ILO Newsletter「ビジネスと人権」

国際労働基準、国連のビジネスと人権に関する指導原則、ビジネスと人権に関する国別行動計画(NAP)の相互の関係性について (1)

各国は、国連の「ビジネスと人権に関する指導原則」(UNGPs) へのコミットメントの表明として、「ビジネスと人権に関する国別行動計画」(NAP) を採択することが奨励される中、 ビジネスと人権に関する国内政策の一貫性を強化する目的で、NAPを策定・採択する国が増えています。今年6月に発行されたILOと国連ビジネスと人権に関するワーキング・グループが共同でまとめたブリーフィング・ノートより、5回シリーズで、NAPと国際労働基準とのつながりについてご紹介します。

記事・論文 | 2021/08/27
ベトナム、フンイエンの縫製工場で働く労働者。個人保護具の重要性について、安全文化を定着させるためには、使用者と労働者が一体となって積極的に取り組む必要があります。©ILO/Nguyễn Việt Thanh 

背景

2021年6月21日、ILOは、国連ビジネスと人権に関するワーキング・グループと共同で、”The linkages between international labour standards, the United Nations Guiding Principles on Business and Human Rights, and National Action Plans on Business and Human Rights”( 「国際労働基準、国連のビジネスと人権に関する指導原則、ビジネスと人権に関する国別行動計画(NAP)の相互の関係性について」 [1]) と題するブリーフィング・ノートを発行しました。

これはNAPの策定、採択、実施において重要な役割を担う政府、使用者・労働者団体に向けて作成されています。

政府による労働者の権利保護と、企業による労働者の権利尊重の促進に向けて、ILO加盟国政労使がシナジー効果と機会の特定に用いることができます。

本書は、国連ビジネスと人権に関するワーキング・グループが発行した「ビジネスと人権に関する国別行動計画の指針」[2]と、様々な加盟国のNAPプロセスにおけるILOのこれまでの知見に基づいています。

本書は初版となり、NAPは期限付き行動計画であり、今後さらにNAPが採択、実施、評価されるにつれ、国際労働基準がどのように組み入れられているかについて最新の動向を把握するため、今後更新される予定です。現在のNAPからの具体的な例が追加されます。これらの例は決して網羅的なものではありませんが、現在のNAPにおいて、ILOの国際労働基準、様々な文書、サービス、プロジェクトに関する政策の一貫性と共通の規定の解説となります。

各国は、国連の「ビジネスと人権に関する指導原則(UNGPs)」へのコミットメントの表明として、「ビジネスと人権に関する国別行動計画」(NAPs)を採択することが奨励されています。[3] ビジネスと人権に関する様々な公共政策分野において、国内における調整と一貫性を強化する目的で、このようなNAPを策定・採択する国が増えており [4]、その中でも労働者の権利保護は不可欠といえます。

このプロセスに、各国の労働省や、労使団体が参加することは、ビジネスと人権の労働に関する側面を強化し、国レベルでの優先事項や、企業活動における労働者の権利を保護・尊重するための具体的な政策措置や行動を特定し、企業による人権侵害からの実効的な救済を可能にする上で、非常に重要です。

労働者とその権利の尊重をCOVID-19危機からの責任ある、強じんな回復の中心に据え、グリーン経済への公正な移行と、人間中心の仕事の未来に向け努力する中で、最終的には政労使がこれまで以上に強く結束することが、現在の主要な課題の解決に大きくつながることでしょう。

国連の「ビジネスと人権に関する指導原則(UNGPs)について

国連の「ビジネスと人権に関する指導原則(UNGPs)」は、企業がすべての人権に与える影響に対処するための権威あるグローバルな枠組であり、国家と企業の双方に適用され、企業活動に関連する人権リスクを防止し対処するためのそれぞれの義務と責任を明確にしています。

UNGPsは、国連の「保護、尊重及び救済」枠組(2008年)で初めて提示された3つの柱で構成されており、UNGPsによってさらに運用されています。
  1. 実行的な政策、規制、裁定を通じて、企業を含む第三者による人権侵害から保護する国家の義務
  2. 人権を尊重する企業責任とは、企業が他者の権利を侵害しないように、また、企業が関与する負の影響に対処するために、デュー・ディリジェンスを実施することを意味する。
  3. 司法手続きに加え、非司法的な苦情処理の仕組みなど、効果的な救済措置を提供することが必要
国連人権理事会は、2011年6月にUNGPsを全会一致で承認しました。UNGPsは、規模、業種、拠点、所有形態、または組織構成を問わず、すべての国家と、多国籍企業を含むすべての企業に適用されます。[5]

国連の「ビジネスと人権に関する指導原則」10周年:新たな10年に向けて

2021年6月、人権理事会がUNGPsを満場一致で承認してから10周年を迎えます。国連ビジネスと人権に関するワーキング・グループは、UNGPsを推進する使命の一環として、この節目を機に、これまでの10年を評価し、ビジネスと人権に関する新たな10年の活動の方向性を示すプロジェクト、「UNGPs 10+」を実施します。この取組みは、幅広いステークホルダーとの協議に基づいて、これまでの成果を検討し、既存のギャップや課題を評価し、今から2030年までの間にUNGPsをより広く、より広範に実施するためのロードマップを作成することを目的としています。

このプロジェクトの主な成果は2点です。ひとつは、2021年6月に人権理事会に提出される報告書で、これまでの進捗状況を評価し、既存の課題や機会に焦点を当て、2030年以降に向けた変革のために、より強固な政策行動を活用する方法を検討すること、そしてもう一つはマルチステークホルダーからのコメントの提供を受けた「新たな10年のためのロードマップ」で [6]、国家、企業、団体、国際機関、その他のアクターのための目標やターゲットを定めた実施戦略を策定することです。

ビジネスと人権に関する行動計画は、UNGPs 10+で述べられているように、UNGPsを取り込む一つの形です。市民社会団体やワーキング・グループによる既存のNAPへの評価では、次のような共通の欠陥が浮き彫りになっています。国のリスクアセスメントによって収集された強固な証拠に基づいたNAPがあまりにも少ないこと、多くのNAPプロセスが既存の権力の不均衡を考慮していないため、有意義な参加が得られていないこと、公表のための透明性と明確なタイムラインの欠如、採択されても、特に実施・モニタリングの点でガバナンスが弱く、いくつかの例外を除いて、国が取るべき実施可能な措置の観点から言うと、NAPは一般的にガバナンスが弱いことが挙げられています。

これらの評価は、NAPの策定と実施のための基準の必要性を強調しています。これらの基準には、担当省庁の適切な権限、資金と資源、政府内の調整、透明性のあるプロセス、使用者と労働者の両組織を含むマルチステークホルダーの参加、強固で包摂的な国のリスク評価、具体的で測定可能、達成可能、期限が特定された明確な目標とターゲット、マルチステークホルダーの円卓会議などを通じた報告とモニタリングのメカニズムが含まれます。

これらの評価は、UNGPs 10+の現状調査と、新たな10年のUNGPsのさらなる実施に向けたロードマップとの関連でも考慮されています。詳細については、国連人権高等弁務官事務所のウェブサイトをご覧ください。[7]

次回は、NAPについて、また国連の「保護、尊重及び救済」枠組と「ビジネスと人権に関する指導原則」で参照されるILO文書についてご紹介します。

脚注

[1] Briefing Note: “The linkages between international labour standards, the United Nations Guiding Principles on Business and Human Rights, and National Action Plans on Business and Human Rights”. ILO. 17 June 2021: https://www.ilo.org/empent/areas/mne-declaration/WCMS_800261/lang--en/index.htm

[2] Guidance on National Action Plans on Business and Human Rights. Working Group on Business and Human Rights (UNWG). 2016. https://www.ohchr.org/Documents/Issues/Business/UNWG_NAPGuidance.pdf

[3] Guidance on National Action Plans on Business and Human Rights. Working Group on Business and Human Rights (UNWG). 2016.

[4] National action plans on business and human rights. OHCHR:  https://www.ohchr.org/EN/Issues/Business/Pages/NationalActionPlans.aspx.
National Action Plans on Business and Human Rights. Danish Institute for Human Rights (DIHR). デンマーク人権研究所: https://globalnaps.org

[5] ビジネスと人権に関する指導原則: 国際連合「保護、尊重及び救済」枠組実施のために(A/HRC/17/31)国際連合広報センターhttps://www.u nic.or.jp/texts_audiovisual/resolutions_reports/hr_council/ga_regular_session/3404/

[6] 国連人権高等弁務官事務所ウェブサイト: https://www.ohchr.org/EN/Issues/Business/Pages/UNGPsBizHRsnext10-inputs.aspx

[7] 国連人権高等弁務官事務所ウェブサイト: www.ohchr.org/UNGPsBizHRsnext10