新型コロナウイルス

図解物語-新型コロナウイルス危機からの人間を中心に据えた包摂的かつ持続可能で強靱な回復に向けた行動に対するグローバルな呼びかけ

 2021年6月に開かれた第109回ILO総会において「新型コロナウイルス危機からの人間を中心に据えた包摂的かつ持続可能で強靱な回復に向けた行動に対するグローバルな呼びかけ」が採択されました。出席した181カ国の政労使代表が全会一致で採択したこの文書は、新型コロナウイルスから包摂的かつ持続可能で強靱な回復を達成するために必要な措置を示しています。誰も置き去りにしないという道徳的・政治的願望を具体的な行動へと転換するこのILOの行程表を図表を多用して解説します。

新型コロナウイルスの世界的大流行が仕事の世界に与えている影響

 新型コロナウイルスの世界的大流行は幅広く破壊的な影響を仕事の世界に及ぼしています。労働時間の消失は失業や不完全就業の増大、非労働力化、非公式(インフォーマル)化をもたらし、勤労所得の縮小や小規模企業を中心とした企業の閉鎖や破産などの事業収入の減少が見られ、労働安全衛生及び就労に関わる基本的な権利に対する新たな課題を形成し、サプライチェーン(供給網)を混乱に陥れて関係する労働者に幅広い影響を及ぼし、こういったこと全ての結果として、貧困や男女間・経済的・社会的不平等の深刻化が見られます。

世界の就業者の減少幅と職場閉鎖

 コロナ禍がなかったと仮定した場合に比べると、2020年には世界全体で1億4,400万人分の雇用が失われたと推定されます。2021年初めでもなお、新型コロナウイルス関連の職場制限が課されている国で暮らす労働者の数は多く、世界の労働者の93%が何らかの形の職場閉鎖が見られる国で暮らしています。

コロナ禍がなかった場合と比べた世界の就業者の減少幅(単位:10億人)
図:コロナ禍がなかった場合と比べた世界の就業者の減少幅
出典:『新型コロナウイルスと仕事の世界ILOモニタリング第7版』。英文記事の図表からはデータ数値が入手できます。
職場閉鎖が課されている国に住む世界の就業者比率(2020年1月~2021年1月データ)
図:職場閉鎖が課されている国に住む世界の就業者比率
必要不可欠な職場以外は閉鎖が求められている国の就業者比率の上に、一部産業部門あるいは一部職種の労働者について職場閉鎖が課されている国と職場閉鎖が推奨されている国の就業者比率を積み上げた図。出典:ILO統計局データベースILOSTAT、ILOモデル推計(2019年11月)、オックスフォード大学の新型コロナウイルス政府対応追跡情報。英文記事の図表からはデータ数値が入手できます。

世界の労働時間の減少

 新型コロナウイルス危機がなかった場合と比べると、世界の労働時間は2020年に8.8%減少し、2021年第2四半期でも4.4%少なくなっています。

労働時間の減少(%)
  2020年 2021年第1四半期 2021年第2四半期
世界全体 8.8 4.8 4.4
地域別
アフリカ 7.7 5.7 4.9
米州 13.7 9.2 8.1
アラブ諸国 9.0 6.3 5.3
アジア太平洋 7.9 3.0 3.0
欧州・中央アジア 9.2 8.5 6.8
所得水準による国家群別
低所得国 6.7 4.6 3.9
下位中所得国 11.3 4.1 4.5
上位中所得国 7.3 4.6 4.1
高所得国 8.3 7.2 5.1
コロナ禍がなかったと仮定した場合の2020年及び2021年の世界の予想労働時間数を用いて新型コロナウイルス危機に基づく労働時間の減少幅を推計。出典:『World employment and social outlook: Trends 2021(WESO Trends)(世界の雇用及び社会の見通し:動向編2021年版・英語)

勤労所得の減少

 労働時間が大幅に減少したため、労働者の勤労所得も大きく減り、世界全体の勤労所得は2020年に前年比8.3%減になったと推定されます。勤労所得が最も大きく減少したのは下位中所得国であり、前年比12.3%減となっています。

労働時間の減少(%)
  2020年の所得支援措置前データ
世界全体 8.3
地域別
アフリカ 9.4
米州 10.3
アラブ諸国 8.4
アジア太平洋 6.6
欧州・中央アジア 8.7
所得水準による国家群別
低所得国 7.9
下位中所得国 12.3
上位中所得国 7.6
高所得国 7.8
出典:『新型コロナウイルスと仕事の世界ILOモニタリング第7版』。

国内における不均一な影響と回復

 新型コロナウイルス危機は特定の人口集団や特定の産業部門の労働者に不均衡に大きな影響を与えています。とりわけ、不均衡に多くの女性が仕事や収入の減少を経験しており、若者は世代として教育、訓練、就業の混乱を経験しています。社会的保護が得られないインフォーマル経済で働く人々や移民労働者が多い旅行・観光産業で働く人々、小売業や製造業の労働者もとりわけ大きな影響を受けています。経済状況改善の恩恵は危機の打撃が大きい労働者や事業にはより少なく、経済または労働市場の一部が回復の大きな利益を得る一方で他の部分は置き去りにされている事態が真剣に懸念されます。

2020年の就業者減に基づく失業者及び非労働力人口の変動(%)
  失業者 非労働力人口
女性 0.7 4.3
男性 1.1 2.8
若者(15~24歳)

-0.02

8.7
25歳以上層 1.1 2.6
全体 0.9 3.4
出典:『新型コロナウイルスと仕事の世界ILOモニタリング第7版』。

国家間で不均一な影響と回復

 労働市場に生じた損害に関連した対応及び総合回復策については国の所得水準による大きな違いが存在します。途上国では減少労働時間に比して財政出動による刺激策の相対的な規模がずっと小さくなっています。

 治療やワクチン接種の機会も依然として非常に不平等であり、世界全体の回復の見通しは非常に不確実になっています。ワクチン接種の機会が少ないことは、職場閉鎖や地域封鎖といった措置に頼るコロナ禍との戦いが続くことを意味します。これはしたがって、雇用に対する負の影響が続くことを意味します。また、貧困削減に関して苦労して手に入れた成果が無に帰し、世界的な経済収斂の傾向が後退して先進国と途上国の格差が拡大する恐れもあります。

 混乱は地球規模で発生しているものの、地域による相当の違いがあり、2020年に労働時間の減少がとりわけ大きかったのは、中南米・カリブ、南欧、南アジアの各地域です。

労働時間減少の国による違い(2019年第4四半期と比較した2020年データ)
図:労働時間減少の国による違いを示す世界地図
出典:『新型コロナウイルスと仕事の世界ILOモニタリング第7版』。英文記事の図表からはデータ数値が入手できます。

より良い日常を探して

 そこで、包摂的かつ持続可能で強靱な回復の形成を公共政策の最優先事項とする必要があります。2021年6月に開かれた第109回ILO総会第1部で全会一致で採択された「人間を中心に据えた回復に向けた行動に対するグローバルな呼びかけ」は、各国が誰も置き去りにしないという道徳的・政治的願望を具体的な行動に転換することを可能にする、明確かつ包括的な前進の道を示しているとガイ・ライダーILO事務局長は説明します。そして、「私たちの前途には気候変動、デジタル変動、人口変動といった、もはや先送りできない恒常的な課題と共に、コロナ禍が光を当てた不正義に取り組む仕事の未来を構築するという作業が横たわっています」と説いています。

新型コロナウイルス危機からの人間を中心に据えた包摂的かつ持続可能で強靱な回復に向けた行動に対するグローバルな呼びかけ

 2021年6月の総会に出席した181カ国の政労使代表が全会一致で採択した「行動の呼びかけ」は、1)危機からの完全に包摂的かつ持続可能で強靱な経済的・社会的回復に取り組む責務を各国に課し、2)すべての人にディーセント・ワーク(働きがいのある人間らしい仕事)を創出し、不平等対策を優先する政策を呼びかけ、3)良質の雇用と経済開発、労働者保護、普遍的社会的保護、社会対話を促進する具体的な措置を伴った包括的な政策課題の大枠を示しています。

 「行動の呼びかけ」は国内と多国間の二つのレベルにおける行動集合を組み合わせたものとなっています。前者は、各国政府と社会的パートナーである使用者及び労働組合が労働者保護及び社会的保護を大幅に強化し、持続可能な企業を支えるような、包摂的で仕事を豊かに生む回復を達成するために講じるべき一連の措置で構成され、後者は、人間を中心に据えた包摂的かつ持続可能で強靱な回復を達成するために多国間レベルの政策整合性を増すことを促進し、その実施を支援するILOの主導的役割に関する一連の行動で構成されています。

 「行動の呼びかけ」は、完全雇用と持続可能な企業に対する支援、コロナ禍の打撃が最も大きく最も脆弱な層のニーズ、さらにすべての人に十分な保護水準を確保することを優先事項に掲げる回復戦略の実行を各国に呼びかけています。そして、四つの主な分野に焦点を当てています。

  1. 包摂的な経済成長と雇用:ディーセント・ワークの機会をすべての人に提供する幅広い回復のためには、最も打撃が大きい産業部門の持ち直しを確保し、大規模な雇用創出の潜在力を秘めた投資を育むことが決定的に重要です。革新的取り組みを可能にする環境を形成し、小規模企業、技能開発、環境の持続可能性を支援する政策が求められています。
  2. 働くすべての人の保護:コロナ禍は労働者保護における深刻なギャップに光を当てることになりました。適切な賃金、労働時間の制限、強力な労働安全衛生措置などの事項を含む、基本的な権利、国際労働基準、労働者保護を促進する努力の倍増が求められます。危機はテレワーク勤務のような代替的な労働慣行を組み込み、男女平等を前進させ、職場における暴力とハラスメントを撲滅する機会を捉える必要性を示すこととなりました。
  3. 普遍的社会的保護:コロナ禍は所得保障、雇用保護、必要不可欠な保健医療を始め、社会的保護が私たち全てにとっていかに重要かを痛感させることになりました。今後の危機を予防し、より良い日常を構築するには、強固な公的部門と保健医療制度を伴う、包括的かつ持続可能で適切な社会的保護の機会をすべての人に開くことが必要不可欠となるでしょう。
  4. 社会対話:多くの国・産業部門のコロナ禍対応において社会対話は重要な役割を演じています。強固で持続可能な回復のためには、政策の参考とするために政府と社会的パートナーの協議を続け、行政機関と労使団体の能力強化が図られる必要があります。

他のグローバルなイニシアチブとの相乗効果

 「行動の呼びかけ」は、他のグローバルなイニシアチブと共に進めることで相乗効果を発揮します。

  • 仕事の未来に向けたILO創設100周年記念宣言:2019年の第108回ILO総会で採択された「仕事の未来に向けたILO創設100周年記念宣言」は、「行動の呼びかけ」と共通の一連の原則と目標を支援しています。宣言の提示する、人間を中心に据えた仕事の未来に向けた行程表は、今一層緊急に求められており、「行動の呼びかけ」にとって必要不可欠な基盤を提供しています。
  • 持続可能な開発のための2030アジェンダ:2015年に国連で採択された「持続可能な開発目標(SDGs)」は、貧困に終止符を打ち、地球を守り、2030年までにすべての人が平和と繁栄を享受するよう確保する行動を世界全体に呼びかけるものです。コロナ禍の破壊的な影響に世界が対応しようとしている今、SDGsの達成に向けた行動の加速化が一層緊急に求められています。
  • 国連気候変動枠組条約のパリ協定:パリ協定は気候変動に立ち向かい、その影響の緩和・適応を図るために、諸国を結束させようと試みています。世界が新型コロナウイルスの世界的大流行への対応を図っている今、回復総合策においては持続可能な経済への移行が公正であり、ディーセント・ワークを前進させることを確保する措置を優先させる必要があります。
  • 第3回開発資金国際会議のアディスアベバ行動目標:新型コロナウイルスの世界的大流行の奥深く不均一な影響に鑑み、財政的余地が限られている諸国が危機に対応し、ワクチンを購入し、債務危機を回避し、包摂的かつ持続可能で強靱な雇用・社会政策を実行できるよう、資金の流れと政策をSDGsが掲げる経済・社会・環境分野の優先事項と整合させることが不可欠です。

ILOの役割

 「行動の呼びかけ」は、社会正義とディーセント・ワークに向けた任務を付託されたILOに主導的役割を演じる責務を課しています。ILOは持てるあらゆる行動手段を用いて加盟国が誰も置き去りにしない回復戦略を設計・実行するのを支援し、人間を中心に据えた回復を唱え、多国間システムの他の機関との協力を強めていきます。


 以上は2021年6月に開かれた第109回ILO総会第1部で採択された「新型コロナウイルス危機からの人間を中心に据えた包摂的かつ持続可能で強靱な回復に向けた行動に対するグローバルな呼びかけ」の内容とその背景を図表も用いて解説した2021年10月6日付の英文図解物語の簡易版です。