「MAMIE」代表・安藤美紀さんにきく(下)

「当事者も周りも成長」する職場を

ニュース記事 | 2022/07/27
MAMIEでは、聴覚障害者が日常のさまざまな場面で遭遇する不便や危険なことを伝える漫画も発表しています。安藤さんの作品に通底するのは笑いです。「笑うと嫌なことを忘れることができるから」と言います。

障害があるという事実につきまとうどこか重たいイメージ。見る人によっては、悲しい、悔しい、重い、ととらえられるかもしれない。だから、いろいろな感情が最後に「笑い話」になったらいいなと期待しています。「障害を重く受け止めてほしいのではなく、みんな人それぞれ大変なのは当たり前。笑ってなんぼ」

手話シンガーとして活動する息子の安藤一成さん(右)、聴導犬のアーミらと=2022年5月15日、兵庫県西宮市の県立こばと聴覚特別支援学校
安藤さんには特に印象深い災害が二つあります。一つは1995年に6434人が犠牲になった阪神・淡路大震災です。当時、大阪府豊中市に住む叔母の家に身を寄せていた安藤さんは、部屋の家具が倒れる中、布団をかぶって生後2カ月の息子を抱きしめました。もう一つは震災の4年後に息子と二人で暮らしていた府営住宅で起きた火事です。異変に気づいたのは耳の聞こえる息子でした。事態を把握できない安藤さんに必死で火事だと伝えてくれました。「聞こえないことは命にかかわる」。健常者にとって当たり前のことをどうにか社会に伝えたいと表現の道に向かいました。

2014年度の「近畿ろうきんNPOアワード」に障害のある人が直面する不便を描いたパラパラ漫画の企画を応募したところ、わかりやすさと高い社会性、先進性が評価され奨励賞を受賞しました。2016年春、その賞金をもとにパラパラ漫画とその動画「聴覚障がい者の災害時に困ることって?」が完成しました。

1950年に設立された、働く人のための協同金融組織であるろうきんは広く金融アクセスを提供する「金融包摂」を目指し、日本では相互扶助組織という枠を越え、地域経済の主要な担い⼿となって発展を遂げてきました。SSEの理念の一つである「共助と共生」とも共振する組織に安藤さんの取り組みが評価されたのです。

障害者が働きやすい環境は、困っていることは何かを特定して改善することだと安藤さんは指摘します。「障害があるからと問題を放置せず、どうしたら可能になるか工夫することが大事。誰にとってもインクルーシブ(包摂的)な職場は必ず成長する」とも言います。自信と責任感を備えた、一人の人間として成長するというのが理由です。「当事者も周りもみんな一緒に成長していく。これこそインクルーシブな職場だと思います」

◇◇◇

安藤 美紀さん
1969年生まれ。鹿児島県いちき串木野市出身。東京純心女子短期大学美術科卒業。新聞社、不動産会社勤務を経て、2004年にMAMIEを設立(2008年に特定非営利活動法人に登録)。

ろうきんの金融包摂の取り組みについて、さらに詳しく:
ILO ワーキングペーパーNo.76(ILOレポート2019)
「労働金庫:日本において70年にわたり勤労者の金融アクセスを強化することで、包摂的な社会を構築してきた取組み」