ILO新刊

アジア太平洋地域の16億人に閉ざされている社会的保健の機会

記者発表 | 2021/12/10
社会的保健:ベトナムのトランさんの物語(ベトナム語・英語字幕付・1分17秒)

 アジア太平洋地域では、法律上は人口の4分の3以上に保健医療を利用できる資格が付与されているものの、法の適用における幅広いギャップや権利意識の欠如に加え、実際に保健サービスを利用することを阻む障害や困難のために、推定16億人が実効的に保護されておらず、保健医療費を自己負担する必要からしばしば膨大な人数が貧困に突き落とされていると、ILOの新刊書『Extending social health protection: Accelerating progress towards Universal Health Coverage in Asia and the Pacific(社会的保健の拡大:アジア太平洋におけるユニバーサル・ヘルス・カバレッジに向けた歩みの加速化・英語)』は記しています。本書は、エンパワーメントと包摂性のテーマの下で連合する国連諸機関と、社会的保健のギャップ解消に向けたアジア太平洋地域内の公的機関と非営利団体という複数利害関係者のネットワークであるCONNECTが2021年12月7&9日に主催した「アジア太平洋地域における社会的保健の拡大:ユニバーサル・ヘルス・カバレッジに向けて」と題する地域会議の中で発表されました。

 アジア太平洋地域における社会的保健の拡大について扱う初の報告書として、本書はこの分野における地域の歩み、課題、適用ギャップに光を当てています。新型コロナウイルスの世界的大流行を背景に執筆された本書はまた、危機時にそしてそれ以降も人々の健康、仕事、収入を保護する上で社会的保健が担う決定的に重要な役割を示しています。

 アジア太平洋地域では疾病時の所得保障が法律によって保障されているのは域内労働力の半分を下回り、出産時の収入減に対して保護されている女性は全体の45.9%に過ぎないといったように、本書は域内の諸国内及び諸国間における保健適用に関連した相当の不平等を明らかにしています。適用ギャップの影響が不均衡に大きいのは、自営業者や非公式(インフォーマル)経済で働く人々、移民労働者とその家族といったような、雇用や収入が不安定あるいは不規則な人々です。とりわけ、農業労働者、家事労働者、その家族は重い打撃を受けています。

 本書は社会的保健の適用拡大に関しては多くの国が相当の進展を達成したことを認めつつも、依然として十分な給付水準が課題となっており、財源不足や財源の予測不能性を大きな問題に挙げています。一方で、成長する中間層が社会的保健政策の枠外に留まる民間サービス提供者に対するものを中心に、より質の高いサービスを求めていることも保険外の自己負担費用を押し上げています。

 本書は、制度・機構の強化、対象範囲と十分な給付水準を後押しする効率的な制度設計・管理などを提案しています。さらに財源に係わる連帯を現実のものとするために、公的資金をさらに注入することも求めています。

 ガイ・ライダーILO事務局長は本書について次のように評しています。「社会的保健に対する投資は保健医療を全ての人に届けるユニバーサル・ヘルス・カバレッジの到達に寄与するカギを握っています。新型コロナウイルスの世界的大流行は人々の健康、仕事、収入を支える上でのその決定的な重要性、そして包摂的な回復のカギを握る要素としてのその役割を改めて私たちに思い起こさせました。これは持続可能な開発と社会正義への道を開く倫理的かつ合理的な政策選択なのです」。

 麻田千穂子ILOアジア太平洋総局長も、アジア太平洋地域には依然として保健医療が適用されないか、サービスに実効的にアクセスできない人々があまりにも多く存在し、新型コロナウイルスによって状況が悪化していることを指摘した上で、「適用の拡大と制度能力の向上は、あまりにも長い間進歩の妨げになってきた深い構造的不平等に取り組む包摂的な回復に社会が向かう助けになることでしょう」と説いています。

 400ページ近い本書は2部構成を取り、第1部で適用範囲、給付水準の適切性、制度・機構の効率性、財源調達の仕組みの諸面からアジア太平洋地域内諸国の社会的保健を比較分析した上で、第2部で日本を含む域内21カ国についての国別報告として、国毎に1章を設け、制度の特徴、今後に向けた提案、各国の経験から学んだ教訓を記しています。日本については世界で最も進んだ制度の一つと評価しつつも、収入減の中で制度の財政保護水準を低下させることなしに効率性と財政的持続可能性を確保することを優先事項に挙げています。


 以上はILOアジア太平洋総局によるバンコク発英文記者発表の抄訳です。