ILO Newsletter「ビジネスと人権」

企業の人権デュー・ディリジェンス実施について―日本の状況

各国で、企業による人権対応への強化を求める動きは加速しています。今回は、企業が人権デュー・ディリジェンスの策定・実施方法を考える上で具体的な検討につながるような、関連するILOや政府の文書を紹介します。

記事・論文 | 2022/01/20
© ILO, IFC 

2021年11月30日、経済産業省と外務省との連名により、「日本企業のサプライチェーンにおける人権に関する取組状況のアンケート調査」の結果が発表されました[1]。2011年に国連人権理事会の関連決議において策定された「ビジネスと人権指導原則」(UNGPs)に基づいて、日本政府は2020年10月に「ビジネスと人権」に関する行動計画(NAP)を策定しました。政府は、企業によるビジネスと人権の取組みを促進するとともに、企業に対し、人権デュー・ディリジェンス導入への期待を示しています。またNAPにおいては、企業の取組状況をフォローアップする旨を表明しており、その一環として、企業の取組状況を把握するための調査が実施されました。

調査の対象企業は2021年8月末時点での東証一部・二部上場企業等2786社でした。それに対し760社が回答しました。回答企業の業種について、製造業が57%と最も多く、商業が12%、金融・保険業11%でした。

回答した企業(760社)の約7割が人権方針を策定し、5割強の392社が人権デュー・ディリジェンスを実施していると回答しました。このうち、人権対応の基礎項目:人権方針の策定、人権DD実施、外部ステークホルダーの関与、人権に関する主幹組織の設置、人権に関する取組みについての情報公開、救済・通報体制の確立、人権に関する研修、サステナブル調達基準の設定、をすべて実施している企業は103社でした。

これらの企業から、人権尊重経営を実施した結果得られた成果として、自社内の人権リスク低減が83%、ESG 評価機関からの評価向上が82%、SDGsへの貢献が70%、サプライチェーン上の人権リスク低減が70%という回答が得られました。この結果は、全体平均と比較して高い数字となっています。また回答した企業において、売上規模が大きいほど、人権対応の基礎項目の実施率が高いことが分かりました。

一方で、人権デュー・ディリジェンスを実施していない企業からは、その理由として、3割強の企業から、実施方法が分からない、また3割弱が十分な人員・予算を確保できないという回答が得られました。

他方、世界に目を向けると、企業による人権対応への強化を求める動きは加速しています。EUでのデューディリジェンス義務化に向けた議論に加え、最近では2021年12月23日に、アメリカで、強制労働によって生産されたものではないことを証明する等いくつかの要件を満たさない限り、中国の新疆ウイグル自治区で生産された産品及び同産品を組み込んだ産品の輸入を原則として禁止する法律が成立しました。この法律は、2022年6月に施行されます[2]

ILOでは、2021年11月、サプライチェーンにおけるディーセント・ワークの達成に関する包括的戦略の構築に向けて、「サプライチェーンにおけるディーセント・ワークのためのILOの規範的・非規範的措置のギャップ分析」に関する報告書を発表しました。[関連記事]これは第344回理事会(2022年3月)での、政労使作業部会による議論の基礎として提出されました。その中で、企業デュー・ディリジェンス法の義務化は、サプライチェーンの成果に対する説明責任を高める方向へのシフトを示唆するもの、と言及されています[3]

2021年9月、外務省は、一般社団法人日本経済団体連合会SDGs本部及び中小企業家同友会全国協議会の協力により、「ビジネスと人権」に関連する取組みのヒアリングを行いその内容をまとめた、「ビジネスと人権」に関する取組事例集~「ビジネスと人権の指導原則」に基づく取組の浸透・定着に向けて~を発表しています[4]。これから人権デュー・ディリジェンスの策定・実施に向けてさらなる取組みの強化を図る企業にとって、様々な好事例を参照することは、実施方法を考える上で具体的な検討がしやすくなるのではないでしょうか。

2022年もILO駐日事務所は、ビジネスと人権に関する問題に目を向けて、ILOの視点や関連する資料を紹介し、皆様に分かり易くお伝えできるよう努めてまいります。

参照
[1] 経済産業省ウェブサイト:https://www.meti.go.jp/press/2021/11/20211130001/20211130001.html

[2] CONGRESS.GOV: 117th Congress Public Law 78. From the U.S. Government Publishing Office
https://www.congress.gov/bill/117th-congress/house-bill/6256/text/pl?overview=closed

[3] Gap analysis of ILO normative and non-normative measures to ensure decent work in supply chains” P.18
https://www.ilo.org/global/publications/meeting-reports/WCMS_829895/lang--en/index.htm

[4] 外務省ウェブサイト:ビジネスと人権 企業の取組みウェブページ内より、「ビジネスと人権」に関する取組事例集 「ビジネスと人権の指導原則」に基づく取組の浸透・定着に向けて
https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/bhr/page23_003537.html