盟国で1の改正条約を批准していないものについては、いかなる場合にも、その現在の形式及び内容で引き続き効力を有する。

第 十 四 条

 この条約の英文及びフランス文は、ひとしく正文とする。