世界の雇用及び社会の見通し-動向編2022年版

ILO定期刊行物最新版:2022年の労働市場回復予測を下方修正

記者発表 | 2022/01/17
報告書の内容を2分半で解説(英語・2分38秒)
 2022年の世界の労働時間はコロナ禍以前の水準を約2%下回ると考えられます。これはフルタイム職換算で5,200万人分の仕事が失われたことに相当します。
 この下落はILOが2021年5月に出した予測の2倍になります。2022年の予測が引き下げられたのは、新型コロナウイルスのさらなる新しい変異株の仕事の世界に対する影響を反映しています。
 世界の失業者数は2022年にも2億700万人と、高止まりが続くと予想されます。これはコロナ禍が始まる前の2019年より2,100万人増えています。
 しかし、失業数値だけでは危機の影響が十分に示されていません。それはコロナ禍開始以降に労働市場を去った人の数が数千万人に上るからです。
 こういった人々はもはや就業していないにもかかわらず、失業者に算入されないことを意味します。
 2022年の非労働力化人口は世界全体で約4,000万人に達すると予想されます。
 コロナ禍の今後の進路は依然として不確実であるため、見通しは弱いままです。
 その上、インフレ加速のような、より幅広い経済的なリスクが作用する可能性もあります。
 労働市場の展望は世界的にばらつきがあり、多くの低・中所得国ではワクチンを得られる機会が少なく、危機に取り組む政府予算を拡充する余地も限られています。
 こういった国々はしたがって、雇用と仕事の質をコロナ禍前の水準に戻すのに高所得国よりも苦労しています。旅行・観光業などのように特に激しく打撃を受けた産業部門が存在します。
 一方で、情報技術関連などの急成長産業部門も存在します。労働市場危機の影響は男性よりも女性に大きく、この状況は今後も続く可能性が高いと見られます。
 危機の当初、多くの臨時労働者が仕事を失いましたが、その後、新たに臨時の仕事が多数創出されました。
 幅広い労働市場の回復が必要です。ILOの「グローバルな行動の呼びかけ」は、回復が人間を中心に据えた包摂的かつ持続可能で強靱なものとなるよう確保する要素を示しています。
 詳しくは、ilo.org/wesoをご覧ください。

 ILOは2021年6月に発表した定期刊行物『World employment and social outlook (WESO) - Trends(世界の雇用及び社会の見通し-動向編・英語)』の2021年版で、コロナ禍前の2019年第4四半期と比べた2022年の世界の労働時間減少分をフルタイム労働者換算で2,600万人分と予想していましたが、この度発表した2022年版で、労働市場の回復予測を引き下げ、5,200万人分に修正しました。この最新予測値は2021年の減少分とされた1億人分よりは改善しているものの、依然としてコロナ禍前の世界の労働時間を約2%下回る状況を示しています。

 世界の失業者数は少なくとも2023年までコロナ禍前の水準を上回る状況が続くと見られ、2022年は2億700万人と推定されます(2019年は1億8,600万人)。本書はまた、2022年の世界の労働力率は依然として2019年の水準を1.2ポイント下回っているといったように非労働力化した人が多いため、雇用に対する全体的な影響はこの数字が表すよりもはるかに大きいことに注意を喚起しています。

 今回2022年の回復予測を引き下げたのには、デルタ株やオミクロン株といった最近の新型コロナウイルス変異株の仕事の世界に対する影響をある程度反映したことに加え、コロナ禍の今後の進み具合が相当不確実なことが挙げられます。

 本書はさらに、労働者集団や国毎に危機の影響が大きく異なることに警鐘を鳴らしています。この違いは国内及び国家間の不平等を拡大し、開発水準にかかわらず、ほとんど全ての国の経済、金融、社会組織を衰弱させており、引き起こされた損害の補修には何年もかかる可能性が高く、労働力率、世帯所得、社会そしてもしかすると政治的結束にも長く影響が残る可能性があります。

 この影響は世界中どの地域の労働市場にも感じられていますが、回復傾向については大きな差異が観測されます。欧州・北米地域は最も元気づけられる回復の兆候を示しているのに対し、東南アジアと中南米・カリブの見通しは最も暗くなっています。所得水準別で見ると、労働市場の回復が高所得国では最も強いのに対し、下位中所得国の状況は最も悪くなっています。

 女性の雇用に対する不均衡に大きな危機の影響は今後数年残ると予想され、教育・訓練機関の閉鎖は若者、とりわけインターネットに接続できない若者に波及的な長期的影響を与えると予想されます。

 本書はまた、過去の危機の際と同様に臨時雇用が一部の人々にとってコロナ禍のショックを和らげる緩衝装置となっていることを示しています。契約が打ち切られたり、更新されなかった臨時雇用も多いものの、終身雇用の仕事を失った人々の間などでそれに変わる臨時雇用が創出されており、平均して総数には変化がないことが示されています。

 ガイ・ライダーILO事務局長は、危機に突入して2年が経った現在の見通しは依然として脆弱であり、回復の歩みは遅く不確実であることを指摘した上で、次のように述べています。「労働市場に長く傷跡が残る可能性、それに関連する貧困と不平等の増大が既に目撃されており、多くの労働者が、例えば、国際観光や旅行の長引く不振に応え、新たな職種に移動することを求められています。労働市場の幅広い回復なしに、コロナ禍からの真の回復はない可能性があります。そして、この回復が持続可能なものとなるには、安全衛生や公平、社会的保護、社会対話などを含む、ディーセント・ワーク(働きがいのある人間らしい仕事)の諸原則に基づいたものとなる必要があります」。

 本書は2022、23年の労働市場の包括的な予測に加え、各国で異なるコロナ禍からの回復手法を反映し、異なる労働者集団や経済部門に対する影響を分析し、労働市場の回復の進み具合を世界的な観点から評価しています。さらに、2021年6月に第109回ILO総会においてILO187加盟国の総意として採択された「新型コロナウイルス危機からの人間を中心に据えた包摂的かつ持続可能で強靱な回復に向けた行動に対するグローバルな呼びかけ」に基づき、国内及び国際レベルで完全に包摂的で人間を中心に据えた回復を達成するカギを握る政策提案の概略を示しています。

 3章構成の本書は、第1章「新型コロナウイルスの世界的大流行後の強靱な仕事の世界の(再)構築」で仕事の世界に対するコロナ禍の影響と諸国の対応策を概説した上で、第2章「地域別雇用・社会動向」で雇用・労働市場の状況を地域別に示し、第3章「臨時労働者と新型コロナウイルス:穏やかな海面下の水流」で臨時雇用の状況を分析しています。付録資料として、実労働時間や雇用・失業、労働力率、貧困などの労働市場データが世界全体、地域別で掲載されています。このデータはWESOデータ・ファインダーで図示化したり、ダウンロードすることができます。


 以上はジュネーブ発英文記者発表の抄訳です。