労働安全衛生

ILO/WHO共同報告:仕事に関連した原因で亡くなる人は毎年約200万人

記者発表 | 2021/09/17

 ILOと世界保健機関(WHO)は今年5月に発表した共同論文で、長時間労働に起因する心疾患及び脳卒中で亡くなった人の数を発表しましたが、来週開かれる第22回労働安全衛生世界会議を前に、2021年9月17日に発表された初の共同報告書は、業務関連の傷病が原因で死亡した人の数を190万人(2016年)と推計しています。

 5年にわたる協力を経てまとめられた『WHO/ILO joint estimates of the work-related burden of disease and injury, 2000-2016: Global monitoring report(業務関連傷病負荷のWHO/ILO共同推計(2000~16年):グローバル・モニタリング報告・英語)』と題する共同報告書は、この大半を呼吸器疾患と心臓血管疾患によるものとしています。死亡原因の81%が非感染性疾患であり、慢性閉塞性肺疾患(45万人)、脳卒中(40万人)、虚血性心疾患(35万人)が上位を占め、職業上の負傷も全体の19%(36万人)を占めています。

 本書は長時間労働や職場における空気汚染、喘息原因物質、発がん性物質、人間工学上のリスク因子、騒音への暴露などといった19の職業性リスク因子を検討し、日本でも9,000人以上、世界全体では75万人近い死亡者と関連付けられる長時間労働を重要なリスク因子としています。職場における粒子状物質、ガス、煙霧などの空気汚染への暴露も45万人の死亡を引き起こしています。

 日本とは逆に世界全体で見ると、仕事に関連して命を失った人の数は2000~16年の期間に人口比で14%低下していますが、これは職場の安全衛生の向上を反映するものかもしれません。一方で、これも日本とは逆ですが、長時間労働に関連した心疾患(同期間に41%増)及び脳卒中(19%増)で亡くなった人はそれぞれ増加しており、これはこの比較的新しい心理社会的職業性リスク因子の増加傾向を反映していると見られます。

 業務関連の死亡者は日本では2016年に約3万8,000人に達していますが、世界的に見ると不均衡に多いのは東南アジアと西太平洋であり、性別では男性、年齢層では54歳超の年代の死亡者が多くなっています。本書はまた、他の複数の職業性リスク因子による健康損失の数量化がすんでいないため、業務関連疾病負荷の合計は今回の数値を大幅に上回る可能性が高いことに注意を喚起しています。新型コロナウイルスの世界的大流行の影響も今後の推計で新たな側面を追加することになると考えられます。

 仕事に関連した傷病は保健制度を圧迫し、生産性を低下させ、世帯収入に災害的な影響を与える可能性があります。

 このような結果が得られたことに対し、テドロス・アダノム・ゲブレイェススWHO事務局長は、「これほど多くの方々が文字通り仕事に殺されていることを知って衝撃を受けています」と評した上で、本書によって目を覚ました諸国や企業が「労働安全衛生サービスをすべての人に届けるという公約を守ることによって、労働者の安全と健康の保護と向上」へと向かうことへの期待を述べています。ガイ・ライダーILO事務局長も「この推計が提供する、仕事に関連した疾病負荷に関する重要な情報は、より健康でより安全な職場を生む政策・実務を形成する助けになり得ます」と指摘し、「政府、使用者、労働者の三者は皆、職場におけるリスク因子への暴露を減らす行動を取ることができます。リスク因子はまた、働き方や作業の仕組みを変えることによっても削減できます。最後の頼みの綱である個人用保護具も暴露を回避できない業務を行っている労働者を守る助けになり得ます」と説いています。

 本書では各国、地域、世界全体の各レベルで仕事に関連した健康状態の損失を時系列で追うことができますが、これによって政策策定に携わる人々が労働者の集団としての健康と保健の衡平性を改善する適切な介入行動について、より焦点を絞った範囲確定、計画立案、費用計算、実施、評価ができるようになることが期待されます。本書は職場の健康促進と職業衛生機関が中心的な役割を演じる、より健康的で、より安全で、より強靱で、より社会的に公正な職場が確保されるにはさらなる行動が求められることを示しています。

 例えば長時間労働の予防には健康的な労働時間の上限に関する合意が必要であり、職場における空気汚染への暴露を減らすには粉じん抑制、換気、個人用保護具が推奨されるといったように、本書は各リスク因子に特有の一連の予防活動を概説し、政府が労使と協議の上、これに沿った行動が取れるよう手引きを示しています。

 マリア・ネイラWHO環境・気候変動・保健局長は、「この約200万人の早過ぎる死は予防可能です。得られる調査研究に基づき、仕事に関連した健康に対する脅威の進化する性質に焦点を当てた行動を取る必要があります」とした上で、「労働者の健康と安全の確保は、この点で誰一人として置き去りにしないことと同様、保健部門と労働部門が共に担う責任です。国連の持続可能な開発目標の精神に則り、この巨大な疾病負荷の確実な解消に向けて保健と労働が手を携えて協働する必要があります」と訴えています。

 ベラ・パケッチ=ペルディゴンILOガバナンス・三者構成原則局長は、国際労働基準やWHOとILOの共同ツール、指針が様々な段階において、持続可能で強力かつ実効性がある労働安全衛生の制度を実施する堅固な基盤を提供することを紹介し、「これに従えば、こういった死亡や障害を相当に減らす助けになるでしょう」と説いています。

 本書はWHOの最も包括的な業務関連疾病負荷に関する研究書であり、この種のものとしては初のILOとの共同評価の成果物です。各種リスク因子、疾病別に死亡者数と障害調整生命年(DALYs)を性別・年齢層別に見ることができる国別疾病負荷のオンラインデータベースも制作されています。

 6章構成の本書は、序章に続く第2章「職業性リスク因子と健康結果のペア」で因果関係が確立している41のリスク因子と健康障害を示し、第3章「推計法」で手法を概説した上で、第4章「結果」でそれぞれのペアについて死亡者数とDALYsを推計しています。そして、第5章「議論」で注釈を付した後、第6章で「結論」を提示しています。付録資料として、リスク因子と健康障害の各ペアに起因する世界全体の死亡者数、DALYs、人口1,000人当たりの値や世界人口に占める割合、国・地域別の業務関連の死亡者数とDALYsの合計、長時間労働に起因する心疾患及び脳卒中による死亡者数とDALYsの一覧が掲載されています。本書の内容を一問一答形式でまとめた資料やデータの出所と推計方法を詳しく解説した技術報告も同時に発表されています。


 以上はジュネーブ発英文記者発表の抄訳です。