「MAMIE」代表・安藤美紀さんにきく(上)

「障害受け入れ、協力し合う」社会に

ニュース記事 | 2022/07/22
6月に開かれた第110回ILO年次総会で社会的連帯経済(SSE)の定義が示されました。自発的な協力と共助、民主的または参加型ガバナンス、自治と独立によって支えられたSSEは、日本では労働金庫(ろうきん)などを中心に、相互扶助組織という枠を越え、地域経済の主要な担い⼿となって発展を遂げてきました。

SSEを理解するためのキーワードである「共助と共生」とは何なのか。

誰もが自分らしく暮らしやすい社会を目指す「インクルーシブ・コミュニケーション」の重要性を訴えるNPO法人「MAMIE」(大阪府)代表の安藤美紀さんは「障害者を置いてきぼりにしないこと」と訴えます。


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MAMIEの活動の一つが「ユニバーサル舞台」です。生まれつき耳が聞こえない娘と、健常者である母親を描いた自叙伝的芝居「桃と桜」は、手話やアニメーションを取り入れ、誰もが楽しむことができます。

舞台は、安藤さんの故郷・鹿児島です。桜島と錦江湾を映し出したスクリーンの前に立つ安藤さんは、娘と、わが子に言葉を覚えてもらおうと奮闘する母親の二役を演じます。「私が(言葉を)教えなければこの子は生きていけない」。母親の独白には必死の願いが込められています。

自叙伝的芝居「桃と桜」の一幕。安藤美紀さんは手話を交えて一人二役を演じる=写真はいずれも2022年5月15日、兵庫県西宮市の県立こばと聴覚特別支援学校
安藤さん自身は短期大学を卒業後、新聞社や不動産会社で働いてきました。「障害者雇用促進法があるから障害者は働けるんだ」と言われたりもしました。同僚に恵まれたものの、働いていられるのは自分の実力ではないのかと思うと、満ち足りない気持ちになりました。

幼いころの猛特訓のおかげで話すことはできますが、耳は全く聞こえません。それでもいつの間にか周囲に気を使って聞こえるふりを重ねていました。どの職場でも障害者は安藤さんひとり。障害を理解してほしい。でも、そう言ったら「わがまま」「迷惑な人だ」と言われはしないか―。そんな不安で次第に苦しくなっていきました。

保護者に「聴導犬」の役割を伝える安藤美紀さん。聴導犬についての啓発もMAMIEの活動の要だ
「耳が聞こえなくても私は社会の役に立てるのだろうか」。気づけばそんな問いが頭をもたげるようになりました。障害を受け入れ、協力し合える世の中をつくりたいと周囲の反対を押し切って2004年にMAMIEを設立しました。