仕事または労働についての統計上の定義と第19回国際労働統計家会議の成果

2013年10月に開かれた第19回国際労働統計家会議は、就業、失業、不完全就業などに関して過去に採択された決議、指針に置き換わる「仕事または労働、就業、労働力の不完全活用に関する決議」を採択し、統計上の「work(仕事または労働)」についての概念を国際的に確立しました。

記事・論文 | 2014/01/31

 ILOは国際労働統計家会議の開催を通じて労働統計に関する国際基準を定めています。確立された慣行として全加盟国に参加資格が開かれ、約5年おきに開催される国際労働統計家会議には、理事会の指名する労使代表も参加し、国際的な重要性のある労働統計関連事項について話し合い、加盟国による統計作成を導く助けになるような決議・指針を採択します。会議で採択された文書は理事会で承認された後、労働統計の正式な国際基準となります。

 2013年10月2~11日にジュネーブのILO本部で開かれた第19回国際労働統計家会議には日本を含む106カ国の政府代表、理事会の指名した使用者側専門家5人、労働者側専門家6人、国際機関の代表などを含む270人以上が出席し、前回の会議が開催された2008年11月以降にILOで行われた統計分野の活動を点検し、今後の活動に対する助言を提供すると共に、経済活動人口、就業、失業、不完全就業に関する国際統計基準の改定に向けた話し合いを行いました。議題は以下の二つです。

  1. ILOの過去の及び計画されている統計活動並びに国際労働統計家会議の機能に関する一般報告
  2. 失業率を補足する労働力不完全活用の尺度を含む、経済活動人口、就業、失業、不完全就業に関する国際統計基準の改定

 話し合いの結果、「仕事または労働(work)」についての統計上の定義を初めて国際的に示した「仕事または労働、就業、労働力の不完全活用に関する決議」に加え、強制労働統計、協同組合統計、労働力移動統計の各分野におけるILOの今後の活動提案を含む決議、国際労働統計家会議の議事規則の更新に関する決議の計5本の決議と、グリーン・ジョブの定義を含む環境部門の就業に関する指針が採択されました。

 会議では他に、インフォーマルな就業形態とインフォーマル・セクター、国際標準職業分類2008年版(ISCO-08)、児童労働、社会対話に関する統計、労働統計におけるジェンダーの主流化、業務関連暴力に関する統計、データの収集・公表・推定、ディーセント・ワーク(働きがいのある人間らしい仕事)に関する統計、従業上の地位の国際分類など、幅広いテーマに関する話し合いが行われました。ミレニアム開発目標(MDGs)の達成目標年である2015年以降の開発課題とILOの統計分野の活動に対するその影響を巡る議論においては、MDGsの達成度合いを測る指標の一つである「全ての人へのディーセント・ワーク(ディーセント・ワーク課題)と雇用」の目標を支える数量化可能な基準を作り出すための重要かつ堅固な基盤として、ディーセント・ワーク課題と、各国で用いられているその統計指標に対する支持が多くの出席者から表明されました。賃金統計に関する話し合いでは、賃金測定マニュアル更新の必要性に対する強い支持が表明され、多くの国がこの分野におけるILOとの協力に関心を示しました。各国の社会的保護制度のモニタリングを可能にし、国際的に合意された社会保障統計の共通の枠組みの達成を目指す社会的保護指標の統計基準策定に向けた動きは特に歓迎されました。

I.仕事または労働、就業、労働力の不完全活用の統計に関する決議

 就業、失業分野の統計に関する国際基準としては1982年の第13回国際労働統計家会議で採択された「経済活動人口、就業、失業、不完全就業統計に関する決議」が世界的に広く受け入れられ、各国の公式統計はほとんどがこれに基づいて作成されています。しかし、この基準に従って作成された就業・失業統計が仕事の世界を十分に表すには至っていないことが近年ますます指摘されるようになってきています。国内総生産(GDP)、就業率、失業率などといった古典的な経済指標も、社会進歩、生活水準、さらには経済成績や雇用創出さえも十分に測定できていないのではないかとの疑問が幅広く呈されるようになってきています。これらの統計はまた、世帯内で労働資源がどう配分されているかといったことや、その結果としての生計や安寧に対する影響にもほとんど光を当てていません。労働力統計が様々な就労形態を十分に示しているか否かも、国の発達水準や農村・都市環境の別などの違いによって異なると見られています。さらに、少数の指標で特定のマクロ経済目的に対処するよう開発されたこれまでの手法に頼っていては、幅広い経済・社会政策の情報源となる統計に対する需要の増大に対処できません。最近の国際的な金融危機とその雇用に対する影響は、世界中で政策関係者やニュース解説者が労働市場や仕事に主導された成長の動向をより注視する状況を引き起こしています。同時に、気候変動や地球温暖化が生産や消費のあり方に与える影響、その結果としてもたらされる雇用、所得、食の安全保障の状態に対する関心の高まりは、開発がより持続可能で誰にとっても公平であるためにはあらゆる仕事を包含した社会・経済的アプローチをより強調すべきとの認識をもたらしました。このような政策ニースの変化、労働市場及び労働形態の変化、さらに就業の活動範囲が幅広く異質の集団が一つにまとめられている、労働形態を区別できない、全ての活動範囲が網羅できていない、特定の労働者集団の処理が選択的である、関連する基準との不一致が見られる、労働力の不完全活用状態が十分に計測できない、労働市場の動的側面を測定できない、さらなる明確化が必要などといった現行基準の様々な限界などの理由から、今ある基準を見直し、あらゆる労働形態を網羅した、より柔軟な統計集合と、労働市場を監視するための、現在提供されているよりも包括的な労働力不完全活用の尺度が提供されるように、現行基準の対象範囲を拡大する方向で改訂を行う必要性が明らかになりました。

 2008年に開かれた前回の国際労働統計家会議直後の2009年から作業部会や地域別協議会、政労使専門家会合の開催、国内慣行の机上点検、予備評価などを含む、4年にわたる作業を経てまとめられ、今回採択された「仕事または労働、就業、労働力の不完全活用の統計に関する決議」は、既存の基準を基礎としつつ、30年間にわたって育まれた好事例を組み込み、関連する基準を一つにまとめ、各国に幅広い指針を提供すると同時に漸進的な実施を円滑化し、既存の系列の再構築を可能にし、国際比較の可能性を促進するものとなっています。あらゆる生産活動を網羅する「仕事または労働」の統計的な概念を初めて国際的に示し、就業の定義を「報酬・利潤を得るための仕事または労働」として明確化し、自給自足労働者や見習い研修生のような重要な集団の視認性を高め、ボランティア労働などのその他の労働形態の十分な捕捉を可能にするものとなっています。また、労働市場のより幅広いモニタリングなどに向けて、労働力不完全活用の指標、インフォーマル経済指標、自給自足の食料生産者率、低賃金者率などの様々な指標の活用が提案され、国際的な報告のための新たな指標が示されています。雇用とディーセント・ワークが政策論議の中心を占め、2015年以降の開発課題に関する話し合いが最終局面を迎えている今、この決議の採択は時宜を得たものと言えます。

 決議は、1982年の第13回国際労働統計家会議で採択された「経済活動人口、就業、失業、不完全就業統計に関する決議」と2008年の第18回会議で採択された同決議の一部改正決議、1998年の第16回国際労働統計家会議で採択された「不完全就業及び不十分な就業状態の測定に関する決議」中の労働時間との係わりで見た不完全就業の定義部分(第8段落(1)及び第9段落(1))、1987年の第14回国際労働統計家会議で承認された「就業及び失業の測定に対する雇用促進計画の影響に関する指針」、第16回会議で承認された「就業・失業統計における長期休業者の取扱いに関する指針」に置き換わるものとして、仕事または労働に関する統計のための基準を設定し、この分野において存在する各国の統計プログラムの更新及び統合の手引きとなることを目指しています。統計目的用に基準とすべき「仕事または労働」の概念を定義し、a)「労働形態(forms of work)」と呼ばれる、はっきりと区別される労働活動の部分集合、b)「労働力としての地位(labour force status)」と「主たる労働形態(main form of work)」に応じた人口分類、c)「労働力不完全活用(labour underutilization)」の尺度について、作業用の概念、定義、指針を提供しています。

1.1.Workとは

 決議は、work、つまり仕事または労働とは、「性及び年齢にかかわらずあらゆる人が行う、他者による使用もしくは自家使用のための財の生産またはサービスの提供に向けた何らかの活動」で構成されるとし、フォーマル性・インフォーマル性または活動の合法性・非合法性と無関係に定義され、あらゆる種類の経済単位で実行され得るものとしています。この定義から除外されるものとしては、盗みや物乞いなどのように財またはサービスの生産を伴わない活動、個人の身だしなみや衛生といった自分の面倒を見る活動、睡眠や学習といった他人がその人のために実行できない活動を挙げています。この概念は、2008年国民経済計算体系(2008SNA)の一般的生産境界の定義及び市場単位、非市場単位、自家最終使用のための財またはサービスを生産する家計の三つを区別するその経済単位の概念に沿っています。そして、様々な目的に対応するために分けて測定すべきものとして、意図する生産目的と取引の性格に基づき、仕事または労働の形態を以下の五つに分け、その作業用の定義と指針を詳しく示しています。

  1. 自家使用生産労働(own-use production work):最終的に自分で使用するための財及びサービスの生産
  2. 就業労働(employment work):賃金または利潤と引き換えに他者のために行う仕事
  3. 無給研修生労働(unpaid trainee work):職場体験または技能を得るために他者のために無給で行う仕事
  4. ボランティア労働(volunteer work):他者のために無給で行う非強制的な仕事
  5. その他の労働活動(other work activities):無給の地域奉仕活動や無給の懲役労働、無給の軍務や代替的文民奉仕活動など
2008年国民経済計算体系(2008SNA)との関わりで見た労働形態
2008年国民経済計算体系(2008SNA)との関わりで見た労働形態概念図

1.2.生産年齢人口の分類

 決議は、労働力(labour force)について、賃金または利潤を引き換えとした財及びサービスの生産のために現在供給される労働者を指すものとし、この地位に基づいて、国内法規に明示された就業の最低年齢または義務教育修了年齢を考慮に入れて設定される一定年齢以上の生産年齢人口(working-age population)を就業者(persons in employment)、失業者(persons in unemployment)、非労働力(persons outside the labour force)に分類し、「就業」を労働力統計の基準となる活動としています。就業者とは、短い基準期間の間に賃金もしくは利潤を得るために財の生産またはサービスの提供に向けた何らかの活動に従事した全ての生産年齢にある人と定義され、就労中の就業者と休暇や休日、フレックスタイムなどの労働時間上の取り決めで一時的に就労していなかった就業者で構成されます。見習い研修生やインターンなども賃金を得ている場合には就業者に含まれます。失業者とは、就業しておらず、最近の特定の期間求職活動を行い、仕事の機会が与えられたら現在就労できる状態にある全ての生産年齢にある人と定義されています。失業者には、雇用促進計画の枠内で技能訓練・再訓練に参加している人や就職内定者も含まれます。決議は、失業者の中で、求職期間が12カ月以上になる長期失業者を識別することの有用性を指摘しています。就業者及び失業者以外の生産年齢人口が非労働力とされますが、決議は新しい概念として、この中でもa)求職活動は行ったものの、現在は就労できる状態にないが近い将来就労できる状態になるであろう人々とb)求職活動を行っていないが、就業を希望しており、現在就労できる状態にある人々を「潜在労働力(potential labour force)」として識別し、b)の中でも、病気などの個人的な理由、妊娠などの家庭に関連した理由、過去に適切な仕事を見つけられなかったなどの労働市場に関連した理由、交通手段などの基盤設備がないため、年金など他の収入源があるため、疎外によって求職活動をあきらめてしまった「求職意欲喪失者(discouraged jobseekers)」を把握することの有用性を指摘しています。

 潜在労働力は、失業、労働時間との係わりで見た不完全就業(time-related underemployment)と共に、人々の未充足の就業ニーズと化す労働需給のミスマッチを表す「労働力不完全活用」度合いを測定する尺度に含まれます。労働時間との係わりで見た不完全就業者とは、短い基準期間の間に、現在就いている全ての職の合計労働時間が所定限度を下回っており、労働時間の追加を希望しており、もっと働ける機会が与えられたら追加的に働ける状態にある全ての就業者と定義されています。

 決議は、統計生成のための基礎単位を、人、職または労働活動、時間単位の三つとし、複数の仕事に就いている場合には通常労働時間が最も長いものを「主たる職」として見るべきとしています。ボランティア活動など、職務の概念がない就業以外の労働形態の活動内容の分析に有用な単位として、労働活動の部分集合として活動クラスターの概念が提案されています。

 このような定義を示した上で、決議はデータの収集、指標、製表・分析、評価・広報・公表、国際報告といった統計活動の指針、ILOの今後の活動提案を示しています。労働市場の成績を監視する指標としては、a)労働力、非労働力、失業者、就業者などの「人数」、b)就業率、労働力率などといった生産年齢人口との関わりで見た「率」、そしてc)失業率、労働時間との係わりで見た不完全就業者と失業者を合わせた率などの「労働力の不完全活用度合いを示す尺度」の三つが挙げられています。

1.3.決議採択の意義

 就業の範囲を狭めることによって、この決議に基づく統計の生成は、より均質な労働者集団の捕捉を可能にするものと見られます。就業を賃金または利潤と引き換えに行う仕事という一般的な認識に沿わせ、そのような仕事が全くない状態を失業として測定することによって、失業者とは収入を得るために働く機会を探している人という認識をより良く反映することになりました。就業と失業をそのように定義することによって、人々を労働市場に統合し、生計手段の確保及び社会への包摂を促進する手段として雇用を促進することという労働市場政策が対象とすべき層は誰かがより明確になりました。就業の範囲が狭まったことにより、労働力統計は労働市場政策、とりわけ雇用創出に係わる政策に、より密接に関連したものになることが期待されます。また、失業率や労働時間との係わりで見た不完全就業率、潜在労働力率などの労働力の不完全活用度合いを測定するその他の尺度は、賃金または利潤のための仕事に対する充足されていないニーズをより正確に捕捉できるものと思われます。

II.強制労働統計に関する今後の活動についての決議

 ILOの強制労働条約(第29号)は、処罰の脅威によって強制され、また、自らが任意に申し出たものでない全ての労働を強制労働と定義しています。このように強制労働とは、斡旋業者や使用者からだまされるか強要されて自らの自由意思に反して働かされ、脅迫や暴力、あるいは累積債務、身分証明書の取り上げ、威嚇などといった手段によって従属状態に留め置かれる状況を指しています。ほとんどの国が強制労働及び関連する慣行を国内法制で違法としていますが、大半の被害者は決して把握されず、ほとんどの加害者が処罰されないままでいます。インフォーマル経済に非常によく見られる搾取的な慣行の動向を監視するには信頼のおける統計の開発が極めて重要ですが、隠された秘密の犯罪行為であることを主な理由として強制労働の広がりに関する情報は不足しています。

 ILOは2005年に初めて、報告された事件に関する二次情報源を用いて強制労働の世界的な規模を推定し、2012年に方法論を改善して2回目の推計値を出しました。これによれば、強制労働の被害者は現在、世界全体で2,090万人に上ると見られます。今年の総会では、強制労働撤廃の効果的な達成を目指して予防、保護、補償措置を前進させる上で存在するギャップに取り組むために、強制労働の廃止を求める第29号条約を補足する基準の設定に向けた審議が予定されています。

 今回採択された決議は、2003年に開かれた第17回国際労働統計家会議で強制労働状態の存在を示す直接的または間接的な指標として用いることのできるかもしれない、より容易に観察できる基準を規定する必要性が指摘されたことなどに鑑み、この統計に関して存在する方法論のさらなる改善の必要性を認め、ILO事務局に対して、より多くの国で強制労働に関する調査が行われることを奨励するためにこのような調査における好事例の共有を目的とした作業部会の設置を勧奨しています。作業部会はILO加盟国政労使その他の専門家を関与させた上で強制労働に関する概念を調和し、統計上の定義や標準基準リスト、調査ツールをまとめ上げ、2018年に開かれる予定の次の国際労働統計家会議に進展状況を報告するよう求められています。

III.協同組合統計に関する今後の活動についての決議

 協同組合の促進勧告(第193号)は、開発政策の策定及び実行を目指し、協同組合に関する国内統計の改善に向けた国内政策の必要性を説いています。現在、多くの国が協同組合に関する統計を作成しているものの、これは一部の協同組合しか捕捉していない傾向があります。協同組合として登録されている企業、協同組合として登録されていない協同組合、さらには全く登録されていない協同組合などが存在するために、協同組合の把握が容易ではないことがこの理由に挙げられます。

 今回採択された決議は、開発政策の策定及び実行という目的に最も関連のある協同組合統計は、協同組合の数及び特性、組合員数、協同組合の従業員、協同組合の付加価値に関するものであることを認め、ILO事務局に対して、a)ILO加盟国政労使及び関心のある各国の統計局と協力の上、行政登録簿、事業所調査または世帯調査を通じて協同組合の測定方法をさらに発達させる作業を実行し、b)様々な測定手法を試すパイロット研究を関心のある国々で実施し、c)第20回国際労働統計家会議での討議に向けて進展報告を準備することを求めています。

IV.労働力移動統計に関する今後の活動についての決議

 労働力移動の世界的な趨勢に関する情報と知識基盤の改善は2004年の第92回ILO総会で採択された移民労働者のための行動計画で指摘された優先事項の一つです。ILO、欧州連合(EU)統計局(ユーロスタット)、経済協力開発機構(OECD)など、移民の流れと特性の編纂・推計には多数の機関が積極的に関わっていますが、短期及び一時的な国際労働力移動を測定する共通の方法論も国際統計基準も存在しないことが一つの大きな障害となり、経済活動に従事する移民人口に関する包括的な公式国内統計も地域別・世界全体の推計も不足しています。

 そこで、労働力移動統計に関する国際基準、共通の方法論、手法の開発を促進する必要性を認めて採択された決議は、ILO憲章や労働力移動の管理と移民労働者の保護に関する国際労働基準などに留意し、ILO事務局に対して、労働市場と移民政策の資料となり得る労働力移動統計に関する国際基準の設定に向けた作業計画の立案、検討、好事例の共有を目的とした作業部会を設置し、第20回国際労働統計家会議での討議に向けてその進展報告を準備することを求めています。

V.国際労働統計家会議の機能及びその議事規則の更新に関する決議

 1923年にその設立を遡ることができる国際労働統計家会議は労働統計に関する国際基準の設定という重要な任務を遂行しています。会議はほぼ5年おきに開催されていますが、技術作業部会の強化なども含み、その間も作業の進行を確保するような仕組みを設けることが検討されました。

 採択された決議はILO理事会に対し、i)国際労働統計家会議の作業を合理化し、会議と会議の間の調整と協議を育む仕組みを評価し、ii)労使専門家を招待する慣行の反映などを含み、議事規則の改正を検討することを提案しています。

VI.環境部門における就業の統計上の定義に関する指針

 近年、気候変動の影響と持続可能なグリーン経済へ移行することの重要性が国際社会で強調されています。グリーン経済は政策討議の焦点となり、2012年6月にリオデジャネイロで開かれた国連持続可能な開発会議(リオ+20)はグリーン経済を持続可能な開発を達成するために得られる重要な手段の一つに位置づけ、持続可能な開発の三つの側面(環境、社会、経済)に係わる分野における信頼のおける時宜を得た関連性のあるデータの入手を促進しています。

 得られる幾つかの事例研究によれば、2009年にオランダの環境財・サービス部門のGDP寄与率は2.3%で、13万7,000人分のフルタイム相当雇用を生み出しました。就業者比率が最も大きい活動は断熱分野で、この部門の就業者全体の23%を占めていました。フランスでは2007~09年の期間に環境財・サービス部門の就業者数は2.5%の成長を示し、総売上高は8.4%増となりました。売上高で見た最も重要な活動は水管理で、この部門の総売上高の26.6%を占めていました。スウェーデンでは2003~09年の期間に環境財・サービス部門の総売上高は47.6%増、就業者数は13.3%増を記録しました。オーストリアでは2008~10年の期間にこの部門の就業者数は9.6%増、総売上高は5.8%増を示しました。デンマークでは2010年に約10万6,000人の従業員がグリーン生産に関与し、米国では同年のグリーン財・サービス部門の就業者が約313万人(就業者全体の2.4%)であったと記録されています。

 このように経済のグリーン化は確かな流れであり、これが労働市場に与える影響のより良い理解、よりグリーンな経済への移行に対応する効果的な政策措置及びツールの策定確保、経済のグリーン化に向けた進展を測る一般的な尺度として、統計が求められています。そこでILOは環境部門の仕事を意味するグリーン・ジョブの統計上の定義と関連する指針の開発に向けた作業を開始し、労働統計家とグリーン経済の専門家を招いた非公式協議会を2012年11月に開き、第一次草案を提出しました。議論を経て枠組み案は改訂され、2013年の第102回ILO総会で行われた持続可能な開発に関する討議の議題資料『Sustainable development, decent work and green jobs(持続可能な開発、ディーセント・ワーク、グリーン・ジョブ)』に示されました。総会で採択された結論は、ILO事務局に対して、信頼のおける統計の編纂と幅広い配布などを通じて経済のグリーン化が仕事の創出、移行、質に与える影響を各国及び社会的パートナーである労使が評価するのを支援することを求めています。

 第19回国際労働統計家会議は2012年11月の専門家会議でまとめられた概念及び測定の枠組みを「環境部門における就業の統計上の定義に関する指針」として承認し、概念枠組みの検定を各国に奨励しています。この指針は枠組みの概説に加え、グリーン・ジョブ統計の主たる用途に光を当て、可能なデータ源とデータの種類、生成できる可能性がある指標、測定方法を示しています。

 指針は、2012年に国連の第43回統計委員会で採択された「環境・経済統合勘定体系(SEEA)-中心的枠組み」で定義されている、環境活動を行うあらゆる経済事業単位で構成される部門を環境部門とし、一定の基準期間内に、雇われてまたは自営業者として環境財・サービスの生産に従事した全ての人をこの部門の就業者としています。環境活動は、環境保護活動と資源管理活動の二つに大別され、環境的に持続可能な技術や慣行を用いている場合、農林漁業における活動も環境活動と見なすことができるとしています。

 グリーン・ジョブとは、十分な賃金、安全な労働条件、労働者の権利、社会対話、社会的保護といった、ディーセント・ワークの要件を満たす、環境部門の就業形態の部分集合を指すものとされています。一方、関連する概念として示されるグリーン・ワークは、環境財・サービスの生産に関与する全ての仕事を指すものとされています。指針はそして、環境部門の就業データの収集を国の定期的な統計プログラムに組み込むべきとし、環境部門の雇用及びグリーン・ジョブ推定のための概念、定義、方法論を実行する際には、労使団体の代表その他の利用者及び専門家との協議を求めています。ILOの今後の活動としては、関心のある国及び機関と協力し、指針に提示されている概念及び定義の検定を手配し、環境部門の雇用及びグリーン・ジョブについて信頼のおける推定値を生成するために、概念及び方法論の開発・洗練作業を続けるべきとされています。

全就業者、環境部門の就業者、ディーセント・ワークの関係概略図
全就業者、環境部門の就業者、ディーセント・ワークの関係概略図
  • 環境部門の就業者=A∪B
  • グリーン化におかげで創出された雇用=A∪B∪D
  • グリーン・ジョブ(環境部門におけるディーセントな雇用)=(A∪B)∩C

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 第19回国際労働統計家会議のウェブサイトには、決議本文や最終報告、討議資料に加え、会議場で配られた室内文書、報告者の発表資料などが掲載され、幅広い情報を得ることができます。ILOの統計データベースILOSTAT、その前身であるLABORSTA、KILM(主要労働市場指標)では、労働時間との係わりで見た不完全就業や求職意欲喪失者、働く貧困層など、上に示した多くの概念について、ILO加盟国の幅広いデータを実際に得ることができます。


参照リンク