ILO Newsletter「ビジネスと人権」

ミャンマーにおける軍事クーデターの影響

2021年2月1日にミャンマー国軍が軍事クーデターを実施して以降、市民や労働者による平和的な集会やデモが実力によって弾圧されています。犠牲者が増え続ける状況を受け、国際社会は国軍への批判を強めていますが、沈静化に向けた目途は立っていないのが現状です。

記事・論文 | 2021/06/03
© Ninjastrikers

ミャンマー軍事クーデターの概要


2021年2月1日、ミャンマー国軍は全土に非常事態を宣言し、国家の全権を掌握したと表明しました。クーデター当初から、さまざまな市民不服従運動(CDM:Civil Disobedience Movement)が展開される一方、市民への弾圧や暴力行為が続いています。OHCHRによれば、5月10日時点でこれまで犠牲となった死者は782名、拘束者は3,740人、その他行方不明者なども多数いるとみられています。[1] クーデター勃発から100日が経過した現在も、沈静化の目途は立っていません。

国連およびILOの反応

クーデター勃発後まもなく、国連のアントニオ・グテーレス事務総長はミャンマー国軍による暴力行為を非難し、人権の尊重、法に基づく民主主義を求める声明を出しました。[2] そしてILOのガイ・ライダー事務局長は2月10日、ミャンマーにおける国軍の弾圧行為が労働者の結社の自由および表現の自由を剥奪しているとし、行為を止めるよう求めました。[3] また軍による若い女性労働者を対象としたハラスメントや脅迫行為が頻発していることを受け、2月23日にILOは改めて軍への抗議声明を表明しています。[4]

ミャンマーはILOの加盟国であり、結社の自由及び団結権保護条約(第87号)を批准しています。批准国は条約を国内で実施するという国際的義務を負っており、その条約に拘束されています。ミャンマー国軍に対して、ILOはこの条約のコミットメントを直ちに実現するよう求めています。

「ビジネスと人権」への挑戦

国連ビジネスと人権に関するワーキンググループの人権専門家は、「ビジネスと人権に関する指導原則(以下、指導原則)」に基づき、ミャンマーで事業を展開する企業に対して人権に配慮したアクションを取るよう求めました。具体的には、軍の資金源に繋がるような事業(技術や武力などを含む)の停止・撤退や、事業を継続する場合は労働者の人権に配慮することなどを提示しています。[5]

指導原則の3つの柱は「人権を保護する国家の義務」「人権を尊重する企業の責任」「救済へのアクセス」です。第一の柱である国家の機能が大きく揺らぐ中で、どのように企業活動における人権尊重を維持していくことができるのか。このような事態下における「ビジネスと人権」のあり方について、企業と国際社会の姿勢が問われています。

ILOは「世界の永続する平和は、社会正義を基礎としてのみ確立することができる」というILO憲章の理念に基づき、結社の自由・言論の自由といった労働者の基本的な人権の尊重に向けて、引き続きミャンマー情勢を注視し働きかけを行っていく方針です。

脚注
[1] https://www.ohchr.org/EN/NewsEvents/Pages/DisplayNews.aspx?NewsID=27079&LangID=E
[2] https://www.un.org/sg/en/content/sg/statement/2021-01-31/statement-attributable-the-spokesperson-for-the-secretary-general-myanmar
[3] https://www.ilo.org/global/about-the-ilo/newsroom/news/WCMS_770062/lang--en/index.htm
[4] https://www.ilo.org/global/about-the-ilo/newsroom/statements-and-speeches/WCMS_773064/lang--en/index.htm
[5]  https://www.ohchr.org/EN/NewsEvents/Pages/DisplayNews.aspx?NewsID=27079&LangID=E