ILO Newsletter「ビジネスと人権」

労働条項を含む貿易協定に関するILOオンライン・データベースを新設

貿易は、世界の経済成長と繁栄の原動力です。しかし賃金格差の拡大や、非公式な仕事や搾取など、労働市場における課題が伴います。 現在、これらの課題に対処し、ディーセント・ワークを推進するため、貿易政策を活用し、労働条項を伴う貿易協定を用いる国々が増えてきました。こうした背景から、今年1月ILOは、労働条項を含む貿易協定に関するオンライン・データベースを発表しました。データベースが活用され、より包摂的な貿易が促進されるとともに、ディーセント・ワーク推進の一助となることが期待されます。

記事・論文 | 2022/02/09
© Maya Aktar

貿易は、世界の経済成長と繁栄の原動力です。雇用を創出し、生産性を向上させ、世界をより繁栄に導き、相互に結びつけています。しかし、貿易は勝者と敗者を生みます。 貿易には、賃金格差の拡大や、非公式な仕事や搾取など、労働市場における課題が伴います。

現在、これらの課題に対処し、ディーセント・ワーク(働きがいのある人間らしい仕事)を推進するため、貿易政策を活用し、労働条項を伴う貿易協定を用いる国々が増えてきました。すべての貿易協定の3分の1に、労働条項が含まれています。

労働に関する問題に取り組む専門機関であるILOは、加盟国の要請に応じて、これらの労働条項の策定、運用に関する助言と専門知識を提供しています。 また、労働条項の動向や有効性について、証拠に基づく調査を行っています。

このような背景から、2022年1月26日、ILOは労働条項を含む貿易協定に関するILOオンライン・データベース(LPハブ)を発表しました。(https://www.ilo.org/LPhub/)

140あまりの経済圏が関係する100以上の二国間及び複数国間の地域貿易協定(RTA)に含まれる労働条項を、包括的かつ構造的にまとめています。これは、労働条項に関する情報、調査、比較分析のための主要なデータソースとして活用できます。さらに、貿易相手国間及び時系列で労働条項のデータを抽出、用語の検索、関連情報のダウンロードができます。

労働条項とは、労働組合や企業団体、一般の人々の間の様々な協力・対話形態などを通じて労働者の権利を守り促進することを義務付ける貿易協定内の規定を示します。2000年代に締結された貿易協定のうち労働条項を含むものはわずか22%に過ぎませんでしたが、2010年代になると、日EU経済連携協定など、日本が締結する複数の協定も含み、この割合がほぼ半分に達しています。

LPハブとは

政府や労使団体から情報、調査研究、比較法分析のための中央データソースを求める要請が高まってきたことから、LPハブは、国際労働機関(ILO)のプロジェクトとして、欧州委員会とベルギー・フランダース政府の支援を受けて開設されました。

LPハブの一番の特徴は、労働条項を分野別に分類したことであり、協定内または協定間で重要な用語を迅速かつ正確に見つけることができます。これを活用することで、政策策定者や専門家、労働者団体・使用者団体、市民社会組織の利用者は、労働条項の策定・運用における最新の動向についての理解を深め、特定のアプローチに関する知識を深め、貿易相手国や地域間での比較・分析、ステークホルダー、特に労働者、使用者団体代表、市民社会代表の関与についての見識を深め、世界・地域の労働条項の動向について知ることができます。

LPハブにおける労働条項の定義

LPハブは、WTOの地域貿易協定情報システム(RTA-IS)のデータベースを利用しており、1948年以降にWTOに通知されたすべての貿易協定が含まれています。LPハブにおいて、労働条項は次のように定義されいます。
  1. 労働条件の最低基準、雇用条件、またはその他の労働問題を扱う原則や基準(国際労働基準を含む)
  2. 協力活動、対話、労働問題のモニタリングを通じて基準の遵守を促進するためのあらゆる枠組み
  3. 国内法及び貿易協定で定められた基準へのコンプライアンス確保のためのあらゆるメカニズム
LPハブでは、「義務」「監視・協力」「紛争解決メカニズム」の3つの分類に分けて、労働条項の文書を整理しています。さらに詳細な74の分類は、監視・協力活動を含む批准前後の文書や、労働条項に基づいて引き起こされる紛争も対象としています。

検索方法

LPハブを使った検索方法を紹介します。LPハブでRTAにおける労働条項を調べるためには、インタラクティブな世界地図、表、トレンドグラフの3つの方法で情報提供しています。また、タイムスライダーやフィルターを使って検索を絞り込むこともできます。

世界地図を使用する場合は、世界各地の労働条項を含むRTAの数を、青の濃淡(ない場合は灰色)で確認することができます。貿易相手国の上にカーソルを置くと、その国の労働規定のあるRTAと、ないRTAに関する情報が表示され、その国が労働規定を含むRTAを締結している他の貿易相手国へのリンク(黄色の線で示されている)が表示されます。黄色い線をクリックし、その貿易相手国の労働条項付きRTAを、地図上または地図下の表で選択することができます。

では、各貿易相手国のRTAがリストアップされており、最も重要な点として、各RTAにおけるすべての労働条項のテキストと場所が記載されています。表内のRTAのタイトルをクリックすると、別のページにRTAの原文全文へのリンクを含む詳細情報が表示されます。RTAに含まれるすべての労働条項を閲覧することができ、分類別に絞り込むこともできます。

トレンドグラフ
では、RTA の経年変化に関する情報を提供しており、労働条項のある RTA とない RTA の比率を、世界、地域、国内で表示しています(選択したフィルターに応じて)。トレンドグラフは、労働条項の分類でも利用可能です。

タイムスライダーは、一定期間内に発効したRTAに関する情報を表示・入手することができます。タイムスライダーを、検索を希望する時点に移動させるだけです。デフォルトの開始年は、北米自由貿易協定(NAFTA)に初めて拘束力のある労働条項が盛り込まれた1994年です。しかし、このデータベースには、労働条項のない過去のRTAや、労働条項のある非活性の貿易協定も含まれています。

フィルター機能
は、データの粒度を高め、世界地図とトレンドグラフの両方に情報を表示することができます。また、分類内でのフィルタリングや検索も可能です。

また、右のメニューを活用して、検索結果を絞ることができます。このメニューでは、義務、監視と協力、紛争解決の3つの主要な分類から検索できます。その他、地図の上にあるメニューの、貿易相手国や貿易協定を選択して検索します。地図の下にある表の結果では、表内のテキストを拡大したり、貿易協定をクリックして別のページに詳細情報を表示したりすることで、労働条項のテキストを調べることができます。

検索情報を参照資料として使用したい場合は、次のように明記をお願いします。
International Labour Organization (2022). ILO Labour Provisions in Trade Agreements Hub (LP Hub). International Labour Organization, Geneva

2019年のILO総会で採択された「仕事の未来に向けたILO創設100周年記念宣言 」は、ディーセント・ワークを貿易政策の中心目的に据えることを諸国に呼びかけ、持続可能な開発と社会正義を支える貿易を求めています。これは人間を中心に据えたコロナ禍からの回復の形成という目標にも沿っています。

マーサ・ニュートンILO政策担当副事務局長は、LPハブが「環境や科学技術といった貿易の未来に関する幅広い分野と関係する労働関連条項に加え、強制労働や人種/民族に係わる平等、ジェンダーといった新しい分野の労働条項を貿易の観点から理解することによって、より包摂的な貿易促進」の一助となることへの期待を表明しています。

参照
- 労働関連条項を含む貿易協定に関するILOオンライン・データベース(LPハブ):About the Labour Provisions in Trade Agreements Hub
  https://www.ilo.org/LPhub/#about

- ILOウェブサイト "ILO launches new online database on trade agreements that include labour provisions"
  https://www.ilo.org/global/about-the-ilo/newsroom/news/WCMS_835844/lang--ja/index.htm

- ILO駐日事務所ウェブサイト:同プレスリリース
  https://www.ilo.org/tokyo/information/pr/WCMS_836011/lang--ja/index.htm