ILO Newsletter「ビジネスと人権」

コロナ危機からのより良い回復に向けて、持続可能なビジネスへの投資

ILOが提唱する「仕事の未来のための、人間中心のアジェンダ」は、人間と仕事を経済社会政策及びビジネス慣行の中心に位置付けるための行動として、ディーセントで、持続可能な仕事への投資を挙げています。コロナ危機によってもたらされた、経済的、社会的不安からの回復に向けて、政労使による結束した共同行動、社会対話の強化が世界各国で求められています。今回は様々なステークホルダーが参加し、共に解決策を造り出すことで、事業活動の維持、雇用創出、新たな価値創造、ビジネス投資の促進を目指すハイチの衣料品部門の取組みを紹介します。

記事・論文 | 2022/02/21
©Better Work ハイチの衣料品工場で働く女性

ILOは、2019年1月に仕事の未来を取り巻く機会と課題についてまとめた報告書『輝かしい未来と仕事[1] を発表しました。

勤労生活の質を改善し、選択肢を拡大し、ジェンダー格差をなくし、世界的な不平等が招いた損失を取り戻すためには、世界的な確固たる行動が必要であると述べました。世界が不平等と不確実性をより一層拡大させる方向に進まないよう、経済発展の成果の公平な分配、権利の尊重、リスクからの保護を約束する「社会契約」の再活性化と、社会対話の強化が強調されました。

2020年初頭から始まったCOVID-19の世界的大流行の影響は、すでに山積していた課題をより顕在化させ、世界各国で危機の緊急性と早急な対応の必要性が高まりました。ここで、社会契約を強化するためILOが報告書の中で提唱した、人間と仕事を経済社会政策及びビジネス慣行の中心に位置付ける「仕事の未来のための、人間中心のアジェンダ」 を改めて見てみたいと思います。

「仕事の未来のための、人間中心のアジェンダ」
アジェンダは、第一に、人生を通じて、人々の技能の習得・リスキリング・アップスキリングを可能にする、人間の潜在能力への投資、第二に、自由・尊厳・ 経済的保障及び平等を伴った仕事の未来を確保するために、仕事に関わる制度への投資、第三に、経済社会政策及びビジネス慣行をこのアジェンダと整合させるため、ディーセントで、持続可能なビジネスへの投資という三つの行動を柱として構成されています。これらの投資行動が、将来に向けて公平性と持続可能性を推進する強力な力となりうるのです。

さらに、アジェンダはすべてのステークホルダーに対し、公正かつ公平な仕事の未来を築くために、責任を持つことを呼びかけています。貿易、金融、経済社会政策の間には、強固かつ複雑で極めて重要な結びつきがあるため、人間中心の成長と開発のアジェンダの達成は、これら政策間の調和に大きくかかっています。

今回は、国際労働機関(ILO)と世界銀行グループの一員である国際金融公社(IFC)によるベターワーク(グローバルなアパレル産業における様々なレベルの関係者と協力し、労働環境の改善と労働者の権利の尊重を促進し、企業の競争力を強化する包括的なプログラム)のハイチにおける活動報告より、社会対話を通して、ハイチの衣料品部門の持続可能なビジネスを模索するため、ステークホルダーと投資家らが集い、解決策について共に議論されたフォーラムを紹介します。[2]


 
社会対話を通して、ハイチの衣料品部門の持続可能なビジネスソルーションを造り出す

ハイチ・ポルトープランス - 2021年12月2日、ステークホルダーと投資家が一堂に会し、ハイチの衣料品部門が過去1年間に直面した数多くの課題に対する取組みと具体的な解決策について議論しました。

このバーチャルビジネスフォーラムは、ILOとIFCの協力による「ベターワーク・ハイチ」プログラムの主催によるもので、「ハイチの衣料品部門の持続可能性と展望」というテーマで行われました。ILOとIFCの職員、政府代表、使用者団体、労働者団体、市民社会組織メンバーが一堂に会したこのフォーラムは、労働ガバナンスの改善、効果的な社会対話、投資機会のためのソリューションを造り出すことを目的として開催されたユニークなものでした。

ハイチにおいて、衣料品部門は経済発展に大きく貢献しています。同国の輸出の80%を占め、国内で約57,500人の労働者が雇用されています。ベターワーク・ハイチプログラムは、現在38の衣料品工場と提携し、そこでは国内の衣料品労働者の大部分が雇用されています。

社会的・政治的困難やCOVID-19の大流行が、人々の生活やウェルビーング(幸福度)に影響を及ぼす中で、ハイチの衣料品部門は強じん性を発揮し、事業活動を維持し、雇用創出に貢献しています。

ベターワーク・ハイチ2020年年次報告書[3] によれば、ベターワーク・ハイチは、政労使、関係機関、他の国際機関と緊密に連携し、バーチャルと対面でのハイブリッドサービスを実施しています。

政府との連携

社会問題・労働省(MAST)との連携を強化し、共同監督の実施に向けて12人の労働基準監督官に訓練を提供し、経済財務省の主導により、IFCが調整する新たなプロジェクト『ハイチにおける投資機会の創造 (CIO Haiti)』の技術事務局に参加しています。CIOハイチプロジェクトの目的は、雇用維持を通じて衣料品部門のCOVID-19危機からの回復を支援し、中期的にはハイチにおける投資の促進と雇用の創出を支援するものであり、2021年12月のフォーラムもその一環で行われています。ベターワーク・ハイチは、IFC チームが国際的なブランド・パートナーに対し、新たな産業や事業拠点の開発、より大きな付加価値、ビジネスの敏捷性、生産性の向上に焦点を当てた独自の価値提案を行うことを支援しています。

労働者団体との連携

工場長と労働者代表を対象にした、労働者と使用者の権利に関する様々なILO条約に関するワークショップ、組合委員会の加盟組織を対象にした、対話、紛争解決、効果的なコミュニケーションをテーマとした研修、さらには工場レベルで組合員に研修を実施するための資金援助及び組合長へのトレーナー研修を実施します。

使用者団体との連携

衣料品部門の使用者による労働条件の改善支援を図るため、持続的なコンプライアンス違反の問題を特定し、対処するための新たな指針の作成、工場管理者を対象とした、生産性や労使関係の問題に取り組むためのトレーニングを提供します。また、ベターワーク・ハイチは、パンデミックによる経済的混乱を乗り切るためにメーカーを支援し、衣料品労働者の収入、健康、雇用を守るため、2020年に国際使用者連盟、国際労働組合総連合、インダストリオールの共同声明として発表された「世界の衣料品産業に対するコロナウイルスの脅威に取り組む共同行動[4]の国内レベルでの実施を支援しています。

本フォーラムについて、ベターワークプログラムの主要パートナーであるIFCのシニアオペレーションオフィサー、アーネスト・フランコ-テンプル氏は次のように語りました。

「IFCの取組みは、ハイチの衣料品業界がCOVID-19パンデミックの影響を回避し、官民が協力して、ハイチの衣料品業界の新たな価値創造を後押しするような規制の枠組み作りを検討し、改善することを目指しています。このプロジェクトは、ハイチでの雇用維持と創出、そして投資の促進に重点を置いています。この業界が示す強じん性を、将来に向けた優位性のある価値として捉えることが重要です。」

フォーラムでは、繊維部門の主要関係者が一堂に会し、継続して実施されているMAST・ベターワークによる共同工場訪問の取組みなど、優良事例が共有されました。ハイチ経済財務省のミシェル・パトリック・ボアスヴェール大臣は、「ハイチ政府は、コロナ禍からの回復計画の柱の一つである輸出衣料品部門の成長を支援することを約束します。過去10年間、様々な影響を受けてきましたが、この部門の強じん性は何度も証明されています」と述べています。

特に社会的・政治的な混乱など、衝撃が与えられた際の安定性の確保に向けた課題が議論の中心となりました。また、衣料品部門の持続可能性、ビジネスの継続性、ビジネス投資の機会について、さらには課題に対処する機会についても議論されました。すべての人にディーセント・ワーク(働きがいのある、人間らしい仕事)を提供し、国の経済に有益な商業的繁栄をもたらすため、この部門における成長と構造的発展のための戦略を議論して、フォーラムは閉会しました。

最後に、ベターワーク・ハイチプログラム、チーフテクニカルオフィサーのクロディーヌ・フランソワ氏が、共同行動を呼びかける言葉でセッションを締めくくりました。

「コロナ危機がもたらした社会的、経済的不安定に対処するため、共同行動がこれまで以上に重要になっています。グローバルブランド、政府、工場、労働者団体が、責任を持って、協力して行動することが、ハイチの回復の鍵となります。」


 
今回は、コロナ危機からのより良い回復という共通の課題に向けて、衣料品業界において様々なレベルで労働者、使用者らが協働する取組みを紹介しました。官民が協力して、衣料品業界の新たな価値創造を支援する制度作りに投資し、また対話を通して、様々なステークホルダーに向けた、公正かつ公平な仕事の未来を築くために責任を持つことへの意識を啓発し、一人ひとりの労働者の技能開発に投資することは、同産業の持続可能なビジネス慣行を可能にする環境づくりへの支援となります。最終的には経済発展の成果の公平な分配につながり、一人ひとりの労働者のウェルビーングの向上をもたらすことは、同産業にとっての大きな付加価値となることを示しています。

参照
[1] ILO駐日事務所ウェブサイト:『輝かしい未来と仕事』
https://www.ilo.org/wcmsp5/groups/public/---asia/---ro-bangkok/---ilo-tokyo/documents/publication/wcms_664753.pdf

[2] ベターワークウェブサイト:”Better Work Haiti hosts business forum; stakeholders and investors talk challenges facing sector, shared solutions”
https://betterwork.org/2021/12/06/better-work-haiti-hosts-business-forum-stakeholders-and-investors-talk-challenges-facing-sector-shared-solutions/

[3] ベターワークウェブサイト:Better Work Haiti Annual Report 2020
https://betterwork.org/portfolio/better-work-haiti-annual-report-2020/

[4] ILO駐日事務所ウェブサイト:世界の衣料品産業に対するコロナウイルスの脅威に取り組む共同行動をILOは歓迎(2020/04/22)
https://www.ilo.org/tokyo/information/pr/WCMS_742696/lang--ja/index.htm