ILOマルチメディア・プラットフォーム「声」:社会対話

私は移民労働者のための闘士

 マヤ・アクタルさんはヨルダンの衣料品工場で受付係として働くために故郷バングラデシュを後にしました。今は組合のオルグとして、衣料品部門で働く他の移民労働者の権利擁護に取り組んでいます。

 自分自身を語る文章、動画、写真、音声ファイルを通じて、仕事が私たちの暮らしにもたらす価値や情熱、尊厳を明らかにすることを目指すオンライン・マルチメディア・プラットフォーム「声」に掲載された最新記事は、ヨルダンで移民労働者を代表し、労働組合のオルグとして活動するバングラデシュ出身のマヤ・アクタルさんの物語です。

バングラデシュ出身のアクタルさんは現在、ヨルダンで繊維・被服・衣料品産業一般労働組合のオルグとして働いています。6年前に19歳でヨルダンの衣料品工場で働くために母国を後にした時にはこんな将来は思っても見ませんでした。 © Wael Liddawi 2022

 衣料品産業で生計を立てている途上国の労働者は6,000万人に上りますが、この大半を女性が占めています。ヨルダンの衣料品部門では6万5,000人以上が働いていますが、この72%が女性です。この国の就業者の76%が移民労働者ですが、その8割近くがバングラデシュの出身者です。移民労働者は言語や代表性の点で独特の課題に直面しています。

 ILOと国際金融公社(IFC)の共同事業であるベターワーク(より良い仕事)計画は、政府、国際的なブランド企業、工場所有者、労働組合、個々の労働者など、多様な関係者を集結させて衣料品産業の労働条件改善を通じてこの産業部門の競争力向上を図っています。この計画はヨルダンを含む世界12カ国で実施されています。ベターワーク・ヨルダンは繊維・被服・衣料品産業一般労働組合と2年間の覚書を締結し、計画に参加していない企業の従業員も含む全ての衣料品労働者を対象にディーセント・ワーク(働きがいのある人間らしい仕事)と包摂的な成長の前進という共通の優先事項に関して協力しています。

 ベターワーク・ヨルダンは職場におけるセクシュアル・ハラスメントや効果的なコミュニケーション、個人の衛生、団体交渉、労働条件、労働法など様々なテーマで研修を提供しています。この研修に参加したマヤ・アクタルさんは女性と移民労働者の権利のより良い擁護者としての位置づけに研修が寄与したと感想を述べています。

 バングラデシュ出身のアクタルさんは現在、ヨルダンで繊維・被服・衣料品産業一般労働組合のオルグとして働いています。6年前に19歳でヨルダンの衣料品工場で働くために母国を後にした時にはこんな将来は思っても見なかったと振り返ります。

 アクタルさんの父親はダッカで小さな果物店を営み、母親は自宅で服を内職で仕立て、販売しています。6人家族の生活はかつかつでした。そこでアクタルさんは家計を助けると共に大学に行く資金を貯める目的でヨルダンに出稼ぎに行くことにしました。最初の仕事はイルビド市にある工場の受付係でした。契約を終えて帰国してみると父親が癌にかかっており、家族の経済問題は悪化していました。

 母国語のバングラデシュ語に加え、ヒンズー語と英語も堪能なアクタルさんは再びヨルダンに戻り、今度はサハブ市にある衣料品工場に渉外係として勤務し、経営陣と労働者のコミュニケーションを補佐しました。

 ある日、繊維・被服・衣料品産業一般労働組合のオルグであったアルシャドさんと出会い、組合のオルグ活動について説明を聞き、他の労働者の闘争を支援し、声を上げることのできない人々を代弁する機会が得られれば夢が叶えられるようなものだといった話をしました。アクタルさんが驚いたことに、数カ月後、アルシャドさんから今の職に興味がないかと誘われ、応じました。「まるで池で暮らしていた魚が川に泳ぎ出したようなもので、解放されたように感じました」と当時を振り返ってアクタルさんは語ります。アクタルさんは移民労働者を代表できることを光栄に感じています。

 2020年11月に組合のオルグとして活動を始めたアクタルさんの最優先事項の一つは移民労働者が直面している問題を特定し、衣料品工場の経営陣とのコミュニケーションの回路を開いて解決策を見出すことです。当初は長時間労働に従事する労働者と会うのは困難でした。その上、仕事を失うことを恐れたり、労働組合のオルグを問題の種と見て協力しないよう助言する上司の存在などもあって、バングラデシュ出身の代表者に対しても心を開くのに躊躇する人が多く、なかなか成果は上がりませんでした。しかし、労働者の声を確実に届けたいとの決心の下、匿名を約束し、安心して本音を言ってもらえるよう職場の外で会うようにしました。苦情を提起する方法を知らない労働者もいれば、処罰や職を失うことを心配して問題を語るのを避ける労働者もいます。例えば、契約終了後も働き続けさせられた結果、帰国用の航空券を得る権利や契約満了時の賞与を得る機会を失った人もいます。セクシュアル・ハラスメントの経験を告白されたこともあれば、給与の遅配や工場監督との議論を報告されたこともあります。アクタルさんは工場の管理者と会い、労働者を代理して、労働者から聞いた労働条件の問題を提起することに大きな誇りを感じています。

 バングラデシュやスリランカ、インドその他の国の労働者はほとんどが英語やアラビア語の読み書きができず、指示やお知らせ、会計書類がこういった言語で書かれているとトラブルのもとになります。複数の言語を操り、優秀なコミュニケーターであることによって、アクタルさんは多くの労働者を代理し、助けることができています。そして、こういった言語障壁の克服を手助けできることを誇りに感じています。

 新型コロナウイルスによる制限のために労働者と対面で会うことができず、状況を知るには電話に頼らなくてはなりません。地域封鎖の中で多くの労働者が帰国を希望しましたが、空港が封鎖されていたために戻ることができませんでした。アクタルさんはこういった困難な状況を説明し、しばしばヨルダンで孤立無援の状態に陥っていた労働者の相談に乗りました。

 「移民労働者の支援とエンパワーメントは人生で最も報われる経験の一つです」と語るアクタルさんは、労働者を代理できることは目的意識を抱き、前進を続ける動機になると言います。バングラデシュの家族に送金を続けられることを幸せに感じ、同国人を代表できることを誇りに思っています。移民労働者をもっと助けることができるように将来は指導員になることを計画しており、さらに人々をより良く理解する助けになるよう心理学の学位を取ることも考えています。組合のオルグとしての私の成功はヨルダンで暮らす移民労働者皆の成功に結び付いています、とアクタルさんは語っています。


 以上はマルチメディア・プラットフォーム「声」に掲載されている2022年1月26日付の英文広報記事の抄訳です。