国際労働基準

ILO新刊:条約勧告適用専門家委員会年次報告2022年版発表

記者発表 | 2022/02/10

 ILOの国際労働基準の適用監視制度の礎石である条約勧告適用専門家委員会2022年版年次報告が発表になりました。5~6月に開かれる第110回ILO総会に討議資料として提出される本書には、ILO加盟国から寄せられた条約、議定書、勧告の適用状況に関する報告及び情報を審査した見解が記されています。

 条約、議定書、勧告から成る国際労働基準は国際社会が採択した普遍的な文書であり、仕事に関連した事項に関する共通の価値と原則を反映しています。ILO加盟国は条約や議定書を批准するか否か選択することができ、批准国は実施に向けて講じた措置について定期的に報告するよう求められていますが、批准・未批准の別なく、全ての国で関連する動向を追跡することが重要であると考えられています。

 加盟国から寄せられた憲章第19条に基づく現況報告並びに第22条及び第35条に基づく批准条約適用報告を検討した条約勧告適用専門家委員会の報告書は、委員会の構成やILOの基準関連活動を記した「一般報告(第1部)」に加え、批准条約適用報告についての専門家委員会の見解が国・条約別に記されている「特定国に関する見解(第2部)」、毎年特定のテーマを取り上げる「総合調査(第3部)」の3部構成になっています。2月最終週に別冊として発表される今年の第3部は『ケア経済の主要な行動主体である看護職員と家事労働者のディーセント・ワーク(働きがいのある人間らしい仕事)の確保』と題し、1977年の看護職員条約(第149号)同名の補足的勧告(第157号)2011年の家事労働者条約(第189号)同名の補足的勧告(第201号)といった条約・勧告各2本に関する未批准国からの情報も含めた調査報告になっています。

 加盟国に提出を求めた2,000件以上の報告のうち、2021年11月24日~12月11日に開かれた委員会の会合終了日までに届いた政府からの報告1,357件、労使団体から提供された情報1,280件を審査した条約勧告適用専門家委員会は、525件の見解をまとめ、1,031件の直接請求を政府に送りました。

 525件の見解が掲載されている報告書第2部で、日本については、1948年の結社の自由及び団結権保護条約(第87号)1949年の団結権及び団体交渉権条約(第98号)の適用に関連し、消防職員・刑務所職員の団結権、国家・地方公務部門職員の労働基本権、自律的労使関係制度構築に向けた措置についての期限付行動計画に関する協議、国の行政に従事していない公務部門職員及び国家森林事業に携わる職員の団体交渉権、地方公務部門職員に対する第98号条約の全面的な適用保障に係わる見解が掲載され、必要な措置を講じることなどが求められています。

 委員会は昨年に引き続き、報告書第1部で新型コロナウイルスの世界的大流行が国際労働基準の適用に与えている影響を取り上げ、とりわけ感染拡大抑制措置が船員の保護に与えている影響や今後も条約違反が増加する可能性に対する深い懸念を表明し、条約規定遵守のための選択肢が存在する以上、不可抗力は船員から権利を奪う有効な理由にならないことなどを強調しています。

 ILO加盟国による条約、議定書、勧告の適用審査を任務とする独立機関である条約勧告適用専門家委員会は、国内・国際法のハイレベル専門家から成る任期3年(再任可)の20人の委員で構成されています。独立した立場にある有能な中立の個人から選ばれる委員は、個人の資格で任命され、世界各国の多様な法、経済、社会制度についての直接の経験が委員会にもたらされるよう世界各地から選出されています。日本人としては現在、立命館大学の吾郷真一教授が2015年から委員を務めています。


 以上は日本関連情報を盛り込んだジュネーブ発英文記者発表の抄訳です。