1975年の移民労働者(補足規定)条約(第143号)

ILO条約 | 1975/06/24

劣悪な条件の下にある移住並びに移民労働者の機会及び待遇の均等の促進に関する条約(第143号)
(日本は未批准、仮訳)

 国際労働機関の総会は、
 理事会によりジュネーヴに招集されて、千九百七十五年六月四日にその第六十回会期として会合し、
 国際労働機関憲章の前文が、「自国以外の国において使用される場合における労働者の利益」を保護する任務を国際労働機関に課していることを考慮し、
 フィラデルフィア宣言が、国際労働機関の基礎となつている原則のうち、「労働は商品ではない」こと及び「一部の貧困は全体の繁栄にとつて危険である」ことを再確認していること並びに、特に「雇用…を目的とする移民を含む労働者の移動」により、完全雇用を達成するための計画を促進する同機関の厳粛な義務を承認していることを考慮し、
 国際労働機関の世界雇用計画並びに雇用政策に関する条約及び勧告を考慮し、並びに社会的及び人的に否定的な結果のため移民の移動の過度のかつ無統制な増加又は一方的な増加を避けることの必要性を強調し、
 多くの国の政府が低開発並びに構造的及び慢性的な失業を克服するため、それらの国の必要に応じ及び要請により、出身国及び雇用移民の受入国の相互的利益のために労働者の移動よりも資本及び技術の移動を奨励することが望ましいことを絶えず強調していることを考慮し、
 世界人権宣言並びに市民的及び政治的権利に関する国際規約に規定されているように、すべて人は、自国その他いずれの国をも立ち去り、及び自国に帰る権利を有することを考慮し、
 千九百四十九年の移民労働者条約(改正)及び勧告(改正)、千九百五十五年の移住労働者保護(低開発国)勧告、千九百六十四年の雇用政策条約及び勧告、千九百四十八年の職業安定組織条約及び勧告並びに千九百四十九年の有料職業紹介所条約(改正)に含まれる規定であつて、募集の規制、移民労働者の受入れ及び職業紹介、移住に関する正確な情報の提供、移動中及び到着の際に移民労働者が享受すべき最低条件、積極的な雇用政策の採用、これらの問題に関する国際協力等の問題を取り扱つているものを想起し、
 労働市場における諸条件による労働者の移住が公的な職業安定機関の責任の下で又は二国間若しくは多数国間の関係協定、特に労働者の自由な移動を認める協定に従つて行われるべきであることを考慮し、
 不正なかつ秘密裡(り)の労働力の取引が明らかに存在するという事実が、特にこのような悪弊を除去することを目的とする新たな基準を必要なものとしていることを考慮し、
 千九百四十九年の移民労働者条約(改正)を批准する加盟国に対し、同条約に規定する各種の事項につき、それらの事項が法令によつて規制され又は行政機関の統制を受ける限り、自国民に付与する待遇と同等の待遇を合法的に自国の領域内にいる移民に付与することを要求している同条約の規定を想起し、
 千九百五十八年の差別待遇(雇用及び職業)条約における「差別待遇」の定義には国籍による差別を必ずしも含まないことを想起し、
 移民労働者の機会及び待遇の均等を促進し及び法令によつて規制され又は行政機関の統制を受ける事項につき内国民と少なくとも同等の待遇を確保するため、社会保障をも対象とする新たな基準が望ましいことを考慮し、
 移民労働者の極めて多くの種類の問題に関する措置について十分な成果を挙げるためには、国際連合及び他の専門機関との緊密な協力が重要であることに留意し、
 次の基準の作成に当たり、国際連合及び他の専門機関の事業に考慮が払われたこと並びに、重複を避け、かつ、適切な調整を確保することを目的として、その基準の適用を促進し及び確保するために継続的な協力が行われることに留意し、
 前記の会期の議事日程の第五議題である移民労働者に関する提案の採択を決定し、
 その提案が千九百四十九年の移民労働者条約(改正)及び千九百五十八年の差別待遇(雇用及び職業)条約を補足する国際条約の形式をとるべきであると決定して、
 次の条約(引用に際しては、千九百七十五年の移民労働者(補足規定)条約と称することができる。)を千九百七十五年六月二十四日に採択する。

第 一 部 劣悪な条件の下にある移住

第 一 条

 この条約の適用を受ける各加盟国は、すべての移民労働者の基本的人権を尊重することを約束する。

第 二 条

1 この条約の適用を受ける各加盟国は、その領域内に違法に雇用された移民労働者が存在するかどうか並びに雇用を目的とする移民の移動であつて、移動中、到着の際又は居住及び雇用の期間中に関係のある国際的な文書若しくは協定で多数国間若しくは二国間のもの又は国内法令に反する条件の下にあるものがその領域から出発し、その領域を通過し又はその領域に到着するかどうかを組織的に判定するように努める。
2 1の問題に関し、代表的な使用者団体及び労働者団体との十分な協議が行われるものとし、それらの団体は、自己の有するいかなる情報をも提供する機会を有する。

第 三 条

 各加盟国は、前条に規定する悪弊を防止し及び除去するため、次のことを目的として、その管轄内において、他の加盟国との協力により、すべての必要かつ適当な措置をとる。   
 (a) 雇用を目的とする移民の秘密裡(り)の移動及び移民の違法な雇用を防止すること。
 (b) 雇用を目的とする移民の不正な又は秘密裡(り)の移動であつて、その領域から出発し、その領域を通過し又はその領域に到着するものを組織する者に対処すること及び違法な条件で移住した労働者を雇用する者に対処すること。

第 四 条

 加盟国は、特に、代表的な使用者団体及び労働者団体と協議して、前条の問題に関する他の国との組織的な連絡及び情報の交換のために必要な措置を国内的及び国際的な規模でとる。

第 五 条

 第三条及び前条の規定に基づいてとられる措置は、労働力の取引の主謀者がその活動をいかなる国において行うかを問わず訴追され得ることをその一の目的とする。

第 六 条

1 移民労働者の違法な雇用を効果的に発見するための規定並びに、移民労働者の違法な雇用、第二条に規定する悪弊を内包していると定義される雇用を目的とする移民の移動の組織及びそのような移民の移動に対する故意の援助(利益を目的とするものであるかどうかを問わない。)につき、行政的、民事的及び刑事的な制裁(拘禁を含む。)を定義し及び適用するための規定を、国内法令に基づいて設ける。
2 使用者は、この条の規定に基づいて設けられる規定によつて訴追される場合には、自己が誠実であることを示す証拠を提出する権利を有する。

第 七 条

 前条にいう悪弊を防止し及び除去することを目的としてこの条約に規定されている法令その他の措置に関しては、代表的な使用者団体及び労働者団体との協議が行われるものとし、また、それらの団体がこの目的のために発議する可能性が認められる。

第 八 条

1 移民労働者は、雇用を目的として領域内に合法的に居住している場合には、失業という事実のみにより違法なかつ正常でない状態にあるものとはみなされないものとし、また、この失業は、それ自体、その居住の許可又は、場合により、労働の許可の撤回を意味しないものとする。
2 したがつて、移民労働者は、特に、雇用保障の確保、代替雇用の提供、失業救済事業及び再訓練に関し、内国民と均等の待遇を享受する。

第 九 条

1 移民労働者が関係法令に従つて入国すること及び就業が認められることを確保することによつて雇用を目的とする移民の移動を統制するための措置を妨げることなく、移民労働者は、当該関係法令が遵守されておらず、かつ、その地位が正常化され得ない場合においても、自己及びその家族に関し、過去の雇用から生ずる権利であつて、報酬、社会保障及び他の給付に関するものについての待遇の均等を享受する。
2 労働者は、1に規定する権利に係る紛争の際には、自分自身で又は代表者を通じて権限のある機関に申立てを行う可能性を有する。
3 労働者又はその家族は、追放される場合には、その費用を負担しない。
4 国内において不法に居住し又は労働する者に対しては、加盟国が在留し及び合法的に就業する権利を与えることを妨げるものではない。

第 二 部 機会及び待遇の均等

第 十 条

 この条約の適用を受ける各加盟国は、移民労働者又はその家族の構成員としてその領域内に合法的に居住する者の雇用及び職業、社会保障、労働組合権及び文化的権利並びに個人的自由及び集団的自由についての機会及び待遇の均等を国内事情及び国内慣行に適する方法によつて促進しかつ保障することを目的とする国の方針を明らかにし、かつ、これに従うことを約束する。

第 十 一 条

1 第二部の規定の適用上、「移民労働者」とは、自己の計算以外において雇用される目的をもつて一の国から他の国へ移住する者又は移住した者であつて移民労働者として通常認められるものをいう。
2 第二部の規定は、次の者については適用しない。
 (a) 国境労働者
 (b) 芸術家及び自由職業に従事する者であつて短期間の条件で入国したもの
 (c) 海員
 (d) 特に訓練又は教育のために入国する者
 (e) 国の領域内で活動する団体又は企業の被用者であつて、限定された一定の期間特定の職務又は任務を遂行するためにその使用者の要請により一時的に当該国への入国が認められ、かつ、職務又は任務の終了後に当該国を去ることを要求されるもの

第 十 二 条

 各加盟国は、国内事情及び国内慣行に適する方法により次のことを行う。
 (a) 第十条に規定する方針の承認及び遵守を促進することにつき、使用者団体及び労働者団体並びに他の適当な団体の協力を求めること。
 (b) (a)の方針の承認及び遵守を確保するために適当な法令を制定し、かつ、そのような教育計画を促進すること。
 (c) (a)の方針、移民労働者の権利及び義務並びに移民労働者の保護及びその権利の行使のために移民労働者を効果的に援助するための活動を移民労働者にできる限り周知させることを目的とする措置をとり、そのような教育計画を奨励し及びそのような他の活動を発展させること。
 (d) (a)の方針と両立しないすべての法令の規定を廃止し、かつ、そのような行政上のすべての命令又は慣行を修正すること。
 (e) 移民労働者及びその家族が雇用移民の受入国の社会に適応するまでの間のそれらの者の特別の必要を機会及び待遇の均等の原則を損なうことなく考慮するとともに、当該国の国民が享受する利益をそれらの者が受けることを可能にする社会政策であつて、国内事情及び国内慣行に適するものを、代表的な使用者団体及び労働者団体と協議して策定し及び適用すること。
 (f) 移民労働者及びその家族が国民的及び民族的同一性並びに出身国との文化的な結び付きを保持する努力(児童が母国語の知識を与えられる可能性を含む。)を援助し及び奨励するためのすべての措置をとること。
 (g) 同一の活動に従事するすべての移民労働者に対し、それらの者の特定の雇用条件のいかんを問わず、労働条件についての待遇の均等を保障すること。

第 十 三 条

1 加盟国は、その領域内に合法的に居住するすべての移民労働者の家族の同居を促進するため、その権限内のすべての必要な措置をとり及び他の加盟国と協力することができる。
2 この条の規定の適用を受ける移民労働者の家族の構成員は、配偶者並びに被扶養者である子及び父母である。

第 十 四 条

 加盟国は、次のことを行うことができる。
 (a) 移民労働者が雇用を目的としてその領域内に二年を超えない所定の期間合法的に居住していること又は、国内法令で二年未満の期間を定める契約について規定している場合には、当該労働者の最初の労働契約の期間が満了していることを条件として、移民労働者に地理的移動の権利を保障し、及び自由に職業を選択させること。
 (b) 代表的な使用者団体及び労働者団体との適切な協議が行われた上、その領域外で取得された職業上の資格(証明書及び免状を含む。)の承認に関する規則を定めること。
 (c) 国の利益のために必要な場合には、限られた種類の雇用又は職務に就く機会を制限すること。

第 三 部 最終規定

第 十 五 条

 この条約は、加盟国がこの条約の適用から生ずる問題を解決するために多数国間又は二国間の協定を締結することを妨げるものではない。

第 十 六 条

1 この条約を批准するいずれの加盟国も、その批准に際して付する宣言により、この条約の受諾から第一部又は第二部のいずれかを除外することができる。
2 1の宣言を行つたいずれの加盟国も、その宣言をその後の宣言によつていつでも取り消すことができる。
3 各加盟国は、1の規定に基づく宣言が行われている場合には、この条約の適用に関する報告中に、受諾から除外した部の規定に関する自国の法律及び慣行の現況、そのような規定がどの程度に実施されているか又は実施されようとしているか並びにこの条約の受諾に同規定を含めていない理由を示すものとする。

第 十 七 条

 この条約の正式の批准は、登録のため国際労働事務局長に通知する。

第 十 八 条

1 この条約は、国際労働機関の加盟国でその批准が事務局長に登録されたもののみを拘束する。
2 この条約は、二の加盟国の批准が事務局長に登録された日の後十二箇月で効力を生ずる。
3 その後は、この条約は、いずれの加盟国についても、その批准が登録された日の後十二箇月で効力を生ずる。

第 十 九 条

1 この条約を批准した加盟国は、この条約が最初に効力を生じた日から十年を経過した後は、登録のため国際労働事務局長に送付する文書によつてこの条約を廃棄することができる。その廃棄は、登録された日の後一年間は効力を生じない。
2 この条約を批准した加盟国で、1に定める十年の期間が満了した後一年以内にこの条に規定する廃棄の権利を行使しないものは、更に十年間拘束を受けるものとし、その後は、十年の期間が満了するごとに、この条に定める条件に従つてこの条約を廃棄することができる。

第 二 十 条

1 国際労働事務局長は、国際労働機関の加盟国から通知を受けたすべての批准及び廃棄の登録をすべての加盟国に通告する。
2 事務局長は、通知を受けた二番目の批准の登録を国際労働機関の加盟国に通告する際に、この条約が効力を生ずる日につき加盟国の注意を喚起する。

第 二 十 一 条

 国際労働事務局長は、国際連合憲章第百二条の規定による登録のため、前諸条の規定に従つて登録されたすべての批准及び廃棄の完全な明細を国際連合事務総長に通知する。

第 二 十 二 条

 国際労働機関の理事会は、必要と認めるときは、この条約の運用に関する報告を総会に提出するものとし、また、この条約の全部又は一部の改正に関する問題を総会の議事日程に加えることの可否を検討する。

第 二 十 三 条

1 総会がこの条約の全部又は一部を改正する条約を新たに採択する場合には、その改正条約に別段の規定がない限り、
 (a) 加盟国によるその改正条約の批准は、その改正条約の効力発生を条件として、第十九条の規定にかかわらず、当然にこの条約の即時の廃棄を伴う。
 (b) 加盟国による批准のためのこの条約の開放は、その改正条約が効力を生ずる日に終了する。
2 この条約は、これを批准した加盟国で1の改正条約を批准していないものについては、いかなる場合にも、その現在の形式及び内容で引き続き効力を有する。

第 二 十 四 条

 この条約の英文及びフランス文は、ひとしく正文とする。