ILO Newsletter「ビジネスと人権」

日本政府の「責任あるサプライチェーン等における人権尊重のためのガイドライン 」策定とILOの協力

2022年9月13日、日本企業の労働慣行の強化を後押しし、強じんで持続可能なサプライチェーン構築を支援する新たなガイドラインが日本政府により作成されました。ILOは持続可能で責任ある企業行動を目指す日本政府の今回の新たな取組みを歓迎しています。

記事・論文 | 2022/10/04
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日本政府は9月13日、「責任あるサプライチェーン等における人権尊重のためのガイドライン 」を発表しました。このガイドラインは、日本企業による、「労働における基本的原則及び権利に関するILO宣言 」をはじめとする、国際的に認められた人権の尊重の促進を目的として策定されています。

本ガイドライン策定に向けて、経済産業省は、2022年3月9日、「サプライチェーンにおける人権尊重のためのガイドライン検討会」を立ち上げ、サプライチェーンにおける人権尊重のための業種横断的なガイドライン作成に取り組んできました。ILOも政府、労働者、使用者団体、産業別団体、学識者、法律家などと共に委員として議論に参加しました。

3月9日に開催された第1回検討会では、田中竜介ILO駐日事務所プログラムオフィサーが「持続可能なビジネスとガイドライン策定に向けた一考察」を発表し、論点を解説しました。本ガイドラインの策定において、国際基準と整合させることの重要性について説明し、国連の「ビジネスと人権に関する指導原則」、経済協力開発機構(OECD)の「多国籍企業行動指針」、ILOの「多国籍企業及び社会政策に関する原則の三者宣言 」(多国籍企業宣言)という3つの国際的文書の役割について説明をしました。これらの文書は、本ガイドラインにおいて、国内外における責任ある企業行動の指針を示す主要文書として明示されています。また、日本企業が人権デューディリジェンスを実施する上で、自社のサプライチェーン・バリューチェーンに関わる様々なステークホルダーとの対話の活用を提言しました。「十分なステークホルダーエンゲージメントを行うことは、自社のサプライチェーン等の優先課題を早期に認知するシステムとして機能します。そうすることで企業の人権への理解が高まり、人の顔が見える取組みにつながります」と強調しました。

検討会での議論を経て、取りまとめられたガイドライン原案に対し、8月8日から8月29日にかけて、広く意見が募集されました。こうしたパブリック・コメントを通じて提出された意見を踏まえた上で、9月13日、日本政府のガイドラインとして発表されました。

麻田千穂子ILOアジア太平洋地域総局長は「ILOは、人権および労働における基本的原則と権利を尊重し、持続可能で責任ある企業行動を目指す日本政府の今回の新たな取組みを歓迎しています」とコメント。さらに「私たちは日本企業に対し、このガイドラインを活用して、デュー・ディリジェンスの実施とステークホルダーの対話の促進に向けた具体的な措置の実施、企業行動の改善、持続可能で強じんなサプライチェーン、バリューチェーンの構築への貢献を期待します。また、日本政府に対しては、社会対話の強化を図り、政府、労働者、使用者(政労使)がこのガイドラインの推進に向けて共に取り組み、必要な政策手段を策定し、多国籍企業宣言や国連指導原則に規定された、事業活動における人権・労働の権利の保護義務に則した、ガイドラインの効果的な実施・促進を期待します」と述べました。

高﨑真一ILO駐日代表は、「ガイドラインの効果的な実施に向けて、ILOは日本政府、日本企業、労使団体等を含む全てのステークホルダーを支援する用意があります」と話しています。

参考
•    経済産業省HP:日本政府は「責任あるサプライチェーン等における人権尊重のためのガイドライン」を策定しました

•    経済産業省HP:サプライチェーンにおける人権尊重のためのガイドライン検討会

•    ILO駐日事務所HP:ILO、日本政府の人権尊重指針発表を歓迎