ILO Newsletter「ビジネスと人権」

持続可能な成長のためのポジティブな変化~ベトナム新労働法を適用した工場

ILOと世界銀行グループのメンバーである国際金融公社(IFC)とのパートナーシップによるベターワークプログラムでは、多様なステークホルダーを結集させて、世界的な縫製産業の労働環境の改善と競争力強化に努めています。今回は2019年に労働法が改正され、2021年1月より施行されているベトナムにおいて、新労働法を適用した工場の事例について、ベターワークウェブサイトに掲載された記事よりご紹介します。

記事・論文 | 2021/10/21
© ILO:ベトナムの縫製工場で働く女性

労働法の改正に合わせて、社内規定や方針の調整を進めるベトナムの縫製工場

2019年11月、ベトナムの国会で労働法の改正が承認されました [1] 。新労働法は2021年1月から施行されています。法改正により、ベトナムの法的枠組みは国際基準や基本的な労働権に沿ったものとなりましたが、これらの改正点に縫製工場を含むベトナムの企業は大きな影響を受けています。他の多くの工場と同様に、タイビン省にあるベターワーク・ベトナム [2]の参加工場であるスポーツ用品メーカーのMaxport社(タイビン省にある支社Maxport 9)は、新労働法を遵守するため、社内規定の見直しや、調整の期間中、実際に困難に直面しました。しかし、ベターワーク・ベトナムの支援を受けて、同社は、従業員との明瞭な情報伝達など実施に向けた積極的な取組みの好事例となっています。

ベターワーク・ベトナムの企業アドバイザーとの会合や取組みを通じて、Maxport社は、将来の混乱を予防するために、改正に直ちに取り組みました。同社は、特に労働契約や差別・ハラスメントからの保護に関連した社内規定や人事方針を見直しました。 その結果、新たな方針が徐々に策定され、工場レベルで実施されました。2020年末、Maxport社は妊娠中の女性労働者に関連する新たな規定を策定・実施し、危険な作業を行う妊娠中の女性労働者には労働時間の短縮を示し、人事担当者との話し合いを通じて出産にかかわる諸権利や手当について学ぶよう奨励しました。

「わが社は常に、労働条件の改善策に優先的に取り組んでいます。私たちは法の遵守、安全衛生に関する規定の遵守をしていますが、法律遵守にとどまることなく、さらに一歩進んだサービスを提供することのメリットを十分に理解したいと考えています。」
Maxport9支社長・ティエン・ファム氏

ティエン氏をはじめとする経営幹部は、従業員との密接なコミュニケーションを重視しています。これは、従業員の積極的な参加が、持続可能な開発の鍵になると考えるためです。コミュニケーションとメッセージの一貫性を高めるために、ラジオ、掲示板、研修コース、管理職と従業員との定期的な社会対話のための会合を行うなど、多くの効果的なコミュニケーションツールや手段を活用しています。また、工場で新たな規定や方針を導入する際には、即時の情報提供に努めています。

Maxport社は、ベターワーク・ベトナムのプログラムの参加工場として支援を受けており、この1年半のコロナ禍で、厳しい状況に直面しても、強く持ちこたえることができました。同社のほか、ベター・ワーク・ベトナムは多くの工場を支援しています。このプログラムはまた、新労働法の実施において、工場に指導を行うベトナム労働省を支援すると共に、ベトナム全土の工場で使用者と労働者及びその代表者間の、開かれた対話を促進しています。フォン・グエン氏はMaxport 9の労働組合指導者を務める女性ですが、パンデミックの間、ベターワーク企業アドバイザーと緊密に協働してきました。

「ベターワークの最も優れていた点は、コロナ禍におけるビジネスの継続性についてです。昨年は、COVID-19の影響で多少の混乱はあったものの、プログラムはサービスの提供を継続し、私たちはそれを大いに評価しています。私たちのベターワーク企業アドバイザーであるマイ氏は、新たに導入された新労働法の主な改正点に適応させるよう、社内規定の改訂と調整において多大な支援を提供してくれました」とグエン氏は述べています。

Maxport 社は、工場が改正点について理解を深め、また実施のためのシナリオを議論できるよう、ベターワーク・ベトナムが現地政府パートナーと調整して実施した新労働法に関するセミナーに参加しました。さらに、共同アドバイザリー会合を通じて、COVID-19の予防と緩和に焦点を当てたイニシアチブや、縫製工場で働く女性に訓練を提供し、より高いレベルの職務に就かせ、製造ラインの生産性向上に貢献するGEAR(Gender Equality and Returns)プロジェクトなど、ベターワーク・ベトナムのその他の取組みも取り入れました。

「特にベトナムのCOVID-19の第1波、第2波では、他の工場と教訓を共有し、解決策を模索することができ、共同アドバイザリー会合で多くのことを学びました。このような会合により、リスクを特定でき、それぞれのシナリオに応じた雇用計画の選択肢を検討することができます。COVID-19対応策に関する、工場レベルでの好事例の共有も奨励されています」と、Maxport 9 支社の人事/コンプライアンスマネージャーのハー・ファム氏は述べています。

積極的な取組みと強力な経営陣の指揮のもと、Maxport社は、新労働法を適用させながら、従業員の職場環境の安定・強化を図る良い手本を示しています。

※本記事におけるベトナムの新労働法の日本語訳は、オリジナル記事の引用箇所の仮訳となります。

ベターワークのウェブサイト・オリジナル記事(英文)はこちら

参照:
[1] 45/2019/QH14 ベトナム 労働・傷病兵・社会省ウェブサイト:http://english.molisa.gov.vn/Pages/Document/Detail.aspx?Id=39373

[2] ベターワークは、ILOと世界銀行グループのメンバーである国際金融公社(IFC)によるパートナーシッププログラムです。多様なステークホルダーを結集させて、世界的な縫製産業の労働環境の改善と競争力強化に努めています。ベターワークは、バングラデシュ、カンボジア、エジプト、エチオピア、インドネシア、ベトナム、ヨルダン、ハイチ、ニカラグアで活動しています。パンフレット(日本語)