1970年の船員設備(補足規定)条約(第133号)

ILO条約 | 1970/10/30

船内船員設備に関する条約(補足規定)(第133号)
(日本は未批准、仮訳)

 国際労働機関の総会は、
 理事会によりジュネーヴに招集されて、千九百七十年十月十四日にその第五十五回会期として会合し、
 千九百四十九年の船員設備条約(改正)が船内における宿泊設備、食堂、娯楽室、換気装置、暖房装置、照明装置、衛生設備等の事項に関する詳細な基準を定めていることに留意し、
 近代的な船舶の構造及び操船の性格が急速に変化していることにかんがみ、船員設備についても一層の改善が可能であることを考慮し、
 前記の会期の議事日程の第二議題である船員設備に関する提案の採択を決定し、
 その提案が千九百四十九年の船員設備条約(改正)を補足する国際条約の形式をとるべきであることを決定して、
 次の条約(引用に際しては、「千九百七十年の船員設備(補足規定)条約」と称することができる。)を千九百七十年十月三十日に採択する。

第 一 部 一般規定

第 一 条

1 この条約は、営利のため貨物若しくは旅客の運送に従事し又は他の商業上の目的で使用され、かつ、この条約が実施される領域において登録される海洋航行船舶(公有であるか私有であるかを問わない。)であつて、当該領域におけるこの条約の効力発生の日以後にキールがすえ付けられ又はこれと同程度の建造段階にあるものについて適用する。
2 この条約の適用上船舶が海洋航行船舶と認められる場合は、国内法令で定める。
3 この条約は、合理的かつ実行可能な場合には、ひき船について適用する。
4 この条約は、次のものについては適用しない。
 (a) 千トン未満の船舶
 (b) 補助機関を有するかどうかを問わず、主として帆によつて推進される船舶
 (c) 漁ろう、捕鯨又はこれらと類似の業務に従事する船舶
 (d) 水中翼船及びエアークッション艇
5 もつとも、この条約は、合理的かつ実行可能な場合には、次のものについて適用する。
 (a) 二百トン以上千トン未満の船舶
 (b) 捕鯨又はこれと類似の業務に従事する船舶において通常の海洋航行の業務に従事する者のための設備
6 いずれの船舶についても、権限のある機関が、船舶所有者団体又は船舶所有者及び善意の船員の労働組合と協議のうえ、第三条の規定に基づいて必要とされるいずれかの要件に変更を加えた場合にこの条約の規定を完全に適用した場合に比して全体として劣らない条件が保証されることを確認したときは、その要件を変更することができる。この場合において、当該加盟国は、当該変更の詳細を国際労働事務局長に通知する。
7 権限のある機関は、次の船舶については、船舶所有者団体又は船舶所有者及び善意の船員の労働組合と協議のうえ、勤務時間外のための設備に関する必要性を考慮して、この条約の規定に対する例外を設け又はその適用を排除することが適当とされる範囲を定める。
 (a) 常勤船員が継続的に乗り組んでいない海洋航行フェリー、補給船及びこれらと類似の船舶
 (b) 乗組員のほかに修理員が臨時に乗船している海洋航行船舶
 (c) すべての乗組員が毎日帰宅すること又はこれと同等の便益を享受することのできるような短期間の航海に従事する海洋航行船舶

第 二 条

 この条約において、
 (a) 「船舶」とは、この条約が適用される船舶をいう。
 (b) 「トン」とは、総登録トンをいう。
 (c) 「旅客船」とは、(i)現行の海上における人命の安全のための国際条約の規定に従つて発行される旅客船安全証書又は(ii)旅客運送証書が有効である船舶をいう。
 (d) 「職員」とは、船長以外の者であつて、国内法令により、又は該当する法令がない場合には労働協約若しくは慣習により職員としての身分を与えられた者をいう。
 (e) 「部員」とは、職員以外の乗組員をいう。
 (f) 「職長」とは、監督的地位又は特別の責任のある地位にある部員であつて、国内法令により、又は該当する法令がない場合には労働協約若しくは慣習により職長とされた者をいう。
 (g) 「成年者」とは、十八歳以上の者をいう。
 (h) 「船員設備」とは、船員の使用に供される寝室、食堂、衛生設備、病室設備、娯楽設備等をいう。
 (i) 「所定の」とは、国内法令又は権限のある機関によつて定められたことをいう。
 (j) 「認可された」とは、権限のある機関によつて認可されたことをいう。
 (k) 「登録替え」とは、船舶の登録領域と所有者との同時変更の際に登録替えされることをいう。

第 三 条

 この条約が有効である各加盟国は、この条約が適用される船舶につき、次の規定を遵守することを約束する。
 (a) 千九百四十九年の船員設備条約(改正)第二部及び第三部の規定
 (b) この条約第二部の規定

第 四 条

1 この条約が有効である各加盟国は、この条約の適用を確保する法令の効力を維持することを約束する。
2 1の法令は、
 (a) すべての関係者に当該法令を周知させることを権限のある機関に対して要求し、
 (b) 当該法令の遵守について責任を有する者を定め、
 (c) 当該法令の違反に対する妥当な罰則を定め、
 (d) 当該法令の効果的な実施を確保するための適当な監督体制の維持を図り、かつ、
 (e) 権限のある機関に対し、規則の制定に関して船舶所有者団体又は船舶所有者及び善意の船員の労働組合と協議すること並びに当該規則の実施にあたり実行可能な限りそれらの関係者と協力することを要求するものでなければならない。

第 二 部 船員設備基準

第 五 条

1 部員用寝室の一人当たりの床面積は、次の面積を下らないものとする。
 (a) 千トン以上三千トン未満の船舶にあつては、三・七五平方メートル(四十・三六平方フィート)
 (b) 三千トン以上一万トン未満の船舶にあつては、四・二五平方メートル(四十五・七五平方フィート)
 (c) 一万トン以上の船舶にあつては、四・七五平方メートル(五十一・一三平方フィート)
2 もつとも、二人の部員用の寝室の一人当たりの床面積は、次の面積を下らないものとする。
 (a) 千トン以上三千トン未満の船舶にあつては、二・七五平方メートル(二十九・六〇平方フィート)
 (b) 三千トン以上一万トン未満の船舶にあつては、三・二五平方メートル(三十四・九八平方フィート)
 (c) 一万トン以上の船舶にあつては、三・七五平方メートル(四十・三六平方フィート)
3 旅客船の部員用寝室の床面積は、次の面積を下らないものとする。
 (a) 千トン以上三千トン未満の船舶にあつては、一人当たり二・三五平方メートル(二十五・三〇平方フィート)
 (b) 三千トン以上の船舶にあつては、
  (i)  一人用の部屋については三・七五平方メートル(四十・三六平方フィート)
  (ii) 二人用の部屋については六・〇〇平方メートル(六十四・五八平方フィート)
  (iii) 三人用の部屋については九・〇〇平方メートル(九十六・八八平方フィート)
  (iv)  四人用の部屋については十二・〇〇平方メートル(百二十九・一七平方フィート)
4 寝室を占有する部員の人数は、最大許容人数を四人とする旅客船の場合を除くほか、一室について二人をこえないものとする。
5 寝室を占有する職長の人数は、一室について一人又は二人をこえないものとする。
6 職員用寝室の一人当たりの床面積は、個人用の居室又は事務室が設けられていない場合には、三千トン未満の船舶にあつては六・五〇平方メートル(六十九・九六平方フィート)、三千トン以上の船舶にあつては七・五〇平方メートル(八十・七三平方フィート)を下らないものとする。
7 旅客船以外の船舶においては、船舶の大きさ、船舶の従事する業務及び船舶の構造により合理的かつ実行可能である場合には、成年者の乗組員に対し個人用寝室を与える。
8 三千トン以上の船舶において実行可能な場合には、機関長及び一等航海士に対し、寝室のほかに、寝室に隣接する居室又は事務室を与える。
9 寝台及びロッカー、たんす並びにいすの占める場所は、床面積の測定の際にこれに含める。狭少又は不規則な形の場所であつて、自由な動きが可能でなく、かつ、備品を置くために使用することができないものは、除外する。
10 寝台の内側の寸法の最少限度は、縦百九十八センチメートル横八十センチメートル(縦六フィート六インチ横二フィート七・五インチ)とする。

第 六 条

1 職員用及び部員用の食堂の床面積は、予定収容人員一人当たり一平方メートル(十・七六平方フィート)を下らないものとする。
2 食堂には、同時にこれを使用する最大人数に対して十分な数の固定式又は移動式のテーブル及び認可されたいすを備える。
3 次のものは、乗組員が船内にある間常時利用しうるものでなければならない。
 (a) 便利な位置に設置され、かつ、食堂を利用する人数に対して十分な容量をもつた冷蔵庫
 (b) 熱い飲み物の設備
 (c) 冷飲料水の設備
4 権限のある機関は、食堂の設備に関する1及び2の規定につき、旅客船における特別の事情に応ずるために必要な例外を認めることができる。

第 七 条

1 便利な位置に設置されかつ適切に設備された娯楽室を職員及び部員のために設ける。娯楽室が食堂とは別に設けられていない場合には、食堂は、娯楽設備を有するように計画されかつ備品を備えていなければならない。
2 娯楽設備の備品は、少なくとも、書架並びに読書用、筆記用及び実行可能な場合には遊戯用の設備を含むものとする。
3 八千トン以上の船舶については、映画又はテレビジョンを見ることのできる喫煙室又は図書室及び趣味・遊戯室を設置するものとし、水泳プールの設置についても考慮する。
4 権限のある機関は、娯楽設備の計画に関連して酒保の設置につき考慮する。

第 八 条

1 すべての船舶において、少なくとも、2から4までの規定による設備を有しない者六人以下の人数ごとに一の便所及び一の浴槽(そう)又はシャワーを職員及び部員のため便利な位置に設置する。女子が船内に雇い入れられている場合には、女子のため別個の衛生設備を設置する。
2 五千トン以上一万五千トン未満の船舶においては、少なくとも五人の職員の個人用寝室に、便所、浴槽(そう)又はシャワー及び新鮮な冷温水の出る洗面器を備えた別個の個人用浴室を附属させる。洗面器は、寝室内に設置することができる。一万トン以上一万五千トン未満の船舶においては、さらに、他のすべての職員の寝室に、個人用の又は相互に連絡している浴室で同様の設備を備えたものを設置する。
3 一万五千トン以上の船舶においては、職員の個人用寝室に、便所、浴槽(そう)又はシャワー及び新鮮な冷温水の出る洗面器を備えた別個の個人用浴室を附属させる。洗面器は、寝室内に設置することができる。
4 二万五千トン以上の船舶(旅客船を除く。)においては、部員二人ごとに、隣接する寝室の間の相互に連絡する区画又はそのような寝室の入口の反対側に、便所、浴槽(そう)又はシャワー及び新鮮な冷温水の出る洗面器を備えた浴室を設置する。
5 五千トン以上の船舶(旅客船を除く。)においては、各寝室(職員用であるか部員用であるかを問わない。)には、新鮮な冷温水の出る洗面器を備える。ただし、2から4までの規定に従つて設置された浴室にそのような洗面器が備えられている場合は、この限りでない。
6 すべての船舶において、職員及び部員のため、衣類の洗濯(たく)、乾燥及びアイロンかけの設備を乗組員の数及び通常の航海日数に応じて設置する。これらの設備は、可能な場合には、船員設備から容易に行くことのできる範囲に設置する。
7 設置すべき設備は、次のものとする。
 (a) 洗濯(たく)機
 (b) 乾燥機又は適度に熱せられかつ換気されている乾燥室
 (c) アイロン及びアイロン台又はこれらに相当するもの

第 九 条

1 千六百トン以上の船舶においては、
 (a) 主として、航海船橋甲板において作業する者のため、当該甲板から容易に行くことのできる範囲内に、便所及び新鮮な冷温水の出る洗面器を備えた独立の区画を設置する。
 (b) 便所及び新鮮な冷温水の出る洗面器が機関制御室の近くに備えられていない場合には、機関室から容易に行くことのできる範囲内にこれらを設置する。
2 千六百トン以上の船舶(すべての機関部船員のために個人用寝室及び個人用又は準個人用の浴室が設置されている船舶を除く。)においては、次の条件を満たす更衣設備を設置する。
 (a) 機関室の外に設けられているが、機関室から容易に行くことができること。
 (b) 個人用衣類ロッカー並びに浴槽(そう)又はシャワー及び新鮮な冷温水の出る洗面器を備えていること。

第 十 条

 十分かつ自由な動きが必要である船員設備の天井の高さは、百九十八センチメートル(六フィート六インチ)を下らないものとする。ただし、権限のある機関は、船員設備のいずれの区域又はその一部においても天井の高さを特定の範囲内で低くすることが合理的でありかつ乗組員に対して不便をもたらさないと認める場合には、これを許可することができる。

第 十 一 条

1 船員設備は、適度に照明する。
2 旅客船において特別な配置が許容されている場合を除くほか、寝室及び食堂は、自然光によつて照明し、かつ、適切な人工の照明を備える。
3 すべての船舶において、船員設備は、電気照明を備える。照明用の二個の別個の電源が備えられていない場合には、緊急用の適切な構造のランプ又は照明器具から成る附属照明を備える。
4 寝室においては、各寝台のまくら元に読書用電燈を備える。
5 権限のある機関は、自然及び人工の照明の適切な基準を定める。

第 十 二 条

 異なる特殊な宗教的及び社会的慣習を有する乗組員の利益を差別とならないように定員上考慮しなければならない船舶に関しては、権限のある機関は、船舶所有者団体又は船舶所有者及び関係のある善意の船員の労働組合と協議のうえ、これらの双方が合意することを条件として、第五条1から4まで及び7並びに第八条1及び4の規定に関して変更を加えることを許可することができる。ただし、その変更は、設備全体として見ればこの条約を適用する場合に劣らないものに限る。その変更の詳細は、当該加盟国が国際労働事務局長に通知するものとし、同事務局長は、これを国際労働機関の加盟国に通知する。

第 三 部 既存船舶に対するこの条約の適用

第 十 三 条

1 この条約が当該船舶の登録領域について効力を生じた日に完成している船舶であつてこの条約で定める基準を下回わるものに関し、権限のある機関は、次のいずれの場合にも、船舶所有者団体又は船舶所有者及び善意の船員の労働組合と協議のうえ、当該船舶をこの条約の基準に適合させるため、第五条、第八条及び第十条の規定の適用から生ずる技術的、経済的その他の問題を特に考慮して合理的かつ実行可能と認める変更を要求することができる。
 (a) 船舶が登録替えされる場合
 (b) 事故又は非常事態の結果としてでなく、長期計画により基本的な構造上の変更又は大規模な修理が行なわれる場合
2 この条約が当該船舶の登録領域について効力を生じた日に建造中又は改造中である船舶に関し、権限のある機関は、船舶所有者団体又は船舶所有者及び善意の船員の労働組合と協議のうえ、当該船舶をこの条約の基準に適合させるため、第五条、第八条及び第十条の規定の適用から生ずる技術的、経済的その他の問題を特に考慮して合理的かつ実行可能と認める変更を要求することができる。その変更は、当該船舶をこの条約の規定に完全に適合させるものでなければならない。
3 1及び2の船舶又は建造中にこの条約の規定が適用された船舶以外の船舶であつていずれかの領域についてこの条約が効力を生じた日の後にその領域に登録替えされたものに関し、権限のある機関は、船舶所有者団体又は船舶所有者及び善意の船員の労働組合と協議のうえ、当該船舶をこの条約の基準に適合させるため、第五条、第八条及び第十条の規定の適用から生ずる技術的、経済的その他の問題を特に考慮して合理的かつ実行可能と認める変更を要求することができる。その変更は、当該船舶をこの条約の規定に完全に適合させるものでなければならない。

第 四 部 最終規定

第 十 四 条

 この条約の正式の批准は、登録のため国際労働事務局長に通知する。

第 十 五 条

1 この条約は、国際労働機関の加盟国でその批准が事務局長に登録されたもののみを拘束する。
2 この条約は、百万トン以上の船舶を有する十二の加盟国(そのうちの少なくとも四の加盟国は、二百万トン以上の船舶を有するものとする。)の批准が登録された日の後十二箇月で効力を生ずる。
3 その後は、この条約は、いずれの加盟国についても、その批准が登録された日の後六箇月で効力を生ずる。

第 十 六 条

1 この条約を批准した加盟国は、この条約が最初に効力を生じた日から十年を経過した後は、登録のため国際労働事務局長に送付する文書によつてこの条約を廃棄することができる。その廃棄は、登録された日の後一年間は効力を生じない。
2 この条約を批准した加盟国で、1に定める十年の期間が満了した後一年以内にこの条に規定する廃棄の権利を行使しないものは、さらに十年間拘束を受けるものとし、その後は、十年の期間が満了するごとに、この条に定める条件に従つてこの条約を廃棄することができる。

第 十 七 条

1 国際労働事務局長は、国際労働機関の加盟国から通知を受けたすべての批准及び廃棄の登録をすべての加盟国に通告する。
2 事務局長は、この条約の効力発生に必要な最後の批准の登録を国際労働機関の加盟国に通告する際に、この条約が効力を生ずる日につき加盟国の注意を喚起する。

第 十 八 条

 国際労働事務局長は、国際連合憲章第百二条の規定による登録のため、前諸条の規定に従つて登録されたすべての批准及び廃棄の完全な明細を国際連合事務総長に通知する。

第 十 九 条

 国際労働機関の理事会は、必要と認めるときは、この条約の運用に関する報告を総会に提出するものとし、また、この条約の全部又は一部の改正に関する問題を総会の議事日程に加えることの可否を検討する。

第 二 十 条

1 総会がこの条約の全部又は一部を改正する条約を新たに採択する場合には、その改正条約に別段の規定がない限り、
 (a) 加盟国によるその改正条約の批准は、その改正条約の効力発生を条件として、第十六条の規定にかかわらず、当然にこの条約の即時の廃棄を伴う。
 (b) 加盟国による批准のためのこの条約の開放は、その改正条約が効力を生ずる日に終了する。
2 この条約は、これを批准した加盟国で1の改正条約を批准していないものについては、いかなる場合にも、その現在の形式及び内容で引き続き効力を有する。

第 二 十 一 条

 この条約の英語及びフランス語による本文は、ひとしく正文とする。