ILO Newsletter「ビジネスと人権」

サプライチェーンにおける児童労働の撤廃に向けた企業の取組み

グローバル・サプライチェーンは、経済成長、雇用、能力開発及び技術移転を生み出す可能性があります。しかしながら、残念なことに、人権侵害やディーセント・ワークの欠如といった問題に深く係わっていることも事実です。こうした職場における人権侵害をなくすために、政府、企業、社会的パートナー、金融セクター、市民社会など様々なステークホルダーが方策を講じています。

記事・論文 | 2021/07/27

国連総会は2019年、全会一致で2021年を「児童労働撤廃国際年」とすることを採択しました。持続可能な開発目標(SDGs) のターゲット8.7 は、強制労働を根絶し、現代の奴隷制、人身取引を終らせるための緊急かつ効果的な措置の実施、最悪な形態の児童労働の禁止及び撲滅を確保、そして2025 年までに児童兵士の募集と使用を含むあらゆる形態の児童労働を撲滅することを目標として掲げています。

国際年の主な目的は、ターゲットの達成に必要な行動を広く国際社会に求めることです。ILOは、240以上のパートナー機関が、ターゲット8.7の達成に向けて連携して取組む地球規模のパートナーシップである、『アライアンス8.7』と協力し、国際年を主導しています。[1] 国際年の開幕時より、アライアンス8.7は、児童労働の終結に向けて、2021年12月までに達成可能な具体的な行動(2021アクション・プレッジ)を、すべてのステークホルダーに対して呼びかけました。[2] そして、行動(Act)、啓発(Inspire)、スケールの拡大(Scale Up)の3つの柱の下に、300 以上の組織からアクション・プレッジが提出されました。[3]


どうずればサプライチェーンにおける児童労働をなくすことができるのか?

2021年6月に発表された児童労働に関する世界推計 は、世界中で、1億6000万人の子どもたちが児童労働に従事していると発表しました。その中で、自国内生産及び世界的なサプライチェーンにおいて、児童労働の危険性が高まっていることについても指摘しています。

グローバル・サプライチェーンにおける児童労働、強制労働及び人身取引に関連するリスクの要因として、ILO、OECD、IOM、UNICEFによる報告書「グローバル・サプライチェーンにおける児童労働、強制労働、人身取引に終止符を」[4]は次の3つの側面を挙げています。
  • グローバル・サプライチェーンに関する国際労働基準の違反の余地を生み出す、法規制、法執行、司法アクセスのギャップ
  • 貧困、非公式性、社会サービスやインフラの欠如、暴力、特定の社会規範、ジェンダーやその他の形態の差別といった、個人や労働者を児童労働などの脆弱な状況に置く、また労働移動という決断を助長する社会経済的圧力
  • 企業行動と労働環境
第三の要因には、児童労働、強制労働、人身取引の禁止をはじめとする、労働における基本的原則及び権利を尊重する責任について、企業側の認識、方策への取組みの不十分さが含まれます。また価格、コスト、スピードへの圧力は、グローバル・サプライチェーンやサプライチェーン全般に共通する特徴であり、ほとんどの場合このような結果にはつながりません。しかし、こうした圧力が十分に厳しく、弱い立場の労働者が供給され、法の支配が脆弱な場合、こうした圧力が児童労働や強制労働を誘発する可能性が指摘されています。さらに、グローバル・サプライチェーンが、サプライヤーを何層にも重ねた複雑な企業ネットワークへと進化するにつれ、原材料の調達工程で非公式(インフォーマル)な労働環境に及ぶ場合があります。その場合、政府による労働慣行の監督や企業の方針、デューデリジェンス措置の実施が、さらに困難となります。[5]

参照:「グローバル・サプライチェーンにおける児童労働、強制労働、人身取引に終止符を」エグゼクティブサマリー、ILO、OECD、IOM、UNICEF(2019)、p11

職場における人権侵害は、様々な要因が相互に関係して起きていると言えます。そのため、関係するすべてのステークホルダーによる連携した取組みが必要です。ここで、児童労働撤廃国際年ウェブサイト・Storiesより、2021アクション・プレッジを表明した企業3社の、サプライチェーンにおける児童労働に対する取組みについてご紹介します。 [6]

 
Inter IKEA Group

インター・イケア・グループ は、オランダに本拠地を置く企業です。

同社の2021アクション・プレッジは、イケアのサプライチェーン・マネジメントシステムに子どもの権利をさらに組み込むことを目的としています。具体的には、サプライチェーンに関連して、子どもの権利を分析し、若者の失業や教育機会の欠如などのリスクを検討していきます。

「COVID-19の危機により、世界のサプライチェーンにおける子どもたちの脆弱な状況が悪化していることを認識しています。このことから、私たちの責任ある行動がより一層急がれるのです。」

年間を通して同企業は、その取組みを加速させ、広めていくために他の機関と連携します。ILO児童労働プラットフォームにメンバーとして参加することもその一例です。

インター・イケア・グループのアクション・プレッジについてはこちら
 
 
Assent Compliance  

アセント・コンプライアンス は、カナダに拠点を置く企業です。

同社の2021アクション・プレッジは、サプライチェーンにおける児童労働のリスクデータを収集・共有するための調査を無料で公開することで、サプライチェーンにおける児童労働撤廃に向けた企業の取組みを支援することを目的としています。
ツールはこちらから ダウンロードできます。(日本語表示可能。)

「私たちは、サプライチェーンにおける児童労働はビジネス上の問題であり、企業には、児童労働を含む、事業活動やサプライチェーンにおけるあらゆる人権上の悪影響を特定、防止し、対応策を策定し、説明する責任があると認識しています。」

同企業は年間を通して、デューデリジェンスの重要な側面から企業への支援を行うツールの作成、発表、促進をしていきます。

Assent Compliance のアクション・プレッジについてはこちら


OLAM International Limited  
 
オーラム・インターナショナル はシンガポールを拠点とする企業です。

同社の2021アクション・プレッジは、同社が管理するサプライチェーンにおける児童労働の問題に対処するために、オーダーメイドの行動計画を実施することを目的としています。その計画とは、この問題に対する従業員とサプライヤーの理解を深め、リスクの高い地域にいる移民の子どもたちに安全なスペースを提供し、家族の児童労働への依存度をなくすための持続可能な労働慣行を育成することです。

「私たちは、企業、NGO、政府、地域社会と共に、事業活動やサプライチェーンにおいて、世界で最も脆弱な立場にある人々の生活を向上させ、プラスの影響を与えていきます。」と述べています。

年間を通して、児童労働プラットフォームの他のメンバーと取組みの歩みを共有し、児童労働の撤廃に向けてより戦略的に貢献していきます。

OLAM International のアクション・プレッジについてはこちら

参照:
[1] “2021: International Year for the Elimination of Child Labour”
https://www.ilo.org/global/about-the-ilo/newsroom/news/WCMS_766351/lang--ja/index.htm

[2] International Year for Elimination of Child Labour
https://endchildlabour2021.org/act/

[3] “We’ve received more than 300 pledges!”
https://endchildlabour2021.org/weve-received-more-than-300-pledges/

[4] “Ending Child Labour, Forced Labour and Human Trafficking in Global Supply Chains”, ILO, OECD, IOM and UNICEF, 2019
https://www.ilo.org/ipec/Informationresources/WCMS_716930/lang--ja/index.htm

[5] “Ending Child Labour, Forced Labour and Human Trafficking in Global Supply Chains”, ILO, OECD, IOM and UNICEF, 2019, p.17-29

[6]  “4 stakeholders focusing on child labour in supply chains”
https://endchildlabour2021.org/4-stakeholders-focusing-on-child-labour-in-supply-chains/