ILO Newsletter「ビジネスと人権」

今、企業に求められる「人間を中心に据えた回復」に向けたアプローチ ~『ILOモニタリング第8版「COVID-19 と仕事の世界:推計と分析」更新版』発表に際して~

10月27日にILOが発表した、『ILOモニタリング第8版『COVID-19 と仕事の世界:推計と分析』更新版』は、取得された新たなデータより、ワクチン接種率が労働市場に与える地域別影響を分析し、COVID-19危機により生産性や企業にもたらされた歪みについても分析しています。そして、「人間を中心に据えた回復」のためには、資金面や技術面での支援を含む、世界的な行動が必要とされていることを指摘しています。報告書の発表に際して、今、企業に求められる「人間を中心に据えた回復」に向けたアプローチについて高﨑駐日代表の考察を紹介します。

記事・論文 | 2021/11/10
ILO駐日代表 高﨑真一 

COVID-19からの持続可能な回復に向けた取組み

COVID-19危機から1年半が経過した現在、各国の回復に向けた取組みの進展を見てみると、先進国と途上国で回復の傾向にはばらつきが見られます。10月27日にILOが発表した、『ILOモニタリング第8版『COVID-19 と仕事の世界:推計と分析』更新版』[1] は、取得された新たなデータより、ワクチン接種率が労働市場に与える地域別影響を分析し、COVID-19危機により生産性や企業にもたらされた歪みについても分析しています。そして、「人間を中心に据えた回復」のためには、資金面や技術面での支援を含む、世界的な行動が必要とされていることを指摘しています。

© M.A. Hermann / MTA New York 2021
 
 
「人間を中心に据えた回復」とは ~今年のILO総会で採択された合意文書より

それでは、「人間を中心に据えた回復」とは何でしょうか。2021年6月17日、ILO史上初のバーチャル形式で行われた第109回ILO総会で、「COVID-19危機からの人間を中心に据えたの回復のための行動に対する世界的な呼びかけ 」[2]が全会一致で採択されました。

187加盟国中181カ国から政府、使用者、労働者の代表が参加して行われた会議の初日、ガイ・ライダーILO事務局長は、「COVID-19危機は保健政策、社会・経済政策、金融政策、貿易政策、知的所有権政策が実際、いかに密接に結びついているかを浮き彫りにした。私たちはその気づきから、まさにILO創設100周年記念宣言が私たちに求めているように、より整合性をもった多国間システムを恒常的に強化する必要がある」とした上で、「本総会でそのような人間を中心に据えた回復のための地球規模の対応を呼びかけ、形作る成果文書を採択することは、非常に価値のあるもの」と述べました。[3]

この合意文書 は、2019年の第108回ILO総会で採択され、大きな変革を迎えている仕事の世界に指針を与える「仕事の未来に向けたILO創設100周年記念宣言 」[4]で提唱された『人間中心のアプローチ』を基盤としています。本文書は、各国政府と社会的パートナーによる危機からの人間中心の回復に向けた緊急行動、各国の回復戦略実施に対するILOを含む多国籍機関の役割と国際協力の2部で構成されています。

本文書の第1部「包摂的で持続可能かつ強靭な人間中心の回復を進めるための緊急行動」では、包摂的な経済成長と雇用、すべての労働者の保護、普遍的社会的保護、社会対話の4つの分野に即して、各国の状況や優先事項を十分に考慮しつつ、最も脆弱で影響を受けた人々や、最も被害の大きかった部門に特に焦点を当てて、各国政府と社会的パートナーが回復に向けた政策を設計・実施する上で実現すべき取組みについて述べています。

人間中心の回復のための取組みのひとつ、「包摂的な経済成長と雇用」では、すべての人にディーセント・ワークの機会を提供することで、広範で雇用創出を伴う回復を実現するための各国の政策のひとつとして、「雇用を創出し、イノベーションとディーセント・ワークを促進する持続可能な企業の重要な役割を認識し、事業の継続性と、イノベーション、生産性向上、中小零細企業を含む持続可能な企業のための環境を支援」を行うことが公約とされています。その中には、次の4点に資する「より強靭なサプライチェーンの育成」も含まれています。
  • ディーセント・ワーク
  • 中小零細企業を含む、サプライチェーンに沿った企業の持続可能性
  • 環境の持続可能性
  • 国連の「ビジネスと人権に関する指導原則」及びILO の「多国籍企業及び社会政策に関する三者宣言」の3 つの柱に沿った、人権の保護と尊重

国際的課題である人権尊重 ~今、企業に求められるもの


6月13日に閉幕したG7コーンウォール・サミットの首脳宣言で、「農業、太陽光、衣類の部門におけるものを含め、グローバルなサプライチェーンにおいて、国家により行われる脆弱なグループ及び少数派の強制労働を含むあらゆる形態の強制労働の利用について懸念」(外務省・G7首脳コミュニケ・自由で公正な貿易参照)が示されましたが、それに続き、10月22日に行われたG7貿易大臣会合でも、強制労働の撤廃について議論が行われました。そして、「強制労働に関するG7貿易大臣声明(附属文書)」が採択されました。「サプライチェーンにおける人権侵害、強制労働の排除の重要性」を確認し、「企業が公平な競争条件の下で積極的に取り組める環境を整備することが不可欠であるため、各国の措置について予見可能性・透明性を高める国際協調・仕組みづくりが重要」であることが認識されました。 [5] [6]

また、10月30-31日に開催されたG20ローマ・サミットで採択された首脳宣言には、「雇用及び社会的保護」[7] の部分で、「社会対話を促進し、グローバルなサプライチェーンにおけるものを含む、より大きな社会正義-すなわち安全で健康的な労働条件、全ての人のためのディーセント・ワークを確保するために、人間を中心とした政策アプローチを採用していく」と述べられています。このように採択された宣言は、6月にILO総会で採択された「人間を中心に据えた回復のための行動に対する世界的な呼びかけ 」に沿った内容であり、サミットに出席したガイ・ライダーILO事務局長は、G20諸国の首脳陣が新型コロナウイルスの世界的大流行からの回復計画において人間を中心に据えた政策アプローチの採用を宣言したことについて、歓迎の意を表しました。[8]

このように、COVID-19危機からの回復過程において、グローバルなサプライチェーンにおける脆弱なグループや少数派の強制労働を含むあらゆる形態の強制労働の利用について懸念が指摘され、サプライチェーンにおける人権侵害、強制労働の排除の重要性が強調され、企業が公平な競争条件の下で積極的に取り組める環境を整備するために不可欠な社会対話を促進し、グローバルなサプライチェーンにおけるより大きな社会正義-すなわち安全で健康的な労働条件、全ての人のためのディーセント・ワークを確保するための「人間を中心としたアプローチ」を採用していくことが国際公約となる中、企業はこれまで以上に「ビジネスと人権」、人権デューディリジェンスに積極的に取り組むことが求められています。


参照:
[1] ILO駐日事務所ウェブサイト:
https://www.ilo.org/tokyo/information/publications/WCMS_826701/lang--ja/index.htm

[2] ILO駐日事務所ウェブサイト:
https://www.ilo.org/tokyo/information/publications/WCMS_809363/lang--ja/index.htm

[3]「壊滅的な新型コロナウイルス危機は人間を中心に据えた回復政策を要請すると説くILO事務局長」、2021年6月7日、ILO駐日事務所ウェブサイト:
https://www.ilo.org/tokyo/information/pr/WCMS_803110/lang--ja/index.htm

[4] ILO駐日事務所ウェブサイト:
https://www.ilo.org/tokyo/information/publications/WCMS_715346/lang--ja/index.htm

[5] G7貿易大臣会合概要、経済産業省ウェブサイト:
https://www.meti.go.jp/press/2021/10/20211022008/20211022008.html

[6] G7貿易大臣会合、閣僚声明及び附属文書(仮訳)、外務省ウェブサイト:
https://www.mofa.go.jp/mofaj/files/100251121.pdf

[7] G20ローマ・サミット(概要)、外務省ウェブサイト:
https://www.mofa.go.jp/mofaj/press/release/press1_000622.html

G20ローマ首脳宣言(仮訳)https://www.mofa.go.jp/mofaj/files/100253941.pdf

“G20 ROME LEADERS’ DECLARATION”
 https://www.mofa.go.jp/mofaj/files/100253891.pdf

[8] G20ローマ・サミットに関するプレスリリース、ILO駐日事務所ウェブサイト:
https://www.ilo.org/tokyo/information/pr/WCMS_826822/lang--ja/index.htm