1978年の労働行政条約(第150号)

ILO条約 | 1978/06/26

労働行政(役割、機能及び組織)に関する条約(第150号)
(日本は未批准、仮訳)

 国際労働機関の総会は、
 理事会によりジュネーヴに招集されて、千九百七十八年六月七日にその第六十四回会期として会合し、
 特定の労働行政活動の実施を要求している現行の国際労働条約及び国際労働勧告の規定、特に、千九百四十七年の労働監督条約、千九百六十九年の労働監督(農業)条約及び千九百四十八年の職業安定組織条約の規定を想起し、
 労働行政の全般的な制度に関する指針を確立する文書を採択することが望ましいことを考慮し、
 千九百六十四年の雇用政策条約及び千九百七十五年の人的資源開発条約の規定を想起し、また、適切な報酬を伴う完全雇用の創出という目標を想起し、労働行政の計画がこの目標の追求を可能にし、かつ、前記の諸条約の目的を実施するものであることの必要を肯定し、
 使用者団体及び労働者団体の自主性を十分に尊重することの必要を認識し、これに関連して、結社、団結及び団体交渉の権利を保障し、かつ、これらの権利を制限し又はこれらの権利の合法的な行使を妨げるような公の機関による干渉を禁止している現行の国際労働条約及び国際労働勧告、特に、千九百四十八年の結社の自由及び団結権保護条約並びに千九百四十九年の団結権及び団体交渉権条約の規定を想起し、経済的、社会的及び文化的進歩という目的の達成に当たつて使用者団体及び労働者団体が重要な役割を果たすことを考慮し、
 前記の会期の議事日程の第四議題である労働行政(役割、機能及び組織)に関する提案の採択を決定し、
 その提案が国際条約の形式をとるべきであると決定して、
 次の条約(引用に際しては、千九百七十八年の労働行政条約と称することができる。)を千九百七十八年六月二十六日に採択する。

第 一 条

 この条約の適用上、
 (a) 「労働行政」とは、国内労働政策の分野における行政活動をいう。
 (b) 「労働行政制度」とは、労働行政について責任を負い又は労働行政に従事するすべての行政機関(これらが各省庁であると公的機関(準国家機関及び地域的若しくは地方的機関又はその他の地方分権化された形式の行政を含む。)であるとを問わない。)、並びにそのような機関の活動を調整し、使用者、労働者及びそれぞれの団体との協議並びにこれらの者及び団体の参加を確保するための制度的わく組をいう。

第 二 条

 この条約を批准する加盟国は、国内法令又は国内慣行に従い、労働行政の一定の活動を非政府団体、特に使用者団体及び労働者団体、又は、適当な場合には、使用者及び労働者の代表者に委任し又は委託することができる。

第 三 条

 この条約を批准する加盟国は、その国内労働政策の分野における特定の活動を、国内法令又は国内慣行に従い使用者団体と労働者団体との間の直接的交渉によつて規制される事項とすることができる。

第 四 条

 この条約を批准する各加盟国は、機能及び責任が適切に調整された労働行政の制度を自国の領域内において組織し及び効果的に運用することを国内事情に適する方法によつて確保する。

第 五 条

1 この条約を批准する各加盟国は、労働行政制度内において公の機関と最も代表的な使用者団体及び労働者団体又は、適当な場合には、使用者及び労働者の代表者との間の協議、協力及び交渉を確保するため、国内事情に適する措置をとる。
2 1の措置は、国内法令及び国内慣行と両立する限度で、全国的、地域的及び地方的規模において並びに各種の経済活動部門の規模においてとられるものとする。

第 六 条

1 労働行政制度内における権限のある機関は、適当な場合には、国内労働政策の作成、実施、調整、点検及び再検討について責任を負い又はこれらに寄与するものとし、また、行政の範囲内において、国内労働政策を具体化する法令の作成及び実施のための手段でなければならない。
2 1の権限のある機関は、特に、関係国際労働基準を考慮の上、次のことを行う。
 (a) 国内法令及び国内慣行に従い、国内雇用政策の作成、実施、調整、点検及び再検討に参加すること。
 (b) 労働条件、雇用条件及び労働生活状態に関する国内法令及び国内慣行を考慮の上、就業者、失業者及び不完全就業者の状態を研究し及びこの検討を続けること、それらの条件及び状態における欠陥及び弊害に注意を喚起すること並びにこれらを克服するための方法に関する提案を行うこと。
 (c) 全国的、地域的及び地方的規模において並びに各種の経済活動部門の規模において、公の機関及び公共団体と使用者団体及び労働者団体との間並びに使用者団体と労働者団体との効果的な協議及び協力を促進するため、国内法令又は国内慣行に照らし適当である場合には、使用者及び労働者並びにそれぞれの団体に対し、その役務を利用し得るようにすること。
 (d) 使用者及び労働者並びにそれぞれの団体に対し、その要請に応じて専門的な助言を利用し得るようにすること。

第 七 条

 この条約を批准する各加盟国は、最大限の数の労働者の必要に応ずるため国内事情が必要としている場合には、次の者のような法律上被用者ではない適当な種類の労働者の労働条件及び労働生活状態に関する活動であつて他の権限のある機関と協力して実施されるものがいまだ確保されていない限り、当該活動を含むように、労働行政制度の機能の、必要な場合には、漸進的な拡大を促進する。
 (a) 第三者の助力を利用しない小作農、分益農その他類似の種類の農業従事者
 (b) 国内慣行上非近代的部門と理解される部門に就業する自営業者であつて第三者の助力を利用しないもの
 (c) 協同組合及び労働者によつて経営される企業の構成員
 (d) 共同体の慣習又は伝統によつて確立された制度の下で労働する者

第 八 条

 労働行政制度内における権限のある機関は、国内法令及び国内慣行と両立する限度で、国際労働問題に関する国の政策の作成に寄与し、当該問題に関して国家を代表することに参加し及び当該問題に関して全国的規模においてとられる措置の作成に寄与するものとする。

第 九 条

 国内法令又は国内慣行に従つて決定された方法で労働行政制度の機能及び責任の適切な調整を確保するため、労働省又は他の類似の機関は、特定の労働行政活動について責任を負う準国家機関及び特定の労働行政活動が委任されている地域的又は地方的機関が国内法令に従つて活動しているかどうか及び指定された目的を尊重しているかどうかを確かめる手段を有するものとする。

第 十 条

1 労働行政制度の職員は、その配置される活動について適当な資格を有し、当該活動のために必要な訓練の機会を有し、かつ、不当な外部からの影響と無関係である者で構成されるものとする。
2 1の職員は、その任務の実効的な遂行のために必要な地位、物的手段及び財源を有するものとする。

第 十 一 条

 この条約の正式の批准は、登録のため国際労働事務局長に通知する。

第 十 ニ 条

1 この条約は、国際労働機関の加盟国でその批准が事務局長に登録されたもののみを拘束する。
2 この条約は、二の加盟国の批准が事務局長に登録された日の後十二箇月で効力を生ずる。
3 その後は、この条約は、いずれの加盟国についても、その批准が登録された日の後十二箇月で効力を生ずる。

第 十 三 条

1 この条約を批准した加盟国は、この条約が最初に効力を生じた日から十年を経過した後は、登録のため国際労働事務局長に送付する文書によつてこの条約を廃棄することができる。その廃棄は、登録された日の後一年間は効力を生じない。
2 この条約を批准した加盟国で、1に定める十年の期間が満了した後一年以内にこの条に規定する廃棄の権利を行使しないものは、更に十年間拘束を受けるものとし、その後は、十年の期間が満了するごとに、この条に定める条件に従つてこの条約を廃棄することができる。

第 十 四 条

1 国際労働事務局長は、国際労働機関の加盟国から通知を受けたすべての批准及び廃棄の登録をすべての加盟国に通告する。
2 事務局長は、通知を受けた二番目の批准の登録を国際労働機関の加盟国に通告する際に、この条約が効力を生ずる日につき加盟国の注意を喚起する。

第 十 五 条

 国際労働事務局長は、国際連合憲章第百二条の規定による登録のため、前諸条の規定に従つて登録されたすべての批准及び廃棄の完全な明細を国際連合事務総長に通知する。

第 十 六 条

 国際労働機関の理事会は、必要と認めるときは、この条約の運用に関する報告を総会に提出するものとし、また、この条約の全部又は一部の改正に関する問題を総会の議事日程に加えることの可否を検討する。

第 十 七 条

1 総会がこの条約の全部又は一部を改正する条約を新たに採択する場合には、その改正条約に別段の規定がない限り、
 (a) 加盟国によるその改正条約の批准は、その改正条約の効力発生を条件として、第十三条の規定にかかわらず、当然にこの条約の即時の廃棄を伴う。
 (b) 加盟国による批准のためのこの条約の開放は、その改正条約が効力を生ずる日に終了する。
2 この条約は、これを批准した加盟国で1の改正条約を批准していないものについては、いかなる場合にも、その現在の形式及び内容で引き続き効力を有する。

第 十 八 条

 この条約の英文及びフランス文は、ひとしく正文とする。