国際労働基準(基準設定と監視機構)

国際労働機関(ILO)の目的は、社会正義を基礎とする世界の恒久平和を確立することにあります。そのためILOは、基本的人権の確立、労働条件の改善、生活水準の向上、経済的・社会的安定の増進に努力しています。ILOは、世界的な規模でさまざまな活動を行っていますが、その中でも、条約や勧告の制定という伝統的な基準設定活動はもっとも古くかつ最も重要なものの一つに上げられます。

条約勧告は、狭義の国際労働基準を構成します。なお、条約には議定書が付属しているものがあります。国際労働基準の取り扱う分野は広範囲にわたり、結社の自由、強制労働の禁止、児童労働の撤廃、雇用・職業の差別待遇の排除といった基本的人権に関連するものから、三者協議、労働行政、雇用促進と職業訓練、労働条件、労働安全衛生、社会保障、移民労働者や船員などの特定カテゴリーの労働者の保護など、労働に関連するあらゆる分野に及びます。
条約は、国際的な最低の労働基準を定め、加盟国の批准という手続によって効力が発生します。条約の発効には、通常2カ国の批准が必要とされます。批准国は、条約を国内法に活かすという国際的義務を負うことになり、廃棄(denunciation)の手続をとらない限り、たとえILOを脱退しても一定期間はその条約に拘束されます。

勧告は、批准を前提とせず、拘束力はありません。勧告は、加盟国の事情が相当に異なることを配慮し、各国に適した方法で適用できる国際基準で、各国の法律や労働協約の作成にとって一つの有力な指針として役立つものです。勧告は、事情が許せば、条約化する予備的な措置として採択される場合も多く、勧告に定める基準は、条約化のプロセスのための指針といえます。

最近は、同時に同テーマの条約と勧告を採択し、条約は原則的な規定を内容とし、詳細は勧告で規定する場合が多くあります。

これまでに採択された189条約について、一加盟国あたりの平均批准条約数は約44です。ただし、条約や勧告の本当の価値は、批准数だけで判断するべきではありません。それが各国で実際にどのように適用され、また各国の生活水準向上や労働条件改善にどれほど役立ったか、という点にこそ、真の意義を見出すことができます。

最後に、条約・勧告とは異なる形式の規範について触れておきます。一般に、宣言、実務規定(code of practice)、ガイドラインなどと呼ばれるこれらの規範は、条約や勧告とあわせて広義の国際労働基準を構成しています。これらは、法的拘束力を伴わない点で条約と異なり、また採択手続が簡潔で、迅速な対応が可能である点で勧告とも異なっています。いわゆる、ソフト・ローであるこれらは、労働分野の重要な変化に対して時宜を得た指針を与える重要な役割を果たしています。例えば2017年に採択40周年を迎えた「多国籍企業及び社会政策に関する原則の三者宣言」は、時代とともに改訂を重ね、後年に採択されたほかの類似の国際規範を凌ぐ詳細さと最新さをもった規範として、今日でも頻繁に参照されています。最近では「労働における基本的原則及び権利に関するILO宣言」(1998年)、「労働力移動に関するILO多国間枠組」(2005年)、「グローバル・ジョブズ・パクト(仕事に関する世界協定)」(2009年)などが採択されています。政労使の対話に基づくILOの規範は、その形式の違いに関わらず、規範性と実効性において特に優れています。




数字で見る国際労働基準(2023年8月時点)
  • 加盟国数 187
  • 条約の数 191(うち撤回・廃止11、棚上げ19)
  • 勧告の数 208(うち撤回36、置き換え22)
  • 日本の批准条約数 50